前へ次へ
58/217

狙うは呪具

まず自分に注目させる事は出来たと思う。注目させるには理由があった。それは単純な理由。騎士団同士を戦わせないためだ。俺は自分に注目させる事で、騎士団対騎士団を俺対2つの騎士団にさせたかった。ナミニッサは騎士団同士が戦って傷付く事にも心を痛めていた。だから、俺は自らが騎士達の共通の敵になる事を選び、敵意を俺へと向けさせた。後は俺が騎士達を傷付けず、最小人数を無力化してナヴィリオ様とナレリナ様へ辿り着くだけだ。最小人数であるのにも理由がある。2つの騎士団に挟まれて中央に立った時に気付いた。この戦いを見ている者達が居る。悪意のような嫌な視線を感じたのだ。騎士達じゃない、ナヴィリオ様、ナレリナ様ではない、もちろん、ナミニッサ達でもない。視線を感じる方向はちょうどナミニッサ達が居る丘からボンド平原を挟んで反対側にある森からだ。おそらく、そこに居るのだろう。ナヴィリオ様とナレリナ様に呪具を渡した奴が、そして、あの赤い盾がトレードマークの集団が。多分、筋書は2つの騎士団を戦わせ潰しあった後、そこを叩こうとしていたのだろう。だから、この騎士団には戦う力を残しておいて貰わないといけないのだ。


一気に駆け出した俺がまず向かったのはナヴィリオ様の騎士団だ。ナレリナ様は理性を失っているだけだが、ナヴィリオ様は操られている以上、下手に手を出されないように先にナヴィリオ様から解除しなくてはならないと思った。向かう先に居る騎士2人を手早く各々片手で掴むと、そのままその騎士達を盾のようにして一気に陣形内へと走り、押し込んでいく。自分のSTRに任せた力業だ。


「はああぁぁぁ!!!」

ドガガガガガガガッッッッッ!!!!!


ナヴィリオ様が居るのは陣形の中央だ。俺は中央まで3分の1程進むと、掴んでいた2人の騎士を各々違う距離で空中へと放り投げた。走る勢いそのままに目の前に居る騎士の盾を足場にして跳ぶと、先程空中へと投げた2人の騎士の近い方へ向かい、その騎士の背中を足場に今度は遠くへ投げた騎士へと跳躍する。次の騎士は腹を足場にして跳び、陣形の中央付近へと降り立つ。


視線を前に向けると、そこには先程までの騎士達とは明らかに違う集団が居た。外見の違いはマントをしている事と剣盾鎧の装飾が違うぐらいなんだが、なんというか存在感が違う。歴戦って感じだ。目の前に居る騎士達が聖騎士なのだろう。聖騎士達は地上へと降り立った俺めがけ一斉に斬りかかってくるのに対し、俺は「悪いな……」と心の中で謝り、聖騎士達ですら反応出来ない速度で一気に近付くとーーー


ドッバアアアァァァァァッン!!!!!


死なないよう手加減した蹴りで一気に目の前の聖騎士達を押し飛ばす。聖騎士達の体勢が崩れ、目に映るのは赤い長髪の人物。おそらく彼がナヴィリオ様だろう。ナヴィリオ様は自らの剣を、自分へと突き立てようとしていた。周りの聖騎士達が止めようとしているが間に合わない。俺は瞬時に足に力を込め駆けた。間に合えぇぇぇ~~~!!!




俺が初めて全速力で駆けた瞬間


俺の目には世界は止まって見えた




正確には違った。俺はいつもようにとはいかないが、普通に歩くようには動けるが、他の人達は極々僅かしか動けていないのが分かった。俺は剣先とナヴィリオ様の体の間へと手の平を潜らせると、剣先が俺の手に触れた瞬間ーーー


バリィィィィッン!!!!!


剣身は砕け散った。さすが俺のVIT、手の平には傷一つ付いていなかった。俺はそのままナヴィリオ様の腕を取ると身に付けている腕輪を取り外し、力任せに握り潰した。


力を失ったように倒れようとするナヴィリオ様を後ろから支える。聖騎士達は俺に剣を向けてはいるが、様子を窺うようにその場に留まっていた。ほんの数秒程でナヴィリオ様は意識を取り戻すように「うっ」と呻き、体に力が戻っていくのが分かる。俺はゆっくりと支える手を離すと、ナヴィリオ様はきちんと自らの足で立ち、ゆっくりと俺の方へと振り返った。


改めて見るとナヴィリオ様はとても美しい顔立ちをしていた。綺麗に真ん中で分けられている赤い長髪は肩程まで伸び、透き通るような光沢を発している。目はナミニッサと同じで赤く、目尻は少し下がり、見る者に優しい印象を与える。ナヴィリオ様は俺を確認すると、ゆっくりと片膝をつき頭を下げた。えっ?ちょっ?なんで?


「ありがとう。操られている間も僅かながら意識はあったのだが、体が言う事をきかなかった。だが、そなたのおかげで私は呪縛から解き放たれる事が出来た。本当にありがとう」

「いや、ちょっ!!頭を上げて下さい!!王族の方に頭を下げられるなんて、居心地が悪いですよ」

「そうもいかん。たとえ王族だろうが、命の恩人に対し礼を欠いては人として恥だ」


すると、今度は聖騎士達が剣を納め一斉に片膝をつく。ちょ、ちょっと~~~!!!


「わ、わかりました!!わかりましたから、顔を上げて下さい!!まだ、戦いは終わってませんから」

「そうであったな。だが、改めて助けて頂き感謝する」


そう言ってナヴィリオ様は立ち上がり、優しい笑みを俺へと向ける。とりあえず、ほっと一息付いて真剣な表情でナヴィリオ様を見ると、俺が言いたい事が分かったのかナヴィリオ様も真剣な表情で頷く。


「次は……」

「ナレリナだな」

前へ次へ目次