11話 三英雄が一人、その名はホクト
街の壁にどデカい風穴が空いている。
何百年もこの街を守っていた壁を一撃で破壊しつつ、しかし砕かれた壁はガレキになることもなく砂のような粒にまで分解されている。
そのおかげで街にガレキが降り注ぐといった惨状にはなっていないが、どんな攻撃をすればこんな事態を引き起こせるのだろうか。
とにかく急ごう。
俺は空いた穴から街に入り、エイルを街の中心へとおろす。
町の中央の広場には、全住民と言えるような数の人々が集まり、声高に何かを叫んでいた。
「何を言われようが、我らが巨人様を差し出すつもりなどない!!! エイルが巨人様を逃がすまで、時間をかせぐのだ!」
「オオー!」
街は大盛り上がりだ。
だが、俺が広場へ顔を出した途端に、騒ぎが収まり、中心にいた真っ黒いフードを被った見るからに怪しい神官がエイルに怒鳴りつけた。
「エイル! なぜ神の御使い様がここにおるのだ。勇者の来襲をお伝えし、ここを離れるようにと言ったはずではないか。これでは……、またもや歴史が繰り返してしまうではないか!」
「申し訳ございません。父上」
エイルは片膝をつき、怪しい神官へと謝罪する。
って、アレお前の親父かよ。
「待ってくれ。エイルは悪くない。俺がココにいるのは、とある女神と、そして俺の意志だ」
「し、しかし御使い様……」
フード姿をした男はエイルの父親らしいが、何でこんな怪しい格好をしているのだろうか……。
「よく見るとみんなバラバラな格好だな」
街の中心の広場に集まって騒いでいる住人を見る。
中心には怪しいフードの邪神の神官にしか見えないようなエイルの父親がいる。
その周りにはほぼ半裸のマッチョな集団や、レザー製品で全身を覆ったちょっと関わりたくなり感じの人や、全身フルプレートアーマーを装備しているやつもいる。
「エイル……は騎士みたいな格好なのに、街の人は何というか混沌としてんな」
「そうですね。巨神教の教義の中心は自由ですので。他人に迷惑をかけなければそれぞれ思うところを為す、それが教えの中心です。私は騎士物語にあこがれて育ちましたから、お金をためてこの鎧を自らの中隊の制服としております!」
「勝手に制服にしていいんだ……」
わ、割と自由な宗教なんだね巨神教。ということはエイルの父親も趣味であんな格好をしているのだろうか。
「そうです! 他人に迷惑をかけない範囲において、人は自由に生きるべきです!」
自由か……。なんかすごい近代的な教えに感じた。
みんな自分の思うままに、他人の目なんか気にしないで、好きにやっていく。迷惑はかけない程度に。
そう言葉にするだけなら簡単だが、実践するのはは難しい。
それが実践された街を、剣と魔法の異世界で見ることになろうとは。
捨てたもんじゃないね。異世界転生。
「他人の自由を認めるところから、自分の自由が始まるのです」
「良いこと言うじゃねえか」
その通りだと、俺は思う。
なんだかこの街が少し好きになった。
「よう巨人さんよ。盛り上がってるとこワリぃが、ちょっとツラぁ貸してくれねえかな?」
「ん?」
壊れた城壁に立つ人影がこちらを見ていた。
「あれは、武道家のホクト! 勇者のパーティメンバーの一人、そして三英雄の一人である拳の英雄。ホクトです!! コウ様、危険です、お下がりください」
「勇者じゃねえのか……。だが、こいつは……」
分厚い胸板に特徴的な傷のある男。
只者じゃない。そう肌で感じるだけの何かがこの男にはあった。
「外で、戦ろうぜ)」
そう言って城壁から外へ飛び降りていく。
結構な高さがあるはずだが、身のこなしに自信があるのだろう。
「みんなは街の中に居てくれ。ちょっくら勇者とその一味をボコってきてやるさ」
不安そうに俺を見つめる数々の視線に送られながら、俺は外に出る。
何気にこの体で戦うという行為をするのは初めてだったりするが、俺とてここに来るまで伊達に山奥で一人ヒマをしていたわけではない。
この体のポテンシャルは素晴らしい。
デカイだけじゃない。元の体以上に素早く、そして疲れを知らず、丈夫だ。
三英雄とかいうホクトって、武道家だって指先一つでダウンさ。
期待をしていてくれ。