8.お嬢様と交流会
「かいちょー、なんか校長先生が探してたわよ」
放課後、生徒会室に入ると。
いきなりジェラちゃんから声をかけられた。
うわぁ。
手のひらでほおをささえながら、にやにやしてる。
なにその意味ありげな表情。
「え、なんだろう?」
「この時期にあった大きなイベントなんて一つしかないでしょ?」
えーと。
生徒会選挙が終わってすぐのイベントっていうと。
「ひょっとして、アンタ……覚えてないでしょ?」
「まって、思い出す。思い出すから!」
えーと。
生徒会が終わってからのイベントだよね。
思い出せ、私。
攻略対象と選挙で仲良くなれて、それから……。
「はぁ……時間切れよ。西の国にある魔法学校との交流会でしょ」
あー。
そういえばあったよね、そんなイベント!
ファルシア王国の西側にある、『セーレスト神聖法国』。
たしか。
緑豊かな森や湖があって。
美しい自然を楽しめることで有名な国。
別名「緑の法国」。
王国とは古くからの友好国で。
ドラゴンにのって戦う、竜騎士がいるんだよね。
交流会は、二つの国にある魔法学校の生徒会が、お互いの学校を訪問して。
生徒同士の友好を深めるための行事なんけど。
ここでの相手の好感度次第で。
ラスボス登場時に、竜騎士団が駆けつけてくれる熱い展開があったはず。
「ほら、西の学校の生徒会長覚えてる?」
「緑色の髪の人だっけ?」
「そう! 私、クレナも推しだったけど、あの会長も推しだったのよね~」
「そうなんだー」
緑髪の生徒会長って一部で人気あったの知ってたけど。
確か、竜騎士見習いなんだよね、彼。
「彼ね、実は攻略できるのよ」
「えー? そうだったの?」
ジェラちゃんは、一瞬嬉しそう顔をした後、じーっと私の顔を見る。
え?
なんだろう?
「んー……まぁ、考えてみたら今はどうでもいいんだけどね」
「え? なんで?」
「今も変わらず、クレナ推しだから……私……」
小さな声でつぶやくと、顔を真っ赤にして俯く。
そっか。
そんなにゲームのクレナ好きだったんだ。
うーん。
「ごめんね……」
「はぁ? な、なんでアンタが謝るのよ? それより、校長室早くいったら?」
校長先生が探してたんだっけ。
「うん、わかった。ありがとー、ジェラちゃん」
なんだかジェラちゃん、いつもより元気なかった気がする。
顔も赤かったし。
……風邪とかじゃないといいけど。
**********
ここは校長室。
私は、校長先生と対面のソファーに座っていた。
「……あの、校長先生。もう一度お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、私もこんなこと初めてなんですけどね……」
あらためて、校長先生の言葉を聞き返す。
「今回の交流会は、アイゼンラット帝国の魔法学校になりました」
……。
………。
聞き間違いじゃなかったみたい。
交流会の相手って。
最終ボスのイベントで重要なセーレスト神聖法国なはずなのに。
何で帝国になってるの!
「向こうの学校のがね、是非ウチと交流したいんですって」
「だって、帝国って……」
ラスボスを連れてくる敵国なのに。
ウチと交流したいって……。
どういうことなんだろう?
「クレナさん。過去に色々ありましたが、アイゼンラット帝国は友好国ですよ?」
――ずっと昔。
もう何百年も前の事。
初代の星乙女と竜王が戦った相手が……。
アイゼンラット帝国だった。
星を守る乙女の力に目をつけた帝国は、彼女を手に入れようとした。
彼女と竜王は。
王国を守るために戦って……。
「確かに、王国の国民は今でも帝国を心のどこかで嫌っています」
静かな声でゆっくりと語りかけてくる。
「でも、相手が手を差し出しているのですから」
校長先生は、優しく微笑んだ。
「セーレスト神聖法国との交流は……どうなるのでしょうか?」
「そこは、心配しなくて大丈夫ですよ。また別に交流を考えていますので」
友好国って言われても。
クーデターの時にも裏でなにか動いてそうだったよね?
それに。
乙女ゲームの中では、王国を滅ぼそうとして攻めてくるのに?
「……不安ですか?」
私の不安が顔にでてたみたいで。
校長先生が心配そうな顔で見つめている。
「安心してください。開催場所はこの学校に決定しています」
**********
生徒会室に向かう途中、私は思わず廊下でしゃがみ込んだ。
えー。
なにこれ?
どういうこと?
……こっちが帝国に行くよりは安全だけどさぁ。
そういう問題じゃないよね。
なんでこんなにイベント内容が変わってるの?
……やっぱり。
帝国に転生者がいる……気がする。
かみたちゃん。
やっぱり、なにかおかしいよ。
「……クレナ?」
突然後ろから声をかけられた。
「うわぁ」
おもわず、びっくりして立ち上がる。
振り返ると、シュトレ王子が心配そうな顔で立っていた。
「どうしたの? クレナ?」
「……シュトレ様」
王子は、優し気な瞳で見つめた後。
ぎゅっと抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ」
彼の腕の中で。
最初はいきなりでドキドキしたけど。
だんだん気持ちが落ち着いてきて。
なんだか、安心できる……。
あらためて顔を上げると、王子が優しい笑みを浮かべていた。
「……なにがあったか、聞かないんですか?」
「うん……クレナのタイミングで聞かせてよ。オレはいつだって味方だからさ」
羽で触れるよう優しさで、頭をそっとなでてくる。
……ずるいな。
ますます好きになるよ、これ。
気がつくと、柔らかな感触が唇に重なっていく。
どうか。
どうか。
この先にどんなことがあっても。
彼の優しさと笑顔が守れますように。