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Chapter 19 「サルナス防衛線」

 モリ君達がフォルテなる現地人冒険者を連れて合流してくれた。


 現地人冒険者達と簡単な自己紹介を済ませた後に作戦会議を開始する。

 

「疲れているところ悪いんだけど、早速みんなにはやって欲しいことがある」

 

 適当に通りにあった看板から引っ剥がしてきた町の地図を机の上に広げる。

 まずは城門からだ。


「一番の問題は城門。ここで町から逃げ出そうとした観光客と住民が出るに出られなくて大渋滞を起こして二時間近く。行列は全く動いていない」

「かなりの時間が経ってるはずですけど、まだ渋滞してるって何が有ったんです?」

「事故の瞬間を見た訳じゃないけど、馬車が二台玉突き事故を起こした挙げ句、横倒しになって出入り口を完全に塞いでる」


 まさか異世界に来てまでお盆の高速道路でたまに発生する事故渋滞を見るとは思わなかった。

 ただ、そのせいで完全に出入り口が塞がれて混乱を真似ているのは確かだ。


「本当に何が有ったんですかそれ?」

「分からない。もしかしたら故意に事故を起こして、あえて出入口を塞いだ奴がいるのかもしれない」

「兵士達は何をやってるんてすか?」

「イモリ人間が住民を盾に暴れ回っているので、何も出来ないようだ。ただ、それを差し引いても妙な行動の遅さみたいなのはある」


 混乱の原因はこの町の行政がほとんど動いていないことが原因の気がする。

 警備や誘導を適切に行っていれば、ここまで事態は悪くなっていないはずだ。

 

「なので、モリ君、エリちゃん、タルタロスさんの三人は城門を塞いでいる馬車の撤去と怪我人の治療に当たって欲しい。とにかく逃げようとしている人達を町の外へ出せば、事態は少しマシになるはずだ」

「怪我人がいるならば私も赴きましょう。私の治癒能力があれば、助けになれると思います」


 レフティという名の法衣を着た男が言った。

 治癒能力というのは、回復魔法的なものを使えるのだろうか?

 もしそうならば、是非とも支援を頼みたいところだ。


「助かります。こちらのモーリスも回復能力を使用できますので、2人で協力して対応していただけると助かります」


 これで城門の方は良いだろう。

 モリ君達も大変だろうが頑張ってもらいたい。


「次の問題。町の隅に兵士詰所みたいな建物が在るんだけど、ここに武装した兵士が集まっているにも関わらず何もせず待機している」

「何やってんだそいつら! 町が大変な時に?」


 マルスという直情型らしい男が興奮しながら大声を上げた。


「上からの出撃の命令が来なくて動けないのでは?」

「指示待ちでないと動けねぇのかよ。クソだな」

「兵士達が上の命令を無視して好き勝手に動くようになったら、組織としては終わりなんだよ」


 フォルテというリーダーらしい男が諭している。

 直情型と冷静なリーダー。

 この二人はセットで動いてもらうのが良さそうだ。

  

「城門のところのグダグダさといい、指揮、命令系統がどこかで潰されているのかもしれない。なので、すぐ近くにある町の領主の屋敷? そこへ様子を見に行って欲しい。もしイモリ人間に占拠されているならば、倒して領主の解放を」

「領主が既に死んでいたら?」


 フォルテが真剣な顔で聞いてきた。

 最悪の可能性だが、それも考慮に入れて動く必要が有るだろう。


「領主が動かないのではなく、動けないということであれば、最悪の場合、既に命を失っているのかもしれない」

「その場合は、ありのままの事実を詰所の一番偉い人に伝えてください。緊急時の指揮権の移行の規定規約はあると思いますので。詰所の一番偉い人の指揮権が一時的にでも渡るので、それで動けるようになるはずです」

「救出、もしくは制圧。そして軍関係者との交渉……難しい仕事だが、やりがいはありそうだ」

「偉い奴を助けられたなら、報酬もたっぷり出るだろうな」


 こちらはフォルテ、マルス、スーリアの三人が向かうようだ。

 よく知らない人達で実力も不明だが、彼らだけに頼って良いのだろうか?


「ところで、君はどうやって詳しく町の状況の把握を?」

「使い魔的な物を使って空から町全体を監視をしているんです。こうやって話している今もなお、空から俯瞰した町の映像を送ってくれています」


 俺は上空を旋回させている青く光る鳥を指差す。


「俺……私はここでレーダー兼カメラ……ようは偵察に徹しているのでここから動くことは出来ないので他の作戦には参加できませんが、その代わりここで情報収集は常に行うようにします。なので、敵の所在が分からないなどありましたら教えてください。広い場所で手を振ってくれればすぐに紙とペンを持って向かわせます」

「それは頼もしい。出来れば僕達の仲間にスカウトしたいところだが」

「それはちょっと無理ですね」


 流石に受ける理由は皆無なので即断る。

 フォルテの方もダメ元で言ってみたようで、笑顔で返してきた。

 ただの社交辞令で、本気でスカウトするつもりなどないのだろう。


「スーリアも、あの使い魔を使えるようになってくれないか? 色々と使い道がありそうだ」 

「でも、先週は新しい攻撃魔法を覚えてくれって」

「攻撃は僕達がなんとかするから、魔法でしか出来ないこと覚えて欲しいんだ」

「フォルテがそういうなら」 


 何か使い魔についてやり取りをしているが、俺に使い方を聞くのだけは止めて欲しい。

 スキルの使い方や原理なんて知らないので、適当に誤魔化さざるを得ない。 

 

「なら、うちらは?」

「ドロシーちゃんはここでカーターと一緒に拠点を守る仕事だよ。みんなが疲れて休憩したり、怪我した人達が避難できる場所が敵に襲われないように護るのも重要な仕事だよ」

「分かった」

「では作戦を開始してください」


   ◆ ◆ ◆

 

「だんちゃーく! いま!」


 鳥で町の状況を監視しつつ、拠点に近付いてくるイモリ人間に鳥を突撃させる。


 普通に鳥を一羽ぶつけてもイモリ人間を倒すことは出来ないが、20m程の高さから加速をつけて突撃させると攻撃は倒せることは分かった。


「師匠、僕は次にどれを狙えば?」

「俺が鳥を飛ばした場所に他に三匹集まっているので、そこへ着弾させて欲しい。周辺に他の敵はいないのでホーミングはしなくていい」

「分かりました!」


 レルム君の放ったビームが俺の指示通りの場所に命中。三匹のイモリ人間を焼き払った。


 俺の鳥でだいたいの位置を示して、そこに誘導ビームを撃つことで、口で説明するよりも正確に敵を倒すことが出来る。

 次弾発射まで三分かかることだけが難点だ。


「だんちゃーく!」

「だんちゃーく!」


 2人で弾道確認をしていると、カーターが酒瓶片手に屋上へ上がってきた。

  

「妙に楽しそうにやってるけど、状況はどんなもんよ?」

「城門を塞いでいた馬車を撤去して、周りの敵も掃討したから、やっと人が流れ始めた。巨漢で目立つタルタロスさんが誘導してるので、行列もパニックなしに割とスムーズに流れてる。後は時間の問題かと」 

「領主の方は?」

「死亡確認済。なのでフォルテ達は兵士詰所の方に向かって説得を……いや、もう説得は済んだみたいだ。たった今、兵士達が動き始めた」


 今まで待機状態を保ったまま何もしていなかった兵士達がようやく重い腰を上げた。

 武器を手に詰所を出て町のあちこちへと散っていく。


 兵士達の協力があれば、イモリ人間に数で押し負けることはないだろう。


「詰所の方が片付いたなら、フォルテ達は戻ってくるだろう。どこに行ってもらう? 城壁か?」

「いや、城壁の方は救護と案内だけだから追加人員は不要だな。イモリ人間の数が多そうなところか、住民が大勢避難している場所、どちらに行ってもらった方が良いのか」


 そう言っているとフォルテ達が詰所から出て歩き出しているのが見えた。


 次にどこに行ってもらうか考えていると、フォルテ達の後から一人の人物が詰所から飛び出すのが見えた。


 町の各所へ移動する兵士と違い、周囲の様子をキョロキョロと何かに怯えるような動きで人通りの少ない方へと駆けだしていく。


 妙に引っかかる部分があったのでその人物を追跡すると、イモリ人間のすく横を通過するが、何故か襲われることもなかったり、まるで何かの尾行を警戒しているように何度も振り返ったりとあからさまに怪しい動きを見せ続けた。


「どうした? もの凄い顔をしてるぞ」

「師匠、何を見たんですか?」


 視点を使い魔の方に集中させていて気付かなかったが、声をかけられて気付いた。

 カーターとレルム君の顔が目の前にある。


「水門の制圧、領主の館への、人々の分断……イモリ人間を単なる烏合の衆と片付けるには流石に計画的すぎると思わないか?」

「誰か指示を出しているやつがいると?」

「もしくは人間側に協力者がいる可能性。馬車を転倒させて出入り口である城門を塞ぐとかな」


 視点を使い魔……不審人物の方に移すと、中央の通りを離れて、どんどんと町外れの方へと移動していく。


「その協力者は兵士達が動かないよう計略を仕掛けたはずなのに失敗してしまったので、急いで状況の報告をしないと怒られてしまう中間管理職おじさんなのかもしれない。そう、たとえばあんな感じ」 


 俺は兵舎を飛び出て町の外れへと駆けだしている間抜けな中年男を指差した。

 高い屋根の上に居るので、ギリギリ肉眼でも黙視出来る。


「こういう時に全部見えるのは楽だよな。怪しい動きをしているやつがすぐに分かる」 


   ◆ ◆ ◆


「おいどうなっている! 話が違うぞ!」

「それを言いたいのはこちらだ。なんで兵士や冒険者どもが自由に動き回っている!」

「ボクラグどもの動きが悪いのはお前のせいだろう! それに虎の子のヒュドラはどうした?」

「呼び掛けているが、何故か応じない。倒されたとは思えないが」

「ヒュドラなんて最初からいなかったんだろう!」


 何故悪党は今更になって分かりやすく全部セリフで悪事を説明してくれるのだろうか?

 中年男を追ってやってきた町外れにある豪邸では、二人の男が外……豪邸の屋根の上に聞こえてくるくらいの大声で口論を行っていた。

 その二人のやり取りを黙って聞いている老人が一人。


 今の話を信じるならば、こいつらが町にイモリ人間を招き入れた協力者なのだろう。

 動機などは不明だが、間違いなく悪人だ。

 こいつらが町にイモリ人間を呼んだせいで、祭りは台無しになるし、負傷者も出るし、おそらく死者も出ている。


「師匠どうします? 相手は人間ですよ?」

「モンスターならここから屋敷ごと吹き飛ばして終わりにしたいんだけど人間はなぁ」


 俺とレルム君は箒で空を飛んで中年男を先回りして豪邸の屋根の上で待ち構えていた。


 映像は使い魔で確認しながら、どのタイミングで突撃すれば効果的なのか思案していたが、別に中に入って尋問をしなくても、勝手に全部話してくれたのはありがたい。


 この豪邸の持ち主は、家のサイズから考えて町ではそれなりの権力と資金を持っているのだろう。

 それだけに、祭りも町も台無しにする今回の凶行の動機が理解出来ない。


 地道な証拠集めなどを行えば、そこらの動機についても解明できるかもしれないが、それにはかなりの手間て時間もかかりそうだし、それに悪党の動機が分かったから何があるわけでもない。


「レルム君、聞くことも全部聞けたし、この屋根の上から階下の三人へ電気ショック」

「良いんですか?」

「それくらいなら死なないから大丈夫」


 レルム君が俺の指示通りに屋根から真下の部屋に電流を放つと「グエッ」という声を上げて静かになった。

 使い魔に部屋の内部の様子をさせると、老人、中年の男、そして服を着たイモリ人間が痙攣して倒れていた。


 イモリ人間は先程まで室内には存在していなかったので、こいつが人間に擬態して潜入していたのだろう。


「鳥を五羽召喚と。全羽、イモリ人間に対して突撃」


 青く光る鳥がイモリ人間に直撃する度に建物全体が激しくバウンドした。

 五羽全てが直撃すると、後には何かが潰れた汁と、破壊された床だけが残っていた。


 電撃をもろに受けた老人と中年男の方は全身が痙攣したまま全く動く気配はないが、一応は生きているようだ。

 トドメは刺さずにあえて放置する事にする。


 こいつらをどうにかするのは町の人達の仕事であって、俺達通りすがりが関わることではない。


   ◆ ◆ ◆


 それからはひたすら地味な持久戦が続いた。


 俺が空から俯瞰してイモリ人間の溜まり場、もしくは人を襲っている場面を見つけては仲間に報告。

 手がけ開いているメンバーは現地へ赴き、イモリ人間を討伐。


 ひたすらその繰り返し。


 50まではカウントしていたが、キリがないので止めてしまった。


 町の中のイモリ人間が片づいた頃にはすっかり夜が明けようとしていた。


 レルム君とドロシーの2人は日が変わる前におねむの時間でダウンして、それからベッドでグッスリだ。

 かくいう俺達も体力気力を使い果たしてボロボロだ。


「まだ城壁の向こう側には敵が残ってるみたいだけど、おたくらはどうする?」

「流石に少し休もう」


 モリ君とフォルテの2人が握手して、そのまま倒れ込んだ。


「流石に一晩中戦闘は疲れた」

「こんなに疲れたのは久々だ」

「おい、まだここで寝るな」


 いつぞやのお返しとばかりにモリ君を背負うとしたが、身体を下に潜り込ませたところで持ち上がらなくて、その体勢から一歩も動けなくなった。


「助けてー」

「ここはワシが運ぼう」


 モリ君はタルタロスさん、フォルテはマルスにそれぞれ背負われて運ばれていった。


「ラビちゃんは大丈夫?」

「流石にこっちも辛い。最近は慣れてマシにはなったとはいえ使い魔で監視をするのは、かなりの精神力を使うんだよ」


 今のところ元気なのはエリちゃんとタルタロスさん、向こうのパーティーのマルスくらいだ。


 フラフラと町を歩いていると、やはりイモリ人間討伐を行っていた町の兵士達と目があった。

 軍人だけあって背筋は伸ばしているものの、目元に浮かんだ隈までは隠せないようだ。


 一応は共に戦った戦友だ。挨拶くらいはしておいた方が良いだろうと、元気良く「お疲れ様です!」と元気良く挨拶をすると、返事と共に、兵士の隊長らしき人が前に出てきた。


「貴君等の協力感謝する。謝礼を用意するとのことなので、後で庁舎に来られたし」

「委細承知致しました! 謹んでお受けいたします!」


 通じるかどうかは不明だが陸軍式の敬礼で見送ると、兵士隊長は「なんだあの娘?」とばかりの呆気にとられたような顔をした後に去っていった。


 通じなかったか。やはり文化が違う。


「報酬も出るみたいだし、拠点を宿に移すか。もう臨時拠点を使う必要もなさそうだし」

「空いてるかな? 祭りで部屋なんて開いていないんでしょ」

「……うん、まあ、さすがにこの状況だと部屋は空いているんじゃないかな。営業しているかどうかはともかくとして」


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