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大抵、邪魔者は現れる

数日後、俺は約束通り再びギャレットの館を訪れた。メアルは俺が行く事を伝えると、器用にため息をつき、やれやれと感じさせる仕草をすると、ルーラと遊び出したので、そのまま宿屋に預けている。館に着くと警備の人も快く通してくれたが、1人の猫の獣人女性は俺の事を強く睨んでくるので、そちらの方を見ると俺の視線に気付いたのか、そのまま館の中へと消えていった。あれかな?やっぱこのような所に来る奴は嫌いって事かな……


そのまま館に入り受付で自分の名前を名乗ると、既に話は通されていたのか、奥の部屋へと案内された。


部屋の中は少し薄暗く、よく見てみると青を基調とした壁や調度品もそれに合わせてあった。鼻に届くのは少し甘い匂いだった。そのまま部屋を眺めているとタタさんがゆっくりと入ってきた。


「お待たせしました。約束通り来ていただいて大変嬉しく思います」

「い、いえ……」


タタさんが俺が座っているソファーの対面に座る。う~……なんかまだ緊張するんだよなぁ……上手く言葉が出てこないです……俺が顔を真っ赤にして俯いていると、タタさんがおもむろに服を脱ぎだそうとしている。


「いやいやいや、何やってんですか?」

「え?何ってお互いを知るために体を重ねるんですよね?」

「ち、違います!!そうじゃなくて、まずは会話からじゃないかと」

「えぇ、私もそう思いますよ」


はっ?俺はポカーンとタタさんを見たまま固まってしまう。すると、くすくすとタタさんが小さく笑う。


「やっとちゃんと私を見てくれましたね。少しはここに慣れましたか?」


どうやら俺のガチガチの緊張を解そうと悪戯をしてきたようだ。俺は敵わないなと頭を掻いてタタさんに改めて向き直る。


「では、何をお話ししましょうか。そうですね、まずはこれからですね。私はこの街生まれ育ってきました。この度は街を救って頂き本当にありがとうございました」

「い、いえ。けど、そう面と向かって言われると嬉しいです。救えてよかったと思います」


そこからは少し気を楽にして話が出来た。俺は自分の出身やこの街に来てからの事なんかを話した。さすがにアリアやサローナさん、山での生活辺りの事は言わなかったが。タタさんから自身の境遇を話されたのには焦った。どうやら父親の借金返済のためにここで働いているという話で、場の空気が少し暗くなったが、ただここに来た事に後悔はないとも言われた。「ここの皆は、とても優しいですから」と微笑まれた時は、俺はどう言えばいいのかわからなかった。わかったのはタタさんから感じる雰囲気と表情には、俺の同情をひくために嘘をついているようにはとても見えなかった事だけだ。この少し暗い雰囲気は「はい!じゃあ、この話はこれでもおしまいです」と両手をパンッと合わせたタタさんの笑顔によって終わり、この後は、この街の名物や名所等をタタさんに教えてもらった。今度メアルを連れて行こうと思う。話をしている内に緊張感はほぼなくなり、自分なりに楽しく会話が出来たと思うのだが、何やら部屋の外が騒々しい。喚き散らすような声が聴こえる。タタさんもそれに気付いたのか、部屋の外を伺うように顔を扉の方へと向ける。


「いいから出せよ!!ここにタタっていうすんげぇ美人が居るんだろ?そいつに俺達の相手をさせてやるって言ってるんだ!!さっさと連れて来いよ!!」

「ですから、ここはあなた方のような、力で押しきるような方はお断りしているとーーー」

「あぁ!!うるせぇなぁ!!この店潰してやろうか?俺達はAランク冒険者様だぞ!!」


ドガァーン!!!


話し声の後、何か物が壊れるような音が聴こえた。タタさんはその音に反応して血の気が引いたような青い顔をして、急いで部屋から飛び出していった。


「おっと、悪いなぁ。まさかそんなに飛ぶとは思わなかったんだよ。しっかしよえぇなぁ。あっ、なんだったら、俺達がここの警護してやろうか?その代わり毎晩俺達が求めたら女共は股を開けよ!!」

「おぉ、そりゃあいいな!そうしようぜ!おら、さっさと責任者呼んでこいや!!ついでに、ここの経営も俺達がやってやるよ!!ギャハハハ!!!」


俺はタタさんが出ていった開け放ったままの扉を見て、ため息をつくと立ち上がり、声が聴こえる方へと足を向け、タタさんを追った。まったくAランクってのはバカしか居ないのか……


「私がここの責任者のギャレットだ。君達のようなバカ共にここでの居場所等はない!そうそうに出ていきたまえ!!」

「あぁん?どうやら俺達の実力をわからせた方が話が早いみてぇだな」

「ギャレットさん!!!」

「おっと、すんげぇ美人ちゃん登場!!よし、今日は君に決めた!!ほら、俺達の相手をさせてやるからこっちに来いよ」

「きゃっ!!離して下さい!!」

「やめろ!!お前達!!」

「うっせぇおっさん!テメェは引っ込んでろ!」


ドガァン!!


再び破壊音が鳴り響いた時、俺は騒ぎが起こっている応接間へと着いた。応接間にあった机や椅子は壊れたり散乱しており、左右の壁にはそれぞれ殴り飛ばされたのだろうギャレットさんと強面さんが倒れていた。中央には先程から騒いでいた冒険者らしき風貌をしているのが2人。それを囲むように警護の人達やお客さんらしき人もちらほら見える。猫の獣人女性さんも見える。キツイ目で一点を凝視しているようなので視線を追うと、タタさんは既に奴等に捕まっているのが見えた。


「ギャハハハ!!たしかにコイツはすんげぇいい女だ!!よし、俺様の女にしてやろう!!」

「おいおい、ずりぃぞ!!俺にも寄越せよ!!」

「わぁかってるって!!じゃ、まずは俺様の女の証として、お相手して貰おうかな!!」

「お断りします!!離して下さい!!」


タタさんが暴れて振りほどこうとしているが、奴等から逃れる事は出来そうもなかった。


俺はふぅ……と息を吐いた。


瞬間、奴等の腕の中からタタさんの姿は消え、俺の腕でお姫様抱っこされていた。


「まったく……無茶しすぎですよ、タタさん」

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