<< 前へ次へ >>  更新
37/217

それは突然自覚する

ギルドカードをしまい身仕度を整え、メアルを頭の上に乗せると下の食堂へと降りていった。ちょうどケーラさんがテーブルを拭いている最中だったので、昨日どうやって俺が帰ってきたかを聞いてみると、普通にレーガンが乗っている馬車に乗せて連れてきたと教えられた。レーガンからの話によると、ずっと眠り続け、何をやっても起きなかったらしい。何をやって起こそうとしていたかは問い質しておかないといけないな。それと、起きてきたらギャレットさんの館に行けとレーガンから伝言を頼まれていたそうで、俺は宿屋でメアルと一緒に昼食を食べ終え、メアルにこれからギャレットさんの所に行くと伝えると、やれやれこれだから男は……みたいな眼と雰囲気で俺を見ると、ふぅ……やれやれって仕草をしてルーラの所へと飛んでいった。どこで覚えたんだろうか……是非とも教えた奴に会って文句を言いたい。その後、俺は宿屋を出てギャレットさんの館へと赴いた。


館へと辿り着くと、ギャレットさんは不在だったようだが、いつものように話は通っていたのか、いつもタタさんと会っていた部屋へと案内されタタさんが来るのを待つ事になった。タタさんも昨日と同じように外せない用事があるらしく、しばらく待つ事になった。昨日と違って体調も万全なので寝る事もなく、用意されていた紅茶を飲みながら待っていると、バタバタと廊下を走る音が響いたかと思うとこの部屋の前で止まり、勢い良く扉が開かれた。


「ワズさんっ!!居られますか?」

「………………」


俺はタタさんの登場に言葉を失った。だって……バスタオル1枚しか身に付けてないんだから……えぇ?ちょっ!!!えぇ?何がどうなってんの?俺には刺激が強すぎるその光景に激しく動揺して、持っていた紅茶のカップがするりと手からこぼれ落ちそうになるが、寸前で正気を取り戻しなんとか落とさずに済んだ。俺は空いている方の手で自分の目を覆い隠して叫ぶ。


「ちょ!!タタさん!!服!!服着て下さい!!」

「え?………………し、失礼します!!」


バタンと勢い良く扉が閉まる音がしてから俺はそっと辺りを見渡し、タタさんが居ない事を確認するとホッと一息ついてカップをテーブルに置いた。危なかった。まだ心臓がドキドキ脈打っている。そりゃそうだよな、好きな人のあんな姿見たら……好きな人?


……そっか、俺タタさんの事好きなんだ。いつの間にか惚れてたんだな、そりゃあれ程魅力的な人だもんな。けど、自覚すると心の中が妙にスッキリした。あぁ、好きなんだなぁってタタさんの事を思うと幸せな気持ちが溢れてくる。タタさんも俺の事を好きになってくれるといいなぁ……


自分の気持ちを自覚し、ポワポワしているとタタさんがこちらを窺うように静かにゆっくりと部屋へと入ってきた。今度はちゃんとドレスを着ている。それでも俺の心臓はタタさんを見ただけでドキンッと跳ねた。

タタさんは俺に近付いてから、ゆっくりと少し頭を下げた。


「お待たせしました。それと、先程は失礼しました」

「い、いえ……」

「それに以前助けて頂き、ありがとうございました」

「と、当然の事をしただけですから」


うぅ、顔が熱い。タタさんがゆっくり顔を上げ微笑む。くっ、素敵すぎる!!心臓が掴まれたような感覚だ。自覚するとこうも違うのか。今日心臓がもつだろうか……


「昨日はびっくりしました。部屋へと入り眠っていると思ったら、苦しそうな顔をされておりましたので。もう大丈夫なんでしょうか?」

「だ、大丈夫です。もういつも通りに戻りましたので」

「そうですか……なら……」


おや?なにやらタタさんが纏う雰囲気が変わっていってるような……


「正座して下さい」








「……は?せいざ?……せいざって何ですか?」

「こう、膝を折り曲げて座る姿勢の事です」

「……えっと、何故そのような事を?」

「最近南の王都で説教の時は、そのようにすると御客様がおっしゃってましたので、そのようにしようかと思いまして」

「えっと……何故説教?」

「私を今まで心配させていた罰です」


そう言われると何も言い返せない。実際心配させていたのは事実みたいだし、俺は黒い笑顔のタタさん指示の元、正座し説教を甘んじて受けた。






まだ終わってませんよ。説教中です。いや~終わりが見えません。というか、さっきからなんか足が痺れてるような気がするんですが……ん?今地震が起きた?………気のせいですかね。しかし、タタさんは説教に夢中で気付いてないみたいだけど、なにやらまた部屋の外から騒々しい音が聴こえる。「気を付けろ」とか?「行かせるな」とか?なんなんだろうか?そして、誰かがこの部屋に近付いてくる音がする。すると、この部屋の扉が勢い良く開かれた。そこから高級そうな衣服に身を包んだ、お腹がでっぷりと出た化物が入ってきた。そいつはタタさんを見ると醜悪な笑みを浮かべた。更に印象的なのは、そいつは背中から羽を生やし、目の白い部分が怖い黒く赤い目をしている事だ。タタさんはそいつの顔を確認すると驚愕していた。おいおいまさか……


「ミツケタゾ!!タタァ!!!」

「なっ!!何故ここに!!」

「オマエハワシノモノダァ!!」


俺は即座に立ち上がりタタさんの前に立つ。


「ナンダキサマハ!!ジャマスルナ!!


ワガカゼハ イノチヲカリトルカマ」


目の前の化物が魔法を唱えると鋭い風の刃がいくつも俺に飛んで来る。俺はそれを弾き飛ばそうとしたが、足が痺れバランスを崩すと風の刃をもろに受け、そのまま窓から館の外へと飛ばされてしまった。


外へと飛ばされた俺は空中でなんとかバランスをとり地面に着地すると館から破裂音が鳴り、音の方に顔を向けると館の天井を破壊した醜男がタタさんを捕らえて飛びさって行った。俺は急いで館の中へと戻ると、応接間には激しい戦闘の跡があり、中央には縄で縛られている奴が何人も居た。


「ワズか!!タタはどうした?」


槍を持っているギャレットさんが俺に近付いてくる。帰ってきてたのか。


「変な化物に拐われました」

「ちっ、あのクソ領主……やってくれたな!!急に化物へと変貌したと思ったらタタを連れ去ったのか」


俺はギャレットさんに化物が跳んでいった方角を教え、その方向に何かないかを訪ねると答えは直ぐに返ってきた。


「その方角にはクソ領主の屋敷があるな。おそらくそこに向かったんだろう」


屋敷の詳細を聞いた俺は即座に駆け出した。後ろからギャレットさんの声が飛ぶ。


「俺達も直ぐに向かう!!おそらく護衛がわんさか居るはずだ!!無茶すんなよ!!」


さぁて、さっさとぶっ飛ばしてタタさんを助けますか。

<< 前へ次へ >>目次  更新