5.お嬢様と選挙活動
「クレナちゃん、もうちょっとクリスタルの方に視線欲しいですわ」
「……えーと、こんな感じ?」
私たちはまず、選挙戦のポスター作りを始めた。
リリーちゃんがクリスタルを抱えて、撮影してくれる。
私は……もちろんていうか、モデル。
もう!
なんでことになっちゃったのかな!
さっきからずっと、言われた通りににポーズを取ってる。
もう1時間くらいやってるんだけど
……映像クリスタル重くないのかなぁ。
「いいですわ! そこで少しだけ身体を傾けてください~」
身体を?
えーと、こうかな。
リリーちゃんの前で、少しだけ斜めに構えてみる。
「次に、好きなものを思い浮かべてくださいー」
好きなもの?
えーと。
パンケーキとか。
苺の紅茶とか。
……急に、シュトレ王子の顔が頭に浮かぶ。
なんで出てくるかな。
これって好きな人……だよね。
「うわぁ、クレナちゃん、最高に可愛いですわ!」
「うん、お姉ちゃん可愛いです!」
えっ?
いやいや、ちがうしちがうし!
「それ取り消し!」
「これでいきますわ!!」
「絶対これです!!」
ええええええええええ!!!!
**********
ここは、魔法学校の校内にあるクラブハウスの一室。
生徒会に立候補した候補者は、それぞれ一室借りることができて。
この場所をつかって、選挙活動の考えたり準備したりするんだって。
なんだか、すごく本格的だよね。
で。
今みんなでやっているのは、選挙の為のポスター作り。
映像クリスタルで撮影した画像は。
専用の紙と魔法で、印刷することができる。
ここまでは前世の写真と同じ感じなんだけど。
あとから魔法で文字とか自由に追加できるんだって。
このあたりは、スマホに近い気がする。
やっぱり、魔法って本当に便利だよね。
今この部屋にいるのは。
私と、リリーちゃん、ナナミちゃん、キナコ。
あと何故か、ジェラちゃんとガトーくん。
……。
同じなんですけど!
学校の特殊クラスと全く同じメンバーなんですけど!
「ふう、公約はこんな感じでいいわよね?」
「ボクもこれでいいと思う!」
ジェラちゃんとキナコは、すでに印刷が終わってる分のポスターに文字を入れていた。
ガトーくんがひょいっと作成中のポスターを眺めたあと。
口を抑えながら笑い始めた。
……なんか嫌な予感しかしないんですけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
<クレナ・ハルセルトの選挙公約>
1.学食無料
2.全メニューにデザートをつけること
3.自由恋愛で楽しい学園生活を(もちろん同性同士の恋愛も可)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は、二人に近づくと。
持っていたポスターを魔法で消し炭にした。
「ちょ、ちょっと、アンタなにすんのよ?!」
「ご主人様、ひどいですよー」
「……二人とも、遊んでますよね?」
「失礼ね、これでも真面目に考えてあげたわよ?」
「そうだそうだー」
ジェラちゃんとキナコが抗議の声をあげる。
何気に仲いいのよね、この二人。
「でも、お姉さま。最後の公約は良かったと思います……」
「そうですわ! 本当に公約にいれてみませんか?」
えええ?!
リリーちゃんとナナミちゃんまで!
ガトーくんが押さえられなかったみたいで、大声で笑い始めた。
……最後のが一番問題だったからね!
**********
「さぁ、この後は校門前でビラ配りですわー!」
「「「「おー!」」」」
みんなで目標に向かって頑張るのって。
前世の文化祭とか体育祭みたいで。
すごく楽しいんだけど。
楽しいんだけどさ。
……なんで、私の選挙活動なのさ!?
「あれだからね、もしだけど。私が会長になったら、全員生徒会に指名するからね!」
もう、こうなったら。みんな巻き込むんだから!
みんな、私の言葉に一瞬固まった。
ほらほらほらぁ。
自分だったら、こまるでしょ?
今からでも立候補を取り下げに……。
「きゃー素敵ですわ! 一緒に生徒会頑張りましょうね!」
「そうか、僕もそれでいいよ。クレナちゃんといっしょなら楽しそうだ」
「お姉ちゃんと一緒なんて、嬉しすぎます!」
「まぁ、アンタが頼むなら……やってあげても……いいわよ」
え?
えええ?!
なんでそんなに嬉しそうなの?
だったら。
みんな立候補すればよかったとおもうんですけど!!
「はぁ、ご主人様は相変わらず……」
え? キナコさん?
ちゃんと話を最初から聞いてました?
**********
家に帰ったあとも。
選挙活動は続いてて。
私たちはジェラちゃん、ガトーくんと、クリスタルを使った通信魔法で作戦会議をしてた。
……ホントに、そこまでしなくてもいいのに。
あれ? でも。
何で魔法学校だけ、選挙とか民主的な感じなだろう?
……この国って王国なのに。
この世界っていろいろ謎だよね。
「ねぇ、なんで魔法学校だけ民主的な感じで会長選ぶのかな?」
「あーこれ、全然民主的なんかじゃないわよ?」
「え? そうなの?」
「学校の選挙なのになんでもありなのよ。お金でも権力でも、なにつかってもいいんだって」
それなら……。
身分とか権力が強い人が勝つよね、普通。
なんとなく、納得。
「で、私の調べだと、かなり有利みたいよアンタ」
「まぁ、でも選挙の一番のライバルは、うちの兄だね……」
……選挙。
……選挙。
あれ?
そういえば。
私は、ベッドの裏から『ファルシアの星乙女メモ』を取り出す。
生徒会選挙って、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でもイベントがあったはず。
えーと。
攻略対象の四人がみんな立候補して。
主人公は、イベントをとおして一番好感度が高い対象の選挙応援をすることになる。
無事に生徒会長になれたら、好感度大幅アップ!
ああ、そんな感じのイベントだったみたい。
……。
…………。
うわぁぁぁぁ。
だめじゃん、私もナナミちゃんも!
これって、二人とも攻略対象のライバルになっちゃってるよね!?