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Chapter 15 「総力戦」

「中でゲコゲコ凄い音が聞こえて来たけど大丈夫か?」

「あんまり大丈夫じゃない。中からカエルの化け物が出て来るぞ!」


 俺達三人が祭壇のある部屋に戻るや否や、パタムンカさんが石の扉が動かないように止めていた楔をハンマーで叩いて弾き飛ばした。

 力自慢のランボーとコマンドーの二人が石の扉を押して閉じる。


「なんなんだよ、カエルの化け物って? 詳しく説明しろ」

「カエルに山羊の足が生えたような化け物が襲ってきた。エリちゃんが力負けするくらい強い」


 カーターに地下で起こったことを端的に説明する。


「オイオイ、そいつはシャレになってないぞ。旧支配者じゃないのかそれ」

「なんだよ旧支配者って」

「それはだな……一言で説明すると宇宙怪獣だ」

「何の説明にもなっていないぞ」

 

 よくあるファンタジー世界に出てくるモンスターなど一匹も出てこないというのに、変な敵だけは次々登場する状況には慣れっこではある。

 なので、今度は宇宙怪獣ですかと言われても「はいはいいつものやつね」という感覚になりつつある。

 そもそも敵の分類が分かったから何だというのだ?


旧神の印(エルダーサイン)は書けるか?」


 カーターが更に意味の分からないことを言い出した。

 こちらが色々と分かっていることを前提に話すのを止めて欲しい。

 そう文句を言おうとするが、カーターはお構いなしに会話を続けた。


「最適化、かつ単純化された魔方陣だ。ゾスの祭祀場で見ただろう。五芒星の真ん中に目が描かれた図形を」


 確かにそれならば覚えている。

 イソグサが人々を襲っている壁画が何枚か並んでいたが、その最後に、それまでの絵とは何の関係もなさそうな謎の図形が描かれていた。


「あのマークを描くことで、旧支配者を弱らせてることが出来る。もちろん、それだけで敵を倒せるような都合の良い話はないが、ないよりはマシだ」

「描くと言われても何で描けと? ペンでも使えと?」

「その儀式用の短剣で刻み込むんだ。もし、その短剣が俺の想像通り、賢人が遺した製法で作られた偃月刀ならば、確実に効果がある」


 カーターはランクアップで追加された、俺の腰にぶら下がっている短剣を指して言った。


「俺って魔法使い……魔女なんだけど、これを振り回して近接戦闘をしろと?」

「だから、一応保険だって。それに刻み込むだけならば他のスキルを使ってもいい。とにかく図形を刻み込みさえすれば勝ちだ」


 分かったような分からないような説明だ。

 まあ、そういうものがある程度の認識で良いだろう。


 ランクアップ時に混じったオウカちゃんの能力により、刀を扱う技術は身に着いたのだが、刀を振り回す体力や筋力はないままなので、効率良く扱えるというわけではないのだ。


「あの化け物は思っているよりも強力です。相手は俺達がやりますので、みんなこの遺跡から一時退避してください」

「戦いが終わったらまた教えてくれ。この遺跡の調査は継続して行いたい」

「同じく。まだ宝を調べ尽くしていない」


 2人とも先程の怪物は見たはずなのにそれ以上に商魂たくましいなと思った。

 何にせよ、非戦闘員には一時退避をしてもらうのが正解だろう。


「リプリィさん、お願いします。この2人を連れて一時撤退を」

「ええ、分かりました」


 そう言うとリプリィさんと軍人二人が教授とパタムンカさんを連れて祭壇のある部屋を離れていった。


「それで、オレはどうすればいい?」


 カーターが尋ねてきた。

 このくらい自分で判断して欲しいのだが、念の為に確認を取る。


「エリちゃんが力負けした化け物とやり合う自信は?」

「それは間違いなくオレの専門範囲外だな」

「そういうことなら、リプリィさん達の護衛を頼む。そっちの方にも敵が出ましただとシャレにならない。流石にそれくらいは任せても良いだろう」

「まあ、それくらいなら何とか」


 カーターはそう言うと全力で階段の方へと駆けていく。

 本当に聞き込み以外では何の役にもたたない運営の犬だ。


「乱戦になれば魔女の呪いは使えないから、俺は(シールド)専門に回ることにする」

「防御は全部ラビさんに任せて、俺もエリスと一緒に攻撃に回った方が良いってことですよね」

「ああ、おそらく2人がかりで戦ってもらわないと手に負えなさそうだ」


 最悪、俺も儀式用短剣で近接戦闘を仕掛ける必要があるかもしれない。

 鳥を5羽呼び出して3人で先程のミイラが祭壇を取り囲むように立つ。

 

 30秒……何も起こらない。

 無言で汗を拭う。

 仕方ないので待機状態の鳥を五羽追加する。


 更に30秒……祭壇のある部屋は静寂に支配されていた。

 鳥を追加で召喚。これで15羽……盾が五回分になった。 


 更に30秒が経過した。

 これで鳥の数は20羽……過去最高になる。

 現在は何の命令も与えずに好きにさせているが、これを一斉に操作しようとすると、情報量が過多で俺の脳が持たないだろう。事実上の限界値。


 普段ならば鳥に何の命令も与えないと好き放題に飛び回るのだが、今回は鳥にも緊張感が伝わっているのか、その全てがあちこちに止まり、祭壇の方を見つめている。


 更に30秒。


 もしかして扉を閉めたことにより、奴は俺達への追撃を止めたのではないだろうか?

 そう思った時に《命令を与えずに放置していた鳥達が一斉に鳴き始めた。奴が来る》

 魔女(ラヴィ)に意識を持っ《鳥を扱う技術ならば僕の方が上だ。ここは任せて欲しい》


「体のコントロールを少し貰うよ。この状況だと僕が戦った方が良さそうだ」


 先程の通路で発生したのと同じように、空間内にカエルの輪唱が聞こえ始めた。


 だが、奴は理解しているのだろうか?

 カエルの天敵は鳥であるいうことを。


「夜鷹達よ、(ヒキガエル)を食らい尽くせ!」


 20羽の鳥達が本能に従って縦横無尽に飛び回り、奴の呼び出した不可視の使い魔を食らっていく。

 奴の使い魔が屠られる度に、カエルの鳴き声は聞こえなくなっていった。 


「ラビちゃん、これは何が起こっているの?」


 どうやら鳥が無秩序に飛び回っている光景をエリちゃんが不審に思ったようだ。


「奴に結界を張らせたりはしないってことだよエリちゃん」

「……あなた、本当にラビちゃんなの?」


 急に雰囲気が変わったことで、流石のエリちゃんも中身が俺さんじゃなく僕に入れ替わったことに気付いたようだ。


「信じて欲しい。僕は俺さんとは違うけど、君の友達であることは変わらない。それよりも来るよ!」


 鳥達が予見した通り、祭壇が石畳と共に()()()()高く真上に蹴り上げられた。

 祭壇は僕達から16フィートほど離れた場所に落下した。


(ヤーポン法は分からん。メートル法で)


 分かったよ。祭壇は約5メートル離れた場所に落ちたよ。

  

 そして、開通した穴から這い出して来る者がいる。


 名前もわからない蛙の神だ。

 奴は指の間に水かきがついたその手を穴にかけてこの祭壇がある部屋に登ってこようとしていた。


 僕は三羽の鳥に盾を展開したまま突撃を命じる。


 青白く光る三角形の力場……盾に頭を押さえつけられた蛙の神はそのまま穴の奥へと逆戻りをしていった。

 奴を穴の奥まで叩き落した後は盾を一時解除する。


「今の盾は一度解除。3羽で新しい盾を展開。そして極光!」


 僕は箒の先から3番目のスキルによって放たれる極彩色の閃光を上空に展開した盾に向けて照射する。


「跳ね返せ!」


 熱線は盾によって下方向……穴の奥にいる蛙の神に向かって注がれる

 極光の性質は熱と衝撃……耐えず体表面に水分を纏う必要がある蛙には、熱による水分蒸発はさぞ痛むだろう。

  

「さて問題は、ここまでやってほとんどダメージが入っていないことなんだけど。硬すぎるよこいつ」


 蛙の神は熱線を受けながらも、穴から這い上がろうとしているのを見て僕はそう呟いた。


 相手の弱点を突いているのだから、もう少しダメージが入っても良いはずなのに、これでは何の成果も上がっていないとの同じだ。


《というわけで、後は任せるね》

「おい、こんな中途半端な状態で戻すなよ!」


 閃光を撃っている最中に諦めて魔女が引っ込んでコントロールを戻されるという、とんでもない状態でキラーパスが回ってきた。

 まさに「急にボールが来たので」状態だ。

 こんな中途半端な状況で何が出来るというのか?


 手持ちのカードで何が出来るのかを考える。

 幸いにも使える鳥が何羽かいる。

 こいつらを有効活用しない手はない。

 何しろ、盾の新しい使い方をたった今教えてもらったのだから。


「地下に行った連中は盾を再形成。蛙が地上に出たがっているみたいだし、逆に上方向へ跳ね上げてやれ!」


 蛙の神の真下で盾を形成して、そのまま勢いよく蛙の神を真上に跳ね上げる。

 真夜中の海で魚を獲った時と同じ要領の金魚すくい戦法だ。


「真上に出した盾は逆に下降! 挟み込め!」


 閃光を真下方向に向ける役割を果たしていた盾を蛙の神の頭に叩きつけて、二枚の盾で挟み込む形にする。

 このまま二枚の盾で押し潰すことが出来れば良かったのだが、さすがにそこまでの力はないようだ。


 だが、相手を身動き出来ない状態で空中に固定出来たことは大きい。


「これで叩きやすくなった! ナイスアシスト!」


 モリ君が槍の穂先に青白く光る壁……プロテクションを展開。

 「斧」の形状にと変えて蛙の神の横っ腹へ向かって切りかかる。


 だが、効いていない。

 光る壁……刃はわずかに蛙の神に食い込んではいるのだが、あれでは薄皮一枚と言ったところだ。

 致命傷には程遠い。


 同様にエリちゃんがパンチを繰り出すが、こちらもやはりほとんどダメージが入っていない。


 拳にスキルの青い光をまとってのパンチ……おそらくは遺跡の出口でSFロボをほぼ一撃で無力化した「すごいパンチ」のはずだが、こちらも表面の薄皮が破れた程度だ。


 二人が何度か攻撃を繰り出すが、擦り傷の域を越えていない。

 今までの敵とは次元が違いすぎる。

 

 そうやっているいちに、蛙の神を拘束していた「盾」の効果時間が終了して自動的に解除された。


「二人とも、何かあいつを倒す案はないか?」

「もうあいつが倒れるまで殴りまくるしか」


 エリちゃんの脳筋論は置いておくとしてだ。何か他の方法を考えないとジリ貧だ。


「ラビさんの熱線はどうですか? あれなら流石に効くとは思います」

「そうは言ってもあと3分は使えないんだぞ。その間はどうするんだよ」

「ならば、カーターさんが言っていた旧神の印はどうなんですか?」

「実証データがなさすぎる。そもそもカーターの話が本当なのか? もし本当でも、刻み込んだところで、どのような効果があるのかが不明だ」


 そもそも、体力がない俺が近接戦闘を仕掛けていって、紋様を短剣で刻み込みに行くということ自体がリスクが高すぎる。

 不確定要素が多すぎるのに、そんな博打勝負を仕掛ける気はない。


 なんだかんだでこちらの損傷は0だが、相手には多少とはいえダメージが入っている。

 攻撃も全く効かないというわけではない。


 まだ現状はこちらが有利で動いている。


「二人とも気合を入れろ。ここからが本当の総力戦だ」


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