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出立

オーランドを鍛えるーーーと言っても素振りとか俺へと斬りかからせ、隙っぽい所があると軽く叩くぐらいだけど。だって俺剣術わからないしーーーそういう事を繰り返しているとわかった事がある。オーランドは感覚的な天才であると。特に何かを教えた訳ではないのに、何度か立ち会いをしていると急に「わかった!!」と言い、何度か素振りをした後、再び立ち会うとたしかに剣筋が良くなっているのだ。それを何度も繰り返すとオーランドの実力はBランク冒険者の上位ぐらいには上がっていると思われた。Aランクの『黒炎』とまではいかないが、それに近い剣術レベルにはなっていると思う。まぁ、俺の体感した感じだけど。


現在オーランドは大の字で平野に寝転がっている。かなりの時間やっていたから、大量の汗をかき、大きく呼吸をしている。俺はオーランドの横でぼ~っと座っている。


「はぁ……はぁ……なんで、あれだけ……動いてん……のに、汗1つ……かいてない、んだよ……」

「まぁ、お前とは根本的に強さが違うからな」

「はぁ……正直に……言いすぎだ……はぁ……」


だいぶ日も暮れてきたし、オーランドが落ち着いたら帰るか。メアルやケーラさん達にも心配かけたから、帰ったらちゃんとお礼言わないとな。


「……なぁ」

「ん?」

「俺さぁ……騎士になれるぐらい強いかな……」

「なれるんじゃね?今の強さなら」

「そっか……」


充分強いよ。そこら辺の騎士よりよっぽどな。


「……よし!!決めた!!」


オーランドがガバッと起き、俺を見る。


「俺、騎士になるために王都マーンボンドに行くよ!!」

「お~、頑張れ~」

「でだ、良ければ俺と一緒に王都に行かないか?」


……王都か。たしかにリニックの街にこのまま居続けてもなぁ……俺は考え込むように空を見る。ちらっとオーランドを見ると真剣な表情でこちらを見ている。本気のお誘いのようだ。まぁ、オーランドはいい奴だし折角出来た友達だし、このまま「はい、さよなら」ってのもなぁ……


俺はオーランドに向き直ると


「じゃあ、着いてこうかな。オーランドが騎士になる姿でも見に」

「そうか!!おうおう、見せてやるよ!!俺の騎士姿をな!!」

「いつ行くんだ?」

「実はもう準備は出来てるんだ。決心だけがなかなかつかなくてな……出来れば直ぐにでも行きたいんだが?」

「俺はいつでも構わないよ。特に持ってくもんもないし、お世話になった人への挨拶くらいかな」

「じゃあ、明日は挨拶周りにして、明後日の朝出発って事でどうだ?」

「それでいいよ」


オーランドは立ち上がると「よっしゃ~!!やってやんぜ~!!」と叫びだした。


「じゃあ、歩きで行こうな。王都に着くまでの間、徹底的に鍛えてやるから」

「……お、おぅ……やってやんぜ……」


明らかに落ち込んだな。大丈夫。一切手は抜かないから安心しろ。


俺達は準備のために街へと帰った。宿屋に着くと、ケーラさんとルーラさんに「もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」と頭を下げると、ケーラさんにバシバシ肩を叩かれ、「若いうちはいろいろあるさね」と豪快に笑っていた。それと、明後日にはこの街を旅立つ事を伝えると、「寂しくなるねぇ」と別れを惜しまれつつ、明日の夜は豪勢な料理を作ってくれると言われた。ありがとうございますと、また頭を下げ部屋へと戻るとメアルが居たので、同じように感謝を述べ、頭を下げるとフンッとなんかどうだみたいな顔をされた。いや、お前のお陰じゃないんだけど……まぁいっか。その後、街を出る事を伝え、明日は挨拶周りと必要な旅支度をするためにメアルにも着いて来て欲しいと言っておいた。旅支度品は全部メアルの時空間魔法に入れるつもりだ。


翌日はこの街で知り合った人達に旅立つ事を伝え、露店からは大量の料理を買っては時空間魔法に入れて置いて貰った。つまみ食いはしてもいいけど、食べ過ぎるなよ、とメアルに注意しておく。そして挨拶周りの最後として冒険者ギルドへと立ち寄った。エマさんを初めギルド職員からは「貴重な戦力が~~~!!!」と言われた。え?気にするのソコ?そのままギルドマスター室へと入りレーガンにこの街を出る挨拶をする。


「そうか、行っちまうか」

「あぁ、世話になったな」

「まっ、気にすんな。むしろ、こっちがお前の世話になったようなもんだしな。だからこれは餞別だ」


そう言ってレーガンは俺に小さな何かを投げ渡す。俺は掴み取り確認すると、それは小さなバッジだった。丸い世界に風が流れ光輝いているような感じのデザインが施されている。


「そいつは冒険者時代の時にパーティーメンバー全員が持っていた印でな、そいつを冒険者ギルド王都本部のマスターに俺の名前と共に示せば便宜を取り計らってくれるぞ。多分な……」

「本部のマスター?知り合いなのか?」

「……俺の姉だ。性格最悪のな」


レーガンがその姉を思い出したのか嫌々そうな顔を浮かべている。そんな人を俺に紹介しようとしてるのか……


「まっ、たまには戻ってこいよ?」

「えぇ、ですがその前に勝手に俺の事を話した事で、とりあえず1発殴っていいですか?」

「……(ダッ)」


レーガンが窓から逃げようとしたので即効捕まえて軽く1発殴っときました。これで何の憂いもなく旅立つ事が出来る。そのまま宿屋へと戻り、昨日の言っていた通り豪勢な食事を頂きました。




翌日、俺とオーランドは早朝に門で集合していた。メアルは俺の頭の上で眠っている。この場には見送りにレーガン・ケーラ夫妻とルーラやエマさん夫妻、他にもこの街で知り合った人達と、オーランドの職場仲間ってぽい兵士や知り合いも居た。皆口々に「ありがとう~」や「頑張ってこいよ~」等、激励をかけてくれる。その激励の雨の中、俺達は王都に向け旅立った。

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