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3.お嬢様と恋の力

「お姉ちゃんと同じクラスで嬉しかったです!」


 ベッドに転がりながら、ナナミちゃんが嬉しそうに頬を両手で抑えている。

 ちょっと、このヒロイン。

 可愛いすぎなんですけど!


「ナナミちゃん、今日もここで寝るの?」

「ハイ! お姉ちゃんといると魔力も補充出来ますし。それに……」


 頬を赤くして見つめてくる。

 多分眠いだけだとおもうんだけど……。


 なにこれ!

 私が男だったら絶対誤解されるやつだから!

 ナナミちゃんって、表情豊か過ぎるんですけど!


「はぁ、ご主人様……こんなにわかりやすいのに……」


 キナコさん?

 よくわからないこといってますけど。


 なんで枕を抱えて私のベッドに向かってるんですか?



**********


 ……気が付くと。


 そこは真っ白な空間。

 

 どっちが上なのか下なのか。

 どれくらいの広さなのか。


 自分が浮いているような立っているような。

 不思議な感覚。



「ウェルカムですよー! 高等部入学おめでとうござますー!」


 突然目の前に、かみたちゃんが現れた。


「あ、ありがとう……」


 近い、近すぎるから! 

 おもわず、少し後ずさる。


 金色に輝く少女は、首を少しかしげて嬉しそうに微笑んだ。


「もう、クレナちゃんは照れ屋さんですね~」

「ちがうから! 出現する場所、もうちょっと考えようね!」  


「ご主人様は照れ屋じゃなくて………天然なんですよ」


 ドラゴン姿のキナコがぴょんと私の肩に飛び乗った。


 ――この子も成長したよね。

 

 最初は子猫くらいの大きさだったのに。

 今では、普通のネコくらいあるもんね。

 って!


「ちょっと、キナコ! 天然ってなにさ!」


「そうなのですよ、クレナちゃんは周りの人の気持ちに気づけないんですよねー」

「うんうん。ボクもご主人様の将来が心配ですよ」

 

「たとえば、私の気持ちとか……」


 かみたちゃんは、目をウルウルさせて、顔を近づけてくる。



 ……はっ!

 いけない。

 これだと、いつものかみたちゃんペースだ。


 聞きたいことがたくさんあるんだから。

 今日は、こっちが主導権を握るよ!


「ねぇ、かみたちゃん。真面目な話をきいてくれる?」


 かみたちゃんは、顔を近づけるのをやめて、きょとんとした表情をした。

 

「はい? なんでしょう?」

「なんでナナミちゃんは高等部に入学できたの? みんな自然に受け入れてたけど、おかしいよね?」

 

「んー……」


 少し考える仕草をしたかみたちゃんは、にこっと笑った。


「それ、そんなに問題ですか?」

「ううん、問題とかじゃなくてね」


「それじゃ、いいじゃないですかー」


 かみたちゃんの目が怪しく光ってる……気がする。


 あれ?

 いいのかな?


 なんかだ自然な気がしてきた。

 そうだよね、普通にヒロインなんだし。


 ……って。


 あぶない、そんなわけないから!


「かみたちゃん……今何かしたでしょ!」

「あはは、やっぱりクレナちゃんは面白いですねー」


 かみたちゃんが手をくるりと一回転させると、白い空間に大きな画面が映し出された。

 画面下には、リアルタイム中継の文字。

 なんだか前世のニュースみたい。


 

 そこは、どこかの神殿みたいな場所。


 魔法陣の上で、大きな黒い影が鎖で縛られていて。

 その前で銀髪の少女が楽しそうに笑っている。

 

 彼女の後ろには、羽や角の生えた、たくさんの人影が見えた。


 その中の一人に見覚えがあった。

 ……あれは、魔人のサキさんだ。

 ってことは。これは帝国なの?


 

 ――なにこれ。


 胸の鼓動が早くなっていくのを感じる。

 膝の震えが止まらない。


 あの黒い影は。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』に出てきたラスボス……だよね。

 なんで……もう召喚しちゃってるの?


 それに、魔人の数だって……ゲームよりはるかに多い。



「実はですね、相手がちょっと本気っぽくてー」

「相手って、アイゼンラット帝国?」

「そうですねー。ちょっと困ったことになりましたー」


 そういえば……。

 サキさんの言葉を思い出す。


『敵側の魔人に転生しちゃたんだけど』


 もし。

 もしもだけど。


 彼女の言葉が本当だとして。

 帝国に他にもたくさん転生者がいて、違う未来を望んでるとしたら。


 やっぱり。

 ゲームで知ってる情報を利用して……。

 王国と星乙女の勝利ではなく。


 ……ラスボスと帝国の勝利を目指すなんてことも。



「ねぇ、かみたちゃん。もう一回聞くけど。帝国に転生者はいないんだよね?」

「だから、いませんってばー」


「この世界に転生させることができるのって、かみたちゃんだけなの?」

「そうですねー。他にはいませんよー」 


 ……可能性があるとしたら。

 かみたちゃん以外に帝国に転生させる神様がいるのかとおもってたんだど。


 うーん。


 やっぱり、ここの話だけどうしてもかみ合わないんだよね。

 なんでだろう。


 両手を組んで悩んでる私に、かみたちゃんが後ろから抱きついてきた。


「なので、少しでもクレナちゃんの味方を増やすために、ナナミちゃんを高等部に入学させたんですよ?」


 びっくりして振り向くと。

 かみたちゃんの優しい微笑みがあった。


「……させましたって。かみたちゃんって世界に干渉しちゃダメだったんだよね?」

「うーん、今回は特別ですよー」


 唇に人差し指をあてて、ないしょのポーズをする。

 

 いつも通りの可愛らしい仕草に。

 ちょっとだけ警戒していた気持ちがほどけていく。



「……ねぇ、かみたちゃん」

「なんでしょう?」


「ナナミちゃんて星乙女なんだよね? 攻略対象とラブになって力が強くなったり……する?」


 ゲームと一緒なら。

 星乙女と攻略対象は、仲良くなればなるほど、お互いの戦闘力があがったから。

 

 もしそうなら。

 攻略対象全員とラブになれば。

 強くなった帝国からも……世界を守れるかも……。


「そうですねぇ、星乙女の力はあるみたいですよ。恋すると強くなれますねー」


 そっか……そうなんだ。

 それじゃあ。


 ……シュトレ王子の顔が頭をよぎる。

 ずきんと胸が痛む。

 せっかく色々覚悟してたのにな。


「でも、クレナちゃんも星乙女なんですよ?」


 ……。


 …………。



「なのでー。攻略対象と恋するほど戦闘力があがりますー」


 大きな瞳で愛らしくニコニコと笑うかみたちゃん。



 え?


 えええ?


 えええええええええええええ?!


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