40.お姫様と星乙女の謎
<<いもうと目線>>
「それじゃあ、貴方は本当に、大きな光の柱をみたのね?」
「はい、アリア様。それは間違いありません」
ここは、アイゼンラット帝国王宮にある私の部屋。
ファルシア王国への攻略が失敗した私は、データをまとめていた。
「ねぇ、アリアちゃん。失敗した話なんて集めてどうするのよ」
「きまってるじゃない! 次に活かすのよ」
ファルシア王国はダンジョンが沢山あるから、魔法石がたくさんとれる。
それは、国が豊かになるし、沢山協力な武器や防具を兵士にまわすことができる。
だから。
……きっとこのままだと。
帝国はファルシア王国にかなわないと思う。
ゲームの知識を使って。
出来るだけ有利に進めないと。
「ねぇ、サキ。この話どう思う?」
私は、窓際のソファーに座っている魔人のサキに問いかけた。
「どうって?」
「だっておかしいよね。もう星乙女のお姉ちゃんがいるのに、召喚の光がでるなんて」
「まぁ、言われてみればそうよねぇ」
アランデール公爵家から渡された王家の秘宝『召喚の記録書』からは。
完全に魔力がなくなっていた。
召喚の書は、膨大な魔力をアイテム内に蓄えるのに時間がかかる。
確かゲームの裏設定だと、数百年くらい?
お姉ちゃんが召喚されたんだから、魔力がなくなってるのはわかるんだけど。
だったら。
アランデール公爵家で密偵がみた光の柱って何?
「ねぇ、サキ。お姉ちゃんってどんな姿だったの?」
「そうねぇ。桃色のふわっとした長い髪で、目がぱっちりしてて凄く可愛かったわよ」
嬉しそうに、頬をおさえて顔を赤くする。
うん。
お姉ちゃんを帝国に招待したら、サキはクビにしよう。
「ねぇ、……それって、ゲームの主人公と似てないわよね?」
「そういわれれば似てなかったわね。でも、現実なんてそんなもんじゃない?」
確かに。
この世界は、乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』と似ているようで。
違うところも沢山ある。
でも、ヒロインまで違ったりするかなぁ?
「ねぇ、貴方はどう思う?」
待機していた密偵の女の子に問いかける。
実はこの子も……転生者だ。
「ファルシア王国で星乙女は有名です。ウワサされている見た目はサキ様のおっしゃるとおりなのですが」
「ですが?」
「でも! 私がみたあの光は間違いなく! ゲームの召喚画面と一緒でした!」
ウソはついてないように見える。
そうすると。
ファルシア王国には、星乙女が二人いるの?
「何か別の魔法じゃないの? 光の柱ってだけなんでしょう?」
「サキ様。お言葉を返すようですけど、私、あのゲーム全パターンクリア済みですからね!」
「あら。そんなの、私も同じよ! 裏ルートのクレナ攻略まで済ませてるわ」
「「え、クレナって攻略できたの?」」
密偵の子と私の声が被る。
「ええ、出来たわよ。二人ともまだまだ甘いわね」
……知らなかった。
サキって、女の子が好きなくせに、なんで乙女ゲームをそんなにやりこんでるんだろう。
「どのルートの星乙女ちゃんも、可愛いいのよね~」
うっとりとした表情を浮かべている。
……ああ、納得だわ。
って!
今はそれどころじゃないわ。
「ねぇ、サキ。やっぱり、お姉ちゃんをさらってこれない?」
「だから無理だってば。あの子強すぎるのよ」
「じゃあ、せめて。お姉ちゃんと、もしいるならもう一人の星乙女の画像を撮ってきて」
私は、机から映像クリスタルを取り出した。
「お願い!」
人差し指を唇に押し当て、上目遣いでおねだりポーズをしてみる。
「……もう! 仕方ないわね!」
サキは、私の頬にキスすると、クリスタルを受け取る。
「はぁ。私って、本当にアリアに弱いわよね」
サキは、壁にむかってゲートの魔法を開きはじめた。
待ってて、お姉ちゃん。
いつか絶対に。星乙女になったお姉ちゃんを救い出してあげるから!
**********
<<ある魔人の目線>>
気が付くと。
薄暗い洞窟の中だった。
ここはどこ?
なんでこんなところにいるの?
とにかく……ここから出ないと。
――どれくらい洞窟をさまよったんだろう。
もう、出口なんてないんじゃないかと思いはじめた頃。
眩しい光が見えてきた。
「よっし、外だ!」
目の前に広がっていたのは。
透き通るような青空と、陽の光をはね返してキラキラ輝く湖。
まるで。風景画のような景色に思わず息をのむ。
「なにこれ、すごくキレイなんですけど!」
ふと。
自分の手足が灰色なことに気付く。
ずっと洞窟にいたからで汚れたのかな。
もう、いやだなぁ。
よぉし! とりあえず。
湖で汚れを落としますか!
勢いよく、湖に飛び込む。
ふぅ、快適だわ。
しばらく鏡面のような水面をぷかぷか浮かんでいると。
空から、何かが近づいてくる。
なにあれ?
コウモリ?
……違う。
コウモリのような羽の生えた何かだ。
慌てて、湖畔にあがろうとした私に、そいつは声をかけてきた。
「あら? こんなところに魔人がいるなんて」
紫色の長い髪に、赤い目。すごい美人なんだけど。
なんで頭に羊みたいな角がついているの?
おまけに、肌が灰色だし。
「なによ。ハロウィンのコスプレか何か?」
思わず口にしたけど。
ホントはコスプレなんて……思ってない。
だって、今まさに空を飛んできたんだから。
悪魔……だったりするわけ?
いつの間にか私死んだとか?
「ふーん、その様子だと、転生に気づいてから日がないわね」
「転生? あんた何言ってるの?」
「そうねぇ、ちょうどいいわ。自分の姿を確認してみたら?」
見てどうするのよ。
水面で自分の姿を確認すると。
真っ赤な短い髪に、二本の大きな角。
……知らない姿が映っていた。
「な、なによこれ!」
「何も覚えてないの? それは転生したあなたよ」
待って。
確か。
部屋でゲームをしていたら、突然画面が眩しく光って。
気が付いたら。
真っ白な空間にいて。
金色に光る女の人が、私の大好きな乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の世界に転生させてくれるって……。
「……思い出した? あなたは大好きな乙女ゲームの世界に転生したのよ」
転生した?
だって、この姿は……。
「嘘よ! これって、これって……」
「そうね、貴女は無事転生したのよ、ファルシアの星乙女に。『魔人』としてね」
――魔人は。
主人公と敵対している帝国が、兵器として使用してくるユニットで。
「どういうことよ! 魔人って。乙女ゲームに転生するって、ふつう違うでしょ!」
ありえない!
ありえない!
ありえない!
憧れの乙女ゲームに転生して。
それが魔人!
主人公の友達ですらなくて!?
「ねぇ、ちょっと。これ、ありえないんですけど!」
「そうね、でもこれが現実だわ」
おもわず。
湖に膝をつく。
私はただ……。
シュトレ王子や。
ガトー王子。
ティル様、グラウス様と。
出来れば……恋愛したかったけど。
でもせめて、せめて。
会えるだけでよかったのに!
動けないでいる私に、紫色の魔人が手を差し伸べてきた。
「ねぇ。恋愛も国の勝利も、主人公側が手に入れるなんて決まってないわよ」
「向こうに……ファルシア王国に転生した人も……いるの?」
「ええ、いるわよ。悔しいでしょ?」
そんな……
悔しい!
私がこんな姿なのに。
向こうに転生した人は、ゲームのような素敵な時間をすごしてるなんて!
「うふふ、良い顔だわ」
綺麗な顔が近づく。
思わず目を閉じると。
柔らかい感触が唇にふれた。
「私の名前は、サキ。ねぇ。教えてあげましょうよ、主人公側に転生した人たちに」
紫色の長い髪が、陽の光を浴びてキラキラ輝く。
この人。
同性の私が、ドキドキするくらい美人……。
「帝国こそが、本当の主役側なんだって」