前へ次へ
20/217

これがAランクだと……

多くの観客が見守る中、中央には俺と『黒炎』の3人が対峙し、ハゲがその中に立っている。『黒炎』の3人は俺の方をニヤニヤと気持ち悪い笑みで見ていると、赤髪が一歩前に出てきた。


「おいおい、まさか本当に俺等とやるつもりか?聞いたぜ、お前成り立てFランクなんだろ?やめとけやめとけ。今なら臆病者って称号だけで、怪我しなくて済むぞ?」


俺は赤髪の言葉を聞くと、視線を斜め下に向け大きく息を吐いた。何言ってんだコイツ。やるつもりだからここに居るのに。馬鹿だからそれがわからないのだろうか。


「ほれ、もうお前等の意志は確認しとる。観客も待っとるから、さっさと準備して距離を取れ」


しっしっと俺達に距離を取れと雑に指示をとばす。そのまま指示に従い距離を取ると、ハゲは俺達を交互に見て、大きく手を上げるとーーー


「双方、命までは取るなよ!!はじめっ!!」


大きく手を下げ、後方に距離をとった。

それを目で追っていた俺は視線を前に戻すと緑髪が槍を構えて迫っていた。


「じっくり、たっぷりその身にAランクの恐怖を刻んで、その生意気な態度を教育してやるよ!!」


喋りすぎじゃないだろうか。そんなに喋る余裕があるならさっさと距離をつめて、槍を突いてこいよ。俺がひょいっと槍を避けると今度は赤髪が剣を構えて斬りかかってきた。


「チッ……」


赤髪が舌打ちをする。おそらくだが、緑髪の槍を軽く避けた事で、俺にFランク以上のある程度は回避能力があると思ったのだろう。攻撃にフェイントを混ぜてきたが、それでも当たらない攻撃にイライラしている。緑髪も加わってくるが、それでも当たらない。当たる訳ないじゃん。そんな遅い攻撃で。しばらくは続くと思われた挟撃だが、2人同時に俺から飛び退いた。どうした?


「我が火は 無数の旋律なり」


その言葉が聞こえると、たくさんの小さな火の玉が俺に向かってきた。そう言えばもう1人居たな、すっかり忘れてたよ。俺は迫りくるたくさんの火の玉を「ほっ」と言って空を殴ると、その風圧で火の玉は全て消失した。金髪はその光景に唖然とし、赤髪は俺を睨み付けて小さく呟いた。


「何をした?……魔法……いや、スキルか……」


いえ、ただ殴っただけです。

これで大体の編成はわかった。赤髪は剣と緑髪は槍で前衛、金髪は魔法使いで後衛か。典型的だな。俺がそう奴等を分析しているとーーー


「しょうがねぇ、本気でいくぞ!!不明スキルを相手にしているとはいえ、Fランクに負ける訳にはいかねぇ!!いいな?ゼッカ!ホームラ!」

「わかったぜ!グレン!」

「仕方ないな……わかったよ」


おぉ、そう言えば奴等の名前を知らなかったな。今の感じでいくと、赤髪がグレン、緑髪がゼッカ、金髪はホームラか……ふむ、覚える気がさらさら起きない。今まで通りでいっか。


さて、ようやく本気を出してくれるか。

やっと目的が果たせそうだ。俺が奴等を挑発し戦いを挑んだのには、ある目的があった。


それは、自分の実力を知る事だ。上位冒険者であるAランク相手に通用するかの確認が必要だからだ。戦闘向きのスキルを持ってないし、ステータス文章だしね……1つの基準を作ろうと思ったのだ。どこまでやれるのかを。魔物相手には通用するが、いざ、人と相対した時、通用するのかを知りたかった。人には魔物にはない魔法とスキルがある。その辺りが自分のステータスにどこまで迫ってくるのかを調べたかった。……のだが、どうやらやはりと言うか、なんと言うか。これまでの戦闘?でわかった事は、おそらく奴等が本気を出そうが出さまいが意味は無い。って所だろうか。俺は奴等との圧倒的な差を感じていた。魔法だろうがスキルだろうが、そんなものあってもなくても無意味と思える程の差を。



俺を囲むように立っていた奴等は「ハアアァァ」と言いながら力を溜めているようだ。え?隙だらけなんですけど、今殴っちゃダメですか?


「後悔するんだな!俺等に喧嘩を売った事を!!」


赤髪が斬り結んでくる。先程よりも段違いの速度だが、俺にはすごくゆっくりと迫ってくるように感じる。剣を振るうが、俺はゆっくりと剣先の動きを確認しながら避ける。後ろから槍が迫ってくるが、それを指先1つで軌道を逸らす。剣と槍の連携攻撃が始まるが俺にはかすりもしなかった。


「くそっ!!何故当たんねぇ!!俺の剣術スキルはLv.7なんだぞっ!!」


へぇ、たしかスキルLvの最大って「10」だから、結構高いんだな。そのまま避け続けていると、赤髪と緑髪は唐突に攻撃をやめ、俺から距離を取ると金髪と合流し、3人が1列に並んだ。


「ホームラ、準備は出来たか?」

「いつでもいけるぞ!!」


おっ?何やら決めにくる予感。なら俺も最後の確認をするか。最後の確認は簡単だ。攻撃をわざと受ける。それだけ。自分の頑丈さの確認だ。


「我が剣は 力在る炎なり」


赤髪の剣が炎に包まれる。おぉ、アイツ魔法剣士だったのか。いいなぁ、カッコいいなぁ。


「いくぞっ!!」

「我が前に立ちし物に 闇を」


赤髪の掛け声に金髪の魔法が発動し、辺り一面に強烈な閃光が広がる。目眩ましか。俺は咄嗟に目を手で隠すと、赤髪が迫ってくる気配を感じる。俺はそのまま赤髪の横一閃の斬撃を受け止める。パキィーーン。ん?今、何か折れる音が?と考えていると、今度は緑髪の槍が来る。


「燃えろ!!炎槍!!」


お前もか!!と思ったが、どうやら槍自体の仕掛けらしく、槍の先から火炎が吹き出し、俺を包む。


「我に聞こえるは 破壊の吊り鐘」


トドメとばかりに金髪の魔法が発動する。俺の周囲一帯が炎の爆発を繰り返す。


「へっ!!これが俺等『黒炎』の必殺技

トリプル」

「ファイヤー」

「アタックだ」


地面は焼け焦げ、黒い煙が空へと上っていく……







俺は煙の中で自分の体を確認していた。

あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、傷1つついていない。まったくの無傷どころか、攻撃の衝撃すら感じなかった。熱いとすらも。


「なっ!俺の剣が折れてる!!」


煙の外から聞こえた声に俺は自分の服を確認するが、1つも破けていないし切れてもいない。もちろん、燃えてもいなかった。よくよく考えてみると、この服は山の魔物で作ったもの。つまり、全素材の元がSランクであるという事。そりゃ奴等の攻撃程度じゃ傷もつかないわな。


もういいか。俺は自分の異常な強さを改めて確認すると、もう終わらせる事にした。




煙が晴れ無傷の俺を奴等が確認すると同時に超速の動きで3人を殴り飛ばした。もちろん、きちんと手加減したので、3人はちゃんと生きている。気絶はしてるけど。


ハゲが3人の無事を遠目に確認すると、俺の勝利を高々に宣言した。

前へ次へ目次