夢はでっかく
俺とメアルはオーセンへと戻る道をひたすら走った。まぁ、メアルは俺の頭にひっついてるだけだけど。メアルも久し振りに両親とお祖母ちゃんに会えてご機嫌だ。俺は走りながらメアルの頭を撫でてやる。メアルも俺の撫でる手を甘噛みしてきてくすぐったかった。そうして、来た時とは違う道で進んでいるため休憩場所も違っていたのだが、きっとそれがいけなかったのだろう。森の中で休憩してメアルとのんびり日向ぼっこをしている時、彼女達が現れた。
「ほら、ちょうどそこに1人で眠ってる奴が居るから彼にしよう」
「で、でも、子供でもドラゴン連れてますし、もしこちらに気付いていたらどうしましょう?」
「大丈夫だって!!見なよ、あのどこにでも居そうな普通の顔。たとえ、戦う事になっても大した事ないって!!」
失礼な。しかし、言う通り俺の顔は平凡である。そこは否定できない。やっぱ顔が普通だからモテないのだろうか?いや、男は性格だ。女性には優しくしていこう。だから、まずは俺が起きているという事を示して、気付いてない振りをしてさっさとここから退散しよう。なので俺は今起きましたよ~みたいな感じで立ち上がり、伸びをして、メアルを頭の上に乗せて、この場を去ろうとしたのだが森の中から出てきた女性2人組が俺の行き手を遮って現れた。行かせてくれよぉ~。
「ちょっと待ちな!!」
「ま、待ってくださぁ~い!!」
俺の目の前に現れた女性2人組の内、最初に威勢よく声を出した方は、肩ほどの長さの金髪に、吊り上がった勝気そうな目と顔立ちをしており、服装はおなかと肩を出す程小さな上着に、ふとももが自己主張しているほど出ている短いズボンとブーツがすごく似合っており、健康的な美を感じた。ただ、手には長剣が握られていたが。もう一方は、ゆるゆるふわふわな紫色の長髪に、目尻の下がった優しそうな目と顔立ちの、服装は対照的に真逆の肌を見せない上下共に長く可愛らしい服を着ており、手にナイフが握られてこちらへと向けているのだが、震えていた。なんか守ってあげたくなる可愛さで2人共若く、俺と同じくらいだと思う。
「ほら、まずは声掛けから」
「は、はい!!えっと……盗賊だ~!金目の物をよこせ~!です」
「最後の「です」はいらない。減点1ね」
「ううぅ……すいません」
「すぐ謝らない」
……何これ?あれ?俺はどうしたらいいの?
「ほらもう1度」
「と、盗賊だ~!金目の物をよこせ~!」
「……」
ほんとどうしたらいいの?俺がどうすればいいのか対応に困っていると、金髪の女性の方が俺に話しかけてきた。
「ごめんね~!!今、この子の盗賊検定5級の実地試験中なんだ。悪いんだけど、相手してもらえないかな?」
「お、お願いします」
そう言って、金髪さんは俺にウインクをして片手を前に出し、ごめんねみたいなポースをして紫髪さんが必死に頭を下げてきた。その時点で盗賊としてどうなんだろうと思う。思うんだが……
「しょ、しょうがないですね~。俺でよければ相手になりますよ」
男なら避けてはならぬ道があると思う。きっとこれはその道だ。決して2人の可愛さに負けた訳じゃない。しかし、盗賊検定って何?
「それで俺はどうしたらいいんでしょうか?」
「普段通りの対応でいいよ」
「では普段通りで……盗賊に渡す金はない」
俺がピシャリと言い放つと、紫髪さんがびくっと驚いて萎縮してしまった。あぁ、違う違う!!おどかすつもりはなかったんだよ!!ほんとだよ!!ただ普段通りにって言われたからね、その通りにしただけなんだよ!!
「ほら、アンタも断られるなんて当たり前の事なんだから、この程度で萎縮しない!!」
「ご、ごめんなさい」
「このままじゃ合格はあげられないよ?」
「が、頑張ります!!」
紫髪さんは気丈にも気を取り直してナイフを俺へと向けてくる。相変わらず震えているけど。
「ほら、断られたらどうするって習った?」
「え、えっと……なら、アナタの命を貰う!です」
「また「です」が付いた。減点1ね」
「はうぅ……」
可愛い……じゃない!!あれ?もしかして俺のせいですかね?ごめんなさい。そんなつもりはなかったんです。
「まだ終わってないよ」
「は、はい!!で、では、ここから戦闘ですね。い、いきます!!」
そう言って紫髪さんがナイフを俺へと向けたまま突っ込んできた。目を閉じて。
「うぉっ!あぶねっ!!」
俺は思わず避けてナイフを回避する。危なっ。目を閉じて挑んでくるなんて怖すぎるぞ。ていうか、自分も危ないからやめなさい。
「こらっ!!アンタまだ目を閉じる癖が治ってないんだね?」
「ご、ごめんなさい~!だって怖いんです~!」
俺の方がなんか怖かったです。というか、どう見ても盗賊には向いてないと思うんだけど。
「こりゃダメだね。まだ早すぎるわ。アンタもう1回訓練所からやり直した方がいいね」
「ふえぇ!!で、でも、やる気だけは人一倍ありますから、見捨てないで下さいぃ~」
いや、人には向き不向きがあると思うし、どう見ても紫髪さんは盗賊に向いてないと思います。
「ほら、今日の所はもう帰るよ。悪かったね、行く手を邪魔しちゃって」
「……いえ、別に気にしてませんから。えっと、頑張って下さい?」
俺は紫髪さんの方に振り返って一応応援してみる。
「は、はい!頑張ります!頑張って、世界一の女盗賊になってみせます!応援ありがとうございます」
それは無理じゃないだろうか。どう見ても守ってもらう立場の人が似合うと思うのだが。そうして、金髪さんと紫髪さんは森の中へと消えていった。紫髪さんは終始俺の方へと振り返ってはペコペコと頭を下げていた。やっぱ無理だと思うので盗賊は諦めた方がいいと思います。
その後は特に問題もなく、その日の夜にオーセンへと戻った。