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43.お嬢様と夜空の花火

「まさか。映像クリスタルをあんなに小さなペンダントには出来ませんわ」

「そうかなぁ。でも、良いもの撮れたみたいなこと言ってたと思うんだけど……」

 

 撮影や再生ができる映像クリスタルって。

 大きさによって録画時間が違ってて。


 どんなに小さくても、私の指の長さくらいの大きさはあるんだよね。

 そのサイズだとあまり長い時間録画できないし。

 

 でも。

 うーん。


 やっぱり、聞き間違いだったのかなぁ。


「ねぇ、キナコはどう思った?」


 横でふくれてるキナコに声をかける。


「……ペンダントから魔力は感じたけど。影の言葉なんて、どうぜ全部ウソだから!」


 そっぽをむいたまま答える。

 キナコまだ怒ってるよ。


 一緒にお茶したことと、逃げられたことが許せないみたい。


 でも。

 なにか情報が入ったかもしれないじゃん!


  

「ほら、クレナちゃん。あんな魔人のことはほっておいて。もうすぐ始まりますわよ」


 すぐ横に、リリーちゃんのカワイイ笑顔があった。

 嬉しそうに頬を寄せてくる。


「ですから、距離が近すぎませんか?! リリアナ書記」

「女同士だからいいんですー」


  

 私たちは、学校の屋上に来ている。

 これから始まる、文化祭のメインイベントを見るためだ。


「これより、花火の打ち上げがはじまりますー」

「星空と花火のコントラスト、是非ご覧くださいませ」


 夕暮れの魔法学校の明かりが少しずつ消えていく。



 すぐ横で校内アナウンスしているのは。

 今年の生徒会広報法担当。


 一年生の双子の女の子。

 ユーリちゃんと。

 サーラちゃん。

 

 ……あと。


「大切な人と、最後に素敵なひと時を過ごすのじゃ!」


 何故かファニエ先輩。

 

 背の高さも同じくらいで。

 三人でいると、まるで三つ子みたい。



 普通だったら、ファニエ先輩が副会長だとおもうんだけどなぁ。


 生徒会の役職って。

 前会長が次の会長を指名して。

 指名された会長が、役職を決めるから……。


 ふと。

 グラウス会長と目が合う。


 ちらっと、司会をしている三人を見た後、いたずらっぽく笑う。 


 どうせ、私の考えてること気づいたんでしょ。

 ……もう。

 

 人の心を読んだりするかならなぁ、この人。


  

「……ねぇ、お姉ちゃん。聞いてる?」

 

 ボーっと考えてたら。

 隣にいたナナミちゃんが繋いでいた手をひっぱってきた。

 少し怒った顔も可愛いな。

 ゲーム画面で何度も妹とみてたんだけど。

 ヒロインってホントにすごい。

 

 攻略対象の四人も……きっと……。

 もしカワイイ妹が恋をしたら、お姉ちゃんは絶対応援するからね。


「ごめんね、なんだっけ?」

「こっちの世界でも花火があるんだね、楽しみーって」


「うん、そうだねー。楽しみ!」


「ちょっと! いくら妹だからって、くっつきすぎじゃありませんの?」


 逆側でぴたっと私にくっついてるリリーちゃんがナナミちゃんに問いかける。


 あの、リリーさん?


 今、頬を寄せた状態で話してますよね?

 距離的には絶対近いと思うんですけど?

 

「アナタこそ、お姉ちゃんにくっつきすぎです! 何の権利があって……」

「私は親友だからいいんですわ!」

「ちょっと、離れてくださいー!」

 

 ナナミちゃんが、リリーちゃんを引きはがそうとする。


 この二人。

 すごく似てるんだけど、会うたびに喧嘩してる気がする。


「せっかくだし、仲良く見よう。ね?」


 うーん。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』でライバル同士だったから。

 予言通りといえば、予言通りなのかなぁ。


 なんか、違う気もするんだけど……。



 次の瞬間。


 暗くなり始めた空に、パッと大きな光が広がった。


 まるでお花畑のような色とりどりの光が、空一面に広がっていく。


「すごい。きれいですわ……」

「お姉ちゃんお姉ちゃん、これすごいですね!」


 二人とも、喧嘩をやめて空を見上げている。



 この世界の花火は前世と少しだけ違っていて。

 魔力を込めた玉を作成して打ち上げる。


 だから。


 今打ち上げられているお花畑の間では、蝶や小鳥のような光がくるくる飛び回っている。


 幻想的な風景に、思わず呼吸を忘れそうになる。


 校庭の方からもたくさんの光が上がっているのが見える。

 花火は、裏にある丘から打ち上げ用の筒から上げてるんだけど。


 あらかじめ決められた花火以外でも。

 自分たちで魔法を空に放って自由に参加出来るんだって。

 

 すごい……。


 こんな素敵な花火。

 今まで、みたことないんですけど……。

 ファンタジーなこの世界にきてから何度も思ってたんだけど。

 あらためて。

 やっぱり、魔法ってすごいなぁ。


「それじゃあ、わたくしも参加しますわね」

 

 リリーちゃんはウィンクすると、呪文を唱え始めた。

 ほのかに輝きだした両手から花びらが出現して、キラキラと舞い上がっていく。

 うわぁ、すごく綺麗。


「私も負けませんよ!」


 ナナミちゃんも詠唱を始めると、両手いっぱいにハートが出現した。


 両手を広げて。そのまま空に飛ばしていく

 うわー。カワイイ。

 いつの間にこんな呪文を覚えたんだろう。

 

「ふーん。じゃあ僕も参加しようかな」

「司会も終わったことじゃし、妾達も参加するぞ」

「「はーい、先輩!」」  


 グラウス会長も。

 ファニエ先輩も。

 ユーリちゃんと、サーラちゃんも。 


 思い思いの魔法を空に打ち上げていく。



 よーし、私も!


 魔法の小鳥を呼び出すと、空に向かって飛ばしてみた。

 小鳥は金色にキラキラと帯を引きながら、花火の間を自由に飛び回っていく。


 夜空がまるで。

 みんなで描くスケッチブックみたい!



 中には魔法でメッセージを入れる器用な人もいて。

 告白……みたいな内容のものもあった。


 メッセージがあがると、大きなどよめきと歓声が沸き上がる。



 これ。

 ロマンチックだとは思うんだけど。

 目立ちすぎじゃないかなぁ。


 私なら……嬉しいけど、すごく困る!

   


 そういえば。

 結局、文化祭でシュトレ王子とは会えなかった。


 せっかくのお祭りなのにな。


 ……会いたかったな。


 ……一緒にこの景色を見たかったな。


 

 ……魔法を打ち上げて楽しみたかったな。


 

 少しぼーっとしてたら。


 うわぁぁと大きな歓声があがった。


 ……え、なに?

 

 ビックリして空をみあげたら。


『クレナ ずっといっしょにいよう やくそくのそのさきも ずっと』

 

 キラキラと大きな金色の文字が浮かび上がっている。



 え?


 ええ?


 えええええええ?!



 うわぁぁぁ。

 なにこれ。


 はずかしすぎる。

 はずかしいんだけど……だけど。


 どうしよう……。

 涙が流れ出して止まらない。

 なんだろう、これ……。


「これ王子だわ……やりますわね……」

「金色毛虫ね! お姉ちゃんを泣かすとかゆるせません!」


 二人が呪文を唱え始めた。


『はぁ? クレナちゃんはゆずりませんけど?』

『きんいろけむしは おとなしくねてろです!』


 涙であんまり見えないけど。


 なんだか夜空がすごいことになってるような……。


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