第87話 敵を利用して
「さーて、さて、さて、複数の魚VS松の木の様相を呈してきました、この実況! 既に松の木は5体いた魚の猛攻を耐えて、1体は撃破済み! ですが4対1という未だ不利な状況になっています!」
ただ見てるだけってのもあれだから、ここは実況中継風にやってみよー! まぁ元々普通に実況プレイなんだけどね!
イガイガ : 唐突になんか始まったー!?
金金金 : あー、こっち側でこういう状況を見るとは思わなかった。
ミツルギ : まぁ、うん。オンライン版ではよく見る光景。
ミナト : いやー、なんだかんだで実況をやると楽しいからねー!
富岳 : オンライン版で実況をやってる側の人がここにいたか。
あ、思いつきでやってみたけど、オンライン版でやってる人っているんだ? ふむふむ、こういう風に見るだけの場合って、考える事はみんな同じという事だねー!
「おぉっと、ここで魚……これはコイですね! コイに動きがありました! これは……水の連射ですね! そして、その水の連射が次々と松の幹へと叩き込まれて……って、危ないじゃないですか! 危うく当たるところでしたよ!」
ふぅ、見る事に集中していたから割とすぐに回避に移れた。呑気に見学だけして漁夫の利を得ようとして、その途中で無防備に死んでたら意味ないもんね。
「それにしても、あの魚は水を連射でも使ってくるんですねー! いやー、こうやって真正面からちゃんと観察をしていなかったので、連射がある事には気付きませんでした!」
うんうん、こういう機会でじっくりと魚の戦い方を見れるのはありがたいよね! 今まで水を飛ばしてくる魚を避ける事の方が多かったもんね!
いなり寿司 : あー、魚の戦い方を見る良い機会ではあるのか。
富岳 : まぁ河川域で戦うには避けられない種類の敵だし、良いんじゃねぇか?
「おぉっと、そこに畳みかけるように他の魚……おぉ、これはナマズです! ナマズが今度は大きな水の球を吐き出したー! そして、松の木に直撃ー! 今度の水は一撃の威力が凄まじいもののようです!」
うっわー、今のは危ないねー! 流石にあんな大きな水の球が飛んできたら気付くだろうし、これは初見だったのかも? うん、ここで見れておいて良かったかも!
咲夜 : わー、地味に強い奴が混じってるー!?
神奈月 : ナマズって昼じゃあんま見ないんだがな。
チャガ : 落ちた小石が当たった1体がナマズか。
イガイガ : さっきのデカい水球、成長体からの部分のやつだしな。
「どうやら皆さんの反応としても、結構あのナマズは珍しいようですね! さぁ、このまま松の木は一方的に襲われ続けて倒れるのかー!? 私の為にも松の木には頑張っていただきたいところです!」
ふむふむ、さっきの水の球は下手すれば私の獅子咆哮に相当する可能性があるんだね。そうでなくても戦意の纏いや衝撃波生成には相当する訳だし、そりゃ強力だよね!
とりあえず盾にしている松の木には最後の1体の瀕死くらいまでは弱らせてもらいたい! そこまで行ったら、投擲でトドメをもらって、そのまま松の木を倒すのです!
「あれ? ここにきて、地上へ上がってきた魚がいますね! これは先ほどのコイとはまた別のコイのようですが……おぉっと、そんな隙を見逃さず、松の木の根がコイに迫っていくー! そして松の根がコイに突き刺さったー!」
松の木、ナイスなのですよ! なんでこのコイが地上に上ってきたのかがよく分からないけど、水を飛ばしてくるスキル以外にも他のスキルがあって、それで攻撃しようとかしたのかな?
「おぉ、根を突き刺したかと思えば、根が脈打ちながら松の木のHPが回復していくー!? まさか、これは回復スキルなのかー!?」
そういえば私も桜の木と戦った時にこんな事があった気がする! それにこの状況になってすぐに松の木は同じようにやってたよね!
ふむふむ、木は根で突き刺して回復が出来るっと。うん、実況外で木を育てる時の参考にしておこっと。結構これは大事な気がする。
「そして、それを妨害しようとフナが水を噴き出していくー! わっ!? だから、私は巻き込まないでください! 危ないじゃないですか!」
ふぅ、なんとか今回も退避成功! それにしても、この松の木ってタフだね! 結構な攻撃を受けまくってるのに、思ったほどはHPが減ってる感じがしない。
まぁそれでも4対1で戦ってるから思いっきり不利な感じだけどね。うん、思ったほどといってはもう死んでそうな印象が、まだ耐えてるってくらいだし。
うーん、松の木の情報が見たいなー? それと松の木に攻撃されないなら加勢したいけど、それをしたら私まで松の木に攻撃されちゃうもんね。
ミツルギ : 中々強いな、この松の木。
咲夜 : こいつ、動かない木か。
いなり寿司 : あー、地味にレアなやつだな。
そういえば、この松の木って根で攻撃はしても歩いてないよねー! そうとも、木はそうやってしっかり地面に根を張っておくものなのですよ! 歩かない松の木、ナイスです!
「ここで松の木の根の効果が切れたようで、捕まっていたコイが逃げ出していくー! おぉ、逃がさないというように松の木の葉っぱがコイの身体を貫き、仕留め切ったー! 松の木、ナイスファイトです! さて、これで3対1へとなりましたねー!」
とりあえずこれで魚はコイが1体倒されたね。残りはコイ1体と、フナが1体と、ナマズが1体かー。ふー、複数の魚が次々と攻撃を仕掛けてるから、実況が間に合わないよー!
あ、そういえば1体って数えてたけど、魚なら1匹が正しい? うん、まぁそこはどっちでもいいや! どう見ても普通の魚じゃないし、そこは気にしても仕方ない!
「だけども魚3体の猛攻を凌ぎながらも、松の木も満身創痍になってきていますねー! 流石の数の暴力には耐えきれないかー!?」
ちょいちょい魚達は松の木の根に突き刺されて地面のある場所まで運ばれて、跳ねて川に戻っていたりするから、もう半分以上HPは削れているんだけどね。
うーん、松の木は相当頑張ったと思うけどHPは2割を切るくらいしか残ってないし、もうこれ以上は限界かな。それじゃ、そろそろ私も動く……前に、HPを回復しとこ。うん、野イチゴは美味しいね!
イガイガ : 流石にこの数の差はキツイかー。
咲夜 : でもその状態で残る3体をここまで弱らせたのは結構なもんだけどな。
ミツルギ : さて、そろそろ松の木も限界だな。
うんうん、私もそう思う! という事で、松の木は次で最後のお仕事をお願いします! その後ぶっ倒して、経験値と進化ポイントになってもらうけどね!
「それでは、実況はこの辺りまでにして、漁夫の利作戦を開始です! 『獅子咆哮』!」
松の木を盾にしたまま、溜め時間のある獅子咆哮を発動! ふっふっふ、ここはそれほど川から離れてないから普通に獅子咆哮の射程圏内! 松の木が生き残ってる間に、魚を一網打尽だー!
という事で、獅子咆哮の溜めが終わるのを待機! 松の木、ありがとう! あ、記念に松の木のスクショを撮っておこっと!
えーと、戦闘中は『スクショを撮るぞー』って考えたらいいんだっけ。スクショを撮るぞー! うん、通知に『スクリーンショットを保存しました』って出たから成功みたい!
咲夜 : ……松の木の遺影か。
チャガ : まぁそうなりそうだな。
イガイガ : サクラちゃん、いけー!
金金金 : ぶっ倒しちまえー!
「はい、そのつもりです!」
これはあくまでもオフラインのゲームなんだから、松の木への配慮とかは必要なーし! 所詮はただのデータ! というか、私だって殺されまくってるし、これくらい躊躇なんてしてられますかー!
よし、そうしてる間に獅子咆哮の発動準備が完了! 今丁度、ナマズが松の木の根に刺されてるし、有効範囲内にコイもフナもいる!
「獅子咆哮、いっけー!」
やった! ナマズのHPが残り1割くらいになった上に、攻撃中の松の木の根にも盛大に当たった! これ、松の木にも結構なダメージが……あ、HPが無くなってる。
<成長体を撃破しました>
<進化ポイントを1獲得しました>
「松の木、ありがとうございましたー! そして、魚達も経験値と進化ポイントを寄越せー!」
私を守ってくれた、松の木に感謝! そしてここまで魚達を弱らせてくれた事にも感謝! その残してくれたものは絶対に逃さない!
他の魚達も思いっきり獅子咆哮が直撃して、もうどれも瀕死状態。ここで魚達は、絶対に全滅させる!
「まずはナマズから仕留めます! 『爪撃』!」
<『爪撃Lv1』が『爪撃Lv2』に上がりました>
おぉ、このタイミングで爪撃のLvが上がった! うん、まぁそれは良いけど、まだナマズは倒しきれてない!
「これでくたばってください! 『連爪』!」
<成長体を撃破しました>
<進化ポイントを1獲得しました>
よし、これでナマズは撃破完了! 残るはコイとフナの1体ずつ! あ、フナから水の連射が飛んできてる! でも、ここはこれだー!
「『咆哮』からの『噛みつき』!」
ふっふっふ、松の木と戦う為に川岸まで寄っていたのが運の尽き! 水の連射を咆哮で無効化してから、キャンセルされた隙を狙って噛みつく!
<成長体を撃破しました>
<進化ポイントを1獲得しました>
よし、松の木が弱らせてくれていたから、あっさりと仕留められた! 本当に松の木、ありがとう! 今日のサムネイルはさっき撮ったスクショにするね!
そして、その前に最後に残った少し距離があるコイを仕留めないと駄目なのさー! 遠い敵にはこれだー!
「これで、終わりです! 『投擲』!」
<成長体を撃破しました>
<進化ポイントを1獲得しました>
よーし、見事に命中! ふっふっふ、今回の戦闘は我ながら華麗に倒せた気がするのですよ! 松の木、改めて本当にありがとう!
「漁夫の利作戦で撃破完了です! いぇーい!」
殆ど松の木に弱らせてもらったからか経験値自体は少なめだったけど、進化ポイントが一気に4も手に入ったから問題なし!
えーと、これで進化ポイントは……いくつになったんだろ? まぁ後で見ればいっか!
咲夜 : サクラちゃん、お疲れー。
ミツルギ : 弱ってたとはいえ、今のはお見事!
ミナト : この調子で下流に向かってどんどん進んでいこー!
「はーい! 次はワニへのリベンジですねー!」
よーし、この調子で頑張っていくぞー! 毎回は流石にあれだけど、今みたいに敵同士を戦わせて弱らせるのはありだね!
まぁそこまで簡単に狙えそうではないけども、狙える時は狙っていこうー! それじゃ下流へと進むのも再開だー!
「サクラ、なんで実況風?」
「え、ただ見てるだけなのも手抜きかなーと思いまして?」
「あー、なるほど。それにしても、松の木相手にも容赦ないね」
「いえいえ、躊躇する方が松の木に失礼ですよ! 私の為に戦ってくれたんですし!」
「……ただサクラに敵を押し付けられただけでは?」
「そういう戦い方もあるみたいなんで、問題ないですね!」
「そうだけど……まぁゲームとして間違ってる訳じゃないし別にいいか」
「そういう事です! さて、松の木は頑張ったと労って下さる方はブックマークや評価をお願いします!」
「トドメを刺したサクラがそれを言う!?」
「松の木は私の糧となったのです!」
「……えー、さて、次回は『第88話 下流へ向かって』です。お楽しみに!」
「ザリガニへのリベンジに向けて頑張っていきますよー!」