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97:フルムス攻略作戦第一-2

 二条の青い光が音を置き去りにしてファシナティオの屋敷に突き刺さる。

 衝撃波が撒き散らされて地上の建物が幾つも吹き飛んでいく。

 キノコ雲が立ち上り、ファシナティオの屋敷だけでなくフルムスの半分以上を覆い尽くす量の茨が生じて広がっていく。

 だが……


「流石に本拠地を外から直接ってのは許してくれないようね……」

 ファシナティオの屋敷は表面に付けられた金色の装飾が剥げただけで、その下に広がる銀色の屋根や柱は傷一つ付いていないようだった。

 しかし、全く効果が無かったわけではないのだろう。

 屋敷から立ち上る全ての属性が入り混じった魔力はその動きに乱れが生じているし、ヤルダバオトの力も小刻みに震えている。

 それと同時に白色の……金属性を示す光が私の槍が直撃した辺りに集まって来てもいた。


「っつ!?『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』!」

 私は思い出す。

 ファシナティオが元々は鏡と迷宮の神ミラビリスに仕えていた神官であった事を。

 ミラビリスの魔法の中には、魅了や迷宮に関わる物だけではなく、攻撃を反射するような物があった事を。

 だから私は茨の馬の蹄に素早く短剣を出現させると、魔法を発動。

 そして茨の馬の蹄下に出現させた薔薇の花を踏み砕くことによって、足場のない空中で跳躍する。


「あ……ぐ……!?」

 直後、一条の白い光線が私の左胸部分を消し飛ばし、私に致命傷を与える。

 同時に常用している『ルナリド・ムン・ミ・リザレ・フィーア』の効果によって、その致命傷をなかったことにする。

 それから、効果の切れ目を狙うように二本目の光線が私の右わき腹を貫通。

 臓器の幾つかと重要な血管が消し飛ばされる。


「建物に……反射魔法……予測しておくべきだったわね……『スィルローゼ・プラト・ワン・ヒル・ツェーン』。はぁはぁ……」

 私は落下しつつ傷口を茨で埋め合わせ、再生を開始。

 地面に着く前に何度か茨の馬にたたらを踏ませて、安全な速度まで減速。

 そうして体の再生と減速を同時に完了させてから、茨だらけになったフルムスの街中に着地する。

 同時に、茨の領域を通じて、街の現在の状況の認識を出来るようにしておく。


「まったく、ヤルダバオト神官ってのは本当に何でもアリね」

 私が何をされたのかは分かっている。

 攻撃のエネルギーの一部を吸収され、金属性に変換した上で反射されたのだ。

 似たような魔法は『Full Faith ONLine』でも使われた覚えはある。

 だが、ファシナティオは既にミラビリス様の魔法は使えないし、そもそもあの規模の建物に常時かけておけるような魔法など早々ある物ではなく、ゲーム時代にそう言う仕掛けがあったと言う情報もない。

 となれば、ファシナティオが昔取った杵柄と言う事で思い出し、ヤルダバオトの力でそう言う魔法をかけたと考える方が適切だろう。


「さて……此処からどう攻めるべきでしょうね」

 私は鏡のように銀色に輝くファシナティオの屋敷を見る。

 入口は玄関に窓、それから地下迷路に直接繋がる通用口など、幾らでもあるから問題は無いだろう。

 敵がどの程度居るかは……ミナモツキとリポップ位置を考えたら、考えるだけ無駄だろう。

 なお、メイグイと言うかルナへの連絡はしない。

 そんな暇は無いし、あれだけの規模の一撃なのだから、普通に気付くだろう。


「ん?」

 私はとりあえず薔薇の装飾の付いた槍……スペアアンロ-ザを取り出して握る。

 すると、向こうにも何か動きがあったらしい。

 屋敷から立ち上る力に乱れが生じ始め……


『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

「っつ!?」

 衝撃波がフルムスの全域に向けて放たれる。


「違う……衝撃波じゃない!」

 そう、見た目は衝撃波だ。

 だが、実態は違う。

 これは声だ。

 代行者であると同時に高い精神状態異常耐性を持つ私にとってはただただ不愉快な声でしかないが、そうでない者にはとてつもなく蠱惑的に聞こえる、そう言う力を持った叫びだった。


「っつ、なんて力技な上に……」

 そして、この声にはファシナティオを主とした魅了効果が含まれるだけではない。

 魅了にかかったものに対する強烈な命令も含まれている。


『魅了にかかっていない者が視界内に居れば、持てる力の全てを使って殺害せよ。魅了にかかっていない者が居なければ、自分で自分の首を掻き裂いて自決しろ』


 と言う最悪の命令が。

 これを放置すれば膨大な数の死人が出る上に、ヤルダバオト神官は屋敷内でリポップして、ファシナティオの力を増す要員として使われることだろう。

 故になんとしてでも止めなければいけない。


「対策はこっちだって考えてあるのよ!『スィルローゼ・プラト・ミ・スメル=サニティ・アハト』!」

 私は『スィルローゼ・プラト・ミ・スメル=サニティ・アハト』を発動。

 本来は自分の周囲数メートルと、数秒前に私が居て香りが残っている範囲にしか効果が無い精神系状態異常回復魔法だが、『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』によって周囲に存在する茨全てが私の体として扱われる今ならば、その効果範囲は大きく変わる。


「間一髪ね……」

 何故ならば、私が展開した茨の領域全てから爽やかな香りが立ち始め、茨の近くにいる者全ての魅了を解除する事が出来るのだから。

 これでもうファシナティオの魅了を警戒する必要は無いし、ルナたちが来た後でも敵対行動を取る者の数は大幅に少なくなるだろう。


「でも、アイツらには意味はなさそうね」

 しかし、フルムスの全員がファシナティオにゲーム的な意味で魅了されたから、敵に襲い掛かるわけではない。

 中には自らの意思で、あるいは状態異常でない方法による魅了で惑わされて、攻撃を仕掛けてくる者も居る。


「エオナ……だ……」

「アレを……殺せば……」

「ファシナティオ様の……為に……」

 ファシナティオの屋敷から大量の人が出てくる。

 手にはそれぞれの武器を持ち、頭は銀色の覆面で覆い、防具は銀色のパンツ一枚だけと言う、極めて変態的な装束の集団であり、本音を言えば視界にも収めたくない位には格好と足取りが気持ち悪い。


「「「殺せええぇぇ!!」」」

 だが、向かってくる以上は相手取る他ない。

 だから私は……


「とりあえず『スィルローゼ・プラト・クラフト・ソンタワ・アハト』」

 フルムスの街中に十本の茨の塔を出現させた。

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