37.お嬢様と妹のお願い
色々あった舞踏会から数日後。
私は、部屋のベッドでごろごろしながら、『ファルシアの星乙女』メモを眺めていた。
うーん。
かみたちゃんは。
ゲームの内容は予言で、当たる確率は50%って言ってたけど。
もう完全にゲームとちがう展開だよね。
告白の木も。
クーデターも。
星乙女の召喚も。
ゲームで出てきたイベントだったけど。
内容も時期も全然違うし。
全部、高等部でおきるはずなのに!
なんでゲーム開始前の中等部でおきてるのさ!
それに……シュトレ王子のことも……。
……宮中庭園でのことが頭に浮かぶ。
あ、あれは。
その場の雰囲気っていうか。
会話の流れっていうか。
……好きだけど。
ふぅ。
よし!
とりあえず。
今は、考えても仕方ないよね。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
気づくと、すぐ近くにナナミちゃんの心配そうな顔があった。
「……え? うん、大丈夫だよ」
「お姉ちゃん、私にできることがあったら何でもいってくださいね」
ホントにカワイイなぁ。
前世ではゲーム画面で何度もみてたけど、さすがヒロインだよね。
はぁ、これは、攻略対象が恋に落ちるのも納得だわ。
そうだ、聞いてみたいことがあったんだった。
「ナナミちゃん。シュトレ王子のことどう思った?」
「んー」
ドキドキする。
王子かっこいいもんね。
もしゲームみたいに、ナナミちゃんも好きになったら……。
「そうですねぇ、ゲームとかに出てきそうな王子様タイプって思いました」
うん、確かに。ゲームに出てきてたけど。
ナナミちゃんも、ゲームのヒロインタイプなんだけどな。
「それで?」
「え? それだけですよ。あーあと」
「うん、あと?」
少し考える風に。
唇に指をあてる。
「何、ひとのお姉ちゃんエスコートしてやがるんだこのやろうって思いました」
可愛らしく首を傾けて、ニコッと笑う。
え? あれ?
セリフと表情が一致していないんですけど。
「私、お姉ちゃんに、あの金色の害虫は似合わないと思います!」
あれ? なんだろう。
私、こんなことが前世であった気がする。
「お姉ちゃんには私がいますよ!」
ぎゅっと腕に抱きついてきた。
考えてみたら。
ゲームでは星乙女ちゃんにお姉ちゃんなんて出てこなかったけど。
どこの世界でも、妹ってこんな感じなのかなぁ。
「はぁ、ホントにご主人様は……」
キナコさん?
なんですか、その表情?
言いたいことがあれば言えばいいじゃん!
**********
「あら? あるわよ。魔力のない子が魔法を使えるようになる方法だったら」
夕食の後、なんとなく魔法の話になったんだけど。
お母様がビックリするような発言をした。
「ホントに? 魔力がまったくなくても」
「ええ、なくても平気よ」
えええええ?!
かみたちゃんでも無理って言ってたのに。
さすがお母様。
世界中を旅していた冒険者だよね!
「ねぇ、お母様! それってどうすればいいの!」
「うーん、そうねぇ。まぁ、クレナちゃんいるし大丈夫かしら」
お母様は、私をちらっとみたあと、ナナミちゃんに微笑みかける。
私となにか関係あるの?
「ナナミちゃん、魔法つかってみたい?」
「はい! 少しでもお姉ちゃんの力になりたいです!」
ナナミちゃんは、興奮気味に即答する。
うん、わかる!
使えるなら使ってみたいよね、魔法。
私もそうだったもん。
「それじゃあ。早速出かけましょうか。アナタ、いいわよね?」
「……今からかい?」
「ええ、大事な娘のお願いですから!」
お母様は興奮して立ち上がる。
「お母さん、ありがとう!」
ナナミちゃんも立ち上がって、お母様に抱きついた。
お母様は、私にもナナミちゃんにも、キナコにも。
同じように接している。
すごいな。
ずっと昔から親子だったみたい。
ちょっとくすぐったい感覚がする。
お母様がいて。
お父様がいて。
キナコとナナミちゃんがいて。
なんだか、家族ってあたたかくて。
だから私は。
この幸せを守るために、やれることをやるしかないよね!
**********
お母様の説明だと。
ファルシア王国の一番西にあるダンジョンの奥に。
『魔力の実』がなる木があるんだって。
「そんな木があるなら、魔法使えない人っていなくなるよね?」
「んー。そんなに単純なものでもないのよ」
「攻略がすごく難しいとか?」
「そうねぇ、それもあるんだけど。ほら、ついたわよ」
私たちを乗せた飛空船は、ダンジョン上空に到着した。
ダンジョンに行くのは、お父様とお母様だけで。
やっぱり……危険なダンジョンなんだ。
本当は一緒にいきたいけど、足手まといになっちゃうから。
「うふふ、それじゃあ、行ってくるわね」
お母様は新しい
やっぱり。
お母様には真っ赤な鎧がよく似合う。
「何かあったら、すぐに逃げるように。クレナ、キナコ任せたよ」
お父様はさわやかな笑顔を浮かべると、決めポーズみたいにヘルメットのバイザーをおろした。
胸のあたりがキラキラと輝いて、背中に魔法の羽が生まれる。
「うわぁ、お父さん、カッコいい!」
ナナミちゃんが、目をキラキラさせてお父様を見ている。
私も最初に見た時そう思ったけど。
それ、娘の前でカッコつけたいだけだからね!
隣では、お母様がクスクス笑っている。
「もう! いいから早くいってきてよ!」
お父様の背中を押す。
ホント、恥ずかしいんだから!
「よ、よし。じゃあ、いってくる」
「待っててね~」
二人は、飛空船を飛び降りると、ダンジョンの入り口に入っていった。
「二人とも、すごくカッコよかったぁ」
ナナミちゃんは、初めて
うん。
かっこいいもんね、これ。
私もそうだったし。
「おねえちゃんとキナコちゃんは、すごく可愛いです! いいなぁ、私も魔法使えれば」
私とキナコも、なにかあったときの為に
……いつものフリフリワンピ鎧だけど。
元は、お母様の鎧なんだし。
カッコいいはずなのに……。
キナコは何故か得意げにポーズを決めている。
あれ?
私たちの鎧って見覚えあるなぁって、ちょっとだけ思ってたんだけど。
思い出した!
ゲームの星乙女ちゃんが着てたフリフリ鎧に似てるんだ。
乙女ちゃんの黒髪に似合う、真っ白なヒロインですって感じの鎧なんだけど。
色が全然違うし、全然気づかなかったよ。
もし、ナナミちゃんが魔法が使えるようになったら。
……。
お母様なら絶対にやるよね。
これって。
またゲームの内容に近づいてるのかなあ。