非公式な依頼は揉め事の予感
今、目の前に居る女性は自分の事を第2王女と名乗った。え?いやいやいや、まさか……嘘でしょう?俺は顔に左手を当て疑わしげな目を向ける。するとナミニッサと名乗った女性は優しい笑みから驚愕の表情へと変わり急に俺の左手を取ってまじまじと見てくる。え?何?どうしたの?女性に手を掴まれるなんて、俺これだけでドキドキしちゃうよ?
「この指輪は……アナタッ!!これをどうしたのですか?」
あっ、指輪ね。はいはい、わかってましたよ。何の理由もなしに俺の手を掴もうなんて人居るわけないよね……泣いてないよ……それぐらいわかってたもん……ぐすん……
「これは、盗賊が溜め込んでいた宝物の中の1つでその盗賊を討伐した際、報奨として貰った物ですよ」
「では、元々この指輪を持っていた方は……」
「おそらく既に……」
「……そうですか」
あの……事情は正直に話したのでそろそろ手を離して貰えないでしょうか?心臓がバクバクいってるんですが……
「その指輪は元々私がある情報を集めさせていた者に渡していた物なんですよ。もう片方の指輪はこちらに、ほらっ」
ようやく俺の手を離し、俺と同じ様にして左手の人差し指にはめている指輪を俺に見せてくる。やっと離してくれた……危なかったぁ~ 、心臓がもたないかと思った。
「ですが、諦めず救援を送り続けてよかったです。こうして助かったのも、この指輪のおかげ。本当にありがとうございました」
ギュッ!!
「い、いえ、お気になさらず、ナミニッサ様」
「ナミニッサでかまわないですよ。口調もいつも通りでかまいません」
「わ、わかった」
また手を掴む~!!やめて~!!ドキドキして落ち着かないからやめて~!!
今度は直ぐに手を離したのでほっと一息つくと、ナミニッサはオーランドの方へ向き直った。
「アナタ様が今お持ちの剣も私が授けた物です」
「そうだったんですか……お返しした方がよいでしょうか?」
「いえ、どうぞそのままお使い下さい。その剣は風の精霊の加護を受けているので、使用するとAGLの上昇補正が付きますよ」
「なるほど、通りで体が軽くなる感覚があったんですね」
オーランドよ、剣の事がわかってよかったね。けど俺はある事に気付いたんだよ。俺の事は「アナタ」だったのに、オーランドは「アナタ様」だって。おっと、ここにも格差が……
「あっ、ナミニッサ様に申し遅れてました。私はオーランドと申しまして、そちらの彼はワズと申します」
勝手に紹介されたよ。しかも、ナミニッサは俺の名前を何度も呟いてるし……そんなに俺の名前は覚えにくいですか?……えっと、もう泣こうかなぁ……
「それでお二方は冒険者でしょうか?」
「いえ、彼はそうですが自分は騎士になるべく王都を目指しております。彼は友人として自分と王都まで一緒に旅をしてくれているのです」
「なるほど……」
なんか勝手に話が進んでいっているんですけど……あれ?俺必要?この場に必要ですかね?特にする事もないのでメアルを撫でていると、ナミニッサは俺の方を向いて真剣な表情をつくる。
「ではワズ様。非公式ですが私からの依頼を受けて頂けないでしょうか?」
「えぇと……どのような依頼ですか?」
「私には兄と双子の姉がいるのですが、その2人を助けるため私に協力して欲しいのです。今は少しでも協力者が必要ですので」
「助けるというのは一体?」
「詳しい事は依頼を受けて頂ければお話しします。これはワズ様達を極力巻き込まないための措置と思って頂ければ」
う~ん……やっぱり揉め事かぁ……どうしようかな……力業で解決するならいいんだけど、政治的なものになるとさっぱりわからないしな……けど、わざわざ一介の冒険者にすぎない俺に頼むって事は単純に戦力が必要って事なんだろうか……けどなぁ……
俺はチラッとオーランド方を見てナミニッサに答えた。
「条件がある。オーランドはさっき言った通り、騎士になる事を夢見ている。いきなり騎士にしろってのは無理だろうから、せめてアイツに騎士になれるチャンスでも与えてくれないか?」
「おい、ワズ」
「構いませんよ。元よりオーランド様には、そのように提示して協力を仰ごうと思っておりましたから」
「……ナミニッサ様……ありがとうございます。不肖このオーランド、ナミニッサ様に協力させて頂きます」
「ありがとうございます。オーランド様」
なるほど。元々冒険者の俺には依頼として、オーランドには騎士になれるチャンスを与えて協力を仰ぐつもりだったのか。なら、オーランドのためにも手伝っておくか……
「なら、俺からの条件は特にないな。わかった。その依頼受けさせて貰うよ」
俺がそう答えるとナミニッサは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「では、報酬はオーランド様には騎士になるチャンスを与える事。ワズ様には『私』という事で」
「わかりました。ナミニッサ様」
「……」
え?このまま会話を流すの?いやいや、俺の聞き間違いでなければ、この人報酬を自分って言ったんだよ!!あれ?なんで普通なの?……あれ?もしかして本当に聞き間違ったのかな?……そりゃそうだよな。普通に考えれば報酬を自分なんて言う人居ないよな。そっかそっか。でもそうなると俺の報酬って何だったんだろう?まぁいっか、オーランドが騎士になれるかもしれないんだ。友達として無償で手伝ってやるか。