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3-5 言語魔術師の弟子(前編)



「アレアレこれはどうしたことでしょう。ワタクシがおねむの間に随分と慌ただしい出来事があったようですわね?」


「タマ――?」


 暗く沈んだ闇の中。意識がゆるやかに浮上する。

 目を開くとすぐ傍に見覚えのある兎がいた。白黒と帽子、片眼鏡。饒舌で無意味な語り口。毎朝目にしている、私の使い魔だ。


 日が落ちてからどれくらい経過したのだろう。あたりはすっかり薄暗く、明かりと言えば頭上で皓々と光る四つの月たちだけ。今宵は第四衛星イルディアンサ――太月とも太陰とも呼ばれる太陽の対星――が細い。弓のような弧を描くその光は淡く、もう少しで上弦になろうかというところだった。


 身体に呪力が満ちているのが明瞭に感じられる。満月の時ほどではないが、夜を迎え、月光を浴びたことで心が満たされているのだ。【夜の民】ゆえの生態。きっとハルベルトを助けられたのは折良く夜が訪れたからだろう。時間がもう少し早かったら間に合わなかったに違いない。

 

「起こしてくれたのはありがたいけど、できれば手当くらいして欲しかったな」

 

 それでも甲冑は脱がされて、闇に紛れる黒衣を着せられていた。こう暗い上に他に誰もいないのであまり姿を隠す意味も無いのだが、一応たしなみとして格好は徹底しなくてはならない。


「主様それはご無体というものですわ。ワタクシおまじないというおまじないが全くもって使えませんのよ。治癒符に触れた途端ぱんしてぽんですわ」

 

「そう言えばそうだったね――私も、起きたら折れた足が飴とかクッキーに変えられてたなんてぞっとしないし」


 言いながら、自分で曲がってしまった脚の処置を行う。幸い皮膚が破れている様子は無い。開放骨折を放置したまま気を失うのは余りにも危険だったから、その点は運が良かったと言える。しかし、血管や筋肉、神経が傷付いている可能性がある。腫れはかなり酷く、炎症を起こしているようだった。


 今まで気にしないようにしていたが、正直泣きそうなほど痛い。沈痛呪術の【安らぎ】で痛みを緩和しつつ、まず脚を慎重に正常な向きに戻していく。下手な動かしかたをして余計怪我をしないように、ゆっくりと。

 

「う――」


 喉が震えるような呻き。多分だけど、今使っている高位治癒符でも相当時間がかかる怪我だと思われる。呪符に記された呪文が発動して、砕けた骨の欠片や軟部組織、内出血した血液などを取り除き、急速に新しい外仮骨が形成されていく。【修復】は様々な怪我に効く汎用性の高い呪術だけど、これ以上の無茶はできそうになかった。


「この分だと、勝負は私の負けかな」


 黒衣の中に収納した呪動装甲も破損が著しい。また呪術杖も落下の衝撃で変形機構が壊れかけているようだ。無事なのは魔導書くらいだろうか。

 無駄とは知りつつも、端末をとりだして通信を試みる。


「駄目だ、端末のグロートニオン結晶が繋がらない――」


 パレルノ山の深部に眠る大量の呪鉱石。呪術文明の恩恵に与る人々にとって無くてはならない埋蔵資源が私に牙を剥いていた。

 どうしたものだろうか、とあたりを見回しながら嘆息した。崖から迫り出した岩棚はどこかに繋がるということもなく孤立している。ここで救助を待つか、駄目で元々、ハルベルトを背負って登攀を試みるか。


 ミルーニャとメイファーラは無事だろうか。特にミルーニャは、放置すれば死にかねない重傷を負っていた筈だ。彼女は当然治癒符かそれに類する呪具を持っているだろうから、メイファーラが適切に処置してくれれば大丈夫だと思うけれど。

 安否が気遣わしい。どうにかして連絡がとれないものか。


「クイズです。足が動かない、手も動かない、そんな主様をフワフワとトリップさせるには一体どんな手品が必要ですかしら?」


 二足歩行の兎が、片方の手の上に綿菓子、もう片方に透明な水飴を浮遊させながら、いつもの調子で宣った。

 何のつもりだろうと訝しむが、他にやることも無いし付き合うことにする。綿菓子を受け取って口の中に入れた。ふわりとした甘さが舌に蕩けた。失われた呪力と体力が急速に取り戻されていくのがわかった。ハルベルトには申し訳無いけれど、昼に食べた重箱の中身よりずっと高効率な呪力補給源だった。


「端末も鎧も通信ができない、金鎖経由でも駄目。となると、使い魔を飛ばしての連絡? タマを【空圧】で放り投げれば上まで届くかな――」


「落ち着きなさいませ落ち着きなさいませ。それで得られるのは潰れた兎の一番絞り、もぎたて果実の真っ赤なジュースだけですわ」


「衛星端末とか?」


「ああそれは古の秘儀! されどフロントクロンは一夜にして滅びを迎えその叡智は暗黒の彼方へと沈んでしまったのです。他ならぬ語らずのマロゾロンドの手によって」


「知ってる。小さい頃にたくさん聞かされた――じゃあ何、打つ手無しってこと?」


 うんざりする結論だった。しかし奇妙な使い魔はぴんと長耳を立てて、ふわりと浮き上がった。そのまま重力を無視するかのようにくるくると回り出す。


「いやですわ主様。答えは既にあなた様の中にありますのに。ヒントはワタクシ。過去と現在の絶えざる参照が未来を切り開くのです」


「タマが? 過去と現在?」


 その言い回しで、何かが頭にひっかかる。このおかしな使い魔を手元に置くようになったのはつい最近だ。フィリスとの同調が深くなり、使い魔の適性が上がったから。過去の私はまだ未熟で、そんなことはできなかった――未熟だったからできなかった?


「それだ」


 そうだ、どうして気がつかなかったのだろう。

 物質的な肉体がどこにも行けないというのなら、非物質的な霊体や精神を移動させればいいのだ。

 アストラル投射なら可能性はある。


 勿論この呪波汚染の中ではかなりの危険が伴うし、呪力の消耗だって激しいだろうが、どうにかして二人を探し出せれば道が開けるかもしれない。それにメイファーラの知覚能力なら私のアストラル体を見分けるのは造作も無いだろう。


「ありがとうタマ、たまには役に立つじゃない」


「タマタマですわ主様」


 ううん、何だろう。今のやり取りには妙な含みがあったような気がする。さっきの会話を別の言語に翻訳したら何かの冗句になるとか、そういうしょうもない誘導をされた予感。この道化めいた使い魔はそういうことを平気でやるのだ。自分の役目が終わったと見るや、兎はぴょんと飛び跳ねて黒衣の中に隠れてしまった。


 まだ微かに残る痛みに耐えながら、どうにか精神を集中させた。この程度、フィリスに高位呪術を発動させた時に比べれば大した事は無い。

 精神の遊離。実体のみを残して、浮き立つ心をそのまま解き放つ。意識は遠くに、意思は高みへ。私自身の居場所を置き去りにして、私は透明な姿となって高く飛翔した。


 その姿は小さく丸い黒衣の二頭身。アストラルアバターとなった私は感応の触手を周囲に伸ばしながら他者の存在を探っていく。

 一番近い場所にいるハルベルトと私の本体は別にして、生きている存在を探していく。

 仲間達との再会は想定していたよりもずっと早かった。


「アズ! 良かった、無事だった!」


「アズーリア様ぁぁぁ♪」


 【天眼の民】であるメイファーラと、眼鏡によって霊的視界を獲得したミルーニャが私に気付いて手を振る。二人とも先程の細道を通り抜けて、開けた場所に出てきていた。私はミルーニャの傷が治っていることに気付いた。


「二人とも、無事で良かった。ミルーニャ、怪我はもういいの?」


 訊ねると、何故かメイファーラが何かを言いかけて口ごもる。ミルーニャの柔らかい表情が一瞬だけ強張った気がしたが、すぐに蕩けるような笑顔に変わる。


「はいっ。これでも錬金術師のはしくれですので、治癒符から広域復元の巻物、さらには持続回復型の生命の水までよりどりみどりに揃えているのです! ね? メイファーラさん?」


「う、うん。ミルーニャさん、結構酷い怪我だったけど、すぐに治ってたから心配無い、よ?」


 なんだか妙な様子だ。気になったが、それよりも優先すべき事がある。私は下の岩棚にハルベルトと一緒にいることを伝えた。ハルベルトの負傷は大した事が無く、私共々治癒符による治療で充分だったという嘘を交えて。フィリスの事をどう説明していいのかわからなかったのだ。


 それに、伝説上にしか記述が無い大呪術、【万色彩星ミレノプリズム】を使っただなんて、言ったところで冗談だと思われるだけだ。自分で使っておいてなんだけど、あんなもの神話や昔語りでしか聞いたことがない。

 状況を把握したはいいが、三人で頭を抱えることになった。


「困ったね。どうやって助けに行こう。上からロープでも垂らす? ミルーニャさん飛行用の呪具とか持ってない?」


「残念ながら。あの馬鹿大学生をとっつかまえて箒を強奪するという手もありますが、何処にいるのかわからないですし――頑丈な縄の用意くらいありますが、体調の思わしくない二人を登らせるのも危険でしょう。第六階層あたりで素材とレシピを手に入れられれば、減速符を作るのも不可能ではないですが」


「あれ高価だよねー。便利そうだから欲しいんだけど、流通してるのは殆ど最前線で、地上にはあんまり出回らないんだよね。迷宮産の呪具は前線で作って前線で消費するのが基本だからかな」


「減速で思い出した。お師様が気を失う前に重力操作の術を使っていたんだけど、目が醒めるのを待って下に降りるのがいい気がする」


「ならあたし達も下で合流すればいいのかな?」


「どうでしょうね。あの口先女の技術には信頼が置けません。いざという時に失敗して墜落死なんて笑えませんよ」


 ミルーニャの口調は辛辣だった。先程の戦闘で、ハルベルトは単眼巨人を目の前にして動けなくなってしまった。あれは明確に前衛として後衛を守れなかった私の過失であって、責められるべきはハルベルトではない。しかし後衛でありながらも格闘能力を持つミルーニャにしてみれば、その能力に信頼が置けなくなってしまうのも仕方無いのかも知れない。それでも、私は確信を持って答えた。


「お師様なら大丈夫」


 私の中には揺るぎない信頼が生まれていた。変な話だけど、あんなふうに命を投げ出して瀕死に陥った彼女だからこそ――命のかかった場面で間違うことはないだろうと思えたのだ。彼女は私を見捨てないし、裏切らない。師としての責任感か、それとも別の理由かはわからないけど、きっとそうだ。


 私の迷い無い言葉に鼻白んだのか、ミルーニャは下唇を軽く噛んで、眉根を強く寄せた。それからはあ、と大きく溜息を吐いて、仕方無いですね、と腰に手を当てる。


「わかりました、あの口先女ではなく、二度もミルーニャを助けてくれたアズーリア様の言葉を信じます。ただし、保険としてミルーニャ達が真下で待機してからです。念のために枯れ木と腐葉土と布で即席の衝撃緩和材を作っておきますので、その上に落ちてきて下さい。照明灯で位置を知らせますから」


 骨が折れたら治療呪具ですぐに治します、と言い放ってミルーニャは顔を背けた。そこが妥協点だと、私の身をこれ以上無いほどに案じてくれているのだ。

 胸の中が暖かくなる。口は悪いけれど、彼女はとても優しいひとだ。


「ありがとう、ミルーニャ」


「――べつに、慎重を期するだけです」


 完全にそっぽを向いてしまったミルーニャは肩にかけた鞄の位置を気にしながら、すぐにでも出発しようとメイファーラを急かし始めた。


「さあ、さっさと行きますよ。あなたの索敵と案内が無いとこっちは動くに動けないんですから。最短ルートでさっきの場所の真下へ連れてって下さい」


「ちょちょ、引っ張らないでよー。言っておくけど、戦闘は全部回避するからそんなに速度は出せないよ?」


「駄目です! 最速最短で超急ぎつつ完璧な索敵と戦闘回避を両立して下さい!」


「そんなのどんな斥候でも無理だよ~」


 何故か後衛が前衛を引っ張っていくということになっている二人を見送りながら、私はふと思いついてミルーニャに声をかけた。


「あのね。私がお師様を信じる理由も、ミルーニャと同じ。お師様は、何度も私の事を助けてくれた。だから私も、お師様を信じる」


 ミルーニャはそれを聞いて、一瞬だけ驚いたように目を見開いて、それからすぐに軽く息を吐いた。


「そんなに簡単に人を信じて、裏切られても知らないですからね!」


 突き放すような言葉だったけれど、それはミルーニャなりの気遣いだったのだと思う。私はアストラル体を元の場所に戻しながら、改めて自分の心を確かめる。


 あの人を助けたい。力になりたいし、期待に応えたい。

 そして――あの人を知りたい。そう思い始めている自分に、ようやく気付いた。





「服、破れてるんだけど」


 目を見開いた途端、不機嫌そうな声がして、私はハルベルトが目を覚ましたことを知った。上半身だけ起こして、服の破れ目を押さえている。恨めしげな目でこちらを見ながらぽつりと呟く。


「変態」


「違います! 怪我の様子を見るために――」


「分かってる。でも見たのは事実」


「それは、そうですけど」


 責めるような口調が、かすかに震えている事に気がつく。長い耳がへなりと下を向いて、心持ち普段よりも感情がわかりやすい感じがする。落ち込んでいる――あるいは、何かを恐れている。


「あの、誰にも言いません」


 彼女の左右非対称な耳と、その胴に浮かび上がる黒い血管の紋様。隠していたからには何か事情があるのだろう。私にも、簡単には人には言えない事情があるから、深く訊ねるのは止めようと思ったのだが。


「そんなの当たり前。何、恩に着せたいの」


「そんなことありません」


「どうせ気になってる癖に、ハルを気遣って訊きませんみたいな態度が気にくわない。弟子の癖に生意気。上から目線が最悪。年上ぶって」


「なっ」


 なんでこんなに喧嘩腰なんだろう。それは、確かにそういうふうに取れる事を言ってしまったかもしれないけど。だからってここまで言われるような事はしてないはずだ。


「大体、こうなったのも全部あなたのせい。後衛がいる位置まで敵の接近を許すなんて、最低のミス。後衛も駄目、前衛としても駄目。一体何のためにハルに弟子入りしたの」


 確かにその通りだ。私だってそれは充分思い知らされて、今も後悔している。けれど、改めてそれを指摘された私はついかっとなって、思わず強く言い返してしまった。


「別に、師匠になってくれなんて頼んだ覚えありません! 押しかけのくせに、好き勝手に言って――それにあの状況でも対処できる後衛だっています。防御結界を張ってた癖に怯えて動けなくなるなんて、そっちこそ後衛として失格じゃないですか」


 言いながら気付いた。私はあさましくも期待していたんだ。

 本当はこう思ってた。

 折角――私が助けてあげたのに。

 お礼の一つも無いなんて。


 彼女の命を救ったということを盾にしたかった。厳しくて険しい目でこちらを睨んでくる彼女の、時折見せる優しさを欲しがってしまった。

 言葉の応酬は、生まれた棘の鋭さだけエスカレートしていった。言う必要の無いことを弾みで口に出して即座に後悔する。本質を過剰に攻撃的に尖らせただけの醜い悪意。こんなもの、欲しい言葉じゃないはずなのに。


「前衛がちゃんと機能してれば、言語魔術師は近接戦闘での対応なんて考える必要が無い。そんな時間があるなら呪文の改良でもした方がいい。あのうるさい錬金術師は時間を無駄に使ってるだけの半端者」


「何でそこでミルーニャの事を悪く言うんですか、信じられない! 彼女はお師様を助けたんですよ、自分の身を投げ出してまで!」


「ただの事実。呪石弾だってそう。自力で呪文を唱えられないから道具に頼ってる。その上、器用さが足りなくて弓じゃなくて投石器スリングショットが武器だなんて笑わせる。無能だって自分で喧伝しているようなもの」


「――最低だ。お師様が、貴方がそんな事を言う人だなんて思わなかった。見損ないました。探索中も思ってましたけど、どうして人のことを悪く言うんですか。そんなふうにしてても、いい事なんて無いのに」


「何で」


 きっと睨み付けてくる。耳がぴんと持ち上がって、怒りを露わにする。黒玉の瞳が揺れて、痛みに耐えるような顔になる。理不尽な暴力に晒されているような――あの単眼巨人を目の前にした時のような、恐れの表情。

 ハルベルトは傷付いていた――私の言葉で、傷つけられていたのだ。


「ミルーニャだってそうなのに。何でハルだけ責められないといけないの。あの錬金術師があなたをちやほやするから気分が良いというわけ」


「違います! それは――だって」


 だって――何だというのだろう。

 私が、ミルーニャには何も言わず、ハルベルトだけ責める理由が見当たらない。二人の仲が悪いのは知っているし、道中ひたすらお互いの悪口を言い合っていたのも慣れていた。今だって似たような事は散々聞かされていた。それでも、私はハルベルトの言葉に怒りを覚えた。


 ただ彼女を責めたかっただけ? 勢いに任せて攻撃の材料を無理矢理探してしまったのだろうか。何か違う気がする。私はただ、ハルベルトにそれを言って欲しくなかった。彼女には、もっと。


「貴方は――もっと素敵な人だって思っていたから。ごめんなさい、私が勝手に理想を押しつけただけです。お師様は単に、元々そういう人だったってだけですよね」


 長い耳がぴくりと動いて、黒い兎の垂れ耳がゆっくりと下がっていった。目を伏せて、唇を横に真っ直ぐに結ぶ。しばらく、その場所に沈黙が横たわった。


「ハルは――最初から不本意だった。資格があるからとお姉様に言われたから確かめにきただけ。とんだ期待外れ。あなたの師匠なんてやりたくてやってたわけじゃない。あなたみたいな求めるばっかりのほしがりや、ハルの一番嫌いな人種」


「私だって、貴方みたいな失礼な人は嫌いだ! もうお師様なんて呼んでやるものか、貴方に向ける敬意の分をミルーニャやメイファーラに割り振る方がずっといいと今気付いた。これからは、単にハルベルトと呼ばせて貰う」


「『これから』なんて想定してない癖に。そもそも、どうせ形だけでハルに敬意なんて払ってなかった。けどあなたにあの二人はお似合い。レベルの低い連中同士で馴れ合ってればいい」


 どうして、こんな事になってしまったんだろう。

 沈黙と悪口。不毛さを繰り返しながら、私の頭の中にはその言葉が渦巻いていた。


 今頃、メイファーラとミルーニャは私たちと合流するためにこの場所の真下に移動している筈だ。その事も説明しなくちゃならないというのに、どうすればいいんだろう。


 ハルベルトの態度は頑なで、あちらからの譲歩や歩み寄りなんて期待できそうに無かった。今まで口にしてきた事なんてみんな嘘で――本心でもあったけど――本当はさっきまでのように師弟関係に戻りたいと言えればどんなにいいか。


 沈黙を破って口を開こうとするけれど、その度に言葉は刃のように鋭さを増して相手を傷つけようとしてしまう。こんなのは、私が欲しい言葉じゃない。

 言葉なんて、邪魔なだけだ。

 かつては焦がれるほど欲していたというのに――我ながら身勝手極まりない。


 必要な言葉がわからない。どうすればいい? そんな呪文をハルベルトは教えてくれなかった。知らない呪文を摸倣することはフィリスにだって出来ない。私は自分の考えでは何も出来ないんだ。惨めになって、膝を抱えてうずくまった。


 その時。

 きゅるる、と奇妙な音がした。

 奇妙なというか。私はハルベルトの方を見る。

 右耳が真っ赤になって、左耳が柔らかく持ち上がっている。月に照らされる白いかんばせに朱が差していた。


「違うの。今のはアズーリアが」

 

 この期に及んで他人の所為にするとは。中々できることではない。

 ふと、私は思い出した。

 第五階層の迷宮で、風変わりな外世界人は一触即発の状況をどうやって切り抜けたんだっけ――?


 自分自身の言葉なんて私は持っていない――けれど、他の人の真似くらいはできるのだ。たとえそれが言葉じゃなくても。

 私は黒衣の中で丸くなっている使い魔をちょんとつついた。察しよく己の仕事を果たした白黒ウサギから幾つかのお菓子を受け取って、私はハルベルトの目の前に差し出した。


「良かったら」


 見つめると、黒玉の視線が私と掌の上の物を交互に行き来する。迷いはそれほど長くなかった、と思う。昼食の時に見た、幸せそうな表情を思い出した。


「頂く」




 月が皓々と私達を照らしていた。岩壁に背を預けて、私達は並んでお菓子を口にする。あまり褒められたことではないと知っていても、甘くて美味しいということはそれ以外の事をどうでも良くしてしまうものだ。


 右側に座るハルベルトの垂れ耳が、機嫌良く斜め上に持ち上がっている。先程までの雰囲気が嘘のように、穏やかな口調でハルベルトがぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。 


「本当は、争い事は好きじゃない。競い合う事はいいと思うけど、その為に誰かを排除したり、傷つけたり――そんなのは、悲しいだけ」


「ハルベルトが勝負を提案してくれたのは、私のため?」


「それもある――けど、ハルの為でもあった」


 どういう事だろう。彼女の利益になるような事が、この勝負にあるのだろうか。私が強くなる事で、彼女の助けになるとか?


「アズが馬鹿にされてたから、腹が立った。だから見返してやろうと思った。あの男に勝って、見返して欲しかった」


 想定外の答えに、どう返事をして良いかわからなくなって目を白黒させてしまう。ハルベルトはこちらに視線を向けないままクッキーを飲み込んでお代わりを要求してくる。その顔が、少し上を向いた。


「折角、順調だったのに。アズに格好悪いところ、見られたくなかった」


 しょげかえったような兎耳。慌てて口を開くが、どう言葉をかけたものか。まとまらないまま勢いに任せてしまう。


「でも、ハルベルトは凄い言語魔術師だし、気にしなくてもいいと思う! 鴉を倒した時のハルベルトは凄く格好良かった! そもそも、ちゃんと守れなかった私が一番悪いわけで――これからはずっと、私がハルベルトを守るからっ、誰にも触れさせないって約束する!」


 言えた。ちゃんと、間違いのない、適切な言葉を選択できたはずだ。妙な事は口にしていない。多分。

 ハルベルトはこちらを向いて、まじまじと私の顔を見つめた。それから無表情のまま「ふーん」と呟く。兎の耳がぴくりと動いた。顔を前に向けて、こちらを見ないまま「生意気」と言った。


「その、偉そうにして、ごめんなさい」


「いい。ハルが弱いのが悪いの。どうせ、どこかの亜光速移動しながら邪視と杖を同時に操る英雄とか、呪術医ウィッチドクターで狼の変身者シェイプシフターの二重職業な悪役みたいに前衛も後衛もこなせたりしないもの」


 そんな超人がそうそういるとは思えないが、ハルベルトの口ぶりからすると心当たりは知り合いのようだった。【星見の塔】が魔境だということくらい知っているけど、改めてその片鱗を聞かされるとおののいてしまう――ではなくて。


「弱くていい――ちゃんと、私が守ればハルベルトが前で戦える必要なんてないから。だから、その、さっきはごめんなさい」


「許してあげる。ハルも大人げなかった。それと――助けてくれてありがとう」


 両手で膝を抱えて、その上に頭を乗せるようにしてハルベルトはいつになく柔らかい表情を形作った。月光に映える白い面差しは地上に輝くもう一つの月のよう。


 夜の方が綺麗な人だな、と何となく思った。彼女には、太陽の輝きよりも月明かりの方が似合う気がする。彼女の中に流れる兎の――太陰イルディアンサの民の血がそう思わせているのだろうか。


「それにしても、やっぱりミルーニャに対するあの態度はもうちょっと何とかした方がいいと思う。相性が悪いのはわかるけど――私からも、ミルーニャにもう失礼な事を言わないようにお願いしてみるから、もう少し仲良くできない?」


 ハルベルトは途端に不機嫌そうになって、意外にも子供じみた表情を作った。頬を膨らませて「だって」などと言い訳をする子供のように振る舞う。


「あれは、アズが悪い」


「ええ?」


 そこで、何で私に矛先が?


「ハルが折角迎えに来たのに、ちゃんと話は聞いてくれないし、他の女とばっかり楽しそうに話すし――」


「え、えええ」


 まさかとは思うのだが。

 ハルベルトは――嫉妬、している?

 いやちょっと待って欲しい、その言葉の選択は何か違う。不穏当な方向に思考が向かっているのを自覚して、私は頭を冷やすべく【安らぎ】の呪術を発動させた。いきなり呪文を唱えだした私を白い目でみながら、「何やってるの」と引き気味のハルベルト。本当に何やってるんだろう。


「ハルだって、自分が人と接するのが苦手だってわかってる。子供っぽくて、普通ならしないような事をしてるってことも。でも、どういうのが正しいのかよくわからない」


「今までは、どうしてたの?」


「ずっと【塔】やお姉様たちの領地を回ったりしてたから、あんまり同じくらいの人と話さないの。月の実家に帰ってもそのまま日帰りとかで、同郷の友達とかも、全然いないし」


「そう、なんだ」


 私はそこに踏み込んで良いものかどうか、少し迷った。彼女の耳が斜め上を向いているのを見て、よしと決意する。


「良かったら、ハルベルトの事を、教えて欲しい」


 彼女は、しばらくの間だけ目を瞑って、何かを思案するように耳を柔らかく座らせた。眠ったのかと思うほど時間が経って、やがて耳が水平になる。「いいよ」という簡素な返事。その後に「ただし」と続いた。


「ハルでいい。ハルって呼んだら、教える」


 そう言って、彼女は私に自らの身の上を語ってくれた。少し長い話で、【塔】の機密にも関わるから全ては話せないけれど、と前置きをしてはいたけれど、彼女は可能な限り私に色々なことを教えようとしてくれていた。


 ハルベルトは、【星見の塔】に所属する言語魔術師で、世界中に知らぬものがいない半神たち、【キュトスの姉妹】の七十一女だと言う。けれど、それはとても奇妙な事だった。恐るべき大魔女たちの伝承は古来より各地に伝わっていて、様々な形で伝説や神話となって残されているけれど、最後の一人、七十一人目の伝承だけは存在しないからだ。理由は簡単、まだ見つかっていないから。


 【未知なる末妹】――キュトスの姉妹の七十一番目は、ずっと空席だとされていた。未知であることを性質とする姉妹だとか、その姉妹が現れた時が邪神キュトスの復活の時で世界の滅びを意味しているとか、いや末世に到来して世界を救済する者だとか諸説が入り乱れているけれど、要するに何もかもが不明。


 キュトスの姉妹たちにとっても、それは最大の謎であるらしい。

 ある時、誰かが考えた。いないなら、作ってしまえばいいじゃない。

 反対意見も当然あったらしいが、どのような力学が働いたものか、その発想は形を得てしまった。【最後の魔女】を創造し、選定し、決定する計画。


 無数の候補者を姉妹ごと、あるいは派閥ごとに用意する。更にその中から四人の候補者を選出し、邪視、呪文、使い魔、杖の四つの座を対応させる。その四人によって行われる、キュトスの姉妹になるための競争。

 その第二候補――呪文の座にいるのがハルベルトなのだという。


「ハルは、厳密に言えばまだキュトスの姉妹じゃないの。それどころか、不死ですらないただの人間。他の候補者はみんな人外だから、対抗する為にはハルもそれなりの無茶をしなければならなかった。その結果が、あなたが見たもの」


 左右非対称の耳。胴体を蠢く、黒い血の紋様。

 それらは全て、人ならざる存在になるために必要なことなのだと彼女は語った。


「ハルのお母様は【塔】の第三位、カタルマリーナお姉様の一番弟子で、一時期はキュトスの姉妹にと望まれた程に傑出した呪術師だった。けれどある時、太陰の王に見初められて月に渡ってしまったの。それはそれは長い時間をかけた、壮大な求婚劇だったと幾度となく聞かされた。お母様が身ごもった時、カタルマリーナお姉様は子供を弟子にとりたいと望まれた。お母様は己の意思でキュトスの姉妹の後継ではなくお父様を選んだけれど――子供がキュトスの姉妹になれる可能性があると聞かされて、きっと心が動いたと思う。お母様は二つ返事で引き受けたと聞いている」


「ええと、今さらっと重要な事を言った気がするけれど、もしかするとハルベルトは太陰イルディアンサの――兎のお姫様だったりする?」


「もしかしなくてもそう。周りから王女として敬われたことなんてなかったけど。胎児の時から呪術で調整を受けてきた影響で、こんな半端な見た目になったせいで――いつか絶対、最後の魔女として凱旋して全員平伏させてやる」


 底知れない怨念を感じる宣言だった。彼女の気位の高さや剣呑な目つきは、このあたりに由来しているのかもしれない。


「競争は基本的にこの迷宮都市エルネトモラン――世界槍で行われることになっている。他の三人の候補者も既にこの場所で活動を始めていて――着いたのはハルが一番最後」


 勝利条件はそれぞれで違うらしいけれど、とにかくその『競い合い』の為に彼女はこの地に足を踏み入れたのだという。【智神の盾】や【松明の騎士団】に身分を置いたのは、単にそれが世界槍で行動するのに一番不便が無いということと、


「あなたがいたから」


「私?」


「そう。魔将エスフェイルを倒した【夜の民】の英雄。第一魔将フィリスの適合者。そして、この世界に生まれながらも特異な因子を有する【グロソラリア】」


異獣グロソラリアって、私はその、地上勢力の味方のつもりだけど」


 心外な事を言われて、不快に思うよりも先に驚いてしまう。ハルベルトは「そうじゃない」と言って言葉を繋げた。


「アズはこの世界においてとても珍しい呪力を保有している。それが外部からもたらされた場合をゼノグラシアと呼び、この世界で発生したものをグロソラリア――異言者と呼ぶの。簡単に言えば、あなたには英雄の素質がある」


 またか、と思わなかったと言えば嘘になる。

 英雄として扱われることにはいい加減慣れてきたつもりだったけれど、やっぱり身の丈に合わない評価が重いと感じられるし、どこか他人事のようにも思えてしまうのだ。それに、魔将を倒した事や異質さが評価の対象になるというのなら、共に戦ったシナモリ・アキラにだってその資格はありそうなものだ。


「【未知なる末妹】の候補者は、それぞれゼノグラシアもしくはグロソラリアの使い魔と共に【選定】に挑むの。ハルはその相手にアズを選ぼうと思った」


「そんな、どうして私なんか」


「それは――」


 そこでハルベルトは、何かをぐっと堪えるように言葉を詰まらせる。

 訳もなく、胸が騒いだ。

 言葉が続けられる。


「理由はさっき言った。それにあなたは呪文と相性が良いタイプだから、【呪文の座】の候補者であるハルと相性がいいと考えた。【夜の民】と【耳長の民】は同じように月から呪力を引き出すから、その点でも息が合わせやすいと思うし――それに歳も同じくらいで、あとは、事前調査で趣味が、その」


「趣味が? 何か、共通の趣味でもあるの?」


 私はそんなに多趣味な方では無いけれど――せいぜい詩を思うがままに書き連ねたりお話を書いたり、あとは音楽とかだろうか。どちらかといえば外向的な趣味ではないから、あまり他人と共有したいと思ったことは無かった。彼女が望むなら、一緒にやってもいいかもしれない。

 ところが、ハルベルトはその話は続けずに急に別な話題を振ってきた。


「あの、ガーデニア」


「はい?」


「だから、クチナシ――梔子ガーデニアと言ったの」


「それが、何か?」


 単語だけ投げ出されても何が言いたいのかわからない。あの白い花が一体何だというのだろう。

 何故かハルベルトは私の反応がお気に召さなかったらしい。耳は悄然として、しかし表情は硬くこわばって不機嫌さを隠そうともしない。

 何なんだろう。気難しいことは分かっていたつもりだけど、どうしてそうなっているのかがわからないとこっちとしても困惑することしかできない。


「えっと、飴、舐める?」


「舐める」


 お菓子をあげると機嫌が良くなることは良く覚えておこう。恐らくこれはずっと使える知識だ。失礼な思考がどこかから漏れたのか、ハルベルトがきっとこちらを睨み付けてきた。


「兎に角、アズはハルのもの。これは決定事項」


「そんな、強引に」


「嫌なら別にいい。ハルに所有されたいって人は幾らでもいる。ハルの使い魔になる栄誉を断る愚か者なんてアズ以外には間違い無く存在しないけど。後になってやっぱり気が変わったなんて言ってもハルは知らない」


 不遜に、そして自信に満ちあふれた声で言い放つ。私は反応せず、じっとハルベルトを見つめた。沈黙が続く中、彼女はちらっとこっちを見て、


「今の内になら、撤回する機会を与えてあげてもいい。これはとても貴重なこと。本心を打ち明けられずに躊躇っているのなら、恥ずかしがらずに口にするといい」


 フードの中に表情を隠して、それでも沈黙を貫いていると、ハルベルトの兎耳がへにゃっと下がった。


「勿論、ハルは重要な決定を即座に下すような迂闊な人が嫌いだから、慎重な態度をとるアズに対しては一定の評価を下すことが出来なくもない、ゆえにより相応しい使い魔を選ぶという観点から見ると偉大なる最後の魔女の従者に適しているのは」


「お師様の言いつけには従います。私は、弟子ですから」


 ぴくん、と垂れた耳が反応した。そっと窺うような上目遣い。黒玉が信用できない、というふうに揺れていた。


「それに、守るって約束したから。もう誰にも傷つけさせない。他の候補者と競争するんでしょう? その過程で争いが起こるなら、私が貴方を守らなきゃ。私にも目的があるから、ちゃんと手伝えるかどうかわからないけど」


「それは大丈夫。その為に大神院に手を回してアズのところまで来たの」


 ハルベルトの耳がぴんと水平に持ち上がって、いつになく興奮を露わにしていた。身を乗り出して、顔の距離はいつかのようにこちらが戸惑うほど近い。ひょっとしたら、誰かと近くで接することに慣れていないのかもしれない。先程の生い立ちを聞く限り、月から地上に来てからはずっと言語魔術師としての修行に明け暮れていたみたいだし。それなら私が彼女にとって一番最初の友人と言うことになるのだろうか。


 そんなことを少しだけ考えて、その綺麗な顔立ちと深い色の瞳、長く細い睫毛に少しだけ見入った。

 どうかしている。魅入られたみたいに、目が離せない。ハルベルトは呪文の使い手であって、邪視ファシネイトは専門じゃない筈なのに。


「アズーリア――ハルのものになってくれる」


 この上なく真剣な眼差しと切実な問いかけ。私はそれに明確な答えを返す前に、一つだけ確認しようとした。


「最後に訊いておきたいのは、ハルはその競争で何をしたら勝ちだと見なされるの? 勝利条件がわからないと、私も協力しようがないから」


「それは――」


 ハルベルトが、それを口にしようとした時だった。

 その後ろ――切り立った岩壁に長方形の亀裂が入り、そのまま音を立てて窪み、横にずれていく。ハルベルトがびっくりして反対側に飛び退ろうとしたので、私は慌ててその手をとって引き寄せた。そのままだと岩棚から落ちかねなかったからだ。私達は寄り添いつつ岩壁の隠し扉から離れていった。


 不自然な岩棚だとは思っていた。けれど、まさかこんなところに出入り口があるなんて。開けた空洞の奧には闇が広がっていた。

 そこから現れたのは、私の見知らぬ少女だった。


「あんた達、何者?」


 目にも鮮やかな緑色の長髪が月下に踊る。

 頭部に咲き誇る大輪の花は紫に近い朱で、見慣れない衣服は色鮮やかであたかも花びらのよう。可憐な顔立ちの中で、そこだけ強烈な意思を放つすみれ色の瞳。吊り目を攻撃的な角度にして、きっとこちらを睨み付けていた。


「返答によっては――ぶっとばすよ。勿論ここからね」


 鋭くしなって大気を引き裂く一撃。硬い岩を削り取ったのは、緑色の茨の鞭だ。それも、手に持っているのではなく、袖口から伸びて不規則にうねり、少女の意思に従って自在に動いているように見える。


 私は息を飲んだ。

 特殊な呪力と特徴的な外見。

 それは、私が知るとある眷族種のイメージと合致していた。


 樹妖精アルラウネ。【ティリビナの民】から一定の確率で生まれる特異呪力偏向個体。

 樹木の妖精種アールヴとも称されるその姿は、一言で表現すれば、異形の美。


 かつて眷族種と異獣の境界線にいた種族であり――現在は【異獣】と見なされて地上から排斥され、大神院に絶滅を望まれている種族。

 その故郷であるミューブランを焼き払い不毛の砂漠に変えたのは【松明の騎士団】だ。生き残ったティリビナの民は地獄に逃げ、それを選ばなかった者達は定住することすら出来ずに各地を彷徨う漂泊の民となった。


 槍神教の追撃の手から逃れるために、世界槍の内部、古代世界に隠れ住んでいるという噂は聞いたことがあった。しかし、まさかこんな所で出会うなんて。


「貴方は――」


「ああそうね。名乗るならこっちからよね」


 樹妖精の少女は腰に手を当てて、強い光を瞳に宿してこちらを真っ直ぐに見据えた。それから、明瞭で快活な声で己の名を告げた。


「私はプリエステラ。大いなる森の母、レルプレア神と交信できる――もう最後になってしまった、【ティリビナの巫女】よ」








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