第2話 初めての実況プレイ
さーて、ホームサーバーに作った……正確には兄さんが作ってくれたやつだけど、配信用のVR空間にやってきたよ。あ、既にスタジオみたいな感じで色々と配置してくれてるんだ。ありがたや、ありがたや。
えーと、この配置されてるテーブルとか、カメラみたいなのが配信機能のデフォルトのセットなんだね。ふむ、これはカメラ目線を向けてポーズを決めて見るべき!?
うん、そうだよね。どう見えてるかの確認は必要だし、ここは私の素晴らしく可愛らしいアバターの出来を是非とも確認しておくべき!
自分の姿を客観的に見る機能はVR空間の標準装備されてるけど、実際の配信画面でどうなるかって確認は出来るのかな?
あ、兄さん謹製のマニュアルに狙い澄ましたかのように書いてあった。ふむふむ、えーと、カメラに向けてメニューを開けばプレビュー画面が表示されるんだね。よし、やってみよう!
「あ、映ったね! うーん、私って可愛いね!」
プレビュー画面が映っていたのは『Monsters Evolve』のタイトル画面と、その右下に映し出されている私のアバターである九尾の狐の姿。うん、こういう画面は何度も配信で見た事があるよ!
でも、配信してる側ってどういう風に見えるんだろ? ちょっと、試しにやってみようー! えーと、どうやれば良いんだろ? あ、【配信開始】ってボタンがあるからこれかな? ポチッとな!
<配信を開始しますか?>
「ん? テストなのにこんな確認が出るの? 『はい』に決まってるじゃん!」
『はい』を選択してみれば、カメラ以外の様子が消えた! それと私の視点が2つに分割されたね。
あ、片方は配信用のアバターの視点でコメントの一覧みたいなのがあって、もう片方がゲームの視点になるっぽい? ゲームの操作をし始めると、アバターは私の反応に合わせて自動調整で動くようになるみたいだね!
ミツルギ : 何も表記がない中継か?
イガイガ : 配信ミスっぽいの発見。
「えっ!?」
ちょっと待って、何かコメントの書き込みが既にあるんですけどー!? え、テストじゃないの!? もう実際に始めちゃった!?
イガイガ : いや、驚き過ぎでしょ。
ミツルギ : まー、初心者がミスったんだろうぜ。
イガイガ : だろうなー。てか、配信予定はモンエボか。
ミツルギ : アバターを見る限り、やり込んだ経験者か?
ちょっと待って、驚いてる私を無視して話を進めないでー!? なんで私が経験者って判断になるの? モンエボは……ゲームの略称?
「あ、あの! 何か間違ったみたいで……すみません!」
イガイガ : たまにある事だし、気にすんなー! えーと、サクラちゃん?
ミツルギ : そうだぞ。ミスって配信開始して、フルダイブの連続ログインの制限時間まで雑談だけで乗り切った猛者もいるからな。
「そんな人いるの!?」
うわー、凄いなー。休憩なしでの1回のログインは10時間までで、それを超えたら強制的にログアウトなのに、それを雑談だけで凌ぎ切るって、凄いなー。
いや、私もそれくらい出来る気概でやらなければ意味がない! それが出来てこその配信者なのだ!
ミツルギ : まぁ今はミスとして、モンエボの実況プレイを中継すんの?
イガイガ : 気合の入った人化した九尾の妖狐をアバターにしてやるくらいだし、超絶プレイ系か?
え、人化した九尾の妖狐……? え、これはただの私の配信用のアバターなんだけど、それって何かこのゲームにとって意味があるの……?
「あ、あのー、つかぬ事をお聞きしますけど、私、このゲームって初見なんですよ。ついでに下調べは何もしてなくて?」
ミツルギ : ……え、マジで?
イガイガ : 素で選んだのがそのアバターで、初見プレイにモンエボを選ぶか。……ある意味すげぇな。
ミツルギ : 確かに……。あー、簡単にモンエボがどういうゲームか説明しようか?
おぉ、ミツルギさん、良い人! でも、初見プレイでやるなら事前情報はあまり知りたくないなー。うーん、折角の好意だけど、ここは遠慮しておこう。
「折角ですけど、自力で何も見ずにやりたいので遠慮させてください!」
ミツルギ : なるほど、そういう方針か。よし、それはそれで面白そうだし、何かの縁って事で中継の登録をしとくか。
イガイガ : 俺もしとこっと。なんか面白い事になる予感がするぜ。
わっ!? ミスをして開始してしまった配信で登録者が2人も増えた! なんか素直に喜んでいいのか分かんないけど、素直に喜んでおこう! やったー!
「ミツルギさん、イガイガさん、ありがとうございます! 流石にこれ以上ミスのまま続けるのもあれなんで、一度やり直しますね」
イガイガ : おう、そうした方が良いだろうな。
ミツルギ : だな。本格的に中継が始まるのを楽しみにしてるぜ、サクラちゃん。
「はい! その時はお願いします!」
うんうん、ミスはやらかしたけど、結果的にはこれで良かった気がするよ! それじゃ一旦配信を終わらせて……あれ、終わらせるのはどれだろう?
あ、【配信終了】のボタンがあったから、それを押してっと!
<配信を終了しますか?>
もちろんですとも! 『はい』を連打して、これで配信は終了になるはず!
<配信のアーカイブを保存しますか?>
<配信のアーカイブを保存しました>
ん? あれ、アーカイブの保存が完了しましたって表示が出た? え、さっきのミスった配信をアーカイブに残しちゃったー!? 何やってんの、私ー!?
よし、落ち着こう。とりあえず配信自体はちゃんと終了したみたいだね。こういうのでミスって保存したとしても、消す手段はあるはず。
そうじゃないと、さっきのミスの醜態の配信が残り続けるー!? それで……どこから消せばいいんだろう? 探せー! 削除する場所は必ずあるはずだー!
それからしばらくして、なんとか無事にさっきの配信のアーカイブの削除は出来た。出来たけど、少しの間で閲覧数が100件を超えてたのはなんで!? 既に登録者が15人になってるのもなんで!?
慌てて消したけど、コメントも結構あった気もする。……内容を読んでおけば良かったかも? あー、もう消しちゃったもんは仕方ない! 気を取り直して、本来の目的のゲームの初見実況プレイをやっていくまでさー!
さて、さっきは兄さんの用意してくれた兄さん謹製マニュアルを途中で無視してしまったから起こってしまったトラブルである。今度は間違えないようにして、マニュアルに沿ってちゃんと設定をしていこう。
「えっと、次は配信のタイトルを入力だねー。『【初見プレイ】Monsters Evolve part.1』で良いかな?」
マニュアル通りに次々と設定をしていき、これで準備は完了になったはず。後はさっき間違って押した【配信開始】を押せば、今度こそ本当にちゃんとした配信が開始になるはず!
んー、今が夕方6時だから、晩御飯までは余裕がある! 思い立ったが吉日って言うし、もうやっちゃえ!
「それじゃ今度こそ、ちゃんと配信開始!」
<配信を開始しますか?>
もちろん『はい』ですとも! さーて、今度こそちゃんとしたモンエボ……ミツルギさんもイガイガさんもそう呼んでたから、略称はモンエボって呼んでもいいよね? うん、そうしよう!
【配信開始】を押してからすぐに人が集まる訳じゃないから、少し待たないといけないよね。今のうちに深呼吸をしとこ。うー、珍しく緊張してるなー。
イガイガ : お、始まったか。
ミツルギ : 思ったより遅かったな。
咲夜 : ドジっ子サクラちゃん、深呼吸中か。
神奈月 : ドジっ子のモンエボの初見プレイに期待。
真実とは何か : これ、ネタバレはしない方が良いやつ?
イガイガ : したら面白くないだろ。
咲夜 : 違いない。
真実とは何か : 確かにそれもそうか。んじゃ、見守る感じで。
ミツルギ : おう!
神奈月 : おう。
ちょっと待って! なんでもう5人も見に来てるの!? というか、ドジっ子サクラちゃんって何さー!?
「さて、サクラ。配信ミスの弁明を聞こうか」
「犯人は、作者のあなたです! むしろドジっ子って何かと聞きたいんですけど!?」
「いや、君は既に暴走して勝手に動き出してるからね? 2話目なのに早くない?」
「そんなこと言われても知りませんよー!」
「……おかしい、なぜこんなにポンコツになった?」
「それ、いくら何でも作者が言うのは失礼じゃないですかねー!?」
「その苦情は受け付けません」
「この作者、横暴だー!?」
「横暴ついでに、今回もよろしく。はい、これ、カンペ」
「逆らえないのが悔しいー!? うぅ、読みますよ、読めばいいんでしょう! えーと『ポンコツなサクラが面白いと思ったら、ブックマークや評価をお願いします』って、こんなものは、こうしてこうだー!」
「まぁ、今更破り捨てても、もう読み終わってるから意味ないけどね」
「うがー!?」
「という事で、次回は『第3話 ゲーム開始!』です。お楽しみに!」
「やったー! ついにゲーム開始だー!」
「……うん、まぁね?」
「なんですか、その反応ー!?」