2話 最強で丈夫で無敵な肉体
「新井コウ。あなたは、死んでしまいました」
「え?」
真っ白な部屋の中央に置かれた椅子。
そこに座った少女が、いきなり俺の名前を呼んで、サイコなことを言った。
俺が死んだ? 何を言っているんだろう。
「そして、これがその時の映像です」
突如現れた空中に浮かぶモニター。
映し出しているのは、真っ黒の闇に光星々。そして青い星。
あれは地球だろうか。
そして映像は地球に向かっていく真っ赤に燃え輝く物体を映し出す。
なんの意図があってそんなものを見せるのかは知らないが、とりあえず続きを見る。
映されたものが拡大表示されたが、大気圏を突破し空気との摩擦で燃えており物体の詳細は不明のままだ。
その物体はどんどん加速を続けて、やがて見慣れた地形の方へと向かっていく。
「このままじゃ日本に落ちるんじゃね?」
「――そう」
十分に加速された物体は、そのまま超高速で進み地面に激突して盛大な土埃を上げた。
「ちょっと速すぎてよくわかりません」
「じゃあ、次はスローモーション」
巻き戻された映像は、また日本の形の島へ飛来し、見慣れた関東のほうへ向かう。
そのまま見慣れた和光市(埼玉県)へと進み……。
え? ヤダ、嫌な予感がするんですけど?
見慣れまくった駅から歩いて五分の見慣れすぎている道を歩いている男が映し出された。
「俺じゃねーかあああーー!!」
物体はそのまま直進し、俺がいた場所は直径5メートルくらいのクレーターとなる。
ス、スローで自分が砕け散る瞬間を見せられてしまった……グロい……。
「ハイ、あなたは死んでしまった。チャンチャン」
「チャンチャンじゃねーよ。は? 意味わからないんですけど!!」
「あのティーカップは私が落とした。午後のティータイムにちょっと手が滑ったのはナイショ。まさか地球に落ちるとは……。残念、チャンチャン」
「へぇ、あれはティーカップだったのか……って、お前、俺殺したの? え? 俺の仇?」
燃え尽きない流星の正体は、彼女が落としたティーカップだったようだ。
「あれはとてもいいモノ。オリハルコン製だからとっても丈夫。ぜひとも回収したい」
「気にするとこそこじゃないよね? 人命より大事な物なんてねーよ! もっと安物なら俺生きてたんじゃね?」
だんだんと思い出してきた。
俺はある漫画雑誌を購入した帰り道だったのだ。週刊少年ジャン○が、今より30円ほど安いときから俺は毎週かかさず愛読をしている。
そしてもう大人になった俺は、ムフフな雑誌も一緒に購入して、ウキウキで家に帰る途中だったのだ。
そこまでは覚えているが、それ以降の記憶がない。
ということは、今彼女が見せた映像は本物ってことになるのだろうか?
「今の映像通りに、あなたは死んでしまった」
「…………」
何だこの展開は。
いきなり人生の終了を告げられて、眼の前にいる人間離れした超絶美少女が、ティーカップ(オリハルコン製)をテヘペロ的な感じで地球に落とした俺を殺したと自首をしてきた。
全然話についていけない。
「普通は死んだら、オシマイ。だけどあなたには、もう一つ選択肢がある」「それは、新しい世界で人生をやり直すというもの。これはとても有り難いもの。あなたはこの提案に感謝すべき」
「いや、待ってください。恩着せがましいですけど、これ自動車事故で言えば、過失は10対0で女神さまが逮捕される案件ですよね?」
「そういう意見もあるかもしれない。でも私は女神。道路交通法違反は適応外。フフン」
無駄に偉そうなその態度に、誤魔化される訳にはいかない。
ココは押す所だ。
「全然納得できません」
「……では、一つだけあなたの願いをかなえる。強い武器でも、能力でもいい。これは特例。それで納得すべき」
キターーー!! だが、しかしこれだけで満足してはいけない。
この展開、チャンスの匂いがする。
どうせなら、いろいろと特典をつけよう。こちらに非はないのだ。
俺はすかさず、異世界で必要そうな能力を女神に告げる。
「最強の体にしてください。あと、ムフフな種族がちゃんと存在する世界がいいです。赤ちゃんからなんて嫌なので、バブー転生は禁止です。あ、ついでに異世界の言葉もばっちり全部話せるようにお願いします」
「贅沢いいすぎ。却下」
「女神さまが俺を殺したんですよね? これくらいは当然だと思います」
「むぐぐ……」
女神さまが悩んでいる。ちょっと贅沢言い過ぎたかもしれない。
ちょっとだけな?
相手の罪悪感につけこんで(罪悪感感じてる様子はないが……)豪華な異世界転生を押し通してみせる。
数分、考え込んでいたが、ついに女神さまはこちらに向かって俺が欲しかった答えを述べる。
「分かった。その願い、聞き届ける!」
マジか? 言ってみるものだ!!!
女神さまがそう言った瞬間、俺は光に包まれる。
背中がズキズキする。
痛みすら感じるレベルで、体中が熱い。
しかし、今後の生活を思えば、この痛みにだって耐えられる。
目を閉じて、必死に痛みに耐える。
平和な日本で暮らしてきたおれは痛みなんてのは、虫歯くらいがせいぜいマックスの痛みだ。
おれの乏しい痛みの表現法穂からすると、まるで全身が虫歯になった揚幕に、針金でつつかれているようだ。
伝わらない? そうだな、じゃああれだ。成長痛の大体の50倍くらいの痛さの全身バージョン。
「それは近い。大体56倍ぐらいの痛み」
声が聞こえるが、痛みでうまく聞き取れない。
熱さが収まると、今度は寒さを感じる。どうしようもないほどの寒さに体中が震える。
耐えろ、耐えるんだ俺。
俺は死んだ。だが、今このときに、異世界で生まれ変わる。
新しい人生の始まりだ!
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そして、ここではない場所。
今ではない時、剣と魔法の夢の異世界。
そこに、巨大生物が誕生した。
女神さま神なので嘘はつきません。
最強の肉体です。