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決着と不快感

魔物は全て退散し、赤い盾の集団は壊滅した。騎士達は動ける者は仲間の傷の手当てや、赤い盾の集団連中を捕縛している。戦場の中央で起こっている戦いには一切手を出さずに見守る事にしたようだ。騎士達もわかっているのだろう。その戦いは彼女達だけで決着をつけるべき戦いだという事が。そんな騎士達も俺の周りには決して近付こうとはしなかった。どこか英雄でも見るような目で俺をチラチラと見ている。そんなに見ないで……恥ずかしい……まぁたしかに俺のした行動を考えてみると人が出来る行動を遥かに越えてるもんなぁ……はぁ……何か居心地悪い~~~!!!


俺はオーランドと共に戦場の中央へと視線を移す。未だ決着はついていないが優勢なのはナミニッサ達の方だ。デンローガが如何に変貌しようが、元々の彼自身が大した事が無い上に戦闘経験値が違う。デンローガは自身の得た力を上手く使えていないし、その程度の力ではナミニッサ達を倒す事は出来ないだろう。倒せない苛立ちに焦りが混じり、攻撃が大振りになっていっている。その大振りな攻撃を掻い潜りナレリナの剣がデンローガの脇腹を斬り裂き、ナレリナの背後はナミニッサの結界が守り、レライヤさんの鞭がデンローガの動きを止め、ナヴィリオの炎魔法で少しずつ体力を削がれる。そんなナミニッサ達の動きを全て読み指示しているのナヴィリオには素直に驚いた。どれだけ先を読んでるのやら。安心して見ていられるが、いつでも飛び込んでいけるよう俺は足に力を入れている。


ナミニッサ達の戦いも既に終盤に入っていた。デンローガの体は剣で付けられた傷がいくつもあり、炎魔法で焼かれた肌も至る所にあった。息を乱し、肩を大きく揺らして呼吸をしている。デンローガが最後の勝負に出た。自身の長く鋭利な爪に魔力を流して猛然とナミニッサ達に襲い掛かった。


「ガアアアァァァァァ!!!!!コノムシケラドモガァ!!!!!」


大気をビリビリと震えさすような大声を出し、ナレリナへとその爪を向けるが、ナミニッサの結界で弾かれ体勢を大きく崩すと、レライヤさんの鞭がデンローガの足に巻き付きその場に転倒する。地面に仰向けで倒れたデンローガにナレリナが跨がり剣を逆に持つと、大きく振り上げた。


「これで終わりだ!!デンローガァ!!!」


瞬間、ナレリナの持つ剣の刀身が炎を纏いデンローガの喉へと突き刺さる。


「ギャオオアアァァァァァ……」


デンローガの体が大きくひび割れ、長かった爪や翼はぼろぼろと崩れ無くなっていく。そのままデンローガの命は終わった事を告げるように喉から血を流し、地面に赤い水溜まりを作った。


「オオオォォォォォッ!!!!!」


騎士達が勝利の雄叫びを挙げる。俺とオーランドも拳と拳を突き合わせ、互いに笑い合う。オーランドと勝利を喜びあっていると、ナヴィリオを先頭にナミニッサ達がこちらへと来たので声を掛ける。


「終わったな……と言いたいが、まだ国王様達が眠ってるままか」

「父上達の方も大丈夫だ。操られていた時の記憶の中に父上達が眠った原因をデンローガが自慢気に話している部分がある。解除方法もわかるから心配は無用だ」

「そうか、なら大丈夫だな」


ナヴィリオと互いに握手を交わす。ナミニッサ達も笑顔で俺とナヴィリオの握手を見ていると、唐突にまるで俺達の注意をそちらへ惹き付けるためのような、たった1つの拍手音が響いた。


パチパチパチ……


拍手が聴こえる方へ顔を向けると、そこには全身を黒色の服で覆い、背中には自分の2倍くらいはありそうな大きなリュックサック背負い、顔を黒いフードで隠している細身の男が拍手をしていた。旅の行商か?口元しか見えないが、その口元は嫌な感じの笑みだった。


「いや~いや~、素晴らしい!!覚醒前とは言え魔王を倒すなんて!!流石は王家の方々!!まぁ、元々が吹けば飛ぶようなゴミだったんで期待はしてなかったんですけどね」


男の姿を見て思い出したのは、エルフの里で……えっと……なんて名前だっけ……まぁいいか……とりあえず、あのブッ飛ばした奴が言ってたな……行商からあの玉を手に入れたって……行商……先程の物言い……まさか……


それに皆はコイツ誰だ?みたいな感じで驚いているだけみたいだけど、何故だろうか……俺はこの行商を見ているだけで不快感を感じる。


「ほんと素晴らしい戦いでしたよ~!!と・く・に!!そこの頭にドラゴンを乗せている彼!!いいねぇ~!!君の強さは素晴らしいよ!!思わず身震いしちゃったよ」


男は心底嬉しそうな声で俺に話し掛けて、こちらへと近付いてくる。近付く度にますます俺の中の不快感は大きくなっていく事に耐えきれず、俺は言葉を発した。


「……お前が……そうなんだな?」


たったそれだけしか言っていないのに、男は俺の問いを正確に理解したのか、その場で立ち止まり、大きく左右に腕を伸ばし、嬉しそうに口を歪める。


「アハハハ!!嬉しいなぁ~!!そうだよ!!僕がゴミに黒玉と赤玉をあげたのさ!!」


男の自らの告白でナミニッサ達は一気に緊張感を持って身構える。それでも男の表情は変わらず笑顔だ。


「僕の事を言い当てるなんて……最近「嫉妬」と「色欲」の反応が消えたけど、もしかしてぇ……君だったりするのかなぁ?」

「その言葉が何を示してるのかはわからないが、確かに2人程変貌した奴を倒したな」

「そっかそっか!!いや、別に恨み言なんて言わないよ?だって、ゴミが何体死のうが気にしないもん」


すると、男は急に何かを考えるように顎に手を当てる。今の内にやった方がいいかな……


「………………うん。ちょっと見たくなっちゃった!果たして彼女とどっちが強いんだろうね?」

「彼女?」

「そのためには、君に行って貰わないと……なんと言っても彼女は「怠惰」だしね。だ・か・ら!!」


男が素早い動きで懐から黒い結晶を取り出し、手の中で握り割る。すると、黒い霧が手から発生して空中へと消えていくと、俺の頭から重みが消えた。俺がまさかと思い、上を見上げると空中でメアルが黒い結晶の中に閉じ込められている。


「キュイ!キュイ!」

「メアルっ!!!」

「ばいば~い!!!」


男が手を振るとメアルは黒い結晶ごと空の彼方へと消えていった。瞬間、俺は男の胸ぐらを勢いよく掴むと、いつでも殴れる体勢へと移った。それでも男の口元は笑みを浮かべている。俺は暗い感情の赴くままに男へと詰問する。


「メアルをどこへやった?」

「彼女の所だよ!北の温泉街に居るから早く迎えに行ってあげれば~!!じゃ、また会おうねぇ~」

パキンッ!


その言葉と乾いた音を最後に男は俺の手からすり抜けるように消えていった。俺は掴んでいたはずの手を強く握り締める。


「行くのか?」


オーランドの言葉に俺はゆっくりと振り返る。


「あぁ、メアルを迎えに行ってやらないとな……悪いな、騎士姿を見るって言ってたのに」

「気にすんなよ」


ナミニッサ達も俺の周りに集まってくる。


「彼の事は任せておけ。私直属の騎士にする事を約束しよう」

「ありがとう、ナヴィリオ」


ナヴィリオがオーランドを騎士にする事を約束してくれた。彼に任せておけば大丈夫だろう。


「ワズ様……此度の事は誠にありがとうございました。報酬は必ず……必ずお渡ししますので。お待ちくださいね」

「は、はい」


……報酬?そんなのあったっけ?まぁいいか。貰えるなら貰っておこう。


「ゴホンッ!私も必ずお前に会いに行こう」

「は、はぁ……」


ナレリナが咳払いをしてチラチラとこちらを見ながら言ってくる。顔赤いですけど、風邪ですか?


「じゃあ、またな!!」


俺はメアルが飛んでいった方向へ向かって駆け出した。

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