「傲慢」は他者を虫けらと呼ぶ
後方では騎士と冒険者達が魔物の大群と死闘を繰り広げている。幸いなのはこの辺りの魔物が集まったため、ランクが低いのが多い事だろう。騎士と冒険者達の連携もぎこちないが、なんとか耐えきれているようだ。前方では同じように聖騎士と騎士達が赤い盾を持つ集団と乱戦を繰り広げている。こちらは多くの騎士を魔物側の方に割り振っているので、数的不利のため、なかなか倒す事が出来ないようだ。そして、戦場の中央にはぽっかりと穴が開き、そこに俺、王族3人とレライヤさんが、俺達に対峙するようにデンローガとフリューゲルの2人が居る。オーランドは前方の騎士達に加勢して貰った。
「さて、周りも騒がしくなった事だし、私達もやりましょうか?」
デンローガが軽い調子で聞いてくる。
「この人数差で戦おうと言うのか?」
「もちろん。このままで勝てるとは思っておりません。何しろまともに戦えば、僕はナミニッサにも劣りますから。ですので、こうするのですよ」
デンローガが今度は赤い玉を取り出し、それを飲み込む。やっぱり持っていたのか。デンローガの目が黒く、赤い眼球へと変わり、体型は変わってないが、ひび割れたような跡が身体中に広がり、爪は鋭利な刃物のように伸び、背中からは黒い羽が生えてきた。
「フフ……コレハスバラシイ。カラダジュウカラ、チカラガアフレテクル」
「な、なんだそれは?一体何が起こってた?」
「サァ?ワタシモシリマセン。タダ、コレナラジュウブン、ムシケラヲコロセソウダ。ソシテ、ワタシハコノクニノオウトナル。デハ、イキマスヨ」
ナヴィリオ達はデンローガの変化に動揺し動きが止まってしまった。その隙をつくようにデンローガが爪でナミニッサを引き裂こうとするが、俺が止める前にナレリナが剣を抜き防ぐ。
「貴様がどのような姿になろうが、私達にした仕打ちを思えば関係ない。ただ、切り捨てるだけだ」
「デキマスカネェ?」
その言葉をきっかけにナレリナとデンローガの斬り合いが始まった。激しく斬り合っているが、どちらもまだ様子見なのか本気ではないような気がする。俺の注意は念のため未だ動かないフリューゲルに向けた。何故か動かない事に不気味なものを感じていた。すると、ナミニッサ、ナヴィリオとレライヤさんがこちらへと来る。
「ワズ様、デンローガの方は私達で何とかしようと思います。これは王家の問題ですので」
「ワズ、君の強さはどこまでかはわからないが、出来ればフリューゲルを時間稼ぎでもよいので、どうにかして貰えないだろうか?」
「正直言って、先程のナヴィリオ様達を助けた時の動きを見ていなかったらそんな気も起きなかったんだが、実際フリューゲルは強い。私達じゃアイツには勝てない……だが、アンタならもしかしたら……」
なるほど。こうなる事を見越してフリューゲルは動かなかったのかもしれない。ナヴィリオ達を助けた場面は奴も見ていたんだろうから。たしかに変貌したとは言え、未だデンローガよりフリューゲルの方から感じる強さの圧力が違う。なんというか、格が違うとでも言えばいいのか。
「わかった。フリューゲルは俺がなんとかしてみる。だから、そっちの問題は任せた。いざって時は助けるけど、自分達の手でけりをつけたいんだろ?」
俺の言葉にナミニッサとナヴィリオは頷くと、レライヤさんを伴ってナレリナとデンローガが戦っている場所へと走っていく。多分、大丈夫だろうと思うけど、皆無事で終わってくれと祈りながら見送ると、俺はゆっくりとフリューゲルの方へと視線を移す。
「話は終わったか?」
「あぁ、どうやら、俺がアンタの相手になるみたいだ」
「……ククッ……それでいい。それは俺も望んだ事だ。先程のナヴィリオ様達を助けた時の動きは見事であった。思わず目を剥き、凝視し、全身が身震いしたぞ」
フリューゲルは何とも嬉しそうに破顔している。
「ここまで上り詰めると、どうにも戦闘がつまらなくてな……久方振りの強者との戦いだ!!存分に楽しませてくれよ!!」
手甲を打ち付け合い「ガチッ!ガチッ!」と鳴らし、自分の喜びを表現してくる。こいつ戦闘狂か?
「つまり俺と戦いたかったから、ナヴィリオ達に手を出さなかったのか?」
「そうだ。たしかに俺は先代王への義理でデンローガ様に協力していたが、ああなってはな……」
フリューゲルが哀れな者でも見るかのように、変貌したデンローガに視線を向けるので、俺もそれに追随するように視線を向ける。そこでは変貌したデンローガと斬り合うナレリナに、結界魔法で攻撃を防ぐナミニッサ、巧みに鞭と魔法を使い遊撃に徹しているレライヤさん、時には自分も魔法で援護しながら皆に指示を飛ばしているナヴィリオ、どうやら善戦しているようだ。それを確認して視線を元に戻すとフリューゲルが「なっ?」みたいな仕草をしていた。苦笑いでしか答えられなかった。
「それじゃ、そろそろ俺達もやろうか?」
「いつでもどうぞ」