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6話 皮のよろいと、神器。



 ―巨人の(ぞう)

 (はる)か昔、巨神教の経典に伝わる巨人、ゴリアテと呼ばれるその巨人は、国を持たない人々のために、荒野を開拓し、そしてこの地に国を造った。


 力尽きた巨人は、立ったまま力尽き神の国へと戻ったのだという。


 それが巨神教の聖地、アズタランとなった。

 という話があるらしい。

 とってもうさい臭い話だが、実際に人の手で作り出したとは思えないほどの巨人像を見れば説得力も増すだろう。


「虐げられた人々を救う巨人ね……」


 神に仕えたというその巨人は、白く輝く立派な槍と盾。そして血のような真紅のマントに腰ミノのようなものを装備した、いかにも強そうな人物の像だった。


 毎日毎日、来る日も来る日もこの巨大な像を神の御使いとしてありがたく(おが)んでいる連中なら、巨人になった俺が防壁の外からいきなり顔を出してもパニックにならずに済んだって話も理解できる。


「だが、気に入らねえ……」



 その神像と呼ばれて(あが)められている像と俺には大きな違いがあった。


 俺はそいつがとても気に入らない。

 巨人の像と俺。大きさの違いはない。だが大きな違いがあるのだ。


 ヤツは俺にないものを持っていた。

 

 それは立派な槍。丈夫そうな盾。

 俺が素手なのにこいつは武器を持っている。

 

 そして、ちゃんと隠れているではないか。アレが。腰ミノみたいなやつだけどさ。

 あるのとないのとでは大きな違いだ。

 

 ――俺との大きな違い。

 奴は服を着ている。

 

 俺は全裸(まっぱ)なのである。

 

 




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 別に隠していたわけじゃないさ。

 うん、2つの意味で全く隠れていない。


 俺は全裸(まっぱ)だ。

 ちょっとあっちのほうは皮の鎧を装備しているが、それは放っておいてくれると本当に有り難いです。ハイ。


 外に来ていく服がない(サイズ的な意味で)んだからしょうがないじゃないか。

 

 俺だって好きで全裸(まっぱ)なわけじゃないさ。

 

 しかし、この像は黒ずんだ緑色をしているが、身にまとっている装備はピッカピカだ。

 ちゃんと戦いに使った形跡があるし、手入れがきちんとされたままのようだ。


「なぁエイル。あの巨人の持っているものはやけにピカピカだけど、何で風雨にされされても平気なんだ?」


「当然です。そのゴリアテ様の持つ武器は神器。かつての神の御使いが装備していた本物の神器なのですから。神の国へとお隠れになられたその後も残り続ける聖遺物(せいいぶつ)なのです。私たちは神の残した像と、神器に祈りを捧げることで、いつまでも感謝の心を忘れずにいられるのです」


 エイルが教えてくれる。


 さっきまでは俺は「デカイんだからしょーがねーじゃん? 服がなくても心は(にしき)!」的なノリで恥ずかしさを忘れていたのだが、同じサイズの像がちゃんと服を着ているのを見れば、羞耻心(しゅうちしん)を刺激されてしまう。

 

 俺は防壁によじ登り、そして街の中心に経っている巨人の像の前に立つ。

 

「神を模倣(もほう)する偶像(ぐうぞう)………ダメ絶対!!!!」



 俺は全身のちからを振り絞り、巨大な像を持ち上げる。

 

「うおおおお!!」

「な、何を為されるのですか?」

「黙ってみていろ!!」


 そして、そのまま町の外に持ち出す。結構重いぜ……だが!!


「アルゼンチン・バックブリーカー!!! 灰は灰に、塵は塵に、土は土に!!!」


 渾身の力で黒ずんだ緑色の首をへし折り、体を地面へと叩きつけた。


 ズッシャーーーン!!


 立ち上がる砂埃。

 轟音と共に地面に転がる頭。


 そして真っ二つとなった胴体は砂へと変わっていく。


 (あわ)れ、神の像として長年この地に立ち続けた存在は、土へと帰った。

 


「おおお、なんてことだ。巨人さま、一体何を!!」

「ああ、我らの神が……どうしてこんな酷いことを……」


 街のほうが騒がしい

 さすがに信仰対象をいきなり破壊したら、動揺が収まらない事態になるだろう。


 だが、俺は大声で宣言する。

 ――それは神の言葉。

 

「神を形とする、いかなる像も造ってはならない。それらに向かってひれ伏したり、それらに仕えたりしてはならない」


 聖書からおもいきりパクってきた言葉だ。


「そ、それでは私たちは明日から何に祈りを捧げ、感謝の言葉を告げ、生贄(いけにえ)(ささ)げればよろしいのでしょうか?」


 エイルの言うことも最もだ。

 俺はすかさず、像が装備していた腰ミノと赤いマント、そして槍と盾を装備する。


「偽りの像に祈ってはならない。お前たちの信仰の対象の巨人、それは俺!! 」


 そして、槍を天に掲げ元々巨人の像が経っていた場所で決めポーズを取った。


「おおお!! その雄姿(おすがた)は……何と神々(こうごう)しい」

「ありがたや、ありがたや……」

「私は今、福音に包まれているにいるのだ……」

「これが神話の光景なのですね……ああ私は今、神話の光景の中にいるのだ……」


 反応は上々だ。


「ああ、コウ様!! コウ様!!」


 エイルも涙が止まらないようだ。

 どうやら俺の作戦は成功の様子。


 よっしゃー服ゲット! ついでに槍と盾も!

 

 加えて感謝や信仰も俺に集まってきているようだ。

 

 これは神へのクラスアップに大いに有利になったと思うね。

 むしろ神の座を奪い取ってやったからね。

 

 四捨五入したらギリギリ神だよ。うん。


 この装備も素晴らしい、長年風雲(ふうう)(さらされ)されながらもまったく傷んでいない。

 聖遺物(せいいぶつ)とか言っていたし、これは良いものを手に入れた。




 んで、生贄とか物騒な単語が聞こえたんだけど、アレはきっと気のせい。

 絶対そう。

 

 ――そうであって欲しい(祈り)。



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