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9.お嬢様と帝国の生徒会

 ファルシア王国の王都ファランにある魔法学校。

 その飛行場に、大きな黒い飛空船がゆっくりと降りてきた。


 船首には伝令を表す白い大きな長い旗と、友好を示す赤と白の旗。

 その下には、黒地に金色の蛇が描かれた旗が掲げられている。

 あれが……アイゼンラット帝国の旗。



 飛行場で帝国の生徒会をお出迎えするのは。

 

 生徒会から、私とキナコ。

 あと校長先生と吹奏楽部。それから近衛騎士団。


 よし!

 生徒会長として初めての仕事だし。

 失敗しないようにしないと。

 

「キナコさん、笑顔を忘れています。相手は友好国ですよ?」


 校長先生が、私たちの方を向いて優しく微笑みかける。


 え? キナコさん?


 横に立っているキナコを見ると。


 なんだか。

 今にもブレスを吐きそうな体制なんですけど!


 なにこれ?

 完全に戦闘モードだよね?!


 うーん。

 ……とりあえず。

 キナコの頭をぱしっとはたく。


「痛い。ご主人様、なにするの!」

「キナコ、なにやってるの?」

「だって、ご主人様。あの飛空船から、影の匂いがするよ」


「え?……もしかして……魔人がいたりする?」

「いるけど。それよりもっと影に近い存在がいる……なにこれ……」


 ――え?


 ラスボスがいきなり登場とかじゃないよね?

 さすがに……ちがうよね?


 もうゲームの展開と違い過ぎて。

 予言があんまり役に立たないから。


 かみたちゃん。

 どうなってるのさぁ……これ。



**********


 騎士団が剣を掲げると。

 吹奏楽部のメンバーが一斉に楽器を構える。

 

 歓迎のファンファーレが飛行場に鳴り響いて。

 飛空船から、数人がおりてきた。


 先頭にいるのは、銀色の髪に青い瞳。

 可愛らしい顔立ちの女の子。

 

 ……あれ?

 どこかで見たことあるような。

 

 えーと。

 

 記憶の中をぐるぐる検索してみる。

 そうだ!

 かみたちゃんに見せてもらった映像に映ってたんだ。



 ラスボスの前で楽しそうに笑ってた子だよね。

 すごく怖い光景だったから……印象にのこってる。


 まさか……。

 連れてきてないよね? ラスボス。



 彼女は、うつむいたままゆっくり歩いてくると。

 私の目の前で顔をあげる。


 それは、警戒していた私の想像と全然違って。

 なんだか……今にも泣きそうな表情をしていた。


「……お姉ちゃん、久しぶり」


 ……。


 …………。 


 え、なに?

 今お姉ちゃんって言わなかった?


「ちょっと失礼しますわ!」


 彼女の横に立っていた黒髪の女性が、慌てて女の子の口を塞ぐ。


「ちょっと! まだ確証はないんだから、しっかりしなさいよ!」

「……でも」

 

「失礼しました。こちらは、アイゼンラット帝国第一皇女で生徒会長をしております、アリア様です」


 女性は、丁寧にお辞儀をした。


 あれ?

 この黒髪に赤い目の美人なお姉さんにも見覚えがあるんだけど。


「久しぶりね、クレナちゃん。それと……キナコちゃんだったかしら?」


 風に揺れる黒髪と妖艶な微笑み。

 うわぁ。

 同性でも、おもわずドキッとするくらい美人だよ。


「キナコ……?」


 銀髪の女の子……アリア様が、キナコの名前にぴくりと反応した気がした。


 ……なんだろう?



「こほんっ。クレナさん。まずはご挨拶を」


 校長先生の言葉に、はっとする。


 いけない、今の私は生徒会長だった。

 ちゃんと代表として挨拶しないと。


「初めまして、アイゼンラット帝国魔法学校の皆様。心より歓迎いたします」


 にこっと笑う。


「私、生徒会長のクレナ・ハルセルトと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 丁寧におじぎしてから、あらためてにっこりスマイル。

 よし、完璧!


 ……。


 ………。


 えー?

 もう、なんでまた静かになるのさぁ。


「うわぁぁぁ。ほら見た? ものすごく可愛いのよー!」


 沈黙をやぶって、サキさんが私に抱きついてきた。

 ちょっと?!

 なにしてるんですか、この人。  

 

「ちょっと、ご主人様から離れて! この変態魔人!」

「あら? 心配しなくてもキナコちゃんもかわいいわよ!」


「なんでボクまで。はなしてー!」



**********


 生徒会の交流会は。


 まず、お互いの学校の活動報告をして。

 意見交換を行う。


 で。


 それが終わったら、国王様も出席するパーティーに出席。


 そのまま、全員お城に泊って。

 朝に解散っていう感じなんだけど。



「……以上が、ファルシア王国の生徒会報告になります」


 私の横には、銀髪の第一皇女アリア様がいるんだけど。

 ぴったりと席をつけて座っている。


 彼女の銀色の髪が、頬に触れる。

 おもわず顔を横に向けると。

 すぐ近くに彼女の可愛らしい顔があった。


 ……近い。

 なんだかすごく近いんですけど!?


 なにこれ。

 帝国ってみんな距離感おかしいの?


 文化の違い?


 彼女は、下唇に右手の人差し指を押し当て、上目遣いで私を見ている。

 なにそれ、カワイイんですけど!


 あれ、でも。

 そのポーズ、どこかで見覚えがあるような……。



「あの。アリア様? 少しお離れになったほうが。それだと、お話もしづらいですわ?」


 リリーちゃんが注意してくれる。

 注意っていうか。

 なんだか……すごく怒ってる?


「はぁ? 何言ってるの? リリアナのくせに」


 アリア様は、横にいる私にしか聞こえないくらい小さな声で、ボソッとつぶやいた。


 リリアナのくせにって……。

 まるで、前からリリーちゃんを知ってるような感じなんだけど。


 もしかして。

 もしかしてだけど。


 彼女が……帝国の転生者……?!


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