宿屋道
「あの……どうかされましたか?先程からため息をついたり、虚空を睨み付けたり、ため息をついたり……カードに何か不備がありましたでしょうか?」
受付嬢さんの言葉で我に返る。そうだった。まだここはギルド内だった。どれくらいここで固まっていたんだろうか。
「すいません、大丈夫です。何も問題はありません。ちょっとステータス確認をしていただけです」
「そうですか。たしかに、自分のステータスを確認するのは大切ですからね。ワズさんは冒険者になったばかりですし、ステータスをきちんと確認して、実力にあった依頼を受けて下さいね。自分の実力を過信すると死に直結するのが冒険者ですからね」
「ははは……気を付けます……」
何に気を付ければいいのかは、わからないが……
そこでふと自分の強さはあの山で作られたものだ。だけど、自分はあの山の事をよく知らない。ここは、山からも程々近い。なら、山について何か知ってるんじゃないかと思った。
「えっと最後に1つ聞きたいことがあるんですが…」
「はい、何でしょうか?」
「外に見えるあのでっかい山って何ですか?」
俺の質問に受付嬢さんは信じられないモノでも見るように俺を見ている。
「え~と……本当にあの山の事を知らないんですか?」
「はい。だから教えて下さい」
「…………わかりました。生きていく上で絶対に必要な事なので決して忘れないで下さいね」
そうして聞いた山の事は俺にとって衝撃だった。異常気象でしたね……Sランクの魔物だったのか……俺……そんな所で生きてたの?嘘だろ……だけど、生き残った理由に1つ思い当たるものがあった。スキル「女神の同情」だ。多分、そのスキルで守られてたんだろうなぁ……そして、環境に適応して「状態異常ほぼ無効」に、何でも食べてたから「極食人」、さらにSランクの魔物達も食べてたからステータスがおかしくなったんだろうなぁ……これが俺の強さの流れか……今、生きてんのは女神様のおかげか……
「……と、大変危険な山なので絶対近付かないで下さいね。……聞いてますか?」
やばっ!!考え事と女神様へのちょっとした感謝をしてた。受付嬢さんが青筋を浮かべている。
「は、はいっ!!ちゃんと聞いてました!!近付かないようにします!!」
「そうして下さい」
俺はありがとうございましたと一礼してギルドを出た。ステータスやら山の事実やらで少し疲れを感じたので、俺は教えられた宿屋でもう休もうと思い、そのままギルドの対面にある「風の光亭」へと足を運んだ。
風の光亭は2階建ての家屋3つ分くらいの横幅がある木造の建物だった。きちんと手入れがされているようで、傷んでる箇所等は見当たらない。普通にいい宿屋だと思う。俺はふむ……と頷くと中に入った。
「いらっしゃいっ!!風の光亭にようこそ!!」
俺が中に入ると威勢のいい女性の声が飛び込んできた。声をかけてきた女性はおおらかさが顔に表れている恰幅のいい薄い茶髪の女性で、カウンターの掃除をしている最中だったようだ。カウンターの右には上に続く階段と食事が出来るようにテーブルと椅子が何組もあった。
「1人かい?食事かい?それとも宿泊?」
「宿泊なんですが、1泊いくらでしょうか?」
「1泊2食付きで銀貨2枚だけど、アンタここら辺じゃ見ない顔だね?冒険者かい?」
「あっ、はい。ついさっきなったばかりですけど」
「そうかい。なら今日はタダでいいよ!冒険者になった記念のサービスだ!」
「えっ?いいんですか?」
「いいんだよ!私らだって元冒険者でね、最初の方の苦労は知ってるからさ!だから、遠慮せず泊まっていきな!!」
「ありがとうございます」
俺は素直にお言葉に甘える事にし、頭を下げた。だって、異常な力を持っていても今お金が心許ないからね。
「ルーラ!!お客さんだよ~!!アンタは、この宿帳に名前を書いとくれ」
そう言って宿帳と羽ペンを渡され名前を書き終わり宿帳を返すと、カウンター奥から小さな女の子が現れた。
「いらっしゃい!!えっと…………ワズさん!!ようこそ、風の光亭へ!!はじめまして!!私はルーラ!!現在13歳のいずれ宿屋道を極める女の子です」
宿帳で俺の名前を確認し、ぺこりと頭を下げ、花が咲いたような笑顔でルーラと名乗る茶髪で可愛らしい女の子が快活に話しかけてきた。
………………宿屋道って何?
「あっはっはっはっ!!そう言えば自己紹介が済んでなかったね。私はケーラ。ここの女将さね。そんで、旦那はここの料理を作ってて、ルーラは私の娘で今はお手伝いといった所かね。宿でなんか困り事があったら、私かルーラに言っとくれ」
「お任せください!!どーんと!!……ケホッ」
そう言ってルーラは自分の胸を叩いていた。
強く叩きすぎたのか、ちょっとむせていた。
「…………じゃあ、さっき言った宿屋道って何ですか?」
「いい質問ですねっ!!!!!」
ルーラがキラキラと顔を輝かせながら、ずずいっと近寄ってきた。そして、人差し指を立てる。
「いいですか、宿屋っていうのはただ食事と寝床を提供するだけじゃダメなんです!!そんなのは三流の宿屋です!!そして、上手い食事と綺麗な寝床を用意するのが二流。一流の宿屋はさらに施設も立派になり、サービスも充実します!!ですが、超一流となるとーーー」
「はいはい、お客様が困ってるじゃないか。さっさと部屋に案内しな。部屋は2階の一番奥を使いな」
俺は諸手を上げて降伏していた。
それを見たケーラさんが部屋の鍵をルーラに投げ渡して助けてーー
「じゃあ、部屋に案内しますので、それまでの間にも宿屋道の続きをお聞かせしますね!!」
いや、助かってませんけど~!!
俺は覚悟を決めて、部屋へ案内しながら宿屋道を饒舌に語るルーラの後を着いていった。
ケーラさんはそんな俺を苦笑いで送り出してくれた。