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12話 簡単なお仕事です


「うごお!!」


 ホクトの拳が俺のみぞおちに突き刺さる。

 ダメージはあまり無いが、その衝撃で肺に溜まっていた空気を吐き出し、つい「うごお!!」なんてやられ役のセリフを言っちまった。


 地面に崩れ落ちる俺を見届けた後、少し距離をとりステップを踏みながら構えをとったホクト。

 そのまま不敵な笑みを浮かべて俺を挑発する。


「まさかお前さん、勇者以外には勝てると思ってたんじゃないだろうな」

「そんなこと、思ってないさ」


 ああ、思っていない。俺はそんなちっぽけなことを考えてココに来たわけじゃないんだ。


「ほう、それはいい心がけだ。俺に勝てるとは思わないことだな」

「俺は勇者にだって勝てると思ってる。お前は前座だ。さっさと終わらせないとな」


 ぽかんと口を開けた表情を見せた後、そのまま笑い出すホクト。


「ククク……。さすがは邪神の化身(エビルリバース。体もデカいが、口もデケえ」

「邪神の化身(エビルリバース?」

「お前さんは他の街じゃそう呼ばれてるんだよ」


 邪神の化身(エビルリバースだって? 酷いネーミングだ。

 そんな名前で呼ばれてりゃ、勇者だって討伐に来るのもしょうがないかもしれない。

 

「お前さんの攻撃は俺には当たらねえ。俺の攻撃はきっちり当たる。勝ち目はねえよ諦めな」

「……そうだな」


 確かにホクトの言うことは正しい。。

 俺がむやみやたらと振り回す手足はホクトにかすりもせず、地面をえぐり、山を砕くだけだった。

 このサイズの差だ。当たればさすがに一撃で倒せる気がするが、ホクトの速度は目で追うのがやっと。このまま何の策もなく攻撃しても時間の無駄だろう。


 ホクトは俺の攻撃にカウンターを取るように拳を繰り出してくる。それは俺の巨体を浮かせてしまうほどの威力があり、3英雄の一人と呼ばれているのも納得の強さだった。


「ホクト、お前は確かに。ところでよ。話は変わるが一つ質問していいか?」

「どうした命乞いか?」

「そうじゃねえ。街の壁のことだよ。アレはお前の仕業か?」

「ああ、あれは俺がやった。きちんと粉砕してやったからな。さすがに人は傷つけてねえ。すげえだろ」

「……」


 やはりこいつの仕業か。


「拳を振動させて、打撃と同時に内部を粉砕できる技があるだよ。俺のオリジナルなんだけどよ。お前さんにも使ってるが普通は骨が砕けちまうはずが、さっぱりその様子はねえ。お前さんの骨はオリハルコンかよって話だ。俺もさすがにオリハルコンは砕けねえ。いつか砕いてやろうっては思ってるけどな」


「オリハルコンは砕けねぇ……ね」


 それはそれは良いことを聞いた。


「あの壁は、町の人々が大事にしてるって分かっててやったのか?」

「そのほうが脅しの効果はあるだろ?」

「そうか……」


 俺は甘かったようだ。

 相手が素手だから、こちらも素手でなんて言って格好つけた結果、負けたでは話にならない。

 相手は戦闘に馴れたいわばプロ。こっちは体はでかくても素人。


 遠慮なんてする必要はなかった。最初から分かってたはずだが、何で俺はこうスタートが遅いのかな。

 だから、こう言わせてもらおう。


「てめえに今日を生きる資格はねぇ!!」


 俺は、邪神の武具を手にする。


「槍か……。だがそんなもので俺と(とら)えられると思うなよ?」

「ああ、俺も使ったこともない獲物でお前に当てれるとは思っちゃいねえ。だから手慣れたものに変えさせてもらう」


 イメージが俺の武器の形を変更するチカラとなる。


「ハエは手じゃ叩けない。俺の世界の大剣豪ならハシで捕まえる事もできるらしいが、俺には無理だ。だが、こいつならどうかな?」


 それは最速の武器。

 よく手に馴染むそれは、巨大なハエ叩き。人間同士ならば威力はないが当たればピシリと痛い程度だが、これだけの質量の差があるのだ。威力は必要ない。


 今必要とされるのは速度だ。


「お前が俺の世界の虫けらより早ければ避けれるだろうよ」

「なんだそりゃ? 見たこともねえ獲物だが」


「見えたときには、終わってるぜ」


 俺は右手に握りしめた武器に神経を集中させた。

 全身を力を抜いて脱力する。


 居合術なんて習ったことも見たことないが、気分はそれだ。

 ジリジリと距離を詰めホクトを間合いに入れる。

 あとはタイミングだ。

 

「………」

「………」


 ホクトも俺の只ならぬ気配を感じ取ったのか、黙ったままだった。

 

 さらに距離を詰めるべくゆっくりと足を動かす。地面の感触を確かめながら。

 ホクトは何を仕掛けられようと対応する準備を整えるに違いないが、これはかわせない。


 ―

 ――

 ――――パチンッ!!!

 

 今しがた打った手に、確かな感触を感じた。


 ホクトが居た場所にピタリと直撃したハエ叩き。網の目の裏には気絶したホクトが倒れている。

 殺してはいないだろう。骨とか数本いったかもしれない。しばらくは目が覚めないはずだ。

 

「ふぅ」


 深く空気を吐き出す。手強い相手だった。

 このサイズ差のある相手に、まさか苦戦するとは思わなかった。

 異世界人、恐るべし。



「ねえあの筋肉馬鹿、やられちゃったんだけど?」

「真正面から行き過ぎだ。アホの極みだよ」


 男女の声がする。


「まぁそう言うなって。強化魔法もなしにあんなのとやりあったんだから立派じゃないかな」


 また別の男の声。

 俺が振り向くとそこ居たのは――。

「でも、僕たちは三人で行こうか。出し惜しみは無し。さっさと終わらせよう」


 杖を持った女と巨大な剣を背負った男。そして中央にいるイケメン。

 どうやら噂の勇者一行のようだった。

残り5話くらいだと思われます。

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