第98話 エリアボスのザリガニ 後編
「さっさと離してくださいよ! えい! えい! えいやー!」
尻尾に挟みついたザリガニを、崖の岩壁に叩きつけていく! うぅ、でも離してくれない! というか、ザリガニが尻尾を挟んでるのは分かるんだけど、正確な位置が見えないから岩壁に当たってるのかもよく分からない!
「これ、当たってますかねー!? というか、いつまで威嚇の赤い光が出たままなんですかねー!?」
チラッとライオンの尻尾の方から伸びてるザリガニのHPゲージで大雑把な位置を確認するしかないけど、ゲージ自体も動いてるから余計に分かりにくい! でも、叩きつけるのを止めたら私がダメージを受けるだけなのさー!
それにしても、ザリガニから赤い光が表示され続けているのが地味に鬱陶しい! こんなものを格上以外から使われ続けたら、そりゃ攻撃しに行きたくなるよ! 格上から使われたら逃げたくなるよ! まぁ私が使うのを止める訳じゃないけど!
真実とは何か : 威嚇は鬱陶しい。それが真実である。
ミツルギ : 岩壁には当たったり、当たらなかったり、微妙な感じだな。
ミナト : でも全く無意味じゃないから、ザリガニが離すまではそのままの方がいいよ。
咲夜 : おっ、離したっぽいぞ。
イガイガ : ん? 朦朧が入ったか?
「え、本当ですか!?」
ザリガニからのダメージが無くなったから離したのはほぼ確定だと思うけど、ここで朦朧が入ったなら大チャーンス!
あ、ひっくり返ってピクピク動いてるけど、起き上がる気配はないよ! ふっふっふ、さっきの咆哮が外れた代わりに朦朧になってくれたね!
「これを逃す手はないですね! 『爪撃』!」
よし、爪が見事にザリガニに刺さって切り裂いた! このまま朦朧が入ってる間にどんどん追撃していくぞー!
「更に『連爪』! って、えー!? そんなのありですか!?」
ちょっと待って! ちょっと待って! ちょっと待って! 連爪の3撃目を爪で挟んで止めるってどういう事!? というか、朦朧が回復するのも早い!?
ザリガニとライオンじゃかなりの体格差があるのに、どういう力をしてるの、このザリガニ!? うぅ、これはゲームだからこそだよね!?
咲夜 : まさかのザリガニのハサミによる真剣白刃取り。
いなり寿司 : 今の段階であんなスキルあったっけ?
G : さぁ?
神奈月 : 覚えがないな?
イガイガ : 同じく。おい、カンニング・ミツルギ、出番だぞ! 調べてこい!
ミツルギ : その呼び方はやめろ!
富岳 : これは相当珍しいが、普通にサクラちゃんのライオンの爪を、ハサミで挟んでるだけだな。
チャガ : 押し負けてないから、スキルは使ってるだろうがな。
ミナト : サクラちゃん、絶好のスクショチャンスだよ! これ、とんでもないレアシーン!
「これ、レアシーンなんですか!?」
なんだかコメント欄の皆さんも珍しいものを見たって反応だし、これはミナトさんの言うようにスクショを撮って――
「あー!? 撮り損ねました!? でも逃がしません! 『体当たり』!」
うぅ、折角スクショを撮ろうとしたのに、その瞬間に離されたー! でも、そのタイミングで体当たり! って、あれー!?
「うがー! 小さすぎて体当たりが当たりませ……ぐふっ!」
しまったー!? ザリガニの背後は崖の岩壁だったー!? なんで私が自分から岩壁に突っ込んでいってるのー!? うぅ、フラフラするって事は、私も朦朧が入ってるー!?
金金金 : サクラちゃんー!?
真実とは何か : この行動こそ、サクラちゃんの真実である。
イガイガ : うん、体格差は気を付けような。
ミツルギ : 今のを当てたいなら、体勢を低くして、頭突きをするような感じでだな。
いなり寿司 : まぁあんまり体格差がある相手に、体当たり自体がお勧めじゃないけど。
咲夜 : それ以前に、周囲の地形は確認しよ?
G : ……すぐ目の前に岩壁があるのは分かってたのにな。
「うぅ、思いっきり失敗しましたよ……。って、今度は殴ってくるんですか!?」
ぎゃー!? ハサミでライオンの毛を掴んでよじ登ってくるとか無しですよ!? そこから頭の上を連打してくるって、このザリガニはー!?
「うがー! 私のライオンの頭は太鼓じゃなーい!」
うぅ、そうなことを言っても朦朧でまともに操作が出来ないからどうしようも出来ないー!? そもそも頭を殴られ続けるって、危なくない!? 朦朧が回復しても、また朦朧になる可能性があるよね、これ!
わっー!? ザリガニのHPは半分以上削ったけど、私のライオンのHPも同じくらい減ってるよ!? えっと、えっと、ここからどうすれば!?
「……ん? 雨が降り出しました?」
なんだか川の水面の方にポツポツと小さな波紋があちこちで見え始めてきた? そういえば天気が変わるとか言ってたもんね。まぁそれは今は関係ないから、打開策を考えろー!
「あ、朦朧が回復しましたよ! って、今度はライオンの耳を挟むんじゃなーい!」
ぐぬぬ、このザリガニ、嫌な感じの攻撃ばっかしてくるのさー! えぇい、とりあえず私の頭の上から降りろー!
あ、頭を振ってたら普通に今回は落ちてくれた。……落ちたの、滝壺の中にだけど。
「わー!? 川の中に戻っちゃいましたよ!?」
うがー! 何このザリガニはー! それでもエリアボスなの!? 正々堂々と真っ当に戦えー!
ミツルギ : 今回はスキルで挟んでた訳じゃないみたいか。
ミナト : あはは、まぁこの体格差で頭の上を取られたら危険だしね。比較的早めに引き剥がせて良かったよ。
咲夜 : 多分すぐに戻ってくるからサクラちゃん、気を付けろー!
「あ、普通に戻ってくるんですね! それなら、これです!」
既に再使用時間が過ぎていた獅子咆哮をもう一度使うチャンス! 後ろに飛び退いて、滝壺から距離を取る!
「これで一気に削ります! 『獅子咆哮』!」
とりあえず獅子咆哮の溜めを開始! ザリガニの大雑把な位置は、ザリガニの威嚇の赤い光が教えてくれる。近ければ近いほど、赤い色は強いもんね!
ふっふっふ、これでマップを見なくても近付いてくる様子は分かる! さっきまでは鬱陶しいだけだと思ってたけど、わざわざ位置を教えてくれるとはドジなザリガニだね!
チャガ : 予想外に距離が取れるタイミングが出来たな。
神奈月 : これなら、もう1発叩き込めるか?
G : 少し出てくるのが遅くね?
いなり寿司 : ……確かに。
咲夜 : ……あ、これ、もしかして?
富岳 : いや、もしそうだとしても、今の状況なら好都合だ。
ミナト : うん、差し引きでは溜めの時間が確保出来た方がありがたい状態だしね。
ミツルギ : 来るぞ、サクラちゃん!
「はい! って、何、魚を食ってるんですか、このザリガニー!?」
滝壺の中から出てくるのが遅いと思ったら、ザリガニが魚を食べながら出てきたよ! うぅ、少しHPが回復してるし、そんなのありなの!?
「でも、獅子咆哮の溜めは完了しました! ぶっ飛べー!」
やった! 川の中から飛び出てきたザリガニに直撃だー! ……それにしても雨足が少し強くなってきたね。うーん、雨の中での戦いになるなら、滑らないように気を付けないと。
咲夜 : よし、直撃!
真実とは何か : 残り1割である。
イガイガ : あ、でもまた滝壺の中に落ちたぞ。
ミナト : ……あはは、これはまた魚を食べて回復してくるかなー?
「というか、敵も一般生物を食べて回復とかしてくるんですね!?」
うぅ、まぁ私のライオンだって一般生物を食べれば回数に制限はあってもHPは回復するもんね。他のゲームでもHPを回復する敵はいたりするし、モンエボにいないと考えてた方が間違いだったかも。
ミツルギ : まぁ劇的な回復は現状ではないから、そこまで心配はいらんけどな。
富岳 : 唯一警戒すべきは、採集可能な回復用の果物か。あれを食われたらプレイヤー同様に全快するからな。
「それ、とんでもなく危険じゃないですかねー!?」
まさかの敵が全快するパターンが存在したよ! あ、でも毒の実を食べさせられるんだから、理屈としてはそれと同じなのかもね。うん、気を付けておこうっと!
「……って、ここでザリガニが全快して戻ってきたりしないですよね? わっ、何事!? あ、雷の音ですか! びっくりさせないでくださいよ!」
こっちはザリガニとの勝負の最中で集中してるんだから、雷鳴は邪魔しないで! あ、ザリガニが今度は川から飛び出さずに普通によじ登る感じで出てきた。
んー、HPが全快した様子はなくて、残り1割ちょっとだね。ふっふっふ、咆哮も再使用可能になったし、ここまで来たら勝ったも同然!
「……なんだか、ザリガニは私を警戒してます? あ、威嚇の赤い光が無くなりましたね」
ミツルギ : 弱ると行動パターンが変わるからなー。より攻撃的になるか、防御的に警戒するか。
富岳 : このザリガニは防御的になるようだな。
「あ、そうなんですね! でも、そんなのは突き破るのみです! 『投擲』!」
警戒されているというのであれば、咆哮をいきなり放っても回避されそうだから、牽制で投擲だー! うん、やっぱり回避に動いた!
「狙い通りです! 『咆哮』!」
今度はちゃんと怯んでくれたから、一気に距離を詰めていく! ふっふっふ、これは勝った!
「これでトドメです! 『爪撃』『連爪』!」
爪での連続攻撃を繰り出して、ザリガニのHPを全部削ったー! やった! やった! やった!
<成長体を撃破しました>
<進化ポイントを1獲得しました>
<エリアボスを討伐しました>
「エリアボスのザリガニ、討伐です! いえーい!」
やったー! 勝ったー! なんか『疾走』で走り出し……あ、疾走が誤発動しちゃったけどまぁいいや! このまま走り出しちゃえー!
あ、滝の上に登っていけそうな道を発見! 無事に勝ったしこのまま駆け上がってしまえー! いえーい!
金金金 : サクラちゃん、ナイスファイト!
ミツルギ : サクラちゃん、おめでとう! まぁ疾走したくなる気持ちは分かるなー。
咲夜 : おめでとう! ……でもなんか、嫌な予感がするのは気のせい?
いなり寿司 : 流石に気のせいじゃね?
「そうですよ! ここから変なことなんて、崖を踏み外して落下くらいですって!」
ふふーん、それでも死にはしないもんねー! いやっほー! 勝った後に滝の上に登って戦場を見下ろすのはなんだか気分が良いのさー!
走って転ぶくらい、今はどうでもいいやー! 雨の中だけど、私のテンションは上がりまくっているのです! ハイテンションに任せて大ジャーンプ! ん? 何か眩しい光が――
<サクラ【器用なライオン】が死亡しました>
<死亡した為、ランダムリスポーンとなります>
「……え? 死に……ました?」
あれ、今、何が起きたの!? えー!? なんで!? 今、なんで私は死んだの!?
ミナト : あちゃー! よりによってこのタイミングで雷が落ちちゃった!?
いなり寿司 : あー、テンションが上がり過ぎて、滝の上まで行って、更にジャンプしたからか。
富岳 : 自分から雷に打たれに行ってるな。
「私、落雷で死んだんですか!?」
うがー! 折角ザリガニに勝ってハイテンションになってたのに、落雷で死ぬとか酷くないですかねー!? うぅ、落雷なんて嫌いだ-!
「勝ったのに、この展開は酷くないですか!?」
「あー、ドンマイ!」
「うがー! ドンマイじゃないですよ!?」
「まぁそういうこともあるって!」
「ぐぬぬ!? 全然悪びれないですね、作者さん!」
「……普段、制御が無理で暴走してるサクラがそれを言う?」
「……それは……それはそれ、これはこれです!」
「思いっきり開き直ったなー」
「せめて次話にしてくださいよー。勝利の余韻に浸らせて下さいよー!」
「今さら言われても、もう遅いしなー」
「だったら、いつ言えって言うんですか!?」
「それこそ、いつも通りに暴走して結果を変えればいいだけの話だよ」
「うがー! 無茶を言い過ぎですよ、作者さん! 作者さんに無茶ぶりをされてる私を応援してくれる方はブックマークや評価をお願いします! 何かが緩和されるかもです!」
「おーい、そうやってももう死んだ結果は変わらないよ?」
「……それはそうですけど」
「ということで、次回は『第99話 荒れた天候』です。お楽しみに!」
「そのタイトル、なんだか不穏な予感がするんですけどー!?」