2.お嬢様と最初のイベント
入学式の前に、掲示板に高等部のクラスが貼りだされていた。
一度みんな各クラスに分かれてから、入学式の会場に移動するんだって。
「きゃー! またクレナちゃんと同じクラスですわ!」
「ふーん、また同じクラスみたいね。まぁ、よろしく」
リリーちゃんとジェラちゃんが笑顔で駆け寄ってくる。
そっか、また同じなんだ。よかった。
ちかくで、ガトーくんがさわやかな笑顔で手を振っている。
表情的に同じクラスって感じかな。
あれ?
まさか………。
私は張り出されたクラス表を確認した。
……『特殊クラス』
『ガトー・グランドール』
『ジェラ・グランドール』
『リリアナ・セントワーグ』
『クレナ・ハルセルト』
『キナコ・ハルセルト』
『ナナミ・ハルセルト』
……。
…………。
また特殊クラスだよ!
しかも、中等部のクラスにナナミちゃんが増えただけじゃん!
確か乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』では、クラスメートたくさんいたよね?
イベント背景、普通のクラスだったよね?
――あれ、そもそも。
ナナミちゃんって……。
中等部入学じゃないと変だよね。
ゲームと一緒だから自然に受け入れちゃってたけど。
なにこれ?
ゲーム補正みたいな感じなのかな?
うーん。
あのゲームって予言を元に作ったんでしょ?
これも予言してたってこと?
もう。
いきなり違和感だらけなんですけど!?
**********
魔法学校高等部入学式。
私は、ステージ横の控えスペースで、自分の出番を待っていた。
新入生代表として、挨拶をするためなんだけど。
……デジャヴだわ、これ。
中等部の入学式でもやった気がする。
ふふふ。
でも今の私は、中等部の頃とは違うから。
なにせ。
中等部三年生では、生徒会長やってましたから!
いまさらステージでしゃべるのなんて、全然緊張しませんから!
「あれ? もっと緊張してるのかと思ったよ。意外と平気そうだね」
目の前で、からかうように笑うのは、シュトレ王子。
もう。
「これでも成長してるんですからね! これくらいのスピーチ全然平気です」
「あはは、そうか。でも、懐かしいね、中等部の頃も同じようにこの場所で待ってたよね」
「そうですね。はやいなー」
あの時は。
シュトレ王子と正式に婚約するなんて、考えられなかったなぁ。
あらためて、隣に座っている王子の顔をみる。
金髪に青い瞳、整った顔立ち。
本当に……ゲームで見た王子がそのままそこにいる感じで。
不思議な気持ち。
こんな風に……一緒にいられるなんて。
ふと、王子と視線がぶつかった。
やっぱり綺麗な瞳だなぁ。
って。あれ? なんだか顔が近づいてません?
唇に優しい感触がつたわる。
「それじゃあ、先にスピーチしてくるね」
王子は優しく微笑んで、ステージにあがっていった。
……なに今の。
不意打ちなんですけど!
ビックリしたんでんですけど!
カッと顔が熱くなるのを感じながら、思わず両手で唇を押さえる。
……もう。
これから私もスピーチしないといけないのに!
**********
「……この魔法学校のよいところをたくさん取り入れて、学園生活を充実したものにしていきます」
私はステージの上でスピーチをしながら、ゲームの画面を思い出していた。
新入生の挨拶って、魔法学校の最初のイベントだったよね。
えーと、たしか。
そうそう!
主人公が、悪役令嬢のリリアナの代わりに急遽スピーチすることになって、ステージに立つんだけど。
持ち前の笑顔と行動力でのりきっちゃう!
スピーチの選択内容次第で、攻略対象の好感度がそれぞれ変わったはず。
「……温かい目で見守り、ご指導くださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします」
今の私の挨拶は、選択できたセリフのどれでもない気がする。
だって、ゲームのセリフなんて、全部覚えてないから!
もし覚えてるなら……。
シュトレ王子の好感度アップのセリフ話したのに。
……なんて。
まぁ……これって実は……リリアナの最初の嫌がらせで。
クラス分けの時、シュトレ王子がヒロインに興味をもったのが原因なんだって後でわかるんだけど。
新入生の席を見ると、ゲームでは当事者のリリーちゃんとナナミちゃんがいた。
二人とも目をキラキラ輝かせてこっちを見てる気がする。
なにあれ、すごく可愛い!
……本当は、この二人のイベントなんだけどなぁ。
私がすすめちゃっていいのかなぁ。
「以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」
よし、終わり!
丁寧におじぎしてから、にっこりスマイル。
多少、考え事をしてた気もするけど。
今回は完璧だったでしょ!
……。
…………。
あれ?
また会場が静かなままなんですけど。
中等部の時と、一緒なんですけど?!
しばらくの間があって。
ナナミちゃんが急に立ち上がって拍手を始めた。
それを合図に、会場から拍手とため息のような声が響き渡った。
えー?
今回はかなり自信あったのになぁ。
練習たくさんしたんだけどなぁ。
やっぱり。
途中でゲームのことを考えたのがいけなかったよね、反省。
ステージ横に引き上げると、シュトレ王子の横に座る。
「くやしい、また失敗しちゃったよぉ」
「え? なにを?」
「今のスピーチ。しゃべりながら別の事考えちゃってて……」
「え……あれで?」
シュトレ王子がぽかんとした顔をしている。
ほらぁ、やっぱり失敗してたんだよね。
「あ、あのね。王妃になるまでには、ちゃんとスピーチ上手になるから!」
うつむきながら王子に言い訳をする。
恥ずかしい……。
「ねぇ、ホントにきづいてないの?」
「え? なにを?」
「いや……クレナらしいな。そんなクレナも大好きだよ」
え?
顔あげた瞬間、柔らかな感触が頬に触れた。
私は顔をあげれなくて、再びうつむく。
ドキドキと高鳴る胸の音が、王子に聞こえそう。
恥ずかしい。
もう!
今日の王子は不意打ちが多すぎなんですけど!