第39話 実況外の探検録 Part.1
【1】
実況用に作りだされたVR空間に、九尾の尾を持つ狐を模した少女がいる。手元の操作パネルを操作を終え、正面を向き直っていく。
「えっと、これで良いはずですよね? ちゃんと録画は出来てます?」
上手くいっているのか不安なような少女は、少し戸惑いの表情を浮かべつつも意を決したように表情が変わっていく。表情は変わり、満面の笑みを浮かべ、口を開いた。
「まぁ気にしても仕方ないですね! 失敗してたらそれはそれで問題なしです! その場合は苦情を言って踏み倒……ゴホン! いえ、今のは何でもないですよー!」
何やら発言の一部を誤魔化すようにわざとらしく咳き込んで、少女は再び正面に向き直った。いきなり本題から逸れてしまったのを軌道修正していく。
「初配信の時にご覧になってくれていた方は改めましてご挨拶を。このダイジェスト動画からご覧いただく方は初めまして! オフライン版のモンエボの実況を始めました、サクラって言います! うー、慣れませんね、この感じー!」
その少女……サクラは自己紹介を始めていく。そう、これはゲームのリアルタイムの実況ではなく、録画されたもの。
初めから数人からの反応があった実況とは違い、録画では誰からも即座に反応が返ってくることがない。それに少し戸惑いを覚えているようである。
「まぁ、これもやっていく内に慣れるでしょう! さて、ダイジェスト録画の設定をとある代償を払って、準備完了しました! なので、これからモンエボの続きをやっていきたいと思います!」
単純に全てを実況プレイで行うと長くなりすぎるという理由から、配信外でプレイする時はこのように動画を撮影することになった。
それを配信機能の一部にある自動ダイジェスト化を利用して、プレイ動画として残される事となっている。
「さぁ、張り切ってLv上げの続きをやっていきますよー! それじゃモンエボを起動です!」
そうサクラが宣言すると同時にゲームが起動し、配信時と同じようにゲーム画面が表示されていく。そこに映し出されるのは『Monsters Evolve』のタイトル画面。
「それじゃ開始……あっ! 最初の挨拶はちゃんと残しておかないといけないですよね!? 指定した範囲の部分をダイジェストに確実に残す方法って、確かあったはず! えっと、さっき貰ったマニュアルはどこー!?」
いざゲームを始めようという段階になり、何かを探し始めていくサクラである。そうして、目的の物を見つけたようである。
見つけると同時にサクラのアバターは満面の笑みを浮かべて、九本の尾もその感情に合わせて揺れ動いていた。
「見つけましたー! えーと、ここをこうして、こう……? これで多分問題なしですね!」
そうして何かを眺めながら、手元のメニューの操作を終えていく。非常に必要のない映像も含まれているダイジェスト動画の挨拶部分がこれで出来上がった。
「それじゃ、改めてモンエボの続きを開始です!」
今度こそゲームの方に視点が切り替わり、サクラは狐を模したアバターから、ゲーム内へのライオンの姿へと変わっていく。こうして実況外でのサクラのモンエボのプレイが始まった。
【2】
草原を駆けていくライオン。そのライオンの目の前には逃げゆくウサギの姿があり、それを狩るべくライオンが迫っていく。
「一度私を殺したくせに、逃げるのは許しませんよー! 『爪撃』!」
そのライオンを操作するサクラの発動したスキルによって、ウサギの残りの生命はわずかとなっていた。
一度はサクラの威嚇に反応し、サクラのライオンを殺した集団の中の1体。そのウサギが今、Lvの上がったサクラの逆襲を受け、事切れようとしている。
「これで私の敵討ちなのですよ! 『噛みつき』!」
サクラの気合の入ったスキルの発声により、ライオンの噛みつき攻撃が見事に決まり、生命の無くなったウサギは力尽き、消滅していった。
「よーし、これで1体目の敵討ち完了です!」
配信の時に解放されたマップと、その時に戦闘状態になった敵の最大限に利用して、サクラは進化ポイントを求めて戦っている。
「ふっふっふ、このやり方は効率が良いですね! まだまだマップには敵の反応があるので、どんどん倒していきますよ!」
サクラはマップを見ながら駆けていく。マップだけを見過ぎて、その視界に動く木や草花がいても、それに気付く事もなく……。
「ふふーん、この調子で進化ポイントをどんどん集めていきますよー!」
意気揚々と草原を駆け出していくが、無駄に見落とした敵は数知れず。だが、目標しか目に入っていないサクラに、それを教えるものはここにはいない。
【3】
サクラのライオンに相対するは、同じくライオンである。互いに生命を削りあい、既にどちらも半分以上……いや、もう一撃で決着になるほど生命が無くなっている。
「うがー、敵討ちに行く邪魔をするなー! こんな強い敵が残ってるとか、聞いてないんですけどー!?」
そう言いながら、サクラは後方へと飛び退き、敵のライオンからの爪での攻撃を回避する。だが、そこでサクラのライオンがバランスを崩した。
「あわっ!? え、なんでー!?」
サクラが転んだ先には、ヨモギを模した幼生体の草花が1体。……単純にサクラに踏み潰されていた。何かをしたのではなく、ただそこにいただけである。
「あー!? 雑草、邪魔するなー!」
そう言いながら、サクラは草花の幼生体を踏みつけていく。それであっという間に生命は無くなり、草花は消滅していった。
「おー! 進化ポイント、ゲットで――」
その直後、サクラのライオンは敵のライオンに噛まれて死亡した。どんな時も油断大敵である。
「うがー! また死にましたよ! あのライオンとは良い勝負だったのに、あの雑草めー! 何を邪魔してくれてるんですかー!」
ランダムリスポーンで、草原のどこかに復活したサクラは思うが儘に叫んでいた。今回は運が悪かっただけでミスというほどではないが故に、荒れ狂うのも無理はない。
「うぅ、今度はどこですかー? あっ、ここは川が近いのですよ! よーし、川に行って気分転換です! そしてカニにも敵討ちをやっていきましょう!」
ランダムリスポーンした先が川の近くという事で、サクラのテンションが回復していった。そうして意気揚々と、サクラは川を目指して駆けていった。
【4】
川の近くの草むらの中、サクラは自身の敵の1体であるカニを倒す直前まで弱らせていた。川の中で見つけ、咆哮で動きを止め、投擲で投げ飛ばし、今こうして追い詰めている。
「ふっふっふ、これで終わりです! 『噛みつき』!」
そのサクラのライオンの噛みつきにより、カニの生命は無くなり消滅していった。そして、その事によりある変化が訪れる。
「わっ!? Lvが上がりました! って、えー!? ちょ、ちょっと待ってください!? Lv10が上限なんです!? 進化のチュートリアルが発生しちゃったんですけど、これってどうすればいいんですかー!?」
Lv10に至った事でモンエボの売りの1つである進化が解放になり、それを一切予期していなかったサクラは動揺してしまっている。
配信の時と同じように誰かに尋ねてはいるが、その声に応える者は誰もいない。……いるはずがない。
「あっ!? そういえば、これは録画でした!? えっと、確かチュートリアルは飛ばしても後からヘルプで見れるって聞いた覚えがあります! なければ、誰かに聞きます! という事で、えいやー!」
サクラは誰かに言い訳をするように、進化のチュートリアルをスキップしていく。だが、一番初めの操作のチュートリアルを飛ばした事が気になるのか、狐のアバターは浮かない顔をしている。
「大丈夫ですよね……? でも、これって絶対に配信でやった方がいいやつですもんね!?」
不安げな様子のサクラだが、その声に応える者はやはり誰もいない。その事に気付いたのか、サクラのアバターの表情も変わっていく。
「もうやったもんは仕方ないのですよ! それよりも、進化って言うくらいですし、進化ポイントが重要な気もします! Lvは上がらなくても進化ポイントは集めておいた方が良いですね!」
そんな風に自分へ言い聞かすようにサクラは行動方針を決めていった。その決意を表すかのように狐のアバターもガッツポーズをしている。
「もし無駄でもスキルツリーの解放には使えますもんね! よーし、それじゃ幼生体の乱獲開始ー! 進化ポイントを寄越せー!」
気合が入ったサクラは再び草原を駆け出していく。そのサクラのライオンの歩み……いや、疾走には迷いはない。
「まずはさっき増えた私の敵討ちからだー!」
サクラが狙うのは、少し前に遭遇したライオン。そうして、再び敵を見落としながらマップを見て駆け出していくのであった。
「あれ? 今回のって私の視点じゃないんです?」
「だから言ったじゃん、今回のは少し書き方が変わりますって」
「あれってこういう意味だったんですね!」
「ま、そういう事。今後も普通に更新を続けていければ、章終わりにPart.2とかPrat.3って感じでやっていくから」
「はーい! それじゃ私も頑張らないとですね!」
「……まぁ変な方向には頑張らないようにね?」
「え、元々変な方向には行ってませんよ?」
「……うん、まぁそれでもいいや。それじゃ今回はこれで」
「いつものカンペですね! 『来年からも頑張れと応援してくれる方はブックマークや評価をお願いします』。うーん、私は夏なのでなんとも不思議な気持ちです!」
「まぁ、そこは付き合ってくださいな。という事で、今年の更新はこれにて終わりです。来年……と言っても普通に明日からですが、新章の『第40話 2回目の配信』に入ります。お楽しみに!」
「新年早々からも頑張っていきますよー! 私は夏ですけども!」
「そこは言わなくていいから! それでは来年もよろしくお願いします!」
「良いお年をー!」