12.王子様とお誕生日会 後編
<<シュトレ王子視点のお話>>
クレナへの挨拶には、長い列ができていた。
子息令嬢は、みんなプレゼントを持っている。
リリアナもだ。
オレは、挨拶するつもりがなかったので、何も持ってきていなかった。
でも、オレは。
……あの子の、人を惹きつける笑顔をもう一度、それも間近で見てみたい。
…………。
そうだ! 女の子は花が好きだと聞いたことがある。
飛空船から屋敷を見た時に、色とりどりの花が咲く庭園が見えたのを思い出した。
オレはステージの裏側に回って、そばに控えていた召使いに声をかける。
しばらくして、ハルセルト伯爵がこちらに顔を出した。
「シュトレ王子、なにかございましたか? もしクレナとの挨拶をご希望でしたら、本日は並んでいただかないと」
「わかっている。伯爵、お前の庭園には花壇がたくさんあるな」
「ええ、ございますね」
「そこの花を少し貰ってもいいか?」
オレの話を聞いて、不思議そうな顔をするハルセルト伯爵。まぁ、そうだよな。
「ウチのお花がお気に召しましたか、では持ってこさせましょう」
伯爵が近くにいたメイドに目配せをする。
彼女は、うなずくと、庭園に向かおうとした。
「いや、自分で選びたいんだ!」
「そうですか。でしたら、ちょうど模様替え予定の庭園があります。王子様の手に持てる範囲でございましたらご自由になさってください」
伯爵は少し考える仕草をした後、先ほどのメイドに声をかけた。
「セーラ、案内してさしあげなさい」
「かしこまりました。それでは、シュトレ様、ご案内いたします」
セーラと呼ばれたメイドは、近くの別のメイドになにかを話した後、庭園の入り口まで案内してくれた。
オレと、それまで離れて護衛していた側近達も、彼女の後に続く。
「ここで待機してますので、なにかございましたらお声かけくださいませ」
「ありがとう、お前たちもここで待機していろ」
オレは、護衛達に声をかける。
「あとこちらをどうぞ」
彼女は、別のメイドから受け取った荷物をオレに差し出す。
花ばさみとかわいらしいラッピングペーパー、リボン、麻紐、タオルが入っていた。
「ハサミは危険なので、お気をつけくださいね」
「ありがとう、セーラ……さん」
彼女は少しビックリした顔をしたあと、ニッコリ笑った。
「いいえ。素敵な花束をお作りくださいませ」
**********
「……わからん」
庭園についたオレは、花の前で悩んでいた。
種類が多く、どの花を摘んでいいかわからなかったのだ。
どの花を渡せば、あの子は……クレナは喜ぶだろう。
庭園の裏口から抜け出したオレは、挨拶が終わってぼーっとしていたリリアナをひっぱり、あらためて庭園に向かう。
「な、なぁ。この花壇から、女の子が喜びそうな花を、選んでくれないか」
リリアナにお願いをして、頭を下げる。
王族は頭を下げてはいけないと、教師や側近達は言う。
だが、親父は大切なお願いをするときには、ちゃんと頭を下げていた。
オレも初めて、そうしたいと自然に思った。
リリアナは少し驚いた表情をしたが、うなずいてくれた。
「わかりましたわ」
「ありがとう!」
リリアナにお礼を言う。彼女はまたビックリしていた。
しばらく一緒に花を選び、なんとか花束は完成。
最後に二人でラッピングをし、かわいらしい花束になった。
オレだけだったら完成しなかっただろう。リリアナに改めてお礼を言う。
よし! あとは、クレナにこの花束を渡すだけだ。
彼女の笑顔を思い出す。喜んでくれるだろうか。
「ふわぁぁ」
突然。かわいらしい声が庭園に響き渡った。
聞き覚えがある声だった。慌てて声のする方に向かう。
花壇の角を曲がって、目に飛び込んできた景色は。
庭園の緑や赤、ピンクのコントラストに溶け込むような、妖精の姿だった。
おとぎ話のような景色に息をのむ。
……ステージにいた女の子、クレナがそこにいた。
「お、お、お前今日の主役だろ、こんなところで何をしてるんだ!」
「休憩中、かな?」
「いや、なんで花壇にいるんだよ」
「疲れた、から?」
少し首をかしげて答える。
何だこの感情。
ドキドキした気持ちがとまらない。
そうだ。
オレは、手に持っていた花束を渡した。
クレナは、少し戸惑ったような表情をしていたが、笑顔で受け取ってくれた。
その後のことはあまり覚えていない。
彼女の近くにいると、なんだかぽかぽかした気分になって、まるでひなたぼっこをしているような気持ちだった。
ふと気づいた。
クレナは常にニコニコしている。
ニコニコしているが、オレに向ける笑顔は、リリアナにむける笑顔と違う気がする。
気づいてからは、なんとか、彼女の気を引こうと必死だった。
クレナの笑顔を自分にむけたくて。リリアナに向けている笑顔をオレにむけたくて。
忘れていた。こんなワクワクする気持ち。
この感情は……なんだろう。
オレが、忘れていたもの。ずっとずっと欲しかったもの。
「決めた!」
まっすぐ、クレナを見つめる。
「決めたぞ! オレは、リリアナとの婚約を破棄してお前と婚約する!」
すっきりとした気分だ。
後悔はない。
決められた運命じゃない。初めて自分で決めたんだ。
この思いはゆるがない
断られても、ふられたとしても、自分で決めたことだから。
***********
クレナのお誕生日パーティー後、オレは彼女に会いに行けない日々が続いた。
王家の飛空船は大きくて魔法の力を大量に消費するから、簡単には飛ばせない。
クレナに直接返事を聞いていないのは不安だった。
会場は大騒ぎになってしまい、すぐに城に帰ることになったから。
親父にも、宰相にも、側近連中にも色々いわれたが、想いは変わらなかった。
オレの気持ちをありのまま伝えると、親父は上機嫌で笑っていた。
婚約については、仮という形になった。
その後、リリアナと会う機会があった。
あんなことをしてしまったのだ。何をしても許されはしないだろう。
オレは謝罪をし、大きく頭をさげた。
すると、彼女は小さく笑って、むしろお礼を言われてしまった。
「頑張ってくださいませ。でもクレナ様のことは、わたくしも負けませんから」
負けない? なんのことだろう。
リリアナはまっすぐな瞳で俺を見つめ、微笑んだ。
籠の中から飛び立った、とてもキレイな金色の小鳥。そんな印象がした。
お誕生日パーティーにはもちろん招待した。
他のだれも呼ばずに、二人きりで自分の気持ちをちゃんと伝えるつもりだった。
久しぶりに会えるかとおもったら、風邪をひいてしまったらしい。
……お誕生日パーティーは中止にしてもらった。
既に準備は終わっていたので、急遽、親父たちの新ダンジョン発見パーティーにしたらしい。
オレは、どうすればあの子の笑顔が見れるか。
気づくとそんなことばかり考えていた。
そうだ!
星降りの夜の祭りに招待しよう。
彼女は、星降りの夜に、流れ星を見に一人で抜け出したと聞いたことがある。
きっと喜ぶ。
オレは、二人で眺める星降りの夜と、彼女の幸せそうな笑顔を想像した。
伝えたい。
オレは、彼女の隣で一緒に笑っていたい。
そして、親父のように。
ワクワクする笑顔を、国中に一緒に作っていきたいんだと。