理解した事
散々ボコボコにされて2つわかった事がある。
人のーーーというよりは生きているモノは大抵自然治癒力があるという事だ。傷つけられても時間と共に傷は治っていく。それは当然の事であり、もし治らないというのであれば、病気にかかってるとか、その傷は致命傷とかだろうか?他になんかあったかな?まぁ、いいか。今、理解したのはその事じゃない。例えばだ、自然治癒力で回復する量が1時間で0.1%だったとしよう。そうするとHP1000の人だと1時間に1回復するという事だ。それを自分のステータスに当てはめて考えてみると、まず俺のHPは「どうやったら死ぬんでしょうか?」だ。正直、女神、大地母神に文句を言いたい……違う違う。つまり俺のHPは数値化出来ない程高いと言う事で、俺の自然治癒力もそれに比例するように高く、ダメージを負おうが恐ろしい速度で治癒していくと言う事じゃないだろうか?そう思ったのは、先程までの痛みが走るが直ぐに消えるという現象だ。おそらく、一瞬で治ってるんじゃないのかな?まぁ、痛い事は痛いんだけど……てか、今はもう慣れたのか全然痛みも起きないんだけど……これが1つめ。
そして2つめは、ずっとフリューゲルの動きを見ていた影響なのだろうか?何となく体の動かし方がわかった気がする。こう……なんというか……殴る時は体のここを動かして、蹴る時はこっちの方を動かして……みたいな?戦闘時における効率的な体の活用法みたいなモノがわかったような気がする。なんだろう?さっきまでの俺の動きは無駄に力を入れて、無駄の多い動きだったような気がする。
フリューゲルは化物でも見るかのように、目に少し恐怖を宿して俺を見ている。
「な、何故だ?何故あれだけ俺の魔力を受けたはずなのに、お前は生きている?というか、平気そうに立っていられる?お前、本当に人間か?」
失礼な!!人間だよ!!……多分。
「え?う~ん……なんて言えばいいのかなぁ……そうだなぁ……砂漠が死ぬってどういう事だと思う?」
「はっ?」
「それってさぁ、砂漠じゃなくなるって事だよな?例えば、湖になるとかさ?」
「あ、あぁ……」
「湖になるとしてだ。現在のお前の攻撃は今の俺にとって、砂漠を湖にしようと水滴を垂らしているようなもんだ。意味分かるかな?」
「……?」
「まぁ、要するに全然全く効かないって事だよ」
「俺との戦いの最中に更に強くなっただと?そんな馬鹿な話があるかーーーーー!!!!!」
フリューゲルが一気に間合いを詰め、勢いそのままに殴りかかってくる。けれど、先程までと違ってフリューゲルがどう動くのかが分かる。拳を避け、フリューゲルの顔面に向け拳を放つが顔をずらして避けられる。そのままフリューゲルの膝が俺へと目掛けて飛んでくるが、横合いから殴って止めると破壊音が響く。
ボギィッ!!!!!
「がああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
フリューゲルが砕けた自らの足を抱えて倒れる。相変わらず俺のSTRは凄まじいな。さっきまでボコボコにされて、イライラしてたから多少本気で殴ったのだが……Sランクを相手に1発で破壊か。等と考えていると、フリューゲルはふらふらしながら立ち上がると、再び構えのようなモノを取る。
「ふっ……ふはっ……ふはははははっ!!!」
何こいつ?気持ち悪いくらい上機嫌で笑いだしたんですけど……
「いいねぇ……やっぱ……戦いはこうでなきゃ……命がかかってるから面白いんだ!!!ハアアァァ……」
フリューゲルが体に力を入れているのが目に見えてわかった。筋肉が盛り上がり、一気に威圧感が増す。
「……治さないのか?その足」
「ハッ!!魔法が使えるように見えんのか?それにさっきまで素人だったお前相手にはちょうどいいハンデだろ?」
ほほぅ、おもしろい事言うなぁ……
脂汗を流しているくらい足も相当痛いくせに、それでも虚勢を張るのか……そういうの嫌いじゃないかも……
俺は笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いてフリューゲルの眼前へと立つ。お互いの拳が届く距離だ。ここまで近いと最早、ただ単純に殴り合う事しか出来ないだろう。
「じゃあ俺はまともに動けないアンタへのハンデとして、この距離でやってやるよ」
「……ふははははは!!!!!そうかそうか俺にハンデか!!いいねぇいいねぇ!!嫌いじゃねぇぜ、お前みたいな奴はよぉ!!」
俺達は互いに笑顔で睨み合うと、壮絶な殴り合いを始めた。避ける事も出来ず、顔に体に腕に拳に至る所を互いに殴り合う。正直俺にダメージは無いし内部破壊も効かない上に、俺の与えるダメージはでかい。それでもフリューゲルが倒れる事はなく、俺へと殴りかかるのをやめなかった。俺もやろうと思えばいつでもやれたのだが、そんな気も起きず、それでもお前を真っ正面から打倒してやるという意思を込めて拳を放ち続ける。
時間にしてどれ程経っただろうか。数秒かもしれないし、数分かもしれないし、数十分かもしれない。俺達はただ殴り合い続けた。いつまでも終わらないと思われた殴り合いも終わる時が来る。フリューゲルの拳が俺の顔面へ、俺の拳がフリューゲルの腹部へとめり込んでいた。
「ぐっ……これだけやって無傷って……お前……ホントに化物だな……」
「……それは嬉しくない言葉だな」
「へっ……せっかく人が褒めてんのによ……」
「化物は褒め言葉じゃないぞ」
「……まっ……今回はお前の勝ちだ……また、やろうぜ……」
「それも嬉しくない言葉だなぁ……」
フリューゲルはそのまま前のめりに倒れた。