26.お嬢様とセントワーグ公爵家
あれから。
私と、イザベラ、キナコは、いろんな話をした。
クーデターの話じゃなくて。
好きな食べ物の話とか。
実は共通の趣味だったお菓子作りの話とか。
恋バナも少しだけ。
キナコのティル先輩との話とか。
グラウス先輩の話とか。
学校でも有名になってたんだって。
「はぁ、わたくしも、セントワーグ公爵家側の貴族だったらよかったんですけど」
「えー、なんで?」
「セントワーグ公爵家側は、意外と恋愛も結婚も自由ですのよ」
「イザベラのところは違うの?」
「家柄が重視されますわね。というか、貴女達が自由すぎです!」
「でも、イザちゃんも好きな人いるんでしょー?」
キナコは、いつのまにかイザちゃんって呼びはじめてるし。
「うらやましいとは思うんですけど、今まで考えたこともありませんでしたわ」
「あれー? シュトレ王子は?」
キナコがにやにやしながら、イザベラに抱きつく。
この子、距離感おかしいから。
でもイザベラは嫌じゃないみたい。
「あれはお父様に言われてましたので。普通に考えれば、クレナとお似合いだとおもいますわ」
「ええええええ!?」
お似合い?
私とシュトレ王子が?!
「うふふ、動揺してますのね。カワイイ~」
なんだか、もうイザベラさん別人なんですけど。
これ、誰よ。
前は、おほほほって感じだったのに。
すっかり仲良くなった私たちは。
……そのまま朝まで女子会してました。
……。
本当はすごく不安だったから。
きっと、女子会がなくても眠れなかったと思う。
王都はすでに包囲されてるっていってたし……。
通信クリスタルもあれから全然つながらない。
ジェラちゃん。
ガトーくん。
……シュトレ王子。
どうかどうか。
無事でいてください。
**********
朝、空を見ると。
また大きな飛空船が上空にあった。
白い長い旗の下に、紋章が掲げられてる。
あれは。
セントワーグ公爵家の紋章だ。
「クレナ、起きているかい?」
部屋の扉の外から、ノック音とお父様の声がした。
「はい、起きてますけど」
「今、セーラを呼びにいってるから。準備ができたら朝食の前に応接間に来なさい」
「お父様、セントワーグ家から使者がきたんですね」
「そうだ」
「……お父様は、どちらのお味方をするつもりなんですか?」
普通に考えたら、王家と、セントワーグ公爵家側につくはずなんだけど。
上空に浮かんでいる軍艦も、お父様も動きをみせてないし。
「うーん、クレナにもいずれわかるよ」
「それでは……。私はどんな顔で使者様とお会いすればいいのですか?」
いずれじゃ困るんですけど。
本心をいえば。
今すぐにでも、王都に助けに行きたいのに!
それとも。
また昨日みたいにキナコ通訳になるのかなぁ。
「ああ、それは心配いらないと思うよ」
え? 何でだろう?
「それより、セーラたちが三人とも可愛らしくすると張り切っていたぞ。まぁ、頑張れ!」
三人って。
私と、キナコと。
え? もしかして、イザベラも?
「さぁ、お嬢様方、今日も世界一可愛くなりましょう!」
突然扉が開いて、セーラとメイド隊が入ってきた。
「だから、ほどほどで平気だってばー!」
**********
私たちが、客間につくと。
すでに、お父様もお母様も着席していた。
反対側の席には。
セントワーグ公爵家の護衛が二名立っていて。
座っているのは、一人だけ。
金色の髪に可愛らしい大きなリボンを付けた女の子。
……リリーちゃんだ。
彼女は、私に微笑んだあと。
イザベラをみつけて、厳しい表情でにらんだ。
……それはそうだよね。
なんで、イザベラも同席させるのかなぁ。
イザベラも、リリーちゃんをみて、表情が怯えてる。
私たちは、お父様にうながされて、席につく。
私は、イザベラの手をぎゅっとにぎった。
大丈夫だから。
リリーちゃん優しい子だから。
「今日は、セントワーグ家の使者としてまいりました」
リリーちゃんにいつものふんわりした天使みたいな表情はなくて。
凛とした空気をまとっている。
そっか。使者だもんね。
家を代表してきたんだもんね。
同じ年の女の子が、こんな大役を背負うなんて。
なんだか、かなり……。切ない。
「本来でしたら、父がお伺いするとろですが、代理のわたしがお伺いしておりますこと、お許しくださいませ」
「陣頭指揮をとられていると、聞いてます。お気になさらずに」
お父様が優しい声で返答する。
「アランデール公爵令嬢がいらっしゃいますけども、すでに、接触があったということでしょうか?」
「そうですな、昨日、公爵と一緒にみえられました」
「……お返事はされたのですか?」
「いえ、本日改めて、使者が訪問される予定ですので、その際に」
「そうですか」
そのために、イザベラを同席させたのかな。
口で伝えるんだけじゃなくて。
もう使者が来てるんだよって。
お父様。
でもそれは、どちらにとっても残酷な気がするんですけど。
こういうのが、政治的な駆け引きとかなのかな……。
……いやだな。
心がチクチクする。
お父様が、リリーちゃんに問いかける。
「今の状況をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
「正直に申し上げると、かなり厳しい状況です」
「といいますと」
「アランデール公爵は、事前にかなり根回しをしていたようでして、アランデール側の全貴族が一斉に武装蜂起しました」
アランデール公爵家の全貴族っていうと。
国の半分がクーデターを起こしたってことになるよね。
ゲームのクーデターなんかより。
ずっと大規模……。
「国境付近では帝国による軍事演習が行われています。表向きは演習ですけど……」
「裏で、帝国とつながってる……と」
「おそらく、ですけど」
かみたちゃんと魔人さんが言ってた「王国が大変なことに」って。
多分、このことだ。
だとしたら。
裏で帝国が動いてるんだと思う。
これ、もうどう考えても。
王家に勝ち目が無い気がする……。
胸が苦しいよ。
シュトレ王子……。
今すぐにでも、助けに行きたいのに。
お父様は……どうするんだろう……。
いざとなったら。
私一人でも……。
「なるほど。つまり……想定通りということですな」
「え。もうばらしちゃうんですか? ええ、想定通りですわね」
え?
私とイザベラが固まる。
お父様とリリーちゃんは、さっきまでの丁寧な口調がなくなって。
すっかり普通に戻っている。
「お父様は、なんとおっしゃられてました?」
「クレナちゃんだけ来てくれたら嬉しいって言ってました」
「あはは、そうはいかないけど、なるほど」
「……お父様?」
「ああ、実はね。このクーデター、最初からきづいてたんだよ」
「せっかくなので、利用させていただたのですわ」
横にいたキナコをみると、やっぱりっていう顔してるし。
驚いてるの、私とイザベラだけなんですけど!