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3-3 半熟英雄


「論外」

 

 ハルベルトはそう言って、フードの下からゴミを見るような視線を私に向けてきた。つらい。とってもつらい。この上なく綺麗な顔立ちなので、こういう冷淡な態度をとられると並外れて酷薄に感じられるのだ。荒く息を吐きながら必死に怪物の群れを撃退した私に対して、冷ややかに下されたのがこの評価。正直な所、ちょっとめげそうだった。


「そ、そこまででしょうか」


「うん」


 こくりと頷いて、ハルベルトはぴしりと細くて長い指を伸ばした。

 指の先で、数体の怪物が屍を晒している。荒れ果てた山道を往く途中で待ち伏せていた異形の古代生物たち。


 岩に擬態する岩石亀が三体に、地中から奇襲を仕掛けてくる大モグラが一体、そして裸の木から這いだしてくる灰色大蛇が五体。傾斜のある山道での戦闘は、地形と数の不利がある状況で開始され、辛うじて私達の勝利に終わった。


 苦戦だった。

 ハルベルトが私の能力を試すために戦わないことを宣言していたから、こちらの戦力は私、ミルーニャ、メイファーラの三人。

 索敵担当のメイファーラが事前に敵の待ち伏せを察知していた為、逆に隠れていた敵集団にミルーニャが呪石弾で先制攻撃を仕掛けることができた。


 私は魔導書の補助を受けながら呪文詠唱を終え、使える中で最大の攻撃呪文を解き放ったのだが、そこでつまずいた。

 呪文は敵集団を薙ぎ払う予定だったのだが、最も弱い灰色大蛇を一匹仕留めただけで碌な成果を上げられず、敵集団は激怒して私目掛けて襲いかかってきた。


 怒濤の如き攻撃を盾や鎧の装甲で跳ね返しながら必死になって敵を槌矛で打ち払い、ぎりぎりの攻防の中で即時に発動できる呪術を用いてどうにか戦いは終わった。

 ミルーニャの後方支援と、メイファーラの的確な槍捌きが無ければかなり危なかったのは間違い無い。かなり不格好な所を周囲に見せてしまった。私は失敗したのだ。


 ハルベルトは、死体の各所を順番に指差していきながら戦闘の採点を始める。


「あなたが仕留めた古代獣、致命傷が全て打撲。呪術攻撃は牽制にしかなってなかった。呪術による唯一の成果は初撃だけ。それだって広域殲滅を狙っての失敗。その上無駄に注目と憎悪を集めて集中攻撃を受けてる――ハルはあなたに、呪術の腕を見るから前衛はメイファーラに任せていいって言った。なのにどうしてわざわざ敵の攻撃を集めるの。馬鹿なの。ハルは戦士じゃないから撲殺のやり方なんて教えられないの」


「はい、すみません」


「敵から注目されずに立ち回るのも後衛の務め。アズーリアが前衛も後衛もこなせる万能型の中衛だとしても、発動に時間のかかる呪文を唱える時には一歩引くことが必要」


「はい、肝に銘じます」


 返す言葉も無い。悄然として、ハルベルトの言葉に頷くばかり。

 以前にパレルノ山で訓練をした時は頼りになる、そして気心の知れた仲間達がいた。


 妨害系の低級邪視は若き修道司祭であるトッドの祝福祈祷のお陰で無視できたし、威圧感を振りまいて襲いかかってくる巨大な敵を前にした時は重戦士のテールが頼もしく前に出てくれた。分隊長であるキールの固有神働術である【鼓舞】を耳にすると恐怖は闘志に変化して、高められた六人の士気を前にして敵の方が臆するような有様だった。


 ところがどうだろう。皆がいなくなった途端にこの有様。メイファーラとミルーニャには一切落ち度が無いのが一層私の惨めさを引き立てている。

 説教は、私の呪文の拙さについても及ぶ。


「どうして呪文の構成に変なテキストを挿入するの。影はまだいいとして、こんなお日様が出てる時間帯に夜とか月とか死とか眠りとか――事象を強引に書き換える邪視者じゃないんだから、もっと考えて」


「すみません――私の呪術はほとんど見よう見まねで。以前第五階層で魔将が使っていたのを再現しようとしたんですが。やはり、オリジナルの呪文じゃないと駄目なんでしょうか?」


「あなたたち【夜の民】がコピーアンドペーストで呪文を構成するのはそういう種族特性だから仕方無い。そうではなくて、もっと語群の選択をよく考えて配列するの。適切な引用は呪文の完成度を高める――コピーの切り貼りだからって創造性が生まれないわけじゃない」


 淡々と私を叱る温度の低い声を聴きながら、どうしてこうなったんだっけ、と思考が現在から離れていく。現実逃避とも言う。

 時間が過去に引き戻されて、私は事の起こりを回想する。ミルーニャを助けに入ろうとした私が無様に敗北して、そこにハルベルトが割って入った後の事を。







 突如として現れた少女――ハルベルト。

 『美しい』は直観だから、君にも先験的に理解できるんだよ――ラーゼフがそんなことを言っていたのを思い出す。そんな、あまりにも美しい面差しだった。


 黒いフードの下、個別のパーツ一つ一つが圧倒的なまでに完成された造型であることが異種の私にすら理解できる。


「これから、アズーリアとそこの人に競い合って貰う。と言っても先程のような近接戦闘じゃない。身体能力と呪的能力の総合力を競い合う」


「ああ? いきなり出てきて何いってやがんだてめぇ。胡散臭ぇまじないで面隠しやがって、感じ悪いぜおい。そこの黒ちびのお仲間か何かかよ」


 荒っぽい男の誰何に対し、ハルベルトは冷ややかな視線を向けた。

 フードには認識妨害呪術がかけられており、周囲の人間にはその内側を窺うことはできないようだ。ただ一人、同種の呪術を使用している私を除いて。


 不思議な事に、人の顔を覚えるのがどうしようもなく苦手――どころではなく、初対面の相手だとまともに認識すらできない私だというのに、ハルベルトの顔ははっきりと記憶できた。彼女と顔を合わせたのは前にアストラル界で助けて貰った時以来だが、さて。以前にも出会っていたことがあるのだろうか。それとも、彼女が特別な存在なのか。


「ハルは【夜の民】じゃなくて西北人と兎の混血。それより、やるの、やらないの。もしかして怖いの。物質的適性に秀でた【九位】が、呪的適性に偏った【二位】を肉弾戦で圧倒しただけなのに勝ち誇る――恥ずかしい」


「んだと、てめぇ」


 額に青筋を浮かべた筋肉質の男は、拳を合わせてこきり、と鳴らした。

 大神院が定めた眷族種の序列は、上位ほど呪術に秀でており、下位ほど身体能力に優れる。

 男の鍛え上げられた肉体から察しはついていたが、彼は第九位の天使【鉄願のセルラテリス】の加護を『受けていない』普通の霊長類ノローアー、【鉄願の民】のようだ。


 序列第九位は他の加護持ちの眷族種に当てはまらない『その他』である。

 意外にも、男はそのまま怒りを暴発させたりはしなかった。


「――上等だ。安い挑発だが、乗ってやる。このガキに身の程ってヤツを教え込んでやるぜ。で、何を比べるってんだ?」


「そこのあなた」


 ハルベルトは遠巻きに見ていた一人の少女の方を向くと、鋭く言い放つ。


「ミルーニャ・アルタネイフ。そもそもの発端はあなた」


「えっ、なんで名前を」


「協会にも依頼書を掲載していたけれど、システムがダウンしたから仕方無く迷宮前で人を探す事にした。急いでいて人手が足りない。違うの」


「いや、そうですけど、何なんですかあなた」


 男に絡まれていた少女――ミルーニャは不気味そうに一歩退いた。

 人手が足りなかったり急ぎの用事だったりしても、人選は重要だ。

 依頼の失敗や放棄、もっと悪くすると契約外の無茶な要求までされることがある。


 勿論、その逆に依頼主が報酬を支払わない事もしょっちゅうだ。

 探索者協会を通した依頼ならば訴える手段もあるが、こうした辻依頼では泣き寝入りもよくあるのだという。

 ミルーニャと男の間の揉め事はよくある一幕に過ぎない。事態がこれ以上派手にならないと分かって、周囲から野次馬が立ち去っていく。


「依頼内容はパレルノ山特有の呪力を吸って開花したエニシダの採取。量と質に応じて報酬を決定。質の方に上限は無いけど、量は規定の額に達したらそこで頭打ち――ここまでで間違いは」


「エニシダって何ですか?」


「金雀枝――金箒花のこと」


「ああ、それなら合ってます。確かにミルーニャは人手がとっても欲しかったですけど、粗暴で乱暴で不潔な人はお断りです」


「ああ?」


「ひゃうっ、ミ、ミルーニャは脅しには屈しませんよ!」


 強気になったり弱気になったりと忙しない。大きな肩掛け鞄に作業用エプロン、くりくりした大きな瞳が愛らしく、明るい茶色の巻き毛は癖が強そう。ミルーニャという少女は、低めの背丈を更に縮こまらせて震えながらも気丈に男を睨み返している。


「その依頼を同時に受けて、持ってきた金箒花の量と質で点数を競う。探索者協会で判定してもらえば少なくとも不正は無くなるし、そこの依頼主が必要としない分も買い取ってもらえるだろうから無駄も少ない」


 ハルベルトは何でもないことのように口にするが、いきなりそんなことを言われても私の方は目を白黒させるしかない。男の方はすっかりやる気になっているようだが。


「はっ、正気かよお前、笑えるぜ。単独でパレルノ山の探索だぁ? 自殺行為もいいところじゃねえか」


「不安なら、仲間を呼び出すか傭兵を雇うかすればいい。ハルは総合力を競うと言った。関係性を結ぶ力も実力のうち」


「そうかい、じゃあ遠慮無く」


 男は端末を取り出すと、どこかの誰かに連絡を取り始めた。私とミルーニャはというと、強引に進められていく話の速度についていけずにいた。


「ちょっとちょっと、勝手に決めないで下さいよ! ミルーニャはこんな男臭い、じゃなかった、臭い男には依頼を受けて欲しくないです!」


「大丈夫、アズーリアが勝つから。それと、あなたもアズーリアと一緒に行って。当事者なんだから、異論は認めない」


「理不尽過ぎです!」


「あの、助けて頂いたことには感謝していますけど、さっきからちょっとついて行けないんですが。弟子とか妹とかって何ですか」


 ミルーニャが憤慨し、私が疑問符を浮かべると、ハルベルトは愚かな生徒にどうやって物の道理を教え込もうかと悩む教師の表情をしてこう言った。


「実地訓練のついでにわがままな弟子の人助けを手伝ってあげようというだけ。それにハルは言語魔術師で、本来ならあなたは頭を下げてお願いする立場。わきまえて」


「え、えっらそうに~! ちょっと、そこの使徒様も何か言ってやって下さいよ! ていうかお知り合いなんですかこの超偉そうな人!」


「いえ、知り合いというか、前に一度会ったことがあるだけで――それもネットで」


「そうなんですか? そういえばミルーニャ、使徒様みたいな【夜の民】の知り合いがネットにいますよ。とってもちっちゃくて可愛いんですー。丁度あなたみたいに。それにしても、【夜の民】の人って愛らしくて素敵ですぅ」


 にこにこしながら少女は言った。このミルーニャという少女、話題と機嫌がころころと良く変わる気紛れな性質のようだった。身長はハルベルト、ミルーニャ、私の順に低くなっていく。ミルーニャはぐいぐいとこちらに近付いてくると、一番小さな私の頭を黒衣の上から撫でる。


「あ、あの」


「先程はありがとうございました。可愛い上に勇敢だなんて、ミルーニャ感激です! あんな汚物男と探索するのも、上から目線女の言いなりも御免ですけど、使徒様と一緒なら全然イけますぅ。使徒様、ご尊名をお訊きしても? ハンドルとか渾名でかまいません」


「アズーリア・ヘレゼクシュですけど」


「きゃあ、素敵なお名前! じゃあアズーリア様、ミルーニャと一緒に探索シてくれますか? 駄目ですか? 断られたらミルーニャ泣いちゃうかも。すんすん」


 勢いについていけない。ミルーニャという少女、私とは人生の速度が違う人のようだ。正直に言うと、ちょっと怖い。


「あの――困っているのなら、力になります。私なんかでよければ」


「本当ですかミルーニャ嬉しい! 好きです結婚して下さい!」


「えっえっ」


 冗談だろう。冗談だと思う。冗談であって欲しい。彼女の異常な勢いに飲まれて二の句が継げずにいると、横からハルベルトが平坦な口調で呟いた。


「それはハルのだから駄目。けどこれで話は決まった。今からパレルノ山で探索を行い、それをもって最初の『授業』とする。これは決定事項。強くなりたいなら、おとなしく従うこと」


 強くなりたいなら。そう言われては、私だって断ることはできない。

 一方的に設定された師弟関係。ハルベルトが何者で、どうしてこんな私を助けてくれるのか、全く分からないけれど。


 彼女が高位の言語魔術師であることは紛れもない事実で、二度も危機から救い出してくれた恩人であることもまた間違い無い。

 この機会を逃す手は無かった。


「――わかりました。この依頼、やり遂げてみせます」


 その後、破壊した物を弁償したり謝罪したりといった細かい事を済ませて、世界槍を覆う外壁の前に集まる。中央に二つ並んで存在する巨大な転移門は、それぞれ上層である【時の尖塔】と第二階層より下へ向かう昇降門だ。今回はその脇にある小さめの【扉】から第一階層の裏面のひとつ、パレルノ山に向かう。


「でも、全員後衛寄りってちょっと怖い編成ですぅ。戦士さんが欲しいですけど、ミルーニャ前衛の知り合いがいなくって」


 不安そうに呟くミルーニャ。一応私は修道騎士として一通り前衛としての戦い方を学んでいるが、純粋な前衛と比較すると一段落ちる。ミルーニャも、見た目からして前衛ではない。ハルベルトも同様だろう。どうしたものかと悩む私とミルーニャ。するとハルベルトが私の方を見て提案した。


「問題ない。アズーリア、ラーゼフ特務技官から、自由にしていい人材を教えて貰ったでしょう。呼んで」


 確かに、ラーゼフから「探索するなら呼べ」と端末の番号を教えられていたけれど。


「何でそんなことを知ってるんですか?」


「私が彼女と同じ【智神の盾】の所属で、【松明の騎士団】にも暫定的に籍を置いているから」


 どうやら、ハルベルトも関係者だったようだ。

 しかし、こんな人がいるだなんてラーゼフからは聞いたことがない。

 知り合いのような口ぶりだけど、どういうことなんだろうか。


 疑問は尽きないが、とりあえず言われたとおりにしようと端末を取り出す。

 こんなふうにいきなり連絡して大丈夫かと不安に思ったが、どうもラーゼフがいつでも都合のつくように待機任務を割り当てていた様子だった。

 それなら最初から顔を合わせておけばよかったかなと後悔しつつも、その相手は素早く迷宮前に到着した。


「【智神の盾】の第八研究室及び【松明の騎士団】のピュクシス分室所属、序列は第二十九位の、メイファーラ・リトです。よろしくね」


 その少女が気負い無く名乗ると、爽やかな呪力が風となって頬を撫でた。

 年の頃は恐らくミルーニャよりやや上で、私やハルベルトと同じくらい。

 長めの前髪が眠そうな黒目にかかりそうなのと、長い亜麻色の髪を尻尾のように右側で括っているのが印象的だった。


 黄みを帯びた茶色の毛を括っている髪留めは天眼石。目玉のような模様を持った瑪瑙で、邪視適性を高める効果がある。

 呪動装甲は動きやすそうな軽鎧で、身長は男性の平均身長に少し届かないくらい。体格も華奢で、とても二十九位という実力者には見えない。視界を妨げぬ為か兜は見当たらず、落ち着いた顔立ちがはっきりと見えていた。


「ラーゼフせんせから色々助けてあげるようにって言われてるから、頑張るよ。今日はきみの探索を手伝えばいいんだよね?」


「はい、急に呼び出してしまって申し訳ありませんでした。今日はよろしくお願いします」


「そんなにかしこまらなくてもいーよう。序列もお隣同士だし、仲良くしようね」


 良かった、なんだか優しそうな人だ。そうして私達は穏やかに自己紹介を済ませた。ミルーニャは人見知りするのか私の後ろに隠れてびくびくしていたし、ハルベルトも必要最小限のことしか喋らないので、そう長いやり取りにはならなかったけれど。そのうち、相手の方も人数が揃ったようだった。


「よう、そっちも準備はできたみてーだな。こっちもいつでもいいぜ」


 不敵に笑う男の左右に、新しい人物が二人現れていた。


「全く、休暇中にいきなり呼び出すとか、ペイルは相変わらず無茶過ぎるんだよ。今日は公園でコイツと戯れる予定だったのにさ」

 

 不満そうに呟く細身の男性。兜は無く、甲冑に包まれた肩に、大きな黒い鳥が留まっていた。鋭い嘴に油断無く辺りを見回す眼。鴉――兎と並んで霊獣と見なされている典型的な使い魔である。


「ごめんねー、どうせペイルがぶつかってきて慰謝料とか請求されたんでしょ? 彼、迷宮で脳みそが筋肉に置き換わっていく呪いをかけられちゃってさー。根は悪い奴じゃないんだ、大目に見てやってよ」


「おいこらナトてめえ」


「お、お断りですー! ミルーニャ、強姦されそうになりましたし! 慰謝料要求したいのはこっちの方ですー!」


「そうなの? まいったなあ――」


 そう言って、男性はすまなさそうにミルーニャに謝罪した。揉め事の発端となった男――ペイルと言うらしい――に比べると、随分良識的な人物に見える。


「おい、ナト。てめえ今からケツまくろうってんじゃねえだろうな」


「そこの使徒様もごめんね? けど一応ペイルにも熱くなる事情があるんだ。ペイルの友達が第五階層で殉死してるんだよね。君が魔将を討伐した、あの日に」


 ぎょっとして、思わず息を飲んだ。ナトと呼ばれた男は切れ長の眼を鋭く眇めて、穏やかな高めの声をその一瞬だけ低く重く変貌させた。


「そいつは、俺の友達でもあってさ」


 暗い恨みを孕んだ呟きと同時に、彼の背中から何かが分離し、高速で放たれた。

 水滴状の鋭利な先端が真っ直ぐに私の方に飛来する。対応するより速く、さっと私の前にメイファーラが立ち塞がると、右手に持った短槍を一振りした。硬質な音が響いて、跳ね返された物体がゆっくりとナトの元に戻っていく。


「へえ、やるね。今のを弾くのか」


「今の挨拶ってどんな辺境の風習? あたしもすっごい田舎育ちだから親近感湧いちゃうな~」


 奇襲を仕掛けた方なら仕掛けた方だが、それを防ぐ方も防ぐ方だ。

 両者とも、一瞬の攻防が嘘であったかのようににこやかに言葉を交わしている。

 

 私はメイファーラの短槍捌きに目を見張った。

 同じ分隊のトッドも突きの鋭さでは相当なものだったが、彼女はそれ以上かもしれない。

 だがそれよりも、私の目は男の横に浮遊する水滴状の金属に惹き付けられていた。


遠隔誘導攻撃端末ビット使い――!」


 驚愕を禁じ得ない。特注の呪動装甲に付属した攻撃端末を操って隙のない全方位攻撃を行うには、特殊な資質が必要とされる。恐らくナトは、第五位の天使ペレケテンヌルの加護を受けた【ロディニオの三本足の民】に違いない。『鴉』の通称を持つ彼らは使い魔や杖の適性に優れている。肩に乗った鴉が、威圧的な鳴き声を上げた。


「そういうわけで、悪いけど手加減はしないよ、『英雄』さん」


 落ち着いた声の中に含まれた、毒々しい棘。攻撃的な微笑みを浮かべて、ナトという修道騎士は戦意を露わにした。前言撤回。この男、好戦性はペイルと同じか、あるいはそれ以上だ。仲間が突然に攻撃を仕掛けたのを見て、ペイルは気をよくしたのか口の端を吊り上げる。


「は、やり合う前から気合い入ってんじゃねえかよナト。おいイルス、お前からも何か言ってやれ」


 最後の一人は鎧姿でなく、赤と黒を基調とした祭服だった。【黒檀の民】の血が混じっていると思しき浅黒い肌の男性は、しかし促されたにも関わらず沈黙したまま。


「ちっ、相変わらず喋んねえなあ」


「――俺はただ傷を癒すだけだ。求められれば、あちらの救護も行う」


 そう呟いて、寡黙に佇むのみ。言動からすると、病院修道会上がりの医療修道士だろうか。調子が合わないのか、ペイルは頭をがしがしと掻いて、すぐにまあいいかと気を取り直す。

 双方の準備が整ったことを確認すると、ハルベルトは一歩前に進み出た。


「もう一度ルールを確認する。制限時間は今から86,400秒。つまり明日の正午までに、指定された素材――金箒花をパレルノ山から採取してこの場所に持ってくること。一つにつき一点、呪力保有量に応じて更に一点ずつ加点する。点数で上回った方が勝ちとする。依頼では量に制限があるけれど、今回は競技だから量の上限は無し。たくさん持ってくれば持ってくるほど有利――もちろん良質の花を吟味する選定眼も必要になる」


 淡々と規則を提示していく。成り行きで勝負することになってしまったものの、やるからには手は抜けない。なにしろお互いの面子――つまりは呪的権威がかかっているのだ。名声とはそれ自体が呪力であり、強さに直結する能力である。勝てば名が上がり、負ければ『弱い』というイメージが己と周囲に刷り込まれ、現実に影響を及ぼす。


「まあ、どんな勝負だろうと負ける気はしねえな。そっちにはとびきりヘボな英雄様もいらっしゃるみたいだしよ」


 あまりにもあからさまな挑発に、私は言い返すことができない。少なくとも、今はまだ。ミルーニャが小動物めいて「ふしゃーっ!」と唸り(何の真似だろう?)、メイファーラが「うわーほんとにあんな人いるんだー」とすごい勢いで引いていた。巻き込んでしまってごめんなさい。


「――それと最後に一つ。お互いに相手側への妨害や攻撃は禁止しないけど、相手を死に至らしめた場合は失格。そして仲間に死者が出た場合も失格とする」


「つまり、誰か死んだらそこで中断ってこと? 安全第一?」


 メイファーラがふむふむと頷いた。

 それは危険な深追いをさせないため、そして互いが妨害し合った結果、誰かを死に至らしめてしまうような事態を防ぐための規則なのだろう。ハルベルトの平坦な声は、その一瞬だけより深く沈み込んだように聞こえた。


「言われるまでもねえよ。犠牲なんか出した時点でもう負けだろ。まあ、そこの誰かさんにとってはキツい縛りかもなあ。何しろ犠牲出して勝つのが当然って英雄様だ」


 私は――言われるがまま黙り込んだ。現時点での反論は虚しいだけだ。

 重苦しい雰囲気を振り払うように、メイファーラが明るい声で質問をする。


「ところでさ、これって勝利者へのご褒美とかは無いの? ミルーニャさんからの報酬とかとは別に、競争それ自体の賞品。何かやる気にさせてくれるものが欲しいよね」


「それか、無様に負けたヤツに対しての罰でも別に俺はかまわねーぜ」


 ペイルの言葉には私への暗い底意が透けて見えたが、ハルベルトは意外にもそれを肯定するような対応をした。


「そう。そんなに罰が欲しいなら、ハルの権限で懲罰を与える」


「あん? てめーに何の権限が」


 その瞬間、彼女の声色が平坦なものから、どこか嗜虐的な雰囲気を宿したものに変化した気がした。


「自己紹介が遅れたけれど。ハルは大神院の要請を受けて【星見の塔】から派遣された言語魔術師。【智神の盾】及び【松明の騎士団】所属、【キュトスの姉妹】七十一女の第二候補。襲名はハルベルト。組織運営の合理化及び健全化を達成するため、また対異獣の研究及び神働術の戦術運用に関する指南を行うため、本日よりあなたたちに協力することになった」


 ミルーニャを除く全員が、その名乗りを聞いて目を剥いた。ぎょっとした、と言い換えても良い。【塔】の魔女。それが意味する所とはつまり。


「それって、あの【きぐるみの魔女】の後任ってことですか――?」


「そう」

 

 あまりにあっさりとした肯定。ではやはり、彼女はキュトスの姉妹なのだ!

 私は、背筋を畏怖が走っていくのを感じていた。


 神話に登場する半神的存在、子供を怖がらせるための常套句、ゼオーティア教圏のあらゆる場所で忌まれ畏れられ敬われる、邪神キュトスの分身たち。

 その本物が、目の前にいる。

 同じような畏れを感じたのか、ペイルが顔を緊張させて叫ぶ。


「異教徒の異端審問官――外部監査の魔女か!」


「市内での騒乱行為、市民への暴行未遂、呪動装甲の私的利用、修道騎士同士の私闘とそれに対する荷担」


 つまり、と指を一本だけ立てて、顔の前に持ち上げる。温度の低い声、変わらぬ表情、平坦な抑揚。だというのに、底知れない不安を煽る魔女の宣告。

 

「ハルにはあなたたちに対する懲戒権が与えられている。戒告で済ませるか、減給まで行くかはハルの匙加減次第ということ」


「えっ、あたし呼ばれて来ただけなんだけど」


「ていうか、勝負提案した本人がそれを言う?」


 メイファーラとナトは早くもここに来たことを後悔し始めていた。本当に巻き込んでしまって申し訳無い。そしてハルベルトは最初から連帯責任を背負わせる気だった。これは罠だ。


「――あなたたちの処遇がどうなるかは、この勝負の結果で決まる。大丈夫、勝ったらお咎め無しにしてあげるから」


 もはや逃げることなど許されない。負ければ懲罰もしくは減俸という厳しい現実が迫り来る中での勝負が始まったのだ。

 全ては、魔女の掌の上。




 意識が現在へと戻ってくる。

 場所はパレルノ山。私とメイファーラを先頭に、ハルベルトとミルーニャがそれに続くという並び。


 戦闘が終わり、私の立ち回りのまずさと改善点についてハルベルトに指摘されている所だったが、それもようやく終わりを迎えようとしていた。


「――ちゃんと聞いてる?」


「はい、無駄に敵の注意を惹かない、仕留める時は一撃で、拙速より巧遅を尊ぶ、詠唱を失敗するくらいならあえて何もしない方がまし、呪文の摸倣先を増やす、ですよね」


「わかってるならいいけど」


 ハルベルトはどこか釈然としないというふうに、細い眉をかすかに寄せた。

 そんな姿もまた美しいけれど――同時に、恐ろしい人だとも感じる。

 なによりも、得体が知れない。

 素性そのものはちゃんと判明している。


 本部に照会もしたし、本人が端末に立体投影した証明は、超一流の言語魔術師ですら偽造不可能な呪術紋章だったから間違いは無い。

 いや、ハルベルトが想定を上回る言語魔術師である可能性も皆無ではないけれど、その場合でも彼女の実力は保証されているわけだ。師としては申し分ない。


 それでも、その目的が今ひとつ判然としないのだ。本人の説明によれば、未熟な私を英雄に相応しい実力者に仕立て上げる――のみならず、組織全体の呪術運用方法を改善する目的で招聘されたのだと言うことらしいが、何かがひっかかる。


 それは単に、恐るべき【キュトスの姉妹】への忌避感からかもしれない。

 この世界には様々な種族がいるけれど、彼女たちのような半神はそれらとはまた別だ。

 私達のような眷族種は高次元存在である天使たちに加護を与えられた被造物。


 しかし半神はむしろ加護を与える側の存在だ。見た目が私達と近くとも、そこには歴然とした霊的位階の隔たりがある。

 私にしか認識できない、その余りに可憐な容貌をそっと窺う。細い睫毛、黒玉の瞳、繊細な鼻梁、文字通り神懸かった頬の稜線、形の良い唇。


 女神――比喩でもなんでもない、人ならざる美貌。

 見ているだけで体が竦む。

 それよりなにより、彼女の口が動くたびに紡ぎ出される、そのあまりにも魔的な響きの声。聴いただけで身体の奧が震えだして破裂しそうな、輝くような音の連なり。


 上手く言葉に出来ない。けれど、私は彼女が怖かった。

 その言葉を耳にし続けていると、自分の内側から何か大切なものが引き摺り出されてしまうような気がして――。


 ラーゼフがハルベルトのことを何一つ知らなかったという事も気になる。とにかく、ハルベルトは要警戒な人物だ。初対面でいきなり不躾な真似をされたし、正直ちょっと信用できない。第一印象が最悪な人物にそう易々と心を許せるものか。

 フードの下からじっと睨め付けると、光を吸い込むような黒玉が真っ直ぐに見返してくる。


「う――」


 ハルベルトは無言。いや、言外の「何この妙な生き物」みたいなニュアンスが感じ取れるような気もする。怖い。

 しばし見つめ合うが、先に目を伏せたのは私の方だった。

 うう、何をやっているのだろうか、私は。


 私とハルベルトが一対一の『授業』を行っている一方で、メイファーラは周囲を油断無く見回して警戒しており、ミルーニャは手際よく仕留めた獲物たちの死骸から有用な部位を切り取っている。


「ミルーニャちゃん、それって使えるの?」


 メイファーラが、淀みなく動くミルーニャの手を眺めながら言う。童顔の少女はナイフを動かし、革手袋とエプロンを血で汚しながら応えた。


「ええまあ。大型獣の体内呪石ほどではなくとも、呪力が蓄積しやすい骨の部位というものがあるんですよ」


「へええ。よく知ってるねー」


「むしろどうしてあなたは知らないんでしょうか――修道騎士のひとってあんまり真面目に狩猟とか採取とかやらないんですか? 異獣を倒してればお給料出るから?」


「えーと、あたしはあんまりそういうの得意じゃなくてー」


 実際は資金調達の為に稼げる時に稼いでおくという修道騎士が殆どだ。そうして余分に治癒符などの消耗品を所持していないと、いざという時に痛い目を見る。中には本業そっちのけで『狩り』の方に血道を上げる不良修道騎士もいるくらいである。キール隊の皆はわりとそんな感じだったのを思い出す。


「ふーん。お気楽ですね」


「えへへ、いやあ、それほどでも~」


 ミルーニャの毒舌は、相も変わらず切れ味抜群だった。その相手をして平然としているメイファーラも大概だが。『わかっている』反応なのか、それとも単なる天然なのか。どっちにしてもすごい、と思う。


 ふと、空を見上げる。

 再生された古代世界の空は外界と変わらずに抜けるような蒼穹だった。流れゆく雲の形は様々で、どんな解釈だって出来そうな曖昧な輪郭をしている。


 世界槍はありとあらゆる世界を自在に形成可能な力を持つ。邪視者たちが世界を改変するのと同質の力――しかしその全容は未だに謎に包まれた、超呪術文明の古代遺産。邪視者のそれと決定的に異なるのは、その規模と恒久性。古代人たちの目には、どれほど強烈に世界の記憶が焼き付けられていたのだろう。

 

「解体作業、任せきりでごめん。私も手伝う」


 一通りハルベルトからの講義が終わったので、ミルーニャの作業を手伝おうと駆け寄る。といっても、作業自体はほとんど終わっていたのだが。


「アズーリア様がとってもお優しくていらっしゃってミルーニャ感激! どっかのお気楽修道騎士や根暗言語魔術師とは大違いですぅ♪ でも、もう終わるのでいいですよ、えいえい」


 にこやかに微笑むミルーニャの両腕が、飛び散った鮮血で染め上げられている。大変可愛らしいが、無駄のない動きはひどく殺伐としていた。

 ミルーニャ・アルタネイフ。この中で唯一の【騎士団】とは無関係な探索者。迷宮都市エルネトモランの一般的な市民でもある。


「はあ、本当に可愛い、素敵、お持ち帰りしたい――なんだかぁ、初めて会った気がしないんですよねぇ。ミルーニャ、アズーリア様と以前何処かでお会いしていたことがありませんか?」


「私もそんな気がするけど――既視感なんてだいたい後付じゃない。私達の外見なんてみんな似たり寄ったり、というか同じだし」


 【夜の民】に外見的な個体差はほとんど皆無だ。本当はアストラル界から眺めると結構な差があったりするのだけれど、他の種族から見れば誤差の範囲だろう。そもそも今は甲冑姿だ。よく身につけている灰や茶、黒といった地味な衣ですらない。


「やっぱり! 同じ気持ちを共有できていたなんて、もう運命すら感じちゃいますう」


 しかしながらミルーニャが反応したのは私の最初の一言だけ。相手の言葉を都合良く取捨選択する技術があるようだ。心が太そうでちょっと羨ましい。

 古代異獣たちの骨を鞄にしまっていくミルーニャを見て、ふと思いついた質問を投げかけてみる。


「ところで、ミルーニャはどうして採取依頼を?」


「それはですねえ、ミルーニャのお仕事に必要だからです。ある時は道具屋さん。またある時は呪具職人。そしてその職種とは、なんと錬金術師アルケミスト! ばばーん!」


 効果音を口で言ったぞこの子。周囲の微妙にしらけた空気を察したのか、わざわざ端末を取り出して効果音を再生し直すミルーニャ。いや、そういうことじゃなくて。


「どうしても達成しなくてはならない呪具作成の依頼がありまして。その為の素材集めをしているんです」


「その歳でもう自分の工房アトリエを持っているの? それは凄い」


「えへへ、光栄ですう。といっても、単に父から譲り受けただけなんですけどね。ミルーニャは駆け出しですけど、気持ち的にはいっぱしの呪具製作者エンチャンターなのです。必要な人に必要な呪具を提供できればいいなあって思ってます」


 必要な人に必要な呪具ものを――その言葉に、私はなんだかひどく感じ入ってしまう。それは需要と供給という、商売人としては当たり前の理屈なのだろうけれど。


「『呪具というのは、それを必要としている人の手に渡ってはじめて意味を持つものだ』って父が口癖みたいに言ってまして。小さい頃からそれを聞かされたからでしょうか。ミルーニャもそんなふうに――」


 言いかけて、急に我に帰ったようにはっとなって慌て出す。その頬が、わずかに色づいていた。


「あわわ、今の無し無しです! ご大層なことを言いましたが要するに生活費を稼ぐためですよ!」


 恥ずかしがっているのだろうか。

 私は、ミルーニャという知り合ったばかりの少女に好感を抱きはじめていた。

 毒舌で感情があっちこっちに飛び交う不思議な子だけれど、心根は優しいのだと思えた。


 しばらく見つめていると「なんですか、アズーリア様の熱い視線を感じます。はっ、これはもしや、恋の気付き?! きゃーん!」とか騒ぎ出したけどこういった妙な反応だけは本当に勘弁して欲しい。


「はああん、鎧姿もクールで素敵――アズーリア様のマロゾロンドタッチでミルーニャのハートを外宇宙に放逐して欲しいですう♪」


「そこ、うるさい」


 私にミルーニャが抱きついている光景を冷ややかに見ながら、ハルベルトが苛立たしげに注意する。私は甲冑を着込み、兜を被ってようやくミルーニャと同じくらいの身長になる。自然、顔と顔が近付いて面頬の隙間から私の内側が覗けそうな距離にまで接近を許してしまっていた。正直、あまり得意な距離ではない。どうやって離れて貰ったものかな、と頭を悩ませている所への注意だった。


「むー。根暗女め、ミルーニャとアズーリア様の仲を引き裂こうと言うのですか! 見苦しい嫉妬ですね! そういうジメジメと女々しいのは嫌われますよーだ」


 べえ、と舌を出して毒を吐き散らす恐れ知らずなミルーニャを窘めようとしたその時、ハルベルトの流麗な声が響き渡った。


「沈黙はx、雄弁はy、兌換紙幣の論理回路、煌めく金めく銀なる詩吟」


 不可解で意味のとれない音の羅列。本大陸の共通キャカール言語で韻を踏んだその律動が、大気に呪力を乗せて伝えていく。途端、童顔の少女の顔に驚愕が浮かぶ――が、いつも通りの立て板に水を流すような悪口雑言は響かない。呪術の発動によって、ミルーニャの口に立体映像の罰印が張り付いてその声を封じたのだ。


「んんん、むぐー! むー、むー!」


「ひ、ひどくないですか、ハルさん――」


「今はお姉様もしくはお師様と呼ぶこと」


「お、お師様。ミルーニャさんが可哀想ですよ」


「ひどくないし可哀想じゃない。どうせ杖使いに大した詠唱なんて必要ないから静かにしてればいい。音声認識が必要な呪具があるなら解除してあげるけど」


 なんだか知らないが、やけに機嫌が悪いような気がする。出会ったばかりだし、感情が表に出にくそうな人なので確信はないのだが、なんとなく怒っているような。

 ハルベルトは屍体からの素材回収が終わったのだからさっさと進むべきという正論を述べ、そのまま足早に先へ進んでいく。後衛を前に出すわけにも行かず、私達三人も慌ててついていくのだった。

 



 パレルノ山は古い時代の呪石鉱山であり、リクシャマー共和国の帝政時代にまで遡ると、文献上にその存在が確かに確認できる、実在の古代世界である。大地の飛散、球化、浮上と度重なる地殻変動を経て地上からはその姿を消してしまっているが、その記憶は世界槍の内部に刻まれて、第一階層の裏面のひとつとして再現されている。


 旧リクシャマー帝国領土内最大の鉱山であったパレルノ山には、マグドール商会が地下深くまで掘り進めた大規模な坑道が蟻の巣のように広がっており、そこには現代では枯渇寸前の貴重な呪石資源が埋蔵されているという。第一階層の中央迷宮が攻略され、【騎士団】が最初の拠点である【時の尖塔】を作り上げると、国や企業は喜び勇んで裏面であるパレルノ山の資源採掘に乗り出した。


 そして、その全てが失敗に終わった。

 呪石から放出される呪波汚染によって異常発達した地質と植生によって採掘は上手く行かず、特殊な成長を遂げた動物や古代人が警備用に開発した呪術機械や生体守護者などの怪物たちの手にかかって余りにも多くの人命が失われるに及んで、ようやくこのパレルノ山という古代世界の危険性が理解されるようになってきたのである。


 第一階層の裏面は四つあるが、他の三つは駆け出しの探索者が挑むには丁度いい水準の古代世界である。しかしパレルノ山だけは別だ。この地はとある理由により、第二階層や第三階層を超えて、第四階層の裏面と並ぶほど危険だと言われている、初心者が間違えて足を踏み入れて死亡する定番の危険地帯である。


 探索者協会は【扉】の手前に注意書きを設置しているのだが、どうしてか無視して挑んだ挙げ句、帰らぬ人となるケースが後を絶たないという。

 尤も、坑道内部に深く侵入せず、外側の山道を進むだけならばそこまで危険性は高くない。せいぜい第二階層から第三階層の中間辺りの難易度だ。


「それでも気は抜けないけどね」


 手で庇をつくって、メイファーラが前方を見回した。パレルノ山は呪力の偏りの為、木々が異常なまでに繁茂している場所と逆に枯死して禿げ山になっている場所とに分かれている。荒れ果てて乾いた山道を進んでいると心が荒みそうになるが、この地形には利点もある。


「この辺りは見晴らしがいいから、哨戒がわりと楽だよ。反対側の方でも木登りすればわりとなんとかなるかも。狭い坑道内とかだと先が見えづらくてちょっと大変かなあ」


「メイファーラさんがいてくれて、とても助かっています。奇襲を受けず、常に先手を取れるというのはやっぱり大きいですね」


「お役に立てているようでなにより。それと、あたしのことはメイって呼んでくれていいよ。その代わり、きみのことをアズって呼ぶから」


「――うん、わかった。よろしく、メイ」


「こちらこそよろしくね、アズアズー」


 メイファーラは右側で束ねた髪の一房を揺らしながら、穏やかに微笑んだ。

 親しみやすくて感じのいい声の調子に、ここが戦場だということを忘れそうになる。

 本当は出会ってすぐに距離を詰められるのはあまり好きじゃない。

 けれど、彼女には私が黒衣や鎧の内側に築いている障壁を優しく取り払ってしまうような雰囲気があった。


 けどアズアズは無い。

 それは止めて欲しいと告げると「ごめんね」と舌を出された。

 可愛いから許す。


 そう、メイファーラは可愛い。

 ハルベルトは神々しいまでに美しく、ミルーニャは毒を含んだ愛らしさが小悪魔的だが、メイファーラは何というか、普通に可愛いのである。

 この癖のある面子の中で彼女の存在は癒しだった。


「調子こいてる」


「は?」


 唐突に、ハルベルトが難癖を付けだした。


「兜をしてないのは種族特性を活かすためだからいいとして、メイファーラの鎧は軽装甲にも程がある。それに何、その短いスカートは」


 どうして急に年配の人みたいなことを言い出したんだろう。ミルーニャを黙らせてからやや落ち着いたと思ったのに、またしても急に機嫌が悪化している。


「うーん、そう?」


 メイファーラは自分の姿を見下ろした。確かに私の全身甲冑に比べれば圧倒的に露出が多く、身体を覆う装甲は必要最小限だ。動きやすさを重視した斥候用軽鎧を、更に軽量化した特化型呪動装甲なのだろう。


「あの、お言葉ですが。お師様こそ山歩きには向かない無防備な格好なのでは」


「うるさい。弟子の癖に生意気」


 自分の超ミニなスカートを棚に上げたハルベルトは、私の指摘を一蹴した。

 多分短さではハルベルトの方がだいぶ際どい。

 いや似合ってるから構わないといえば構わないのだけれど。


 二人とも、脚がすらりと長くて羨ましい。

 そして身長が私よりずっと高くて並ぶと結構な劣等感がある。

 それでもハルベルトは男性の平均に迫るメイファーラの身長には届かず、並ぶと目線がずれてしまう。


 挑むように見上げるハルベルトの視線を受けても、メイファーラはのほほん、としたままだ。

 メイファーラはスカートの裾をぱたぱたと揺らしながら首を捻った。


「うーん、可愛さ重視?」


 デザイン性は呪力を生み出す。

 物理的な防御性能より、呪術的な防御性能を重視するというコンセプトの呪動装甲だということらしい。

 『可愛い』というのは立派な呪術障壁となり得るのだ。


 その理屈は理解はできるのだが、それでも鎧にミニスカートってどうなんだろう、と思ってしまう。落ち着いた赤地に白のラインが走り、菱形模様が並ぶデザインそのものは正直好みなんだけど。


「うん? 下ならスパッツ穿いてるから大丈夫だよ?」


 メイファーラは何を思ったのか、スカートの裾を摘んで引っ張り上げた。

 ハルベルトが硬直し、後方で沈黙状態のミルーニャが転ぶ音がした。

 「ね?」と同意を求めるメイファーラだが、こっちはそれどころではない。えっと、これはどういう反応をするべきなのだろう。


 ハルベルトが無言でメイファーラのスカートを引っ張って元の位置に戻し、下からじっと睨み付ける。


「あ、ごめん。はしたなかった? 他に誰もいないしいいかなって」


「――あざとい。やっぱり調子こいてる」


 傍目から見てもいらいらとしているのが見て取れた。これはまずい。

 ハルベルトは憤然とした様子で私の兜内部に夥しい量の呪文を送信したかと思うと「それを全部暗記すること。900秒後に試験するから」と無茶な要求をしてくる。

 何故とばっちりがこちらに来るのだろう。とはいえ文句を言うわけにもいかず、必死になって複雑怪奇な文字列を頭の中に叩き込んでいく。


 メイファーラの先導に従って山道を進む。遭遇する怪物たちの集団に先制攻撃を仕掛けては殲滅し、対処が無理そうな大集団はやりすごして、一行の足取りは順調そのものと言えた。

 入り組んだ道は傾斜がきつくなったり緩やかになったり、かと思えば急に下り坂になったりと忙しない。


 硬い地面とそこら中に散らばっているごつごつとした石、そして所々に生えた枯れ木が、こちらから生気を奪い取ろうとしているような錯覚さえ覚える。この場所は、ひどく乾いている。


 とはいっても、修道騎士として訓練を積んでいる私とメイファーラ、そして探索者としてそれなりの経験を積んでいるらしいミルーニャにとってはこの位の荒れた道はなんでもない――とまではいかないが、少々歩いただけでへばるようなことはなかった。

 つまり全く問題は無い、と思われたのだが。


「ちょ、ちょっと待って――」


 いつのまに最後尾まで下がっていたのか。ふらふらとした足取りでこちらを引き留めるハルベルトは、息も絶え絶えにこちらを引き留める。


「歩くの速すぎ。このままだと、目的の素材を見逃す可能性がある。ここは速度よりも正確さを重視すべき」


 ハルベルトの提言は正論に聞こえるが、荒く息を吐き、中腰になって手をついた膝ががくがくと震えていては説得力など皆無である。ミルーニャはあからさまに見下した表情で思い切り鼻を鳴らした。喋れたらとんでもない量の罵倒が飛び出していたに違いない。


「ここからあっちの方まで迂回していけば、金箒花が群生してる位置まで辿り着けるっぽいよー? もうちょっとだから頑張ってー」

 

 メイファーラの予測は極めて正確で信頼性が高い。

 何しろ彼女は序列第七位の天使【透徹のシャルマキヒュ】の加護を受けた眷族種、【ジャスマリシュの天眼の民】だ。


 【天眼の民】が有する超知覚は千里眼と呼ばれ、可視光線よりも波長の長い不可視光線を知覚することさえできるという。探索において千里眼の持ち主が斥候であればその集団の戦闘能力は格段に上昇すると言われている。その能力は採取依頼でもいかんなく発揮されていた。


「ぐう――屈辱」


 ハルベルトはぷるぷると震えながらも、ミルーニャが差し出した手に縋ってどうにか歩みを再開する。後衛同士で仲良く助け合っているのかと思ったら、ミルーニャはなんだかもの凄い優越感に満ちた表情でハルベルトを半ば引きずっていた。面倒見がいいんだか意地が悪いんだか、よくわからない。仲があまり良好ではないのは明らかだけど。


 そんな二人の前を歩きながら、私はふとメイファーラに問いを投げかけた。どうということはない、些細な疑問である。


「ねえ、空はどうして青いんだと思う?」


「うわあ?!」


 自分では大した事の無い問いかけだと思っていただけに、メイファーラの驚きようは逆にこちらがびっくりしてしまうほどだった。

 ビーンズ式詠唱の直撃を受けた鴉のように慌てたメイファーラは、すぐに落ち着きを取り戻して「どうしてそんなことを?」と訊ね返してきた。

 当然の疑問なので、用意していた理由を口にする。


「寄生異獣と同化したおかげで知覚能力が上がったから、今でこそ色彩というものが理解できるけれど――私は元々、色彩を知らなかったから。それで気になった。他の種族の人達は、私が色のない世界だと思っていたこの世界を、今までどんなふうに捕らえていたんだろうって」


 メイファーラは少しだけ考え込んだ。指先を顎に当てて少しだけ頭を捻る。


「えーと、それはつまり、唯一絶対の正解が欲しいとかじゃなくて、アンケート調査みたいなものってこと?」


「そんな感じ。【天眼の民】は他の種族とは異なる視野を持っていると聞いているから、聞いてみたくて」


「そっかー。そういう事だったか」


 なにやらふむふむと納得している。それから自分の身体を見下ろし、続いて尻尾のように揺れる髪の毛をいじりながら「やっぱ見た目かな――あれのせいで距離感あったのかな。くそうラーゼフせんせーめ」とよく分からないことをぼそぼそと呟いた。しばらくして、気を取り直したようにこちらに向き直った。


「えっとね、視野が違うって言っても、視力はともかく、あたしたちは普段は霊長類の色覚と殆ど変わらないんだ。見ようと思った時にだけ『天眼』が開いていつもとは違うものが見えるようになる――丁度、端末の電源を入れたりする感じかな。だからそこまで特別な答えは返せない、ごめん。せいぜい、生き物の体温が分かったり、お日様の光に『量』を感じたりするくらいかな。だから、切り替えてる時はちょっと青空が重くて眩しい感じがするよ。ああ、あとは、杖使いの人が持ってるような端末の液晶画面あるでしょ、あれが変な感じに見える」


 後ろで話を聞いていたミルーニャが、無言で端末を取り出した。私が使っているような立体幻像を虚空に投影するタイプのものではなく、液晶画面に微細な画素を並べる光学ディスプレイである。メイファーラは「うえ」と呻いた。


「今は探索中で、『天眼』をそれなりに開いてるから、そういうのは酔っちゃうよ――やめて、お願いだからぐりぐり押しつけてくるのやめてミルーニャちゃん」


 懇願するメイファーラには構わず、ミルーニャは意地が悪い行為を楽しそうに続けた。喋れなくて鬱憤が溜まっているのだろうか。

 何とか責め苦から解放されたメイファーラに教えてくれてありがとうと礼を述べると、ミルーニャが何か言いたげにもがもがと口を動かす。気持ちは嬉しいけど後にして欲しい。


 そうこうしているうちに、私達はその場所に辿り着いた。弓なりにしなる緑色の枝。そこに放射状に咲き乱れるのは目にも鮮やかな金の花弁だ。


「綺麗――」


 思わず呟くと、後ろの方から疲れ切った声で注釈が付けられた。


「ぜえ、ぜえ――金箒花は、本来は初夏に咲くのだけれど、この辺り一帯の呪波汚染のせいで、植物としては、本来のエニシダから、大きくかけはなれていて――」


「お師様、無理しなくても」


「うるさい。弟子の分際で、師を心配するなんて、十年早い。それより、これを採取したら小テストだから」


 呪わしげに告げられてしまう。どう見ても強がりなんだけど、どこかで休憩を挟んだ方がいい気がする。ハルベルトのただでさえ白い顔色が、今は真っ青になっている。

 まずは急いで採取を済ませてしまおうと花の咲いている場所に近付いていこうとしたその時だった。


「アズ! 上だよ、気をつけて!」


 メイファーラの鋭い声。はっとして頭上を見上げる。天高く昇った太陽の輝き、その真ん中に陣取って、光の中から急降下してくる何かがあった。陽光の呪力に紛れて奇襲をしかけてきたのは、嘴を開いて甲高い鳴き声を上げる有翼の霊鳥。


「鴉?!」


 漆黒の鳥が鳴くと、簡易呪術によって発生した凄まじい突風がこちらの動きを一瞬だけ停止させる。先制攻撃からの【空圧】という教科書通りの戦術で私達の動きを封じ込めた鴉は、そのまま滑空して金箒花の方に向かった。


 全身に呪力が漲ったかと思うと、鴉の嘴がその小さな全長を遙かに超える大きさに巨大化する。がばりと口を開き、群生した花を根こそぎ奪って上空に飛翔していってしまう。

 目の前で採取素材を掻っ攫われた私達は、呆然と飛び去っていく鴉を眺めていた。しばらくして、ハルベルトが震える声で呟いた。


「やられた――あれはあっちのグループの使い魔。こちらの動向を監視しておいて、先に採取を行うことで妨害と点数稼ぎを同時にするつもり」


「ごめんなさい! あの鴉、直前まで全然見えなかった――言い訳だけど、あんなに完璧に気配を断てるなんて、相当な訓練を積んだ使い魔だと思う」


 申し訳なさそうに謝罪するメイファーラに落ち度は無い。

 対処出来なかったのは私だって同じだ。

 相手チームの一人、ナトと呼ばれていた男の肩には、確かに鴉が乗っていた。その事を思えば、予想できた事態であるはずだ。これは私とペイルの勝負であり、想定外の事態は全て私の落ち度。

 

「メイは悪くない。単純に相手が手強いんだと思う。あの使い魔の練度、並大抵のものじゃなかったから。あれが【三本足の民】が誇る三本目の足ってことなんだろうね」


「【松明の騎士団】の公式データによれば、あのナトという男の序列は二十六位」


 私の言葉を補足するようにしてハルベルトが言い添える。私が三十位、メイファーラが二十九位と言うことを考えると、完全に格上だった。ただ、数多くいる修道騎士たちの中で私達より格上の実力者がそうそういるとも思えない。きっと上位序列者はナト一人だろう。


「ペイルは二十五位、イルスが二十七位」


「それ、もうちょっと早く教えて欲しかったです、お師様」

 

 というか、知らなかった私が悪い気もした。

 メイファーラは名前だけ知っていたが、詳しい能力までは知らなかったとのこと。


 ミルーニャは目の前で起きたあんまりな出来事にしばらく放心していたが、やがて憤然としてメイファーラの腕をしきりに引っ張る。

 次の採取に向かおうということらしい。ミルーニャの切り替えの速さを見倣って、私たちも次の目的地に向かう。


 ところが、事はそう上手く運ばなかった。

 今度は鴉の襲撃を充分に警戒していたのだが、それだけでは足りなかったのだ。

 あろうことか鴉は遠く離れた場所を徘徊していた怪物たちをわざわざこちらの方まで誘導してけしかけてきたのである。


 低威力の呪術攻撃で挑発された古代の怪物たちが群れをなして襲ってくるのをどうにかこうにか凌いでいる間に、鴉はまたしても私達の目の前で金箒花を奪って見せた。

 まんまと目論見が成功した鴉はこちらを馬鹿にするように――あるいは憐れむようにしてかあ、と一声鳴いた。


 はらり、と一房の花がこちらに落下する。せめてもの情けのつもりだろうか。

 ハルベルトは花を拾うと、ぼそりと呟いた。


「これ、呪力が上手く浸透していない普通の花。つまり、質が悪くて呪具の素材にならない」


「ば、馬鹿にしてえええええ」


「むぐー! むがー!」


 籠手をがっしりと握りしめた私とじたばたと足を踏みならすミルーニャの怒りが、その時確かに一つのものになった。

 私達は共感によって怒りと憎しみと殺意という繋がりを獲得したのだった。

 声にこそ出さないが、雰囲気や態度からハルベルトもかなり苛ついているのがわかる。


 メイファーラも最初に相手を察知できなかったことで斥候としての矜持をいたく傷つけられたらしい。

 四人分の暗い感情が膨れあがったことで、アストラル界から負の呪力が現実世界に漏れ出してきていた。余りの呪力に、足下の屍が耐えきれず自壊していく。


「あいつ、また戻ってきたよ。上の方でぐるぐる回ってあたしたちを見張ってる」


 メイファーラの千里眼が鴉の存在を察知したようだ。

 気取られたことに気付いたのか、それとももはや気配を隠すことを止めたのか。

 挑発的な鳴き声がパレルノ山に響き渡った。


 私達四人は、無言で視線を交わし合った。このままただやられっぱなしで本当にいいのか。否、断じてそうではない。

 報復だ。やられたらやりかえさなくてはならない。

 

「――槍神に誓って、あの鴉とその飼い主たちに痛い目見せてやる」


 敗北と喪失――その借りは必ず返す。半年前、第五階層の暗い森で外世界から来た異邦人に向けて言った言葉を想起し、繰り返した。

 

「悲しみではなく、怒りを抱くこと。そして怒りは闘志に変えること」


「憎しみを戦意に乗せて、復讐の槍を突き上げろ」


 私の祈祷の言葉に、メイファーラが唱和する。喋れないミルーニャがもがもがと口の中で何か言いながら調子を合わせてくれた。そして最後にハルベルトがぞっとするほど低く呟いた。


「焼き鳥が食べたい」


 ぐううっ、とハルベルトのお腹が可愛らしく鳴った。お昼時という時間帯が、わだかまった情念に飢えという起爆剤を投下したのである。私の師匠はちょっとだけ頬を赤らめて、そのままきっと頭上を睨み付ける。私達の思いは今、一つだ。


 私達は徒党を組んで復讐を行う。複数の復讐者を敵に回すという恐ろしさを、これからあの使い魔は嫌と言うほど思い知ることになるだろう。

 反撃開始だ。終わったらお昼にしよう。





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