1.お嬢様は乙女ゲームの舞台へ
「お嬢様方、本当によくお似合いですわ~」
セーラ率いるメイド隊によるプロの仕事が終わって。
私は鏡の前で、くるりと一回転してみる。
プリーツの赤いスカートがふわりと広がった。
赤に白いラインの入ったおおきな襟。
胸元には大きなリボンと魔法陣のマークがついていて。
うん、見覚えがあるっていうか。
良く知ってる制服だよね。
なんだか。
まるで、ゲームのコスプレをしてるみたい。
私がまさか、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の制服を着る日が来るなんて。
……覚悟はしてたけど。
「どう? ご主人様。似合ってる?」
キナコが、私のマネをして、鏡の前で一回転する。
ふんわりと編み込んであるツインテールの髪が揺れて。
こうやってみると、キナコって美少女だよね。
「うん。似合ってるよ、キナコ」
「ホント? やったー!」
嬉しそうにぴょんぴょん飛び回る。
キナコさん?
せっかく、可愛らしくリボンを編み込んでもらってるのに、崩れたらどうするのさ!
慌ててキナコを止めようとしたら、後ろから声をかけられた。
「お、お姉ちゃん、どうかな?」
照れたような可愛らしい笑顔。
黒髪のボブスタイルにぱっちりとした大きな黒い瞳に。
赤いセーラ服がよく似合う。
ゲームのパッケージと同じ姿のヒロインがいた。
うわぁ。
うわぁ。
本物だよ。
ナナミちゃん、本当にゲームの中から出てきたみたいだよ!
「お姉ちゃんとお揃いで、嬉しいです」
顔を赤くして頬を押させている。
本当にカワイイ!
私が攻略対象なら、今この瞬間に落とされてるよ!
「あらあら。皆可愛いわね~」
お母様が扉を開けて部屋に入ってきた。
「クレナちゃん、シュトレ王子が迎えにきてるわよ」
**********
屋敷の門をくぐると。
さわやかな笑顔で手を振る、金髪に青い瞳のイケメンがいた。
シュトレ王子だ。
朝日で金色の髪がキラキラ光ってみえる。
なんだか。乙女ゲームの「スチル」を見てるみたい。
「やぁ、クレナ。高等部入学おめでとう。制服似合ってるよ」
シュトレ王子は、私の手をとると、甲にキスをした。
うわぁぁ。
朝からですか!
ちゃんと婚約者になってから、シュトレ王子がすごく積極的で。
嬉しいような……。ちょっと恥ずかしいような……。
「王子様ったら、ご主人様の制服姿が早く見たくて迎えにきたんでしょ?」
キナコが、後ろからニヤニヤした顔で王子に近づく。
もう、そんなわけないでしょ。
変な話ふったら、王子がこまるじゃない。
「まぁ、それもあるかな?」
シュトレ王子が、とろけそうな笑顔を私に向ける。
……え。
あるの!?
どうしよう、嬉しいかも。
制服のリボン曲がってないよね? おかしくないよね?
「それとね、いろいろとライバルが多いみたいだからさ……」
シュトレ王子が、視線を私の後ろに向ける。
なんだろう?
「あー、毛虫王子! ちょっと人のお姉ちゃんに近づかないでくれませんか!」
ナナミちゃんが、王子と私を引き離すと、腕に抱きついてきた。
ちょっと、ヒロイン様?
相変わらず、王子様と仲悪すぎませんか?
考えてみたら、私の立ち位置って完全に悪役令嬢だよね。
いつか……。
ゲームの設定みたいに。
王子がナナミちゃんに、心惹かれて。
やがて二人が結ばて……。
そんな未来を。ゲームの画面を思い出すと、心が痛くなる。
予言……なんだけど。
50%の確率って……考えてみたら、すごく怖い。
「クレナ、どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと考え事をしてただけ」
気づくと、心配そうに見つめる王子の顔があった。
いけない。
せっかく迎えにきてもらったのに。
大丈夫! 私は出来るだけ、笑顔を作る。
「お姉ちゃん大丈夫? 私が守るからね! キナコちゃん、一緒に毛虫からガードするの手伝ってぇ」
「ふぅ、相変わらず賑やかですねぇ。まぁいいですけど」
私の左右に、ナナミちゃんとキナコがぴったりとくっつく。
ちょっと。
歩きづらい。
歩きづらいんですけど!
「君たち、いっておくけど婚約者はオレだからね!?」
**********
魔法学校の校門前につくと。
ジェラちゃんとリリーちゃん、ガトーくんが待っていてくれた。
中等部の頃に何度も何度も通ったけど。
今日は特別な日だから。
私たちの……運命の始まりの日。
「べ、べつにアンタの事待ってたわけじゃないからね!?」
「思った通りだ、可愛いねクレナちゃん」
ジェラちゃんは横を向きながら頬を赤くしている。
新しい制服姿、カワイイ!
ガトーくんは手をあげてさわやかスマイル。
相変わらずタラシなセリフを口にする。
もう、本気にしたらどうするのさ!
「クレナちゃん!」
リリーちゃんが、両手を広げて抱きついてきた。
「思った通り、最高に可愛いですわ!」
彼女の金色の髪が、頬に触れて少しくすぐったい。
可愛らしい横顔と、赤い制服がすごく似合ってて。
リリーちゃんこそ。
まるで、天使みたい。
最高に可愛いんですけど!
私は、あらためて魔法学校の校門を見上げる。
それは、中等部の時とは全然違う印象で。
ねぇ。
これでやっと、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』のスタート地点に立ったよ。
これでも。小さい頃から、いろいろ悩みながら準備はしてきたんだからね。
絶対、この世界は守って見せるから!