裸の付き合い
港町に着いた俺達は、そのままここで1泊する事になり、この港町で唯一温泉が引かれている宿へと向かった。宿の代金は背中を擦ってくれた礼だと言って、グレイブさんが出してくれた。ありがとうございます。ほら、お前も礼を言えよとフロイドを見ると、うんうん頷いているだけだった。いや、お前もグレイブさん側だからな。宿の部屋は男しか居ないので同部屋で借りて宿代は少し安くしてもらった。この町に泊まるといっても、特に今はここでやる事は無いので俺は温泉へと向かう。フロイドは何やらやる事があると言って町中へと消え、グレイブさんは早速見つけたお気に入りの子の所へと向かった。もう少し落ち着けよ、この大人共が。
温泉はどうやら、時間で男女を分けているようで、俺が入ろうとした時はちょうど男の時間が始まって少ししたぐらいだったので、そのまますんなりと入る事が出来た。脱衣場で服を脱ぎ、中に入ると他に利用客は居らず、体を洗ってのんびりと湯に浸かる。
「ふぃ~……」
体の隅々にまで残る疲れがゆっくりと湯に溶け出しているかのようで、心地好かった。そのままゆっくりとしていると誰かが入って来る音がしたので、入口へと視線を向けると、そこにはグレイブさんが居た。さすがSランクというか、引き締まった体をしており、先程まで船で吐いていた人にはとても見えなかった。というか、前を隠せよ。
「よぉ、ワズ坊!」
「あれ?グレイブさん、早いですね。お気に入りの子はどうしたんですか?」
「ん?そりゃもちろん、見事196人目になったぜ!!」
そう言ってグレイブさんは鼻歌まじりで体を洗い、湯に浸かる。この短い間で1人落とすなんて、この人はある意味男の敵だな。これだから顔のいい奴は……いや、この人は性格も悪くないか……ここの代金も出してくれたし……Sランクで強さもある……くっ、完璧かよ!!
「ふぃ~……やっぱ温泉はいいねぇ~……こう、俗世の嫌な部分を忘れられる……」
「Sランク冒険者で、沢山の奥さんが居て、嫌な事なんてあるんですか?」
「あるぜ~。人の欲に制限は無いからなぁ~、次から次へといろいろやりたい事が出てきて、それに対するようにいろいろ出てくる……まっ、生きるって事はそういうもんだろ」
「……?」
何言ってんだこの人?
「わかんねぇか?まぁ、ワズ坊もその内わかるようになるさ……しかし俺もこんな風に答えるなんて年かねぇ~……」
「よくわかりませんが、大人って感じですかね」
「ハッハッハッ!!そっかそっか!!大人か!!なら大人としてワズ坊に聞いとこうかな?」
「ん?なんでしょう?」
「間違ってたらすまんな、なんつうかワズ坊からは心に余裕を感じられないんだよな?生き急いでるって訳じゃなさそうなんだが、なんか焦ってる?」
「えっ?」
「これでも196人の奥さんを持つ旦那だからな。人を見る目はあるつもりなんだが、そんな俺から見てワズ坊からはそんな感じを受けるんだわ」
焦ってるか……確かにメアルの事を考えると居てもたってもいられない。グレイブさんは悪い人じゃなさそうだし、協力してくれるなら心強い味方になるだろう。俺は正直にメアルの事を話した。こうなった原因と、目的地、そして念のためにあの黒ずくめの格好をした行商の事も伝えておいた。
「なるほどなぁ……子供の龍を救うために温泉街に向かってたのかぁ。なるほど、事情はわかった。なら、俺もそれを手伝ってやるよ!」
「えっ?いいんですか?」
「かまわねぇよ!元々温泉街に向かう予定だったし、それにもう俺等は友達だろ?」
「友達!!……ですよね!!ありがとうございます!!」
友達!!随分年の離れた友達だけど、オーランドに続いて新たな友達だ。正直嬉しい!!
「しかし、俺の感じた感覚だとメアルだけじゃないような気がするんだけど、他に何か思い当たる事はないか?」
「他に?……う~ん……何かあったかな?特に思い当たらないですね……」
俺はう~んう~んと考えるが特に思い当たらない。
「何も思い当たらないのではなく、ワズ様自体がそれを考えないように無意識でしておられるかもしれませんよ」
「ふ~ん……そんな事もあるのかな……」
「……」
「……」
「……」
バシャッ!!
いつの間にかフロイドが居た。思わず立ち上がってしまった。
「お前!!いつの間にここに!!」
「はい?普通に体を洗って普通に湯に浸かりましたが何か?」
「いやいやいや、全然気付かなかったが!!」
「執事ですので」
「……お前その言葉で全て片付けようとしていないか?」
「フッフッフッ……執事ですので」
「そうだな、執事なんてそんなもんだよな」
「グレイブさんも賛同しないっ!」
「ワズ坊は細かい事を気にしすぎだぞ」
「そうでございますね」
「全然細かくねぇ~~~~~!!!!!!」
温泉に俺の絶叫と2人の高笑いが響いた。