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10話 裸の救世主

剣と魔法とかハーレムとかタグを入れたのだけれど、一体それはどこに行ったのだろう。





 聖地アズラタン。

 巨神教の経典に伝わる巨人ゴリアテによって国を持たない人間を守るために作ったとされる壁に囲まれた宗教都市。


 街全体が巨人を神格化した一神教に染まっており、数百年もの間ずっと(あが)め続けてきた。

 

 では、彼らが、巨人に害を為す勇者一行に協力的な態度を取るだろうか。


 ――(いな)


 彼らは決して、救世主(メシア)たる巨人を売らないだろう。

 例えばそれが、滅びに(いた)る道であったとしても。



 ――神の愛を忘れず、迫害する者を打ち倒せ  

         (巨神教福音書5章:44節)


 ――壁を叩くものを受け入れよう。我々は何も奪わない

         (巨神教福音書7章:32節)




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 エイルを肩に乗せ、特技ともなった競歩(きょうほ)にて俺は街へと急いでいた。

 夢で見た女神の言葉も気になる。

 面倒な事になっていなければいいなと思っていたが、どうやら事態(じたい)は最悪の方向に向かっているらしい。


 エイルの話によれば、勇者と町の住民は既に一触即発(いっしょくそくはつ)の状態だ。


「コウ様が街を離れてすぐに、勇者たちが突然尋ねてきたのです。そして邪悪な巨人が復活した可能性があると言って街の調査を始めました」

「あんまり歓迎されなさそうな話だな」


 ゴリアテを愛している住民が、神の仇と仲良くできるとは思えない。


「はい、元々勇者と呼ばれる連中と私たちは犬猿の仲と言ってもいい関係です」

「勇者と犬猿の仲って中々だな」


「お()め頂いて嬉しいです」


 褒めてねえぞエイル……。


「勇者が来た! という一報からずっと街全体の緊張感(きんちょうかん)は高かったのですが、勇者が偉そうに、昔救ってやった恩を思い出せとか言い出したので、火に油を(そそ)いだ状況になり、特に熱心な教徒たちが勇者を皆で取り囲んだのです」


 怖えな巨神教。


「我らの窮地(きゅうち)を救いたもうは、勇者に(あら)ず。救い主は巨人ぞ! 貴様の祖先、勇者を名乗る(やから)はそれを殺した大罪人(たいざいにん)! 恥を知れ!」


 急に肩で大声を上げるエイル。


「そう、我らが大司教(だいしきょう)さまは仰られました。さすが大司教さまと皆も続き、勇者を自称(じしょう)する連中に石と腐った卵を投げつけてやりました。コウ様にも見せてあげたかったです」


「そ、そうか……」


 俺はあんまり見たくない。あと、その後の話もあんまり聞きたくないような……。


「その後、勇者たちは街の外に一度出ていきました。ですが、その後に……」


 エイルの声が震えている。

 一体何があったのだろうか。


「我らの聖なる壁を破壊し始めたのです。あれはまさに悪魔の所業でした」


 そう語るエイルの目には涙が浮かんでいた。


 しかし、あの壁はちょっとやそっとの攻撃じゃビクトもしないような造りだった。

 俺みたいな巨人ならともかく、個人でどうこうできるものでは無いはずだが、さすがは勇者とその仲間という話だろう。

 一瞬(いっしゅん)、逃げるか? という選択肢が頭にチラつく。


 無いな。無い、それは無い。

 あれだけドヤ顔で「信仰対象、それは俺!」とか宣言しておいて次の日に尻尾巻いて逃げ出すなんて俺の性に合わない。


「私はコウ様に本当はお逃げいただくようにお願いするつもりでした」


 エイルが、懺悔(ざんげ)するように俺に懇願(こんがん)する。


「しかし、街が、私達の街の誇りが破壊されているのです……。魔物の襲撃に引き続き、またもや図々しいお願いをしているのは理解しております。どうか街を救ってください。もうコウ様を頼る他ないのです」

「ああ、最初からそのつもりだぜ」


 街の連中は方法はちょっとどうかと思うが、俺を(かば)って行動した結果、困難に直面してるのだ。


 助けない選択肢はない。

 

 それに、エイルだけじゃない。

 あの女神にも頼まれたしな。

 

 正直、俺を全裸(まっぱ)でこんな世界に放り出してくれた女神には、いつかムーンサルトプレスを食らわせようと思ってはいるが……。

 

 あんな顔でお願いごとをされたら、断れるわけがないだろう?





話も折り返しです。

残り10話ほどを予定していますが、一日1話以上を目指して更新していきます。


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