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最初の1撃

オーセンに戻ってくると、何故か街の入り口でフロイドが待ち構えていた。フロイドは俺を見つけると優雅に一礼する。


「無事のお戻りのようで心より安心致しました。宿へと戻ると姿が消え、どこかに飛んでいったとお聞きして私、心から心配しましたよ。ここ3時間ばかり心配で食事が喉を通らなかった程でございます」

「……晩御飯はいつ?何を食べたんだ?」

「3時間程前に種類豊富なキノコや山菜に少し高価なお肉を鍋という器を使用したすき焼きという料理を大変美味しく頂きました。そうそう、温泉タマゴなるものも頂きましたね」

「……がっつり食べたから喉を通らなかったんじゃないのか?」

「ふむ……まぁ、そういう受け取り方も出来ますかね?」

「そういう受け取り方しか出来ないよな?」


やっぱりダメだこいつ。俺はため息を1つ吐くとグレイブさんの奥さんに案内された宿へと向かった。




宿へ着くと既に話が通っているのか最初の時と同じ部屋へと案内された。部屋の中には同じようにグレイブさんと奥さんのセレナさんが居り、優雅に紅茶を飲んでいた。グレイブさんは俺に気付くと片手を上げて応対する。


「おぅ、おかえり~!!急いで出ていった目的は果たせたのか?」

「えぇ、これで明日の事もどうにか出来るかもしれません」

「それは何より、じゃあ後は明日の戦いに向けて英気を養うだけだな!!セレナ、頼む」

「はい」


そう言ってセレナさんが用意してくれたのが、先程フロイドが言っていたすき焼きというモノだった。メアルの分も用意してくれていて、俺はそのまま1人で食べていたのだが、メアルはセレナさんが食べさせていた。羨ましくなんかないんだからねっ!!食事の後は温泉で体を癒すとそのまま眠りについた。




翌日、朝早くに目覚めた俺は未だ寝ているメアルを優しく頭の上に乗せると、街の中をゆっくりと歩いて散策する。よく見ると、宿が多い街ではあるが民家が無い訳ではない。そりゃそうだ。ここで暮らす人も居るのだ。そんな当たり前の事を今さらながら気付く。確かにここに来た時は夜で薄暗かったし、翌日は怒涛のように色々起こって街をゆっくり眺める事も出来なかったからな。そうして街中を散策して、もちろん男湯区には近付く事無く、開いているお土産屋のような所で商品を物色しながら、屋台で売っていた温泉タマゴをメアルに食べさせたりと、昼に行われる戦いまでの時間を潰した。


約束の時間。俺は街の中央にある舞台の上で立っていた。メアルはその辺りの屋根の上でこちらを見ている。舞台の周りには既に多くの人が居り、あまりの人の多さにグレイブさんやフロイドがどこに居るかもわからない。そして俺の目の前にはハオスイが居た。体に全く力を入ていないのか、だらりと両手を下げてあの眠たそうな目をこちらへと向けている。服装も最初に見ただぼだぼではないのだが、その辺りの町人が着ていそうな普通の服装になっていた。


「……じゃあ、始める?」


その言葉を発した途端、表情も何も変わっていないのにハオスイから感じる迫力が一気に増した。ただ、そこから一切動く事はなく、ただただこちらを見ているだけだった。俺が不思議そうに顔を傾けるとハオスイが更に言葉を続ける。


「……まずはアナタから。いつも最初の1撃は相手に譲ってるから」


なるほど。確かに前に見た戦闘の時、最初に動いたのは相手の方だった。あれだけの戦闘特化のステータスを持っていながら、何故自分から動いてさっさとやってしまわないのかが気になったが、ただ単に相手に譲っていただけなのか。なら、さっさと気絶させて涙を飲ませ……いや、ちょっと待てよ。確か女神様達の文だと赤い玉を吐きださせて直ぐだったな。ならまずは確認してみるか。


「始める前に1つ聞きたいんだけど?」

「……何?」

「飲んだ玉を自分の意思で吐き出せるのか?」

「……さぁ?わからない。それに吐き出す気も無い」


でしょうね。そう言うと思ってましたよ。しかし面倒だな。俺にも吐き出す手段がわからない以上、今までと同じように戦って相手をボコればいいんだろうか?そうなると、いきなり気絶させるのもどうなんだろうか?……う~ん……まずは適当に戦って様子をみてみるしかないか。


「そうか……なら、まずは俺からの1発だったな」

「……早くして。どうせ勝つのは私」


なんというかどこまでも強気だな。まぁ、あんな人族最強みたいなステータスだとしょうがないか。……いや、違うか。強気なんじゃない。興味がないというか、やる気がないというか、どうでもいいんだろう。もう自分を倒せる者は居ないと諦めてるが故にさっさと終わらせたいと思ってるのかもしれない。だからこそ、あんなにもやる気のないというか生気のない顔をしているんだろうか……もしそうなのだとしたら、少しはやる気になってもらえるよう頑張りますか。


「じゃあ、行くぞ。真正面から進んで頭部に向けて蹴りを入れるからな」

「……何故解説を―――」


俺はきちんと自分の行動を話した後、一気にハオスイへと迫り言った通りに頭部に向けて手加減した蹴りを放つが、ハオスイは一瞬、表情に驚きを浮かべるが直ぐに元に戻ると、即座に腕を上げ、俺の蹴りを受け止め反対の手を俺への反撃を試みようとするが、俺は蹴り足に力を少し込めそのまま振り抜き、ハオスイを蹴り飛ばした。飛ばされたハオスイは何事もなかったかのように普通に両足で着地すると、こちらへと視線を向ける。その目は相変わらず眠たそうな目をしているが、少し熱が入ったように感じられた。

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