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無事アレクシアを助け出したオリヴェル等は城へと戻って来た。彼女を馬に乗せて駆けるオリヴェルはそれはもうデレデレだった。鼻の下が伸びきっている。


だが、まさか鼻血を出すとは……。


リーゼロットは終始呆れ顔で彼を眺めていた。


「アレクシア、此処に座って」


彼女を書庫へと連れて行き座らせる。そして先程の出来事を簡潔に説明をした。自分の良いように……。

その様子をやはり黙って眺めるリーゼロットだが、苦笑せざるを得ない。


「君には酷な話だが……君のご両親とエルヴィーラ嬢は君とは縁を切ると言っていた。全く以て酷い話だよ。それに加えて、色々な理由で彼等は遠方に引越すらしくてね……もう会う事はないだろう。大丈夫だよ、そんな顔しないでアレクシア。君の後見人を僕の叔父にお願いするつもりだ。だから、アレクシアは何も心配する必要はないよ。それに、君には僕がいる」


不安気にするアレクシアの頭や頬を此処ぞとばかりに撫で回すオリヴェルに、思わず鼻を鳴らしてしまった。


「そうなんですね。ですが実は私も両親達とは縁を切る覚悟をしてましたので……大丈夫です。ただ実際直面してみると複雑なものですね。これまで何をされても血の繋がった家族だからとしがみ付いてきました。今更ですが、耐えるだけの自分も悪かったのではないかとそんな風にも思います……そうすればこの様な結果にならなかったかも知れません…………」


少し涙ぐむ彼女をやはり此処ぞとばかりに抱き締めるオリヴェル……。



「アレクシア、君が悪いなんてある筈がない!それに例え君が今後悪い事をしたとしても僕が君を赦す‼︎」


いや、いや、それはダメでしょう⁉︎此奴絶対将来暴君になるわ……。リーゼロットは心の中で悪態を吐く。だが、事実だ。


「ふふ、オリヴェル様。それはいけません。私がもしこの先、悪い事をした時は躊躇う事なく断罪して下さい」


「アレクシアっ、君は本当に良い子だね」


何かに感動したオリヴェルは更にキツく彼女を抱き締めた。ついでにスリスリしている。


多分普通の人ならそう答えます。寧ろ安堵しました、アレクシア様が普通の感性の持ち主で。大分抜けてはいるが……。


「あの……オリヴェル様。オリヴェル様には本当に感謝しております。……オリヴェル様が現れた時、私まるで王子様みたいだって思ったんです」


頬を染めはにかむアレクシアにリーゼロットは目を見張る。

みたいではなく、こんなんでも一応本物の王子様です……。


「嬉し過ぎてつい涙が出てしまって……醜態を晒してしまい申し訳ございません……」


アレはまさかの嬉し泣き⁉︎


「醜態なんてあり得ないよ。君の涙を流す姿は本当に美しい……何なら別の意味でも鳴かせたい」


「?」


オリヴェル様、嬉しくて仕方がないのは分かります。ですが心の声がダダ漏れです……。


多分本人は気付いていない。アレクシアは鈍いので意味は分かっていない様子だ。そもそもそう言った事柄自体を知らなそうだが……。


「あ、あの、オリヴェル様こそ素敵でした。とっても格好良かったです‼︎」


熟れ熟れのトマトの如く、彼女の顔全体が一気に染まる。リーゼロットは少し引いた。


え、アレが⁉︎素敵⁉︎格好良い⁉︎


嗜む程度しか乗馬が出来ない自分に到頭追い付く事が出来なかったオリヴェル。リーゼロットは先に着き、門の前で彼を待っていたのだ。先に入っても良かったが、流石に可哀想故待っていてあげていた。我ながら優しいと思う。


そして彼は息を切らし髪は乱れに乱れ、全身汗だく、言葉は絶え絶えで……とてもではないが、情けないとしか思えなかった。何とか間に合った事は褒めても良いが、後は正直微妙だ。自分がアレクシアの立場なら正直苦笑せざるを得ない。


しかも侯爵等を糾弾したのは良いが、アレクシアには汚い自分を見せたくない故に最後まで彼女の耳を塞いでいた。実に往生際の悪い事だ。


きっと彼女の前では綺麗な自分だけを見せていたいのだろう。ため息を吐く。すると鋭いオリヴェルからの視線に気が付いた。


空気を読め、そう言っている。


はい、はい。邪魔者は退散致します。全く彼女の事になるとどうしょうもない人だ。


「では、アレクシア様。私はこれで。落ち着きましたらまた会いに参りますね」


リーゼロットは、疲労感を感じながら書庫を後にした。




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