その感情の名は「嫉妬」
「ガズナッ!!お前、一体なにをした?」
サローナさんも何か異常な出来事が起こっているのを察知したのだろう。焦っているようだ。周りのエルフ達も周囲に響く音と揺れる大地に不安を感じているようで、何事かとザワザワしている。
「な、なぁ、一体何が起ころうとしてるんだ?」
「そんなの私が解るわけないだろ……」
ユユナ、ルルナも不安を感じているようだ。
「何が起こるのか…それはアイツに聞けばわかるんじゃないか?」
ユユナ、ルルナの言葉に俺はあごでガズナを指した。それに追随するように2人の視線も他の何人かのエルフ達もガズナに意識を向けた。
ガズナは手で口を覆い俯いていた。
「ガズナ、何を仕掛けたのか答えんか!!」
里長の激昂が飛ぶ。里長の言葉を受けたガズナは口から手を離しゆっくりと顔を上げた。その顔には厭らしい笑みを浮かべている。
「不安だよなぁ!!何が起こるか知りたいか?愚かで滑稽なエルフ共!!教えてやるよ!!その方がよりお前達は恐怖するだろうからな!!」
教えるなら早く言えよ。
「今この場所にはなぁ!黒玉の発動によって山の麓に生息する数百を越える魔物が押し寄せているんだよぉ!!!」
「「「なっ!!!」」」
周りのエルフ達は教えられた事に驚愕し、慌てふためいている。俺は山の魔物というだけで、へー、ふーん、そうって感じだ。アイツら弱いしね。むしろ、なんでそんなに慌てるのかがよくわからなかった。既に何人かのエルフは木ノ上の住居に逃げようとしている。
「ハハハハハハッ!!!怯えろ怯えろ!!!逃げ惑え、この愚かなエルフ共っ!!!」
「自分が何をしたのかわかっているのか!ガズナッ!!」
「わかっているさぁ!サローナァ!!」
サローナさんは怒りの表情でガズナに何度もナイフを突き立てるが、長剣と鉄の硬度を発揮したローブによって防がれている。
「お、おい、俺達も住居に一時避難するぞ」
「で、でもサローナは?」
「大丈夫だ!結界で保護されている。いくら魔物の大軍でも決着がつかない限りは壊す事は出来ない」
「それもそっか…」
「ワズ!俺達も急いでこの場を離れるぞ」
「えっ?」
ユユナは俺を抱えると自分達の住居へと浮かび上がった。ルルナもそれに追従している。う~ん、俺はサローナさんの方が気になるから、あの場に残っていたいんだけど、2人の事を考えると今は着いてった方がいいか……まぁ、幸い2人の住居は結界から近いから様子はわかるか。
サローナさんはガズナに対してナイフの斬撃や体術による殴打や蹴りを繰り出していたが、ローブの鉄の硬度への変化と自動回復によって、どれも決定打にはなり得ていなかった。だが、それでもサローナさんが負けるとは思えなかった。ローブの自動回復は有限だ。ガズナの魔力が尽きれば只のローブでしかない。……はずなんだが、不安が心に残る。
「何故…何故このような事をした!!」
「何故か………それはな、サローナ…お前のせいだよ!!!お前が居るからこうなったんだよ!!!」
その言葉でサローナさんの動きが一瞬止まる。その隙をつくようにガズナの長剣がサローナさんの左腕を少し傷付けた。
そして、とうとう里に魔物が侵入してきた。
数百を越えるおびただしい数は吸い寄せられるように結界を取り囲み里中を埋め尽くしていた。
木ノ上の住居に逃げ出しているエルフ達はこの光景を見て、恐怖で震えたり、小さな子供は泣き出している。ユユナ、ルルナも顔面蒼白にはなっているが、どうにか出来ないかと相談している。
俺はぐるっと周りの状況を確認するとサローナさんが居る結界の方に視線を戻した。
サローナさんは周りの状況を見るとガズナに視線を戻した。
「これがお前の望んだ状況なのか?」
「あぁそうだ。これで終わりじゃないがな」
「………お前は私が原因だと言ったな。それはどういうことだ?」
「………サローナ。お前は昔から周りから天才と言われていながら努力も怠らない、俺から見ても…いや誰から見ても優れた人物だったさ。常に先頭に立っているサローナ………そんなお前には決して俺の気持ちはわからないっ!!!俺にとって壁たるお前にはなっ!!!」
「くっ…」
今度はガズナの方が攻めだした。
ローブに魔力を使われる以上、魔法は使わずに長剣による斬撃を繰り返している。サローナさんはナイフで防いだり、その身のこなしでなんとか回避している。
「ハハハ!!ほらほらどうした?魔法を使わないのか?里の奴等を助けたいなら俺を殺さないと結界から出られないぞ?」
「うぅ…」
「無理だよなぁ!!俺も里のエルフだもんなぁ!!お前は里の皆が大切だもんなぁ!!だが、いいのか?お前に悩む暇はないぞ?早くしないと、俺達以外のエルフ共が死んでいくぞ!!!」
「お前はぁっ!!!」
サローナさんは左手を前に突き出す。
………だが、その形で止まり動かなかった。
「フッ!ハハハハハハッ!!
不様だなぁ!滑稽だなぁ!お前の魔法は強すぎるものなぁ!いいぞ、サローナ!少しは俺の気も晴れるぞ!!その優しさがお前の唯一の弱点だなぁ!!!」
「………」
サローナさんは唇を噛み締めすぎて、少し流血している。
うん。決めた。
俺は2人の方に振り返りシュビッと片手を上げ、満面の笑みで
「ちょっくら行ってくるわ!!」
「「はっ?」」
俺は2人にそう言うと住居から飛び降りた。