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第8話 歩き出して


 よーし、ライオンというか四足歩行の種族の動かし方は教わったから、実際にやってみよう! ふっふっふ、もうコツを聞いてしまえば私にミスはないのさー!

 とりあえず、中断状態になってるゲームの方に切り替えてっと。……その瞬間に配信用の狐っ娘アバターが倒れてるのはなんでー!?


神奈月 : これ、さっきの件と言い、モンエボと中継用のソフトで相性のアバター連動に変な不具合が出てるんじゃねぇか?

ミツルギ : かもしれない。まだリアルタイム配信の機能は解禁されて間もないしな。

イガイガ : 普通のアクション系のゲームだったら倒れても仰反る程度の演出だし、挙動は変ではある。

咲夜 : サクラちゃん、これは大真面目に不具合報告を出しといた方がいいと思うけど、自分で出来る? 出来ないなら、一応俺の方から不具合報告を出しとくけど。


「あ、出来そうな気がしないんで、お願いしてもいいですかー!」


 不具合報告とか言われてもどういう風にしたらいいかよく分かんないし、咲夜さんがしてくれるというのであればお任せしてしまおう!

 兄さんに頼れば多分やってくれるけど、その為にはアーカイブに残す予定のこの配信を見せなきゃいけないしねー! 流石にアバターでとはいえ、あの失態は家族には見せられない! 主な理由としては怒られるから!


咲夜 : 了解っと。あ、金金金さん、その過程でBANされたらすまん。

金金金 : な、なんだと!?

ミツルギ : あー、運営がここまでの内容を見る事になるから……。

イガイガ : さらば、金金金。お前のことは、3日くらいは覚えておくよ。

真実とは何か : 真実とは時に無情なり。

神奈月 : もうBANされる事を確定として言ってるの、笑うわ。


「金金金さん、もし居なくなっても私は忘れないからねー!」


 私の配信で初めて投げ銭をくれたセクハラ賄賂の人という事でしっかりと覚えておきますよ! まぁこのままいてくれた方が金づ……ゴホン、面白そうな人ではあるから、BANされないでねー!


金金金 : サクラちゃんまでひでぇ!?

咲夜 : ま、とりあえず報告してくる。あ、サクラちゃんも今回のはアーカイブが残せない可能性もあるから、そこは要注意してくれな?


「え、なんでですか!?」


 ちょっと待って、なにそれ、聞いてない! 初見実況プレイの記念すべき第1回目が残せないとか、それはなしじゃないですかねー!?


ミツルギ : まぁ、あれが不具合が原因なら流石に大丈夫じゃないか?

イガイガ : そこは運営の判断次第だなー。

咲夜 : もしそうなった最悪の場合って事な? 多分、俺も大丈夫だとは思うけど、念の為。というか、こういう話が長いと悪い判定が出そうだから、この辺で打ち切っとこうぜ。

真実とは何か : 不都合な真実というものもあるものだ。


「……むぅ、釈然としないですけど、わかりました。それじゃ続きをやってますね」


 配信機能を提供している運営さんにとっては不都合がある内容は減らせってことかなー。うーん、なんとも納得しにくい部分があるけど、これも世の中ってもんなんだろうね。


「それじゃ気を取り直してやっていきましょー!」


 また脱線してるから、軌道修正! さーて、今度こそライオンを動かすぞー! えーと、まずは起き上がりたいというイメージだね。

 今の私はライオン! 草原での百獣の王が今、目覚めて立ち上がるのだー!


「わっ!? 本当にスムーズに立ち上がれましたよ! 見ました、皆さん!? 出来ましたよ!」


ミツルギ : お、おう。ちゃんと立ち上がれたので、ここまでテンションが上がるとは思ってなかったけど、上手くいって良かったぞ、サクラちゃん。

イガイガ : あ、立ち上がれば狐っ娘のアバターも普通に正面向いてるな。

神奈月 : 転んだ時のが反映されてたって感じか。

金金金 : うおー! 消えるかもしれない最後の瞬間だー! サクラちゃん、走れるようになるとこまでは見せてくれ!

ミツルギ : あ、ヤケになった。

イガイガ : まぁ、順番としては普通に順当ではあるけどな。


「走るんですね!? 私、走ればいいんですね!? 操作としては、前に向かって走りたいってイメージで合ってます!?」


 なんというか、妙な感動があって、自分でも妙なテンションになってる気はする! でも、これでいいんだ! ゲームはどういう形でも楽しんでやるものなのだからー!


ミツルギ : サクラちゃん、ちょっと落ち着こうか。

真実とは何か : 焦りは禁物だ。

イガイガ : ま、走る前に歩くのが先だな。チュートリアルの順番でいこう。

ミツルギ : そうそう、まずは歩いて、方向転換をして、その後に走って、その次に戦闘な。


 なるほど、確かに無駄にテンションが上がっていたから少し落ち着いた方が良い気はしてきたよ。すーはー、すーはー、とりあえず深呼吸ー! うん、落ち着いた。


「ふぅ、とりあえず落ち着きました! それじゃ歩いてみます!」


 動き方のコツは前に進みたいと思う事。さっきもちゃんと立ち上がれたんだし、教わった通りにやれば必ず歩ける!

 今の私はライオン! この草原を蹂躙する百獣の王が、その覇道の一歩目を踏み出す時! あ、動いた……? あぁ、ちゃんと歩いてる! しっかりと大地を踏み締めて歩いてる! やったー!


「……あれ? なんで止まっちゃうんです?」


 あれれー? さっきまで普通に歩き出してたのに、なんで止まっちゃったの、私のライオンー!? あ、私のじゃなくて、私がライオンだった。


ミツルギ : 移動中はずっと移動したいって考えとかなきゃ進まないぞ。


「え、そうなんですか!?」


 うーん、移動中は移動の事をずっと意識し続けなくちゃいけないの? それって地味に面倒じゃない? 普段歩く時なんか、歩き続けるって意識しながら歩いてないよ?


イガイガ : あー、そのうち明確に意識しなくても操作出来るように慣れるから大丈夫だぞ。あれだ、自転車の乗り方を覚えたら、自然に身体が動くようなもん。

神奈月 : 自転車は良い例えだな。


「私、自転車に乗れないからその感覚が分からない!?」


 今までの生活で自転車が必須になった事がないから、自転車に乗ろうとした事もないんだけど。小学校も中学校も徒歩だったし、高校は電車通学だし、駅は徒歩圏内だし、他に遠出する用事なんてないし?


真実とは何か : 真実は時として厳しい。

神奈月 : あー、まぁあれだ。住んでる場所によってはそういう事もあるし、自転車に乗れないって別に恥でもなんでもねぇしな?

イガイガ : 今ならVRでサイクリングのシミュレーションってのもあるし、どうしても気になるならそういうので練習って手もあるが……。

咲夜 : 戻ってきたけど、なんで自転車の話になってんの?


「自転車は心底どうでもいいです! あ、咲夜さん、おかえりなさい! 不具合報告はどうでしたか? 特にアーカイブに残せるかのところ!」


金金金 : 俺の事は!? ねぇ、サクラちゃん、俺の事は!?


 ここは重要なので聞いておかないと! 第1回目の配信が残せるかどうかの分かれ目なんだから!

 配信中の事故に見せかけて、金金金さんみたいな金づ……面白い人が来てくれるとありがたいし! いや、実際に本当に配信中の事故だけどね!


咲夜 : これから調査するって返答が来たところだな。まぁ軽く事情を説明したけど、悪質な利用の仕方ではなさそうだからおそらく問題はないとさ。もし問題があるようなら、後でサクラちゃんのアカウントの方にその旨を伝えるって。

金金金 : 咲夜さん、俺は!?

咲夜 : ……今晩、運営から連絡が来なければいいな?

金金金 : まだ不明かーい!


 ふー、金金金さんがどうなるかはともかく、とりあえず私の方は大丈夫みたいだね! 不具合報告をしてくれた咲夜さんに感謝!


「さて、それじゃ次は走ってみたいと思います!」


ミツルギ : あー、その前に方向転換をやってからだな。

イガイガ : 色んな方向に歩きながら、徐々に速度を上げていく感じで良いんじゃね?

ミツルギ : 個別にやっていくよりは、流れでコツを掴んでいくのがいいか。

咲夜 : それで良いと思うぞ。

神奈月 : サクラちゃんとしては、そういう流れでいい?


 ふむふむ、個別にやるのではなく、流れるように繋げてやっていく訳だね! ちゃんと歩けるようになったし、それでいけそうならそれでいこう!


「はい! それでやっていきます!」


 チュートリアルをすっ飛ばしたのでどうなる事かと思ったけど、なんとなくのコツは分かったし、次は走っていくのが目標さー!

 その後はついに戦闘だー! ふっふっふ、ジャンルがアクションRPGなんだから、戦闘は醍醐味の一つ! 戦闘システムはどんなのだろなー?

 


「ふふーん、いぇーい!」

「なんだかテンションが高いね、サクラ」

「分かります? 分かっちゃいます!? 嬉しいんですよ、ちゃんと歩く操作が出来て!」

「……チュートリアルを飛ばさな――」

「いぇーい!」

「……そのまま押し切る気か。よし、それならそのままのテンションでいつものをお願いしようか」

「任せてくださいよ! 次は戦闘を頑張ってみるので、この可憐で可愛くてしっかり者の私、サクラを応援して下さる方はブックマークや評価をお願いしまーす!」

「おいこら、嘘を混ぜるな、しかも大嘘を!」

「それじゃまた次回をお楽しみにー!」

「今回はサクラがスルーだと!? あ、次回は『第9話 いざ、戦闘開始!』って、こら、他は大目に見るけど、しっかり者なんて大嘘だけは訂正していけー!」

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