第56話 追い込んだ成長体
少しだけ川の上流へと回り込み、逃げているはずの成長体の方を睨みつけていく! とりあえず川は見えてきた! マップを見る限りでは逃げている成長体はそろそろ川に出るはず!
それにしてもこの逃げてる成長体、移動速度が速くなーい? 追いつくどころか、ちょっとずつ距離が離されてるんだけどー!
「あ、威嚇の効果が切れましたよ!? でも、向こうも川の手前で止まりましたね!」
よーし、良いタイミングで威嚇の効果が切れたよ! これで戦場は川の近くになった! あとは私が川まで行けば問題なし!
「さて、何がいますかねー?」
追い込んできた成長体は草むらで姿が隠れたままだったからまだ何なのかは判明してないけど、ここまで来ればその姿も確認出来る!
咲夜 : さて、何がいるか。
イガイガ : ライオンから逃げられるから、まぁ移動速度は速いやつだろうな。
ミツルギ : サクラちゃん、敵を見つけたらまず識別な?
ミナト : あ、識別を使ったら交戦状態に入るから、そこは注意ねー!
「あ、はい! 折角取ったんだから使わないとですね! ミナトさん、了解です!」
そうじゃないと何のためにあれを取ったのか分からなくなるもんね! ただし、すぐに再使用は出来ないから判別する標的は間違えないように気を付けないと!
そしてミナトさんからのアドバイスの使ったら交戦状態になるという事! これはしっかり覚えておこう!
「よーし、川に到着です!」
さて、標的の成長体はここより少し下流側。マップで位置関係を見ると……うん、川に来る手前で威嚇の効果が切れてるから、川の中の敵は逃げてないっぽい! 前に威嚇した時っぽい反応は沢山あるけど!
川の中ではなさそうだから、川の岸を確認して……あ、あれかな? なんだか、石の間に爬虫類っぽい小さな頭が見えているから小さなヘビかな? あ、違う。手足があるから多分トカゲだ!
「それっぽい小さなトカゲを発見です! 『識別』!」
という事で、そのトカゲに向かって識別を発動! って、あれー? 丸い枠以外何も表示されない……あ、発動してから対象を指定するんだった! この丸い枠は指定用だった! 改めて丸い枠にトカゲを収めて、識別を発動です!
『俊敏なトカゲ』
進化階位:成長体
Lv:1
おぉ、これが識別なんだ! なるほど、なるほど。進化階位が分かるし、Lvもしっかり分かる。
「というか、俊敏なトカゲって、名前が地味に一番重要じゃないですかねー!?」
これ、思いっきり進化の傾向が分かるじゃないですか! このトカゲ、明らかに移動速度が速いやつだー! 私のライオンで追いかけても追いつけない訳だよ!
富岳 : ネタバレ案件だったからなぁ。
ミツルギ : そういう事だなー。序盤は割と重要なんだぞ、識別って。
チャガ : まぁ序盤はな。
「……序盤は? あ、そっか! 私がさっきやってた判別方法でどうにかなるし、慣れてきたら敵の傾向も無視して戦えるんですね!」
うん、多分そうなんだ! 他のゲームでもあるもんね、相性を無視して弱点の属性で攻撃してもそこが一強すぎてその攻撃が最適解になるやつ! もしくは相手の攻撃の威力が高過ぎて、ひたすら相手に何もさせずに攻撃で押し切るのが最適解のやつ!
あとは、ひたすらLvを上げて敵を雑魚にしてしまうやつ! これはいつも詰む私が一番やってる!
咲夜 : あー、うん、まぁそういう事もやろうと思えば出来るから間違ってはいない?
ミナト : 今は識別が大事って事でいいよね! ほら、サクラちゃん、今のうちにトカゲと戦わないと俊敏なら疾走を使ってどっか行っちゃう可能性もあるよ? 識別でもう交戦状態になってるから注意してねー!
「あ、そういう可能性もあるんですね!? それじゃ戦闘開始です! 『投擲』!」
草むらの中に戻られて探し直すのも面倒だし、このトカゲが成長体だということは明確に分かったんだから倒さないと勿体無いもん。それにしても弱肉強食のこのゲーム、逃げるという選択肢を選ぶ敵もいるんだね。
うー、でもトカゲが小さいから投擲が狙いにくいなー? 弾は川にある小石が使えるからそのまま使うけど……うーん、照準が定まらない。
金金金 : これ、トカゲが小さくて当てにくいのか。
イガイガ : 本来のスキルツリーの中にある『投擲』の場合は命中補正が強めにかかるからもう少し狙いやすいんだけどなー。
いなり寿司 : ライオンで投擲って、どっちかっていうと縛りプレイや曲芸プレイの類だし……。
「むぅ、そう言われると意地でも当てたくなってきますね」
というか、ライオンで投擲を使うのってそういう扱いなの!? ううん、縛りプレイだろうが、曲芸プレイだろうが、何でもいいのさー! 私がやりたいようにやるのみ!
集中しろ、私ー! ここは確実に当ててみせる! しっかり狙って……。
「あー!? 攻撃の対象指定の時間が過ぎちゃいました!?」
うがー! 狙う事に集中し過ぎて、発動までに時間制限があるのを完全に忘れてたー! うぅ、投擲が完全に不発になって、再使用時間のカウントゲージが出たよー!
いなり寿司 : お、これはまたあの称号が必要か?
チャガ : 鬼か、お前は。
イガイガ : まぁ気持ちは分からなくもない。
富岳 : おーい、トカゲが逃げてるぞ。
ミナト : サクラちゃん、追いかけろー!
「はーい! 逃がしませんよ、このトカゲー!」
多分、このトカゲは逃がしたらダメなやつ! さっき追いつけなかったのはスキルを使ってたからだと思うから、投擲の不発や不名誉な称号の再来を気にしている場合じゃなーい!
ともかく、今はトカゲに早く移動するスキルを使われる前に捕まえないと! うー、爪撃や連爪だと外す気がするから、ここはあれだー!
「トカゲはそこから動くんじゃないですよー! 『咆哮』!」
やった、咆哮が決まって怯みだしたよ! これで一気に距離を詰めて、こうだー!
「がぶり!」
思いっきりトカゲに噛みついて、ガブガブガブと噛みしめる! こうじゃないとちょろちょろ動くトカゲに爪を当てられる気がしない!
ふむふむ、私のライオンの口の中からトカゲのHPゲージが出てきているのは、相変わらず不思議だけど、しっかりとHPは減ってるね。この感じだと、HPも防御も高くはなさそう!
ミツルギ : 相変わらず、サクラちゃんは躊躇なく噛みつくなー。
咲夜 : まぁ今の状況なら、これが確実ではあるけど。
イガイガ : 大型種族だと、小型種族には攻撃を当てにくいとこはあるしな。
「あ、やっぱり当てにくいですねー?」
という事は今の私の攻撃の選択は決して間違ってはいないという証拠! ならば、あの返上した不名誉な称号は戻ってくる必要はなーい!
「って、あれ? HPゲージの横に何か+マークが出てますね?」
今までこんなのは見た事なかったけど、なんだろう、これ? あ、もしかして識別したのと何か関係が!?
ミツルギ : あぁ、それか。そこを選択すれば、識別した内容が表示されるぞ。
いなり寿司 : ちなみに、『解析略化』を取れば……あ、これってネタバレ?
咲夜 : 確実にネタバレなやつだな。
神奈月 : 説明文を見れば推測は出来るけど、ネタバレ案件だな。
「それ、思いっきり気になるんですけどー!? あ、暴れだしたー!? それじゃ温存していた『噛みつき』!」
うん、朦朧が切れて暴れだすのは想像出来てたから、『噛みつき』を温存してて正解だね! 暴れるのが無くなった訳じゃないけど、スキルの攻撃で抑え込みはしやすくなったのさー!
えっと、これでHPは半分くらいまでは減らせたよね。問題は次の一手でどうするかなんだけど……うん、思いつかない! あはは、とりあえず次に暴れだして抑えられなくなったら地面に叩きつけよっと!
「うーん、これは小動物への対策が必要な気がしてきていますよ」
ここで逃げられても相手の移動速度が上がるスキルの効果が切れるまで追いかけて、その後に捕まえてまた噛みつくのもありだけど、それは正直手間だよね。
今回はもしそうなっても仕方ないけど、今後もこういう事はありそうだから対策は必須! そもそもそういうのは相手にしないという選択肢もあるんだろうけど、それは逃げた気がするから却下で!
神奈月 : だろうなー。
咲夜 : 対応としてはいくつか方向性はあるにはあるけど……。
ミツルギ : その辺の情報は必要か?
「んー、とりあえずは自分で考えてみます! 今すぐに対応出来るとも思えないですし!」
あ、そうしてたら『噛みつき』の効果が切れたー! 『咆哮』の再使用時間のカウントゲージはまだ出てるし、ここは一か八かでやるしかないね!
「口の中で暴れ過ぎなのですよ! えいや! ……あれ?」
何も考えずライオンの頭を振りながら勢いよくトカゲを口から放り出したら、川の中にあった大きめな岩に頭をぶつけて、フラフラと川に落ちて、プカーっと浮かんだー!?
え、多分朦朧になったみたいだけど、これは絶好のチャンスなのでは?
ミナト : あ、これは運が良いね!
いなり寿司 : 成長体に進化したばっかだとそんなに朦朧って発生しやすい訳じゃないのにな。
「ふっふっふ、運も実力の内ですからね! 『爪撃』!」
そのまま川の流れに乗って流されていきそうだから、とりあえず川から掬い上げるように『爪撃』を発動! おぉ、見事に命中!
「わっ!? でも飛び過ぎたー!?」
うぅ、爪が当たるとこまでは良かったけど、今のトカゲは宙を舞っている!? あ、でも草むらのない陸地の方に吹っ飛んだから、大丈夫! 大急ぎでそっちに駆け出していくのです!
「おぉ、ボロボロなのですよ! それではこれでトドメー! 『連爪』!」
HPが減っていても割と動けそうなトカゲに向けて、爪での連撃だー! ここで取り逃がせば、追いかけになりそうだから私としても必死なのですよ!
あ、1撃目は外れたー!? でもまだ2撃あるし、次を……って、あー!? まだ右前脚が地面に付いてないのに、左前脚の方で2撃目を出しちゃった!
「転んでなるものかー!? あ、トカゲ!?」
あ、倒れないように強引に後ろ足だけで跳んでみたら、なんか頭突きみたいな感じでトカゲをライオンの頭で潰しちゃった。おぉ、地味に私のHPも削れてるけど、トカゲの残りHPも僅か!
うん、結果オーライって事で、起き上がって3撃目! やった、今回は当たってトカゲのHPが全部無くなったよー!
<成長体を撃破しました>
<進化ポイントを1獲得しました>
「ふっふっふ、何とかトカゲに勝ったのです!」
ミツルギ : ……頭突きで押し潰されたな、トカゲ。
いなり寿司 : やっぱりあの称号いるんじゃね?
「私はドジっ子じゃないですから、その称号は不必要ですからねー!」
今回は転んだけども、これも私の無意識が最適な攻撃だと判断した事なのですよ! ふっふっふ、とりあえず勝ったから問題はなーい!
「サクラ、またあの称号を――」
「それは断固拒否します!」
「拒否が早いね?」
「いらないから返上したのに、また戻さないで下さい!」
「……それはサクラのプレイ次第だからなぁ」
「何を言われても、いらないったらいらないですからね!」
「さて、どうなるやら?」
「私が立派に戦えば良いだけなのですよ! そうとも! 読者の皆さん、私が立派に戦えるように応援してくださる方はブックマークや評価をお願いします! そうすれば、私は立派にやっていけるのです!」
「……多分、真っ当なプレイは期待されてないけどね?」
「何を言いますか!? 私は真っ当にプレイしてますからね!?」
「さて、妄言は置いておいてっと。次回は『第57話 足りない進化ポイント』です。お楽しみに!」
「妄言って、その言い方は酷くないですかねー!?」