なぜか天才に囲まれる戸塚ハルの半生
戸塚ハルの周りには天才しかいない。
「お友達ができるといいわね〜」と親に入れられた児童劇団にそいつはいた。
四ノ宮皇々。天才子役である。
『泣け』と言われれば3秒で泣ける彼に出演依頼が殺到した。どんな難しい役も引き受けるキララはいつも条件を一つだけつけた。
「ハルが一緒じゃなきゃ出ない」
え!?
眩しいばかりの美少年の隣にぼーっとした子が立っている。
目はドングリのようにまんまるで、鼻も丸ければ口も小さい。ギュッと半ズボンの裾を握って、瞬きするのを忘れたかのように固まっている。
一緒って言ったって……キララくんと同格は無理でしょう……。
ハルは『村の子供A』役で大河ドラマに出た。ちなみにキララは主役の子供時代である。
何人もの大人に囲まれるキララを見ながら、ハルはスタジオの隅でぼんやり座っていた。
キララがハリウッド映画に抜擢されて渡米すると、ハルは暇になった。地味な一般人として生きていくつもりだ。
『大平昴生さんが是非君と共演したいって言ってるんだよ!』
なんで!?
大平昴生と言えば『天才役者』である。キララと一緒のハルに目をつけたらしいが、当の本人は華もないし、演技もアレだし、存在感もない。
監督は困ってしまった。こいつはコネのみでここに立っている。やらせる役がない。
仕方なくハルを『レストランで食事する客A』の役にした。大平はハルの姿を見つけると明らかに機嫌が良くなった。
「あの子がいるとなんかノッてくるんだよね〜」
主演女優と大平の軽妙なやりとりを聞きながら、ハルは黙ってナイフとフォークを動かした。
連続ドラマは過去最高視聴率を獲得。
『木ノ幡慎之助が共演したいって』
だからなんで!
木ノ幡といえば演劇界の重鎮である。この20年主役以外やったことがない。もちろん天才。
「君がハルくん〜〜〜!? 『あげまん』だって聞いてるよぉ〜〜」
木ノ幡が相好を崩す。
つまりハルは『いるだけで運気を上げる男』とみなされているのだった。
プロデューサーが「ご利益……ご利益……」と言いながらハルの腕をさすった。もはや仏像扱い。
木ノ幡と共演した映画は記録的ヒットを飛ばした。
戸塚ハル。20歳。ビックスプロダクション所属。今年の仕事は大河ドラマ、巨額予算の映画、紅白歌合戦出演、などなど。
ちなみに役割は『武士A』『会社員B』『ダンサーの端っこで造花を振る役』である。
「ああ! ハルくんね! もう立ってるだけでいいから!」
立ってるだけでいいの!?
誤字報告ありがとうございます。
(๑>◡<๑)