エピローグ
あれから半年が過ぎた。ようやく待ち望んだこの日を迎える事が出来た。オリヴェルは込み上げて来る幸せを噛み締めていた。
「アレクシア、綺麗だよ」
先程まで大広間にて二人の婚儀の祝杯が行われていた。そう、二人は今日晴れて夫婦になったのだ。
朝早くから準備を整え、昼に教会にて式を挙げた。王太子の婚儀とあり、それはもう盛大に。国中の貴族等が参列し、溢れんばかりの人々。豪華な衣装とアレクシアの為にと用意したこれまた溢れんばかりの花。外へ出ればその花が風に舞い降る。その中を本の中の王子の如く、彼女をお姫様抱っこをして歩いた。
恥ずかしそうに、だが幸せそうに微笑むアレクシアは美しく愛らしい……姫と言うよりは女神の様だった。
因みに、当たり前だが参列者の中にランブラン夫妻とエルヴィーラの姿はない。
あの後彼等はオリヴェルの宣言通り、辺境の地で暮らしている。爵位は敢えてそのままにしている。何故ならその方が惨めに感じると思ったからだ。
屋敷ではなく、古びた小屋で三人身を寄せ集い暮らしている。これまでランブラン家が所有していた土地は没収した故、それらの収入はない。だが肩書きだけは侯爵故、自尊心が邪魔して侯爵は働きに出ないらしい。
だがオリヴェルも鬼ではないので、自給自足出来る環境は用意してやった。小屋の前に割と大きな畑があり、自分等でその畑を耕し、作物を育てれば取り敢えず生きるのには困らない筈だ。まあ、これまで上級貴族として生きてきた彼等にはかなり酷な話だが。それも自業自得に他ならない。
「オリヴェル様?」
アレクシアの声に我に返った。
そうだった、今は正に正念場だ。所謂初夜……。夜着を纏う彼女を直視出来ない。恥ずかしそうに、もじもじする姿に込み上げてくるものを感じる。一刻も早く彼女を堪能したい。したくて仕方がないのだが、先程から動けないでいる。
もし彼女を満足させる事が出来なかったら、嫌われてしまったら……そう考えると怖くて身体が強張る。途方にくれながら暫し意識を飛ばしていたのだった。
「あー……いや、その」
横目で彼女を、もう何度目になるか分からないが盗み見て、生唾を飲み込む。夜着から透けて見える彼女の身体に、もう我慢の限界だった。
「アレクシアっ、や、優しくするからね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日差しの眩しさに目を開けた。
隣を見るとオリヴェルがまだ眠っていた。肌寒さに身体を少し震わせる。二人ともに何も纏っておらず、恥ずかしくなった。
アレクシアは、おずおずとオリヴェルに身を寄せて再び目を瞑った。
昨夜初めて床を共にした。物凄い緊張をしたが、終始優しい言葉と手付きのオリヴェルに気付けばいつの間にか夢中になっていた。彼もまた途中から興奮しきった様子だった故、多分満足してくれたと思う……。
思い出すだけで、身体が熱るのが分かった。
「……オリヴェル、さま」
幸せだ。アレクシアの世界はずっと本の中だけだった。あの屋敷からいつか抜け出して、世界を冒険する夢を見ていた。その反面恋愛ものは苦手だった。誰かに期待して裏切られたり見放されたりするのが怖い。その点、一人闘いながら冒険をする本は誰に遠慮する事もない、本当に心地がよかったのだ。
だが、今は違う。恋愛ものも悪くないと思う。我ながら現金な話だ。
王子様がお姫様を助け出し、やがて二人は結婚して彼女は王太子妃になり幸せになりました……あの落ちていた本の様だとアレクシアは笑った。
お終い