突撃しろってさ
夜遅く俺達は人に見られないよう、こっそりとマイマの村へ入った。ナミニッサの指示する場所は村のはずれにあるボロ屋で、周囲に何もなく月明かりで照らされているため、隠れながら近付く事は出来ないようだ。現在俺達はボロ屋から一番近い木造家屋の影に隠れて様子を伺っている。
「見張りがいるな」
オーランドの言う通り、ボロ屋の扉の前に1人、周辺を歩いているのが2人居る。格好も全員同じで剣と赤い盾を装備している。オーランドはボロ屋の様子を確認し終わると完全に家屋の影に隠れてナミニッサに質問していた。
「ナミニッサ様が助けに行った時は、何人程の者が居たのでしょうか?」
「そうですね……10人は居たと思われます。ただ3人はワズ様が倒されましたので」
「残りは7人。見張りに3人居るから屋内に4人居る……ただ、応援が来てるかもしれないから、それ以上居ると思っていた方がよいでしょうね……」
おい、何故会話が終わると2人して俺の方を見るんだ。何かを期待するかのようにキラキラした瞳を向けるな!!はいはい、わかってますよ……行けばいいんでしょ……行けば……はぁ……
「じゃあ、俺が単独で行ってくるけど、何が起こるかわからないんだから、オーランドはナミニッサをちゃんと守れよ?」
「あぁ!!……悪いな、1対1ならいけると思うが、多人数戦となると、今の俺じゃまだ足を引っ張りそうで」
「気にすんな。お前はまだまだ強くなるよ。だから今は俺に任せとけ!!じゃあ、行ってくるわ!!」
ナミニッサは小さく「お気をつけて……」と呟いて何かに祈るような仕草を見せた。何に祈ってるんでしょうか?女神様?大地母神様?……やめよう。深く考えると本当に出会いそうだ……
俺は家屋の影から出ると、ゆっくりと歩いてボロ屋へ向かう。メアルにどっか行っとくか?と聞くと、離れまいとむしろ強く頭にしがみついてきた。
い・や・さ・れ・る~~~~~!!!!!
メアルを撫でながらボロ屋に近付くと、俺の行く手を遮るように見張りの3人が立ち塞がる。扉の前に居た男が俺に向かって、強めの口調で言葉を発する。
「止まれ!!」
3人の男達は腰に差してある剣に手をかけて警告してくる。
「ここに近付く事は許されない。そのまま後ろを向いて立ち去れ」
俺は警告を無視して、そのまま男達へと近付く。男達は剣を抜き俺へと向けると、殺意を隠そうともせず、即座に斬りかかってきた。
「警告はした」
そう言葉を発した男の剣は頭上からであり、メアルも殺そうとしてきたので、メアルを撫でている手を離し剣ごと殴った。剣は粉々になり男は吹っ飛んで、ボロ屋の壁を破壊しながら屋内に消えていった。俺は歩みを止めず、吹っ飛んでいった男の後を追うようにボロ屋の壊れた壁を見ている2人の男を即座に殴り飛ばす。仲間はずれは可哀想かと思い、先程の男と同じ様にしてボロ屋へと送ってあげた。そのまま歩きボロ屋の扉を開けようとするが、その前に扉が開き、格好は同じだが先程の3人とは違う3人が出て来ようとしたので、蹴り飛ばしてご退場願った。反対側の壁を破壊しながら飛んでいくのを見ながらボロ屋へと入ると、執事のような格好の若い男性とメイドのような服を着た若い女性が縛られて、2人の男にそれぞれ剣を向けられている。おっと、1人余分に居たか……
「何者だ貴様……」
剣を縛られているメイドさんに向けている男が聞いてくる。えっと……答えた方がいいんだろうか。俺がどう答えたもんかと悩んでいると、急にもう片方の男が倒れ、縛られていたはずの執事さんが縄を解いて服についた埃を払っていた。
「もう救援の方が来られてしまうとは……まぁ、聞くべき事は聴けたのでいいでしょう……」
「貴様ぁっ!!」
最後の1人が憤然と執事さんに斬りかかるが、その剣が執事さんを斬る事が出来る姿をまったく想像出来ない程、優雅に避けていた。避ける際の服の動きすら把握しているかのような動きに俺は自然と「お~」と拍手を送ると、執事さんは剣を避けている最中にも関わらず優雅に一礼してみせた。執事さんと男には明確な力量差がある事から、ふと疑問に思った。なんでそれだけの力を持ってるのに、この執事さんは捕まってたの?……考えている内に先程執事さんが言った言葉を思い出した。「聞くべき事は聴けた」……つまり執事さんはわざと捕まって情報収集をしていたんじゃないだろうか?多分そうなんだろうなぁ……そう思って見てると、執事さんはちらちらと俺に視線を送ってくる。なんだろう?……そこで思い出すようにメイドさんの方を見ると状況についてこれてないのか、縛られたままオロオロしていた。その姿が非常に庇護欲をそそる。俺はとりあえずメイドさんの縄をほどいてやろうと近付くとビクッとされた。味方ですよ~。
「ど、どなたですか?」
「えっと、助けに来ました。縄をはずすだけですので……はずしますよ……はずしますからね~」
信じてくれていないのか、はずす間もずっと訝しげな目を向けられた。泣いちゃうよ、俺。メイドさんの縄をはずすと俺の後ろへと促し隠すと、執事さんは満足したように頷くと、流れるような動きで剣を回避すると男の顎に1発入れて意識を失わせた。
執事さんがゆっくりとこちらへと近付いて一礼した。
「御助力感謝致します。風貌から推察すると冒険者の方でしょうか?」
「え、えぇ、Fランク冒険者のワズです。ナミニッサから依頼を受けてあなた方を助けに来たんですが……俺必要でしたか?」
「勿論でございます。大変助かりました。ありがとうございます」
感謝の言葉の時は執事さん、メイドさんが共に頭を下げてきた。その後は執事さんと共に部屋にあった縄を使って男達を縛りあげた後、ボロ屋を出てナミニッサとオーランドに合流し、ナミニッサが村長にボロ屋に男達が縛りあげられているので、王都の騎士団につきだして下さいと頼んだ後、村の宿屋へと向かった。