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44.お嬢様と国王の手紙

 文化祭が終わってから数日して。

 国王様から私宛に手紙が届いた。


 それは、王国紋章の押し印で封がされた正式なもので。


 えーと。

 ……なにこれ?


 私何かやらかした!?


 お父様とお母様にうながされて、おそるおそる封を開けると。


 可愛らしい便箋と、押し花で作ったしおりが入っていた。

 

「うふふ、そのしおりはきっと、奥様からのものね」


 国王の奥様っていうと……。

 王妃のトルテ様だよね、

 

 確か。

 ゲームだとシルエットだけ出てきてたよね。

 シュトレ王子と、ジェラちゃんの母親で。


 ガトーくんは、お母様が違うって言ってたから。

 トルテ様とは血はつながってなかったはず。


 何故か……転生してから一回もお見かけしたことないんだけど。


「お父様とお母様はお会いしたことあるんですか?」


「まぁ、お会いしたというか……昔のパーティーメンバーなんだよ」

「懐かしいわね~」


 そうなの?!

 じゃあ冒険者なんだ。

 

 てっきり、貴族の箱入りお嬢様だと思ってた。

 式典でも一度もお見かけしなかったし。


 あー……。

 でも。

 

 実は、前からちょっとだけ思ってたんだけど。

 

「私、一度もお会いしたこともないんですけど。……もしかして、嫌われてたりしますか?」


 一応、シュトレ王子の婚約者だよね。

 今まで一度もお会いできないって。


 やっぱり……嫌われてる?

 それか、どうせ婚約は仮だから会う必要がないとか……。



 二人は顔を見合わせた後、クスクスと笑い出した。


「うふふ、心配しなくても平気よ。そういう人じゃないから」

「まぁ、あの方はなぁ……極度の人見知りなんだよ」


 そうなんだ。


 よかったぁ。

 嫌われたらどうしようかと……。



 ――あれ?

 

 ゲームでは普通に登場してたよね。

 シルエットだったけどシュトレ王子のイベントスチルにも映ってたし。


 そんな設定は無かったと思う。

 うーん、やっぱり……予言と色々違ってるみたい。



「押し花は彼女の趣味だったのよ。好きな人にしか贈ってなかったから」


 お母様は、同封されていたしおりを眺めて、懐かしそうな顔をする。

 

 押し花の模様をあらためて見てみると。

 小さな紫色の花とクローバーみたいな葉を沢山つかって、輪を描いてる。

 

 まわりにあるハートの形をしたピンク色のものも……花びらなのかな?


 なんだか、すごく可愛らしい。


「好きな人にか。確かに、オレはもらったことがないな」

「あら、私はもらったことあるわよ」


 お会いしたことはないけど。

 嫌われてないなら、嬉しいな。


 いつかお会いできたら、ちゃんとお礼をいわなくちゃ。


「で、こんな大げさな手紙を送ってきて。クリール……こほんっ。国王様はなんだって?」


 そうだった。

 私は便箋を広げてゆっくりと読み始めた。



*********


ハルセルト家ご令嬢

クレナ 様


 

 やあ、クレナちゃん。


 魔法学校での生活はどう?


 なにかあったら相談に乗るからね。

 今までのお礼に、国王権限でなんでも解決してあげるよ。

 もちろん、周囲には内緒でね。

 

 さて。


 うちの息子との約束の期限が近づいてるんだけど。

 クレナちゃんは今後どうしたいかなと思って手紙を書きました。


 一応あれでも、第一王子だからさ。

 そろそろ本気で花嫁決めないとまずいんだよね。


 王家側の都合でホントにごめんね。

 そこら辺の話を、しっかり王宮で話したいんだよね。

 一度来てもらってもいいかな?


 本当は、こちらが行くべきなんだけど。王宮を離れられないんだ。

 

 僕としては、本当の娘になってほしいんだけどさ。

 

 

 招待状と、あと、妻のトルテがどうしても贈りたいっていうのでしおりも同封したよ。


 それじゃあ。

 会えるのを楽しみにしています。


 あー、これ、リードには見せないでね。

 あいつすぐ怒るからさぁ。



 ――きみの国王 クリール・グランドールより

 

**********


 あー……。


 私、今。お父様の横で読んでますけど?

 

 色々手遅れですなんですけど?!



「あいつめ! 約束の期間を果たせば、クレナは自由のはずだろ!」

 

 お父様は顔を真っ赤にして、壁を叩きつける。

 うわぁ、手痛そう。

 今のすごい音だったよね。


「クレナ! 行かなくていいからな! もし強引に話をすすめるようなら全面戦争だ!」

「もう、貴方。少し落ち着いてください!」 


 お母様があきれた顔で、お父様を止めに入る。


「私もお父さんに賛成です! 金色毛虫も王家も倒してしまいましょう!」


 横でおとなしく座っていたナナミちゃんが急に立ち上がり、お父様に同調する。


「ようし! 打倒王家だ! 領軍をなめるなよ!」

「おーです!」

「二人ともやめなさい!」


「キナコちゃんも、味方ですよね!」


 ナナミちゃんが果物をほおばっていたキナコに声をかける。


「えー? ボクはどっちの味方でもないよー」

「私の分デザート、キナコちゃんにあげようとおもってたんですけど。残念です」

「ホント! じゃあ味方になるね!」


 ちょっと、キナコさん?!

 簡単に買収されすぎじゃないですか?



 ふと。

 そばに控えていた執事のクレイと目が合う。

 彼は私の表情を読み取ったようで、ゆっくりとうなずいた。


 よかった。

 お母様以外にもちゃんとした人がいたよ!

 

 そうだよね。


 普段は変な人だけど、クレイってすごく優秀だもんね。

 あんなに大きな元宗教組織を束ねてたんだし。

 こんな騒ぎくらい簡単に止めてくれるよね。


 クレイは、大騒ぎしている三人のもとを……素通りして。


 何故か私に近づくと、そっと耳打ちしてきた。


「竜姫様。お望みであれば、いつでも王家を滅ぼしてみせますよ」


 ……。


 …………。


 

 国王様。

 この家あぶないですよー。


 クーデター企んでますよー。


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