前へ次へ
59/217

見たかった笑顔

「この通り、私は無事だ。意思も戻った」


ナヴィリオ様が周りの聖騎士達、騎士達に大声で宣言する。その瞬間、歓喜の怒号が鳴り響き、騎士達は自らが持つ武器を高々と天に向かって掲げる。ナヴィリオ様はその様子に1つ頷くと、今度は少し歩を進め、もう1つの騎士団に向け、声を飛ばす。


「ナレリナの騎士達よ!!最早争う理由は無い。ここに居る者が、そなたらの主を救ってくれるだろう。私も妹を救いたい。頼む、道を開けてはくれぬだろうか!!」


そう言葉がボンド平原に広がると、ナヴィリオ様の騎士団、ナレリナ様の騎士団は2つに割れるように一斉に動くと、ナヴィリオ様の立っている場所からナレリナ様へと続くように1本の道が出来ていた。


「そう言えば君の名前を聞いていなかったな?」

「ワズです。ナヴィリオ様」

「ナヴィリオでいいよ、ワズ。では、行こうか」

「はい」


ナヴィリオ様が走り出すと、俺はその後を追った。途中、執事服に身を包んだ老紳士が「御無事で何よりで御座います、若」と近寄ってきた。おそらく彼がナヴィリオの専属執事なのだろう。ナヴィリオと彼が2言3言話すと、ナヴィリオが走りながら顔だけこちらへと向ける。


「どうやら私の騎士達も無事だったようだ。今は意識を取り戻し休んでいる。私を助けるためとはいえ、騎士達の命を奪わなかった事は誠に感謝する」

「いえ、命を奪うとナミニッサが悲しみますから」

「……ほほぅ、妹が呼び捨てを許してるんだな……惚れてるのか?」

「ぶっ!!!」


いきなり何聞いてんの?なんかにやにやしてるし。俺が何かを言う前に目的の場所へと着いてしまった。


走り着いた場所には、張られている結界の中で剣を抜き立っている赤い髪に立派な鎧を装備している女性が居た。女性にしては短い髪に、後ろ髪から腰ほどまでの細い三つ編みを垂らしている。目は少しつり上がっているが今は理性を失っているからなのか、目に光が灯っておらず能面のような表情でありながらも美術品のような顔立ちをしている。きっと理性を取り戻せばもっと美しいのだろう。


「彼女が?」

「あぁ、私の妹でナミニッサの双子の姉であるナレリナだ」


ナヴィリオは悲痛な顔でナレリナ様を見ている。今のナレリナ様の様子が辛いのだろう。すると、メイド服を着た妙齢の方が俺とナヴィリオへと近付いてくると、ナヴィリオと何やら話をしている。話が終わるとナヴィリオが現状を説明してくれた。


「今の所、騎士団内の魔法使い総出で結界内に閉じ込めているが、結界はそう長くは持たないそうだ。それに近付けば問答無用で斬りかかってくるらしい……それでも頼まれてくれるか?」

「あぁ、問題ない。結界を解いてくれるか?」


ナヴィリオの合図で結界が解けると俺はゆっくりと歩きながらナレリナ様へと近付いていく。剣が届く距離まで近付くと、何の前触れもなく斬りかかってきた。下から上へと斬り上げるような剣筋をかわすが、剣は斬り上がった場所で止まるとそのまま降り下ろされる。俺は瞬時に間合いを詰め、右手で剣を握っている手を掴み止め、左手で鎧を掴むと力任せに引き剥がす。目に入るのは、白いシャツを盛り上げている、とても豊満な胸にちょこんと乗っている歪な形の装飾が施されているネックレス。俺は鎧を離し落とすと、掴んでいる右手で動きを封じたまま、もう1度左手を伸ばしネックレスの装飾部を掴む。一瞬、左手にバチっと火花が散る。おそらくネックレスを外そうとする者への対策がとられていたのだろうが、何の異常もなく、俺には無意味だったようだ。そのまま俺はネックレスを握り潰し引き千切る。


右手に伝わる感覚でナレリナ様の体から力が抜けていくのが分かった。そのまま前のめりで倒れてくるので俺は支えるように抱き止める。ナレリナ様は意識を失っていないのか、ゆっくりと体に力を取り戻していくと、小さく笑った。


「フフ……助けてくれて感謝する」

「何か可笑しいですか?」

「いや、初めて男に抱かれたが、案外悪くないなと思ってな」

「……はぁ」

「名を聞いてもよいか?」

「ワズです」


どうやら、理性を失ってただけで記憶はあるようだ。冷静に分析しているが、俺は自分の胸に押し潰されているナレリナ様の胸の感触に心臓バックバクですよ。意識取り戻して体に力が入ったのなら離れましょうよ。感じる胸の感覚にちょっと反応しそうで困る。俺は身動きが取れずどうしようかと考えていると「コホンッ」と咳払いが近くから聴こえた。咳払いに反応するようにナレリナ様はバビュンと俺から体を離す。顔を咳払いが聴こえた方へ向けると、そこにはサムズアップをしているナヴィリオが居た。その反応はどうだろうか。


「御心配をお掛けしました、兄上」

「それは私もだよ。お互いに無事、元に戻って良かったと今は喜ぼう」

「はい」

「ナヴィリオ兄様~~~!!!ナレリナ姉様~~~!!!」


……ん?今ナミニッサの声が聴こえたような。キョロキョロと顔を動かすとナミニッサがこちらに向けて走っているのが確認出来た。あれ?なんで居るの?ナミニッサの後ろにはオーランド達に、レライヤさんと数十人の冒険者達が護衛するように一緒に走っていた。ナミニッサを通すように騎士達は道を開ける。ナミニッサはそこを通ってこちらに辿り着くと、そのままナヴィリオとナレリナ様へと抱き着いた。


「無事、元に戻られて良かったです!!兄様姉様」

「心配かけたね、ナミニッサ」

「私もだ。ごめんね、ナミニッサ」


3人は互いの無事を喜びあっている。フロイド達や騎士達も一緒にやってきた冒険者達と手を取り合って喜びあう中、メアルは空中を「キュイキュイ」言いながら飛び、オーランドが俺の隣で同じようにこの光景を見ている。


「やったな」

「あぁ」


俺の目に映るのは、ナミニッサが涙を流しながらナヴィリオとナレリナ様に抱き着いている光景。3人は全員笑顔だ。


その笑顔が見たかった。

前へ次へ目次