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73:グレジハト村報告会-5

「要するに、典型的な力を手に入れて舞い上がり、馬鹿をやらかしまくった挙句に処刑されたヤルダバオト神官なのね」

「まあ、そうなるな。性格としては資料から読み取る限りではプライドがとにかく高く、気に入らない事があれば簡単に怒る。自分以外の人間は全て自分の為に居る、と言うところか」

 一通りの資料を読み終えた私とルナはお互いに感想を言い合う。

 そして……


「はぁ……なんか色々と馬鹿らしくなってくるわね。直情的にもほどがあるでしょ」

「はぁ……向こう側に真っ当な感性の奴が居たら、今頃は胃潰瘍で寝込んでいそうだ」

 揃ってため息を吐いた。

 ファシナティオと言う人間の在り方が本当に理解しがたい物であったために。


「でも、油断は出来ないのよねぇ。力はあるから」

「そうだな。困ったことに能力はある。本人の力ではなく、ヤルダバオトの力だが」

「戦略や戦術についてはファシナティオ当人じゃないわね。ほぼ間違いなく、コイツにそんな頭は無い」

「だろうな。恐らくは優秀な参謀役を魅了で引き摺り込んであるんだろう。今回は……微妙なところか」

「個人的な感情で動かしたっぽいから、今回は暴走の方じゃない?」

「断定は出来ない。まったく、こちらを悩ませるという戦果を目的にしているのであれば、作戦は成功しているな」

 しかしこれで分かった。

 ファシナティオ当人は真正面から攻めてばかりだ。

 魅了と言う搦め手に向いた手を持つにも関わらず、クレセートで高位のルナリド神官の屋敷に正面から乗り込んで魅了したエピソードからもそれが窺える。

 そして優秀な参謀役が傍に就いても、暴走と言う形でそれを台無しにする。

 そもそも人間だった頃に事が露見したのも、魅了した参謀役の作戦に従わず勝手に行動した件が原因だった。

 典型的な上どころか組織そのものに属させてはいけない、可能な限り早く何かしらの方法で処分するべき人間のようだった。


『ちなみにファシナティオだけど、こっちにあるデータを参照した限りじゃ、後一回問題行動を起こしたら垢BANかつ永久追放みたいだね。囮捜査をして、反省しているかどうかを確かめる予定もあったみたいだ。まあ、この様子だと反省はしていなかったみたいだね』

「……」

「どうした?」

「ちょっと不正規な方法で個人情報の取得をしちゃっただけよ……どうにもファシナティオは垢BAN一歩手前だったみたい」

「ああ、ルナリド様からの電波か……」

 ルナリド様からの電波は……正直、この程度の案件で送って来ても大丈夫なのかと、別の方面で心配になる。

 いやまあ、ルナリド様の事だから、安全対策と言うかヤルダバオト対策は入念にしているのだろうけど。


『で、こっちが本題だけど、早いところオラクルの8、9、10を作って、カミア・ルナに渡すように。状況が深刻化する兆しが見えているからね。メンシオスの研究は止めないと拙い』

「……」

 どうやら本題は別にあったらしい。

 そして、メンシオスの研究はルナリド様が一方的に伝えに来る程度には拙い案件である、と。

 うん、確かに急がないと拙そうだ。


「ルナ、例の件だけど……」

「そちらなら私は受ける」

「いいの?」

「今回の戦いを見たら、流石に考えを改めるしかない。トドメを貴様一人に頼り切っていてはジリ貧だからな」

 どうやらルナはオラクルを習得し、使ってくれるつもりではあるらしい。

 ならば、後の交渉は以前の電波通り、ルナリド様に任せればいいだろう。


「それは嬉しいけど……」

「素材については今回の戦いで幾らか手に入っている。それと……簡単に素材が回収できる高レベルレイドボスなら、心当たりが出来た」

「あらそうなの?」

「準神性存在に頼ればいい。この状況なら、断らないだろうし、後で謝礼を払うと言う方法もあるだろう?」

「ああなる……ほど……」

 で、素材の件だが……ルナの視線と言葉から気付く。

 私の体から採れる物が素材として使える可能性に。


「うんまあ、確かにその手はあったわね。上手くいくとは限らないけど」

「大丈夫だろう。少なくとも量は十分なはずだ」

「そうねー」

 私はプレイヤー分類で、しかも所詮は一個人に過ぎない。

 だから、可能かどうかは確かめてみないと分からない。

 が、可能性としては十分に有り得る方だろう。

 現に私の体から落ちた薔薇の花弁は回復薬として加工する事が出来たのだから。


「で、この後の予定は?」

「事後処理が済み次第休息。明日にはグレジハト村を出発して、『満月の巡礼者』がフルムス攻略のための本部として使っている場所に行く。その先は……状況次第だな。これまでに得てきた情報の精査に、例の件もある。敵の動きによっては悠長なことも言っていられないだろうし……」

「出たところ勝負にならざるを得ない面もある。と言う事ね」

「そう言う事だな」

 この先の予定は未定。

 ここで相手に合わせて動かなければならない辺り、ファシナティオはやはり面倒な相手であると言えるかもしれない。


「ま、なるようにしかならないか。それじゃあ私は先に失礼させてもらうわ」

「万が一の時には叩き起こすから、そのつもりで頼む」

「分かったわ」

 そうして、私は部屋を後にすると、私の個室として用意された部屋に通された。

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