4.お嬢様と高校生活でやりたいこと
目が覚めると、自分のベッドの上で。
ナナミちゃんが、私に抱きついて寝ていた。
……あどけない寝顔がすごく可愛い。
天使の寝顔っていうやつだよね。これ!
ナナミちゃんは、私に触れていると魔力を回復できる。
なので。
夜のうち一緒に寝て充電してるんだって。
別に、そんなことしなくても魔力分けらえるのに。
なんだか、充電器になった気分だよ。
私の足元には、キナコが丸まって寝ている。
この子、最初は私の横で寝てたよね?
ホントに……人の姿になってもネコみたい。
そういえば。
意識が覚める寸前。
かみたちゃんの声が聞こえた気がした。
「あれ、そういえば伝えてませんでした? クレナちゃん星乙女なんですよー?」
……。
…………・
ボーっとしていた頭がだんだんはっきりしてくる。
え?
あれ?
私星乙女なの?
ナナミちゃんみたいに転移者じゃないのに?
ゲームに星乙女は二人も出てこなかったよね?
なにこれ。
全然ゲームと違っちゃってるんですけど。
でももし。
もしだけど。
――本当に星乙女だったら。
ゲームみたいに。
……シュトレ王子と……恋をして……一緒に強くなれる。
ってことだよね。
あらためて、かみたちゃんとの会話を思い出してみる。
夢じゃ……なかったんだよね。
あわてて足元にいたキナコをゆすって起こす。
「もう、ご主人様、どうしたんですか?」
キナコは起き上がるとゆっくり開けた。
なんだか、今すぐにでも寝ちゃいそうな。
ぼーっとした表情。
「ねぇ、キナコ! さっきの夢じゃないよね? 私って星乙女なの?」
「え……なにをいまさらいってるんですか?」
眠そうな目をこすりながら、大きなため息をつく。
「時間をとめたり出来るすごい力、星乙女以外いるわけないですよね?」
「……キナコ、知ってたの?」
「むしろ……何で気づいてないんですか?」
キナコは、やれやれといったポーズをしたあと。
再び丸まって寝ようとする。
「今ボクは眠いんですから……ご主人様の天然に付き合ってる時間はないんですよ……」
「ちょっと、キナコー!」
うわぁぁぁ。
あんなに真剣に悩んでたのに!
かみたちゃんとキナコのばかぁぁぁ!!
**********
次の日の朝。
朝食を食べ終わって学校に向かう準備をしていると。
お母様が部屋をノックした。
「クレナちゃんー! シュトレ王子が迎えにきてるわよー」
え。
今日なにかあったっけ。
うーん。
思い出せない。
でも……。
一緒に登校できるのは……嬉しい……かも。
慌てて家の玄関に向かうと、シュトレ王子が笑いながら立っていた。
「おはよう、クレナ。そんなに慌てなくて大丈夫だよ」
「……おはようございます、シュトレ様」
今日もカッコいい。
シュトレ王子って、絵本の王子さまが飛び出てきた感じだよね。
女の子の理想みたいな……。
「えーと。今日は、何かお約束してました?」
「いや。一緒に登校したかっただけだよ。迷惑だったかな?」
「いえ、そんなこと。……嬉しいです」
迷惑なわけないよ。
すごく嬉しい。
って。普通に声に出しちゃってるじゃん、私。
おもわず、両手で口を押させる。
恥ずかしすぎる……。
「迷惑だし、邪魔だし、うっとおしいです」
後ろから、すごく冷めた声が聞こえる。
ナナミちゃんだ。
なんだか怒ってる?
「やぁ……おはよう、ナナミちゃん」
ナナミちゃんは、王子を無視して私の腕に抱きついた。
「さぁ、お姉ちゃん。一緒に仲良く登校しましょうね」
「ちょっと、ナナミちゃん!」
おかしいな。
乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』のヒロインってこんな感じだったっけ?
いつもはすごく似てるんだけどなぁ。
似てるっていうか……本人だけど。
ナナミちゃんは、王子の方を振り向くと、ベーっと舌を出した。
「ねぇ、オレなにか嫌われることしたかな?」
「自分の胸に聞いてみればいいですよ。行きましょう、お姉ちゃん」
私は、ナナミちゃんに両手をひっぱられて家を出た。
「やっぱり……そうなのか。なんでクレナの周りにはライバルしかいないんだよ!」
「……王子も大変ですねー」
がっくりと肩をおとす王子に、キナコがなぜか同情の目線を送っている。
――ライバルって、なんのことだろう?
*********
「ねぇ、クレナ。高等部でも生徒会をやる気はない?」
魔法学校までの登校中、シュトレ王子が話をふってきた。
私とナナミちゃんが並んでいて。
後ろには、シュトレ王子とキナコ。
なので、王子と話すときには振り向くかたちになる。
「中等部でずっと生徒会だったから。別の事もやってみたいかなぁって」
「そうかぁ、残念だな。別の事って例えば?」
高等部の生徒会って。
中等部と違って生徒が立候補して、投票で選ばれる。
一番得票の高い人が、生徒会長になって。
次が副会長。
あとの役職は、会長の指名制。
なんで高等部から立候補制なのかいうと、生徒の自主と自立を促すみたいな感じなんだって。
「うーん。そうですね……」
料理クラブとか楽しそうだよね。
もともとお菓子作るの好きだし。
「例えば、料理……」
「おねえちゃんが立候補するなら、私全力で応援しますよ!」
私の声をさえぎって。
ナナミちゃんの大きな声が響き渡った。
可愛い大きな目がきらきら輝いている。
次の瞬間。
「おはようございます、クレナちゃん」
リリーちゃんが、私を見つけて抱きついてきた。
「今日も最高に可愛らしいですわー!」
「キミらさ、ホントにオレが婚約者だってわかってるんだよね?!」
「ところで、何の話だったんですか?」
リリーちゃんは王子を無視して、私とナナミちゃんに話しかける。
「お姉ちゃんが、生徒会に立候補するんです!」
「まぁ、クレナちゃんすばらしいわ。是非、生徒会長になりましょう!」
リリーちゃんは、私の両手をがしっと握りながら嬉しそうに声を上げた。
え?
あれ?
……何でこんな話になったんだけ?