21.お嬢様と小さな誤解
「いいですよ、謝らないでください。わかってましたから」
翌日。
私は、グラウス先輩に返事をした。
昨日あれからずっと真剣になやんで、考えたことだから。
先輩はやさしくて素敵だけど。
その優しさを受けるのは私じゃないから。
「今、振り向いてくれなくてもいいです。僕の想いはかわりませんから」
「本当にごめんなさい」
「これは僕の想いだから。クレナちゃんも気にしないで。これまで通りで、よろしくね」
絶対、傷ついてるはずなのに。
悲しいはずなのに。
それでも優しく微笑みかけてくる。
先輩は……ホントに素敵に人だ。
覚えておかなくちゃ。
私は、こんなに素敵な人を振ったんだ。
だからこそ。
私は、私がやるべきことを。
……星乙女ちゃんが転移してきたら全力でサポートしよう。
大好きなこの世界の為に。
**********
放課後。
生徒会の活動が終わったあと、急にシュトレ王子に声をかけられた。
「クレナ、この後なにか用事はある?」
「うーん、特にないですけど」
「そうか……」
どうしたんだろ?
何か悩んでるみたいだけど。
「悩み事ですか?」
「悩み事といえば、そうなるのかな」
生徒会長やってて。
第一王子として公務があったりして。
色々大変そうだもんね。
「もし私でよければ相談にのりましょうか?」
話すだけでも、楽になるっていうし。
い、一応、婚約者だしね!
「そうだな~。じゃあ、お言葉に甘えることにするよ」
あ。
柔らかい表情に変わった。
すごくカッコいいな……。ホントに。
「ちかくにさ、美味しいパンケーキを出すカフェが出来たの知ってる?」
「あー、校内で話題になってましたね」
この世界にも普通にカフェがある。
パンケーキも、ホットサンドも、コーヒーも、カフェオレもあるし。
レストランだって存在してる。
カフェは、休みの日にジェラちゃんやリリーちゃんと行ったりしてる。
前世ではあまり行ったことなかったからすごく楽しくて。
でも、なんでカフェの話なんだろう?
「よかったら、一緒に行ってみない?」
「……誰とですか?」
「だから、オレとクレナで。ダメかな?」
え?
ええ?
えええええええ?!
それって。デートっぽくないですか?
「ダメじゃないですけど……」
「そうか。じゃあ、早速なんだけど行ってみようか」
なんだか、王子すごく嬉しそう。
よっぽど相談になってほしいのかな?
うん。
これはデートじゃなくて。
お悩み相談だから。
だから、きっと大丈夫。
違うからね、私。
**********
「うわぁ、すごくオシャレ」
「そうだねー」
白と赤を基調にしていて、赤いお店の屋根と看板がすごく可愛らしい。
店内も、オシャレでかわいい空間になっていて、前世だったら絶対インスタ映えしそう。
「こちらへどうぞ」
私たちが通されたのは、カフェの奥にある個室。
ふーん。
カフェに個室なんてあるんだ。
って。
なんで自然に個室に通されてるわけ?!
「ゴメン、あらかじめ予約しておいたんだよ。嫌だった?」
シュトレ王子が心配そうに声をかけてきた。
そっか。
王子様だもんね。簡単にカフェにいけるわけないよね。
よく見ると。
店内のお客さん、すごくがっちりした男の人が多い。
あれ多分。護衛の人達だよね。
「ううん、噂通り素敵なお店だよね、ありがとう」
私、表情に出やすいのかなぁ。
気を付けないと。
個室の中も、可愛らしいオシャレな感じで。
ここやっぱり素敵だな。
今度、リリーちゃん、ジェラちゃんとも来ようかな。
こんな素敵なところで、シュトレ王子とデートなんて。
ううん。
いけない。
デートじゃなくて、相談だよね。
「……クレナ?」
「ごめんなさい、シュトレ様。悩みがあるんでしたよね?」
「うん……そうだね」
シュトレ王子は、テーブルを挟んで目の前に座っている。
なんだか。
落ち着きがないみたい。
「……話しづらいことですか?」
「まぁ、そうだね……」
王家の事とかかな?
私が聞いても大丈夫なのかな?
でも。
相談にのるって言ったんだし。
「大丈夫ですよ。ゆっくりでもちょっとずつでもいいので。聞かせてくださいね」
にっこりスマイル。
こういう時は安心してもらうのが一番だよね。
「そうか……」
シュトレ王子が、思い切ったように顔をあげて、まっすぐ見つめてくる。
大丈夫。
聞くことは出来るから。
「……クレナ、グラウスから告白されたんだって?」
……。
…………。
え?
一瞬、思考がフリーズした。
「な、な、な、何で知ってるんですか!?」
「なんでって。……あいつが直接、言いに来たんだよ」
「……あいつって、グラウス先輩ですか?」
「……そうなんだ」
えー。
「婚約者のオレに、宣戦布告らしいんだよ。筋を通したいって」
「……そうですか」
仮でも、婚約者のシュトレ王子に話しに行くって。
なんだか。
すごくグラウス先輩らしい気がする。
……困るけど。
「……で?」
「でって?」
「どうなったのか、聞いてもいい?」
なんで、シュトレ王子が気にするんだろう。
……ああ、そっか。
まだ約束の十五歳になってないし。
王家的には困るよね。
「どうって。断りましたけど……」
「本当に?」
「ハイ」
「そうか……」
うわぁ。
シュトレ王子の表情が一気に柔らかくなった。
まるで、乙女ゲームのイベントスチルみたいな表情なんですけど。
画面の周りに、花が咲いてるみたいな。
ずるいよ。
こんなの。
勘違いしそうだよ。
「私が好きなのは……」
「え……クレナ好きな人がいるの?」
あぶない。
思わず言ってしまうところだった。
「シュトレ王子にも、運命の人が現れると思うよ。たとえば伝説の星乙女ちゃんとか」
「クレナ、昔からそれ言ってるよね……」
だって。
そうじゃないと……困るから。
世界が……救えないから。
「あらためていっとくよ、クレナ」
透き通るような青い瞳で、まっすぐ私を見つめる。
「オレの婚約者は君だ。それ以外はないからね!」
え?
うん。
それは知ってるけど。
なんで今、宣言するんだろ?
子供の頃の……十五歳までの仮の話……だよね?
あとは。
――星乙女ちゃん、お願いね。